バライアの近くにある緑鮮やかな森に来ていた。私には野草の違いは分からないけれど、フランは感心したように色々見回っている。
「これはアヌギの葉で、身体を温める効果があるの。スープなんかに入れると効果的だよ!こっちはサンシの花かな。彩りも良くて疲れを癒す効果があるから、寝る前にちょっとつまんだりすればバッチリ!生でも食べれるよ!」
「な、なるほど、そうなのか」
知識が豊富なフランには宝の山のように見えているのかもしれない。はしゃぐフランを見守っていると、足元にくすぐったい感覚が走った。
「ひゃっ!」
情けない声を思わず出してしまって、そこには八本の足を持った奇怪な生き物。小さいが、とても気持ち悪かった。そもそも私は、虫が苦手なのだ。セバスの前ではそれどころではなかったから我慢していたけれど、何と言うのか、生理的に気持ち悪かった。振り払ったその虫は、驚いて一瞬のうちに去っていく。私の叫びを聞いたフランが笑みを浮かべながら私の手を握った。
「アリア、虫苦手だもんね。今の声、とってもかわいかった」
「い、言わないでくれ、本当に恥ずかしいんだ」
「大丈夫だよ。あたしとアリアだけの秘密だもん」
弁明に慌てふためく私を、彼女はしばらくじっくりと観察している。しばらく経って、私の火照りは少しずつ消えていった。
「今日のご飯、このキノコいいかも。シチューに入れたらおいしいかな。あ、薬草といったらこれだよね!」
上機嫌に鼻歌を奏でながら山菜を摘んでいる。カゴの中には、緑を中心に色とりどりの野草が蹲っていた。宿では夕食が出るみたいだから、フランが何か料理をする必要はない。けれどこの無垢な笑顔を見ていると、なかなかそうも言えなかった。フランが作るものなら別腹だろう。
「アリアはどんなタイプの薬草がいい?やっぱり塗り薬かな、それともそのままの方がいいかな」
もし使うことがあるなら、小さな瓶に詰めて腰の辺りに掛けておくことができれば戦いやすいかもしれない。不格好ではあるけれど、直接もっておくのもいいかもしれない。色々と思考を巡らせ提案した。
「分かった!色々な種類を調合して、最高のお薬を作ってみせるんだから!」
もう少し森を散策してから、日の入りと同時にバライアへの帰路に着いた。フランのカゴは野草やキノコ類でいっぱいで、満足したようにスキップをしていた。
「うーん、もうちょっとアヌギを足してもいいかも」
数年物の手帳を見ながらじっと鍋を見つめるフラン。フランにねだられたので、私もその様子を見守っている。手帳には、昔から彼女が勉強してきた医学に関する知識が詰め込まれている。野草に関しても、かわいらしいイラストで繊細にスケッチされていた。彼女の勉強熱心な性格が、造詣の深さに直結している。
「よし、こんな感じかな。アリア、できたよ!あたし特製の薬草!ちょっと塗ればどんな傷も一瞬で治っちゃうんだから!」
甘い匂いがするペースト状の薬草。緑とも黄色とも言えない複雑な色をしている。フランはそれを満足げに小瓶に詰めた。塗っても良し舐めても良しの薬草に仕上げてくれたようで、試しに舐めてみると、少し苦かった。作ってくれてありがとう、そう告げて笑顔を見せると、心底嬉しそうで、畳み掛けるように提案した。
「それでねそれでね、あたし、アリアの剣を研げるようになりたいの!」
ベッドの近くに置かれていた私のレイピアを持ってきて、目を光らせながら言った。もうずっと愛用しているから、刃こぼれも酷く、正直一般的な物より性能は遥かに劣っていると思う。しかし、私に武器を研ぐ技術も道具も無い。彼女に刃物の研ぎ方を教えることなどできなかった。
それに、いつものように優しく拭いてくれるだけで私にはありがたい。
「大丈夫。あたし、ピカピカに研げるように頑張るから見ててね!」
「楽しみにしておく。そのフランの態度、私も見習わないといけない」
「えへへ、アリアのためだもん。いつもアリアに迷惑ばかりかけてるから、少しでもアリアのためになりたいの」
「ふふっ、本当に良い子だな、フランは。でも、私もいつもフランに助けられている。自分が迷惑だなんて思う必要はない」
私のために努力しようとひたむきに頑張るその姿勢と明るさのために、私も剣を振るうことができるのだから、フランがいなくなってしまっては私も何もできなくなってしまう。もうすっかり夜が更けてしまった、フランを部屋に帰そうとしたが、もう少しだけとねだっている。早速、剣をまじまじと見つめていた。
「新しい剣、買った方が良いのだろうか」
なんとなく小さな声で呟いた。今まで考えもしなかったが、私の可能性を広げる選択肢の一つであることは間違いない。今度武器屋に寄った時に、もう一度検討してみよう、そう思った。とりとめもないことを考えていると、フランはすやすやと寝息をたてていた。