大会当日、宿を出てみると恐ろしい数の人がバライアに訪れていた。年に一度の一大イベントで、さらに今年は例年以上の盛り上がりを見せているそうだ。まだ会場にも入っていないのに、凄まじい熱気だった。城下町は装飾で彩られ、今日が運命の日だと言わんばかりに各場所で呼び込みの声が響いた。商売人にとっても、人でごった返す今日が繁盛の日なのだろう。
「凄い人だね、見たことない服装の人がたくさんいるよ。みんな今日の大会を見にきてるのかな」
この人数なら、おそらく参加者も各地から集められた猛者揃いで、一筋縄ではいかないかもしれない。それにまだトーナメントに関しても何も発表がなく、何人が参加しているのかも分からない。人の波を掻き分けながら、フランと共に城へと向かった。
「参加者の方ですね、まずは王の元へお進みください」
丁寧な案内に連れられて王の間へと戻ってきた。相変わらずの空気で、一触即発の雰囲気に包まれている。前訪れた時でさえ目が眩む程の服装だったが、今日はまさに正装といった雰囲気で、一層豪華だった。王は高揚を隠し切ることができず、目が光り輝いている。けれど王女の瞳は黒く、変わらず、むしろ一段と冷たい様子だった。まるで今日の大会に納得がいっていない、そう主張するように。
「よくぞ参った。やはりこの大盛り上がり、どんな試合が繰り広げられるのか、今から楽しみだ。今年は六十四の戦士がここバライアの地に集った。何度も噂されたような猛者から無名の騎士まで、まさに祭りよ。ワシから言えることはただ一つ、ワシを楽しませよ、全力を尽くせ。それだけだ。何か今日について質問はあるか」
首を振ると、浮かれた王が合図した。それに合わせて私達は付きの警備の案内のもと、控え室に向かった。そこには休憩のために設備や、トーナメント表が貼られていた。一回戦の相手は、『トーマ』と書いてあった。優勝に進むためには、全部で六回勝つ必要がある。なるべく体力を温存して勝たなければいけない。ちなみに、フランの席は参加者の関係者ということで別で特等席を用意してもらえるようだ。
「ちょっと会場の様子見にいこうよ。あたし気になる!」
フランも会場の熱気に当てられて、いてもたっても居られず会場の方へと駆け出していった。城の先、つまり村の入り口の逆側には、城よりも大きな規模の円状の建造物。それがいわゆるコロシアムだった。戦闘の舞台を囲むように客席が配置されている。そして、一番目立つ位置に王族の席があった。
「アリアはここで戦うんだね。みんな、アリアの動きについて来られるといいけど!」
くすくすと会場の喧騒を笑うようにフランが言った。その喧騒がさらに騒がしくなる。どうやら開催宣言が始めるようだった。
「待たせた諸君。年に一度、バライアの歴史ある大舞台での強者達による激しいプライドのぶつけ合い、ただ今その歴史あるコロシアムの開会を宣言する!」
王の叫びに呼応するように観客のテンションは上がっていく。拍手、おたけびのような大声。そんな中、王はさらに続ける。
「諸君らも見たであろうトーナメント表。目に留まった強者はいただろうか、まずは第一回戦、戦士ブルーノと戦士ラムダの試合を始める。両者、ステージへ」
自身の胴体程の大斧を持った男と、短剣を何本も拵えた男が姿を見せた。お互い睨み合って一歩も引かない、まだ試合は始まっていないのに、いや、むしろ試合が始まる直前だからこそ、異様な緊張に会場が包まれていた。
ゴクリ、どこかから唾を飲み込む音がした瞬間、スタートを告げる鐘が鳴り響いた。まずは盗賊のような素早い動きで懐に潜り込み、ナイフを突き刺そうとする。けれど見た目によらず素早い動きでそれを避け、斧によるカウンターの重い一撃。予想よりも相手が早かったことに驚いたのか反応できず、その一撃を正面から受けてしまう。そしてそのまま倒れてしまった。やはり巨体から放たれた一撃は強力で、死んだように動かない。
「今、あの小さい男の人、思いっきり攻撃受けちゃったよ!全然動かない……」
フランが見つめる中、試合終了の鐘が鳴った。勝ったのは戦士ブルーノだった。素早さと力強さを兼ね備えた隙の無い戦士ではあるけれど、相手ももう少し間合いを理解していれば、結果は変わっていたと思う。あと一歩相手の懐へ忍び込む、それをしていればブルーノも下がらなければ斧を振ることができない。こんなにも呆気なく決着がついてしまうこともあるのか、そう思った。
「アリアはどう思った?」
「何があっても負けるわけにはいかない」
十分に盛り上がった第一試合を見て、私達は控え室に戻った。ちょうど王からの伝言を伝えにやってきた兵士が待っていて、そろそろ準備するようにと言われた。
「赤と青と緑、どれが好き?」
唐突に尋ねられた。特に何も考えることなく緑色と答える。すると、フランが緑色の小さな何かを差し出した。
「これ、アリアのために作ったの。無事に勝ってほしいから、お守り!ちょっと不格好だけど、受け取ってほしいな。あたしは出れないけど、気持ちはずっと一緒だもん」
「もちろん、私はフランと共に戦う。決して一人じゃない」
その小さな宝石をぎゅっと握りしめて、私は大舞台へと歩いていった。