ビルドイン・マイカントリー!   作:たいたい35

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第一戦

「トーマと言ったか、そなたも参加を希望するのだな」

「当たり前だ。じいさん、もし俺が優勝したら確かに王女様をいただくからな」

 

偉そうな老人は大きく頷いた。バライアの大会は何百何千という大人数が観客となる。その舞台で結果を残すことができれば、俺は美しい花嫁と権威と富を手にすることとなる。その絶好の機会を逃すわけにはいかなかった。今日のために剣は新調したし、盾は軽く丈夫な物に買い替えた。多少の攻撃なら受けたことにも気づかないだろう。剣先に毒を塗り、一瞬でも擦れば相手は酷い激痛に襲われる。それこそ、立っていられなくなる程に。今から一回戦が楽しみだった。告げられた相手は、まさかの女、これなら負けるはずがない。

 

「おい、試合だ」

 

言葉使いの荒い案内に急かされて、俺は舞台に姿を現した。どこを向いても観客だらけ、耳を潰すような大歓声。気持ちが良かった。そして、初めて対面したその相手、名前は確か、「アイリス・ルーラン」。あまり俺が住んでいる地域では聞いたことがないような文字列だった。肌は白く、長い黒髪をなびかせて、細い腕に、ボロボロのレイピア。格好も戦闘に来ているとは思えない程質素で、ただの旅人のようだった。お世辞にも強そうには見えなかったが、瞳の凛々しさだけは妙に印象づけられた。

 

「おいあんた、その格好でほんとに戦えると思ってんのか。言っておくが、いくら見た目がすっきり美しいからといって、俺に色仕掛けは通用しない」

 

あまりの腑抜け具合に思わず尋ねてしまった。勝負であるはずのこの場において、異様。そう言わざるを得ない雰囲気を、その女は纏っているから。俺の発言に女は少しいらついたような表情を見せたが、感情を抑えて静かに反論した。

 

「試してみるか。私も負けるつもりはない」

 

お互い少し距離を取って、試合開始の鐘が鳴った。それと同時に剣を引き抜き、迷わず斬りかかった。我ながら鋭く素早い一撃で、熟練者でも避けることはできないだろう。しかし、何かおかしかった。その女はただ立っているだけだったはずなのに、いつのまにか半壊のレイピアを引き抜いて、体勢も崩さず軽々と俺の一撃を受けている。全体重をかけて振り下ろしているのに、全く動かない。この信じられない状況を飲み込むことができず、逃げるように背後へ引き、距離を取った。立ち直さなければ、呼吸が荒くなった。まさか俺は、この一瞬で圧倒的実力差を感じてしまっているのか。何千戦と生き抜いてきた俺だからこそ、並大抵の敵ではないことをすぐに理解してしまった。足が震える、この怪物に、俺は勝てるのか。女はゆっくり近づいてくる。何をすれば打開策になるのかは分からない、けれど戦うことをやめてしまったら、何もかもおしまいだった。

 

「化け物かよ、お前。来るなら来い!!」

 

虚勢の言葉を吐いて、剣を深く握る。レイピアが俺を捉える一瞬の間隙に反撃するしかない。目の前の小さな棒だけに意識を集中させる。来い、来い、いつでも来い。次の瞬間、白銀のレイピアが動いた。それを、脳より速く本能が察して、脇腹目がけて剣を振ろうとした。しかし、なぜか首のあたりに冷たい感覚があった。それが何かに気づいた時には、もう剣は俺の手から離れていた。恐怖で手に力が入らなかったのだ。本能で察知した時には、もう女の剣は俺の首に触れていたのだ。この冷たさはそれだった。もしこの女に俺を斬る勇気があれば、俺はもう死んでいたかもしれない。その絶望的な事実を前に力なく膝をつき、俺は棄権を宣言した。俺を睨んでいた透き通った瞳は緑を取り戻していく。

 

「ありえない、ありえない……」

 

壊れたカラクリのように呟く俺に彼女はため息をついてから、レイピアを鞘に納め、何も言わず去っていった。あまりにも一瞬のあっけない敗退に、会場のどよめきはおさまらなかった。それは俺への非難なのか、それとも彼女への賛美なのか、分からない。しかし確かに言えることは、恐ろしい程に強い彼女に、皆が震えていたということだった。俺は小便を漏らした少年のように動かなかった。

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