「アリア、とってもかっこよかった!あたしたくさん応援したけど、気づいてくれた?」
「もちろん。フランの応援のおかげで、なんとか勝つことができた」
「嘘ばっかりー。みんなびっくりしてたよ、こんなに強い女がいるのかって!あたしも、アリアの剣見えなかった!」
なんとか勝てたというのも嘘ではなかった。あのトーマという男の、色仕掛けは通用しないという一言や、私を蔑んだような目つき。女だからどうせ真っ向勝負はしないだろうと下に見る、その姿勢が許せなかった。もちろん色仕掛けが悪いと言っているわけではない。ただ、相手をまず一人の戦士として考えない思考が、許せなかった。その煮える苛立ちを、フランの健気な応援がなだめてくれた。だから、なんとか勝てたのだ。
「おい、あんた」
醜態を晒した男が、声をかけてきた。私という一人の女に負けたから負け惜しみを言いにきたのか、そう思った。
「なんであんなに強い。あんたのその強さはどこからきた。あんたの故郷はどこだ。俺は戦士としてそれなりに名を揚げたつもりだが、あんた程の剣士は聞いたことがない」
この男に素性を話す気はなかった。それに、これまで私はフランと細々と生きてきただけで、何か他人に言えるような成果を為してはいない。
「頼む、俺に強さの秘訣を教えてくれないか、お願いだ。俺は強くならなきゃいけない」
「もう、しつこいですよ。アリアも迷惑してます。勝負は終わったんだから、近寄らないでください」
明らかな嫌悪を示す私に同調して、フランも珍しく強気に言い放った。かける言葉も無い位滑稽だった。心底呆れてしまう。私が去ろうとすると、まだ引き下がらなかった。
「俺にできることならなんでもするから、頼む、頼む」
苦しんでいる人々を救いたい、その気持ちで旅をしているはずなのに、どうしようもない人間を見ていると、胸が苦しかった。もし私が手を差し伸べた人間がこのような人柄だったら、私はどう思うのだろう。助けなければよかったと思うのだろうか。しかしそれは、あまりにも傲慢なのかもしれない。人によって助ける助けないを決める資格は、私には無い。ただ、もし私の教えで成長したとして、その力が他人に向けられるのなら、私はこの男を差別しなければいけない。それは、正当な理由のはずだ。
「理由を聞かせてくれないか」
「俺は強くなって富を得るんだ。お前は知らないかもしれないが、この大会で優勝するというのは、考える以上の報酬がある。その瞬間から大富豪だ。そのなまくらのレイピアを持つお前なら、金は欲しいはずだ」
その言葉が妙に腹立たしく感じられた。私の剣士としての誇りを貶されたような気がして、どこまでも呆れた奴だと思った。そのなまくらに負かされたのが自分だというのに。その傲慢さの源は一体何なのだろう、もう顔も見たくない。
「次会うことがあれば、その時にまた話そう」
静止の言葉を振り切って、さっさと控え室へと戻った。もう話すことなど何も無い。自分のために実力を上げたいのなら、自分一人でやればいい。会うつもりももう二度と無かった。
「変な人だったね。アリアにつきまとって、嫌になっちゃう。アリアと一緒にいていいのはあたしだけなのに」
フランが作った昼食を二人で食べていた。私の第一試合の様子の反響は思っていたよりも大きかったようで、水のために城下町へ行った時、多くの人が私に視線をよこしていた。
「はい、アリア。あったかいお茶だよ」
彼女が抽出した渋みが効いたお茶。体力の回復に役立つ成分が含まれた薬草を使ったとか。草の名前は色々言っていたけれど、よく分からなかった。
「他にもいっぱい作ってきたから、たくさん食べてね!」
彼女の言う通り、いつも以上の量を食べた気がする。たくさん食べることは良いことだが、この後に第二試合が控えているのをすっかり忘れてしまっていた。ちゃんと動けるだろうか。この子の料理はつい食べ過ぎてしまう。