「次の試合、ブルーノとあの女戦士だってよ」
「ブルーノはともかく、あの女の初戦だよ。速すぎて、何が起こったのか分からなかった」
「どっちが勝つのか全く想像できないな」
私は再び砂舞う舞台に立った。相手は第一試合で凄まじい一撃を叩き出したブルーノ。正面から堂々攻撃を受けるか、それとも往なすか。相手が来るまで、私は色々と考え込んでいた。
「待たせたな。斧が言うこと聞かなくてよ。切れ味が落ちたらいけねえ」
生温かい風と共に、ブルーノが姿を現した。その屈強な大男は、思わず跪いてしまうような威圧感を身に纏っている。
「お前のさっきの試合見てたぜ。本物だ。だから俺は最初から本気でいく。一撃、それで十分だ」
それに私が返事することはなかった。ただ精神統一をして、目の前の集中を切らすことなく。鞘からゆっくりレイピアを抜いた。砂埃が戦場の中心を荒々しく舞った。それと同時に、鐘が会場に響き渡る。
大きな怒号と共に、巨大な戦斧の一撃。数メートルのリーチの破壊力で、地面が大きく揺れた。信じられない程の穴が地面に空いている。
「よく避けたな。根性の無い奴はビビってそのままこの斧の餌食になっちまうんだけどよ」
言い切ったのも束の間、ブルーノが距離を一瞬で詰めて、振り下ろす。一直線に亀裂が入った。まるで地震のように。全力を出してしまうと、その分隙も大きくなる。それを見逃すほど私も甘くはない。私はゆっくり近づいて、血が出ないように首にレイピアをそっと当てた。
「お前が俺を殺す気だったなら俺はもう切られてた。けど甘いな、殺し合いの場で触れるだけで終わるやつがあるか?そんなんじゃ戦場は生き残れない」
ブルーノは後ろに下がって距離を取り、力を貯め始めた。渾身の一撃が放たれる。それなら私も全力で向かうしかない。レイピアを鞘に納めて腰を落とし、目を瞑った。怒号と共に恐ろしい位大きな覇気が近づいてくる。瞳の中のイメージと覇気が一致したその瞬間、私は抜刀した。目を開いた時、大斧は二つに折れていた。
「俺の完敗だ。甘ちゃんなのは俺の方だったな。何をされたのかも分からない。なんで剣をしまった相手に速度で負けるのか、何もかも分からねえ。ただその構えどこかで見たことがある。名前は確か。まあいいか」
声を荒げて呆れたように、試合終了の鐘を聞くまでもなく去っていった。周りから大歓声があがり、その中にはフランの声もあった。割れた地面を見つめながら一息ついて、私は控え室に戻っていった。
「お疲れ様、ほんとにかっこよかった!」
「ただいま」
試合が終わってフランが抱きついてきた。初めてケーキを目にした子どものように目を輝かせる彼女を見ていて、ようやく試合が終わったんだと安心することができた。温かいお茶を出してもらって、それをゆっくりゆっくり啜っていた。椅子に腰掛けて休憩しているとブルーノが訪ねてきた。
「俺の一撃があんな簡単にかわされて、いともたやすく首が切られて。お前ほどの剣士がいるなんて、世界は広いな」
「もう一歩踏み出されていたら、私は避けれなかったかもしれない」
「冗談言うぜ全く。俺が三人いたとしても勝てねえよ。優勝はあんただ、間違いない。それにあの構え、抜いた剣をわざわざ納めるなんて、ありゃどういうことだ。そう思って考えてたんだけどよ。思い出したんだ。あれはジパングの剣士に似ている」
聞き慣れない言葉が出てきた。首を傾げる私達にブルーノが続ける。
「ジパングという国の剣士は、あえて剣を鞘に納めて、抜刀の一撃で相手を仕留めるとか。詳しくは王の方が知ってるだろ、後で聞いてみるといい」
邪魔したぜと去っていった。順当に勝ち進めばあと四戦。レイピアを拭くフランを見ながら、少しずつ鼓動は高まっていった。
「アイリスさん、次の対戦相手は棄権だそうです。よって、次の試合まで時間がありますが、しばらくお待ちください」
兵士が少し慌てた様子で戸を開けた。私の不戦勝を伝えにきたとのことだった。次の対戦相手が体調不良で倒れてしまったようで、その対処で外が騒がしい。素直に喜べるものではないけれど、なってしまった以上はしょうがない。フランも複雑な顔をしている。私達は他の参加者の試合を見ながら色々と暇を潰していた。