「残り八人。どうだシャロン、お前が気に入った相手はいるか」
オニキスのような彼女は人形のようにただ会場を見下ろすだけだった。この大会の結果で自身の婚約相手が決まるという中で彼女は何を考えているのだろうか。酒で顔を赤くしながら王は言った。
「あのアイリスとかいう戦士、他とは格が違うな。考えを改めなければいけない。実力の何割を出しているのか見当もつかん」
その言葉にシャロンの眉が少し動いた。しかしそれに気づくことなく王は続ける。
「そしてもう一人、ライーダも抜けている。あやつも抜けた技術で余裕を持って勝利している。この男ならあの女剣士にも対抗できるだろう」
さらに彼女の眉が動いた。そして寡黙な彼女は口を開く。
「お父様。アイリス様のあの瞳は、なぜあんなに悲しげなのでしょうか」
「あの女が気になるか」
シャロンは黙ったままだった。王も深い詮索はせず、酒をもう一杯注いだ。
「全ては結果が示してくれる。次からはいよいよ準々決勝が始まるのだからな」
準々決勝を勝ち抜いて、会場には私を含め改めて四人の戦士達が集められた。王の一声で会場は静まり返る。大きく息を吸って、がなるように声を発した。
「六十四名より選ばれしそなた達四人。その実力に心からの敬意を表するとともに、いよいよ準決勝を執り行うことを宣言する。第一試合は一時間後、アイリス対ノーマ。各自万全の状態で臨むこと。それでは解散とする」
控え室で過ごした一時間の間、入念なストレッチをしていた。きっとこの試合が終わればそう長くない間に決勝が始まる。周りの評判も高い戦士ライーダとの対決のために備えなければいけない。フラン特製のお茶を飲みながら、控え室を後にした。
朝以上のヤジが飛び交う戦場には既にノーマの姿があった。会話を交わすこともなく、開始の鐘が響き渡った。
ふっ。息遣いと共に、大量の針が飛んでくる。触れてはいけない、そう直感で悟って、避けると同時に一気に距離を詰めた。ノーマも後ろに退いたと思えば、元居た場所には黒い廃棄物。爆弾だった。
「アリア!」
フランの叫び声と同時に、間一髪で被弾を免れた。ノーマの懐の広さは、武器の多さだった。おそらくさっきの針は猛毒、そして爆弾。数多くの武器が畳まれているのだろう。迂闊に近寄ることはできない。相手の攻撃手段が分からない以上、避ける以外できなかった。
「逃げまくって手数を消耗させよったってそうはいかない。その程度で負けるなら、俺様はここに立っちゃいない」
大量の投げナイフを取り出した。もちろん毒が塗られている。目にも止まらぬ速さでそれをこちらに飛ばし始めた。ただそれは悪手だった。両手が塞がってしまった以上、それ以外に危惧すべきことは何も無い。つまり私が距離を詰める格好のチャンスだった。これを逃してはいけない、飛び交うナイフを避けながら、素早く、けれど優しく、レイピアをノーマの首に当てた。それに気づいた彼は目を大きく見開いて、しばらく動かなかった。そして感嘆したようなため息をついて、ついに言葉を発した。
「今度は爆弾を置く暇もなかったってことかよ。あんたの剣捌きは俺なんかじゃ見切れないから、これしか方法が無かったんだけどな。ははっ、俺様の完敗だ、残念。せっかく美人さんを嫁にできると思ったのに」
続く第二試合では、圧倒的な強さでライーダが勝利した。観客にウインクをして、キザな男は悠々気ままなステップで控え室へと向かう。それを見届けてから、私達も控え室へ戻った。
「アリア、どうしたの?浮かない顔してる」
控え室にはいつにない緊張が走っていた。フランも落ち着きを保てず、部屋を何周もしている。扉が思い切り開いて、決戦の舞台へ急かされるのを待ちわびているのだ。けれど私にはライーダに少し違和感があった。その正体は全く掴めないが、試合で勝負することになれば自ずと分かるだろうとあまり気にかけてはいなかった。しかし念のため、フランに伝えておくことにした。
「今回ばかりは、私に剣を振るうことを許してくれないだろうか」
「えっ」
フランの表情には、驚きだけじゃなくて失望も混ざっていた。私の手をぎゅっと握って、不安そうに見つめている。私は焦って妙な手振りをつけながら弁明を始めた。
「ち、違うんだフラン、もちろん理由はある。フランを裏切るつもりはない。少し気になることがあっただけなんだ」
「気になること?」
誰に聞かれているか分からない。できるだけ小さな声で耳打ちした。フランはとても驚いていたけれど、まだそうと決まったわけじゃない。その思いとは裏腹に、心の奥では確信が渦巻いていた。