ビルドイン・マイカントリー!   作:たいたい35

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雷撃の獣、そして頂へ

「ここまで長かった。本当に長かった。ついに今ここで、優勝者が決定する!ワシも長い間この大会を見てきたが、今年のレベルはとにかく高かった。相手を倒すため、あらゆる手を尽くす。その熾烈な戦いの頂点にこそ、我が娘はふさわしい!」

 

王のリミッターはすっかり外れて次から次へと言葉を紡いでいる。周囲には熱狂する観客と、目の前にはライーダがいる。ついに決勝戦が始まろうとしていた。

 

「あんたが噂の……。確かに、弱いわけない。目がそう言ってるよ」

「私も今確信した」

 

ライーダは何のことだと首を傾げている。それでいい、本人に悟られるのはあまり良くない。試合開始の鐘が鳴るまで、私は静かに時が過ぎるのを待ち続ける。王がつらつらと述懐して、段々と会場の緊張が高まっていった。やがて静風の音すらはっきりと意識させられるようになった頃、ついに決勝の鐘が鳴った。

 

「最後はワシが言おう。始め!」

「先手必勝!うぐっ」

 

次の瞬間、私はライーダの心臓を思い切り貫いた。体重をかけてぐりぐりと押さえつける度に鮮血が辺りに飛び散った。ライーダは吐血しながらもがいている。苦しそうな嗚咽に私は動揺することなんてなく、ゆっくりとレイピアを引き抜いて、今度は腹に突き刺した。

 

「な、なんで……。ま、まさかあんた……」

 

観客の悲鳴とさらに王の怒号が聞こえた。このままでは死んでしまう。決着はついた、今すぐ剣を納めろと。私は構わず剣を振り続ける。そしてついにライーダの目から光が消えた時、冷たく言い放った。

 

「人間の姿をした魔物なんているのだな。死んだふりを見破れない程私は落ちぶれていない」

 

会場が一気に冷たい空気に覆われて黒い雲が漂い始めた。そして死んでいたはずのライーダはそこにはもういなかった。数メートル先で、おぞましい魔物の姿となりこちらを睨んでいる。獣のようなその魔物は絶叫し、会場は混乱が支配していた。これはいったいどういうことだ、早く逃げろ。皆を避難させろ。王までもが焦りを隠せていなかった。

 

「お前、なぜ分かった」

「私は魔物を皆殺しにするために旅をしている。こういうのは初めてじゃない」

 

耳を裂くような轟音と共に、目の前が真っ白になった。雷が落ちてきたのだ。ようやく視界が晴れた時ライーダは得意げだった。この獣の魔物は雷を操ることができるのかもしれない。魔物の中でもおそらく上位の強さ、気を抜いたら一瞬でやられてしまう。

 

「ちっ、外したか。小さいってのはやはり面倒だな。さっさと殺す」

 

轟雷が私めがけて次々と飛んでくる。避ける度に髪に嫌な感覚が走った。こいつはあえて観客を狙わず、私だけに雷の弾丸を打っているように見える。舐めているのか手加減しているのか、そんなことは私には関係なかった。魔物の事情なんてどうでもいい。

 

「次で最後にしよう。面倒なのは嫌いなんだ」

 

力を溜めるようにゆっくりと瞑想を始めた。雲がさらに黒く汚くなっていく。数秒間の沈黙の後、目を大きく見開いた。私はレイピアをふっと空振りして、血を落とした。

 

「死ね」

 

会場のどこに逃げても避けられない。さらには着弾した瞬間に多くの人々が犠牲になるのは間違いなかった。私は避ける素振りも見せず、力一杯レイピアを真上へと放り投げた。観客席よりも高く高く上がったそれは、巨大な落雷の音が鳴ったと同時に避雷針となり砕け散った。

 

「クソっ、そんなゴミ如きが俺の一撃を吸うなんて。だが次はもう避けれない」

 

明らかに動揺しているライーダの懐に一瞬で潜り込んだ。その醜い魔物はさらによろける。こいつを殺すには今しかない。

 

「ま、待て、やめろ!」

 

顔に手を当て壁を押すように力を込めた。私の手を中心に燃え盛った炎は一瞬にして天高く広がり、その獣を塵にしてしまった。まるでさっき砕け散ったレイピアのように。威勢の良かったはずの男は、今はもう地面の砂の一粒だった。次第に暗雲が晴れていき、太陽が照りつける青空が顔を見せた。驚きの連続で今度は観客のどよめきが最高潮。今まで人間だと思っていた男が雷を操る魔物だと分かったのだから、無理はないと思う。私が深呼吸をしてからレイピアを拭いていると、フランが観客席をぴょんと飛び越えて駆け寄ってきた。

 

「アリア!」

 

フランは華奢な身体を弾ませて慌てていた。大丈夫、どこか悪いところは無い?私をじっくりと観察して不調を探していた。大丈夫だと伝えると、不安が笑顔に変わり、抱きついてきた。

 

「怖かったよ……!でもあんなのも倒しちゃうなんて、アリアはやっぱりすごい!」

「皆無事で本当に良かった」

 

飛び跳ねるフランの頭を撫でていると右手の甲の火傷に気づいた。あれだけ大きな炎を出したのだから、当然かもしれない。どうしようかと悩んでいるうちに、ちょうど良い方法が頭に浮かんだ。そして腰の瓶の薬草を少しだけ取り出して、患部に塗った。瞬く間に火傷は治って、甲に艶が戻った。

 

「フランの薬草のおかげだ。ありがとう」

「えへへ、どういたしまして!ねえねえアリア、周り見てみて?」

 

周囲には沸く大歓声。けれど大会の時とは少し違った。それは人間の全力のぶつかり合いに熱狂するのではなくて、街を滅ぼす程の力を持った魔物を倒したことへの賛美の声だった。

 

「あんた強いな!あんなデカいのを倒しちまうなんて、この街の救世主だ!」

「今年の大会はアイリスさんで決定だな!」

「ねえ、ちょっと待ってよ。なんで雷が、火が出たの?それにライーダさんは魔物だったってこと?いったいどういうことなの?」

 

ようやく私が認められたような気がした。差別にも似た発言から始まったこの大会で、ようやく晴れ晴れとした気持ちになったから。私の戦闘をずっと見ていた王族が降りてきて、王は手にはトロフィーを持っていた。

 

「大きなアクシデントはあったが、今年の優勝者及びバライアの救世主は、天才剣士アイリス・ルーランに決定した!さあシャロンよ、これをアイリスに」

 

高貴な佇まいでこちらへやってきた王女は小ぶりなトロフィーを静かに手渡した。いつもの表情のまま、なぜか私をじっと見ている。白く艶やかな肌と吸い込まれてしまうような瞳に、思わず目を逸らしてしまった。

 

「優勝、おめでとうございます」

 

唐突に私の手を冷たい両手で握ってきた。王室で見たあの表情は少し緩んでいて、紫の瞳には少し光が宿っていた。それとは対照的に、隣のフランは頬を膨らませていた。

 

「アイリス様は、どうしてそんなにお強いのですか」

 

顔を寄せて、上目遣いで彼女は尋ねた。人形のようだった彼女からは想像がつかないような積極さで、少しうろたえてしまう。私が答えに困っていると、フランが彼女を引き離した。

 

「ほら、もうトロフィーは渡したんだから、王女様も早く離れてください!」

 

フランは珍しく不機嫌だった。私の腕を掴んで離さない。どこか納得いかない様子で、私が何かしてしまったのか心配になってしまう。

 

「アイリスよ、褒美はこの後城内にて伺おう。望むだけの褒美を授けようぞ」

 

フランに手を引かれながら、私達は大歓声を背に会場を後にした。

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