ビルドイン・マイカントリー!   作:たいたい35

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優勝

「剣士アイリスよ、そなたの戦い、誠に見事だった。刹那の速さで敵に視認する隙さえ与えない。まさかここまでの強さだったとは驚いた。今この場で、どうか先日の発言を撤回させてくれ。王たるワシが軽率な発言だった」

 

時間が経って、フランと共に王の前に跪いていた。勇者が凱旋したような、そんな誇らしい気持ちだった。初めて来た時とは全く違い、皆の表情は明るく番兵の陰口もなくなった。

 

「それに、そなたがあの人間に化けた魔物に触れた瞬間に現れた炎。生身の人間にあのようなことができるのか。まさにそなたは天才と呼ぶにふさわしい!そなたが男であったならば、ワシから娘への縁談を持ちかけていたところだ。いかんいかん、雑談はここまでにしよう。してアイリスよ、そなたは何を望む。何でも申してみよ」

 

私達は元々村の復興のためにここにやってきた。資材も無ければお金も無いゆえに、大会に優勝することで王からの援助を受けるつもりだったから、それに沿ってさっきフランと方針を決めた。

 

「私達はバライアから北にある村を復興するための援助を乞うためにここへやってきました。そこは今は焼け野原で、見る影もありません。王よ、村の復興のため、資金や人材を援助していただけないでしょうか。それが私の望みです」

 

その言葉を聞いた王は神妙な顔立ちで聞いていたが、私が話し終えると、大きな声を上げながら笑い始めた。

 

「そなたはせっかくの権利を村のために使うと申すか!あっぱれ!誠に愉快だ!天才だけでなく聖人であったか!そのような願いならばワシはいくらでも援助することを約束しよう。家屋の建設のための人材はいくらでも派遣し、素材はどこまでも取りにいかせよう。ワシはそなたを気に入ってしまったわ!」

 

今までにない位の大笑いを響かせる王。国王としての威厳の高さと気前の良さが垣間見えた気がした。いくら褒美とはいえ、名前も知らないような場所の援助などなかなか決断できることではないと思う。もしそれが復興した後大国になった時、バライアの街もどうなるか分からない。けれど王はそんなこと気にしないと言う。今はただそなたの聖人ぶりを讃えたいのだと。この勝手さも、王としての資質なのかもしれない。

 

「そうだ、今日は泊まっていくといい。いや、今日だけと言わず明日も明後日も泊まって良いぞ。場所を取らせよう。お前達も、文句無いな?」

 

王妃も王女も静かに頷いた。フランはやったねと嬉しそうに夕食へと想像を膨らませている。援助については、また連絡するとのことだった。私達が下がろうとすると、今まで黙っていた王女がふと口を開いた。

 

「アイリス様、この後私の部屋まで来ていただけないでしょうか。お話ししたいことがございます」

 

王女様は何だか少し恥ずかしそうに目を泳がせている。彼女はさらに念押しして、一人で来てください、そう言った。私は分かりましたと頷いて、フランと共に部屋へと向かった。案内された先は旅人二人にはもったいない程広く、高級感溢れるインテリアがいくつも置かれていた。真新しい土器や女性の描かれた大きな絵画、さらに新品と大差無いベッドが二つ。一度入ってしまったらもう出ることは叶わないだろう。その位質の高いものだった。

 

「こんなに綺麗な部屋をあたし達が使っちゃってほんとに良いのかな」

 

さすがの王族の部屋なのでフランも戸惑っている。けれどふかふかのベッドを見るとすぐに潜って眠ってしまった。私も荷物を下ろして近くの椅子に腰掛けて少し目を瞑った。私達のこれからについて考えてしまうと私まで眠ってしまいそうになる。重いまぶたを何とか開いて、王女様の部屋へと向かうことにした。螺旋階段を上がって突き当たりを曲がると、わざわざ待ってくれていた。

 

「アイリス様、お待ちしておりました。あなた達、もう下がって良いですよ」

「はっ」

 

その一声で護衛の兵は去っていった。王女様の部屋はシンプルで、私が通された部屋よりもさっぱりとしている。

 

「城内での護衛はいらないといつも言っているのに、聞き入れてくれないのです。でも今日はアイリス様が付いてくださるので、簡単に引いてくれました」

 

優美な白いティーセットが机に置かれている。そこには菓子とカップが二つ並べられていた。王女様はポットを手に取り、紅茶を注いだ。甘い匂いが部屋に漂って、色とりどりの花畑にいるようだった。

 

「私は誰かを部屋に招待したことがないのです。これで合っているのでしょうか。アイリス様、私のもてなしは変ではないでしょうか」

 

王女様は心配そうに私の顔を覗き込んでいる。一口カップに口をつけると、上品な甘みとほんの少しの澄んだ酸味が喉を焼いて、これは飲んだことのない味だった。紅茶を飲んだことがないというわけではなくて、私が飲んだことがあるものより数段美味なのだ。ハーモニーという言葉では簡単過ぎる、身体中が包み込まれるような錯覚に至った。おいしい、思わず声が出てしまう。

 

「ここまでおいしい紅茶を飲んだのは初めてです。王女様は、紅茶を入れるのも上手なのですね」

 

白い彼女の肌が少しだけ赤く染まっている。ごまかすように彼女も一口紅茶を飲んでいた。少し落ち着きがない様子で緊張しているようだった。なんとか場を和ませたくて、話題を探す。こういう時に話し上手のフランがいれば良かったのだが、私に務まるだろうか。

 

「私も今まで誰かからもてなしを受けたことはありません。だから、あなたと一緒です。もてなしは真心が大切、王女様の紅茶は温かくて、とても丁寧に入れたことが伝わってきました。真心が、伝わってきました」

 

なんとか笑顔をつくってみたけれど、固かったかもしれない。私の努力も虚しく、彼女の緊張はあまり解けていないようだった。紡ぐ言葉に困っていると、今度は彼女が口を開いた。

 

「シャロンと呼んでいただけないでしょうか。アイリス様には、そう呼ばれたいのです。私には敬称はいりません、よそよそしい態度もいりません。お連れのフラン様のように扱われたいのです」

 

王女様王女様と呼ばれるのは窮屈なのかもしれない。せっかく部屋まで招待しているのに、距離をわざわざ離すような言い方は良くなかった。シャロンが私をじっと見ている、おそらく名前で呼ばれたいことの合図だった。けれど王室にいた時とはまるで違う積極さが健気で、笑みが溢れてしまった。

 

「ふふっ。シャロン、素敵な紅茶をありがとう」

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