ちょうど窓から差す夕日に彼女が重なって赤かった。身を乗り出したような姿勢になったから、夕日と重なる。私の心臓は高鳴り、まだ何も考えられない。けれど真っ先に入ってきた思考は、彼女は本気だということ。真っ直ぐな瞳がそれを物語っていた。シャロンは初めての経験に勇気を振り絞って向き合っている。その思いを簡単な返事で済ますことはできなかった。彼女の手も、私の手も震えている。高鳴る鼓動に必死に抗いながら、私は彼女の手を両手で握った。何も言葉が浮かんでいないのに、私は口を開いてしまった。
「シャロンの思い、全て伝わった」
しばらくそれ以上の言葉が浮かばなかった。正直何も分からない。けれどこの場で私の感情以外を盾に逃げるのは彼女への裏切りだった。私は旅人だから一緒には暮らせないだとか、身分がどうとか、性別がどうとか、そういったものは全部言い訳で、思いだけでぶつかってきた彼女に対してあまりにも失礼だった。今はただ私が彼女の告白に何を思っているか、それだけを伝えなければいけない。とても苦しかった。私のこの後の発言で彼女の人生を決めることになってしまうと思うと、毒を患った時のように苦しかった。しかし彼女はその何倍も苦しい気持ちを抑えている。他人、境遇を排除した、私の純粋な感情は――――――。ようやく言葉を紡ごうとした時、私の唇にそっと人差し指が当たった。
「良いのです。私はアイリス様に恋慕を伝えられただけで満足なのです。たとえそれが失恋だったとしても。諦めたわけではありません、今から少しずつ私を見てもらえば良いのです。次は即答できる程に私に夢中なアイリス様にすれば良いのです。だから、そんな顔をしないでくださいませ」
今度は彼女が私の手を優しく包んだ。言葉の調子は一歩引いていて、その白い手もやっぱり震えていて、夕日を映す赤紫の瞳からは、止めどなく涙が流れていた。そんな彼女を見てしまうと、もう私は何も言えなかった。
「アイリス様を長い話に付き合わせてしまいました。どうか最後にもう一つだけ聞いても良いでしょうか。お二人はいつ出発なさいますか」
「明後日、だと、思う」
途切れ途切れの絞り出すような声しか出なかった。そんな私に対し、崩れそうな感情を必死に殺して冷静に冷静にシャロンは応対している。彼女はこんなに強いというのに、私はあまりにも惨めだった。
「明日はここに留まるということですね。アイリス様がよろしければ、二人きりでお出かけしたいのです。お父様もアイリス様が一緒ならきっと許してくださると思うのです。駄目、でしょうか」
無くした大切な指輪を探すような必死な態度で身体を寄せた。ここまで必死な誘いを断ることは私にはできなかった。
「わ、分かった」
「良かった……。明日の正午、城の裏手でお待ちしております。アイリス様の旅のお話、たくさん私に聞かせてくださいませ」
明日のことについて少しだけ話してから私は逃げるように部屋を後にした。寝ているフランの隣、静まり切ったこの部屋には私のため息だけが響いている。彼女の思いから私は逃げてしまった。本気の彼女に私は本気で向かっていなかったのだ。人々を救うだなんて殊勝な目的を掲げている私は、目の前の一人にさえ本気で向き合うことができない。
「なんて情けないんだ……」
頭を抱えて号泣した。こんな乾いた涙なんていくら流したところで彼女の思いには届かない。どれだけ流したところで後悔にしかならないはずなのに、自分の底無しの情けなさに涙を流すしかなかった。私がどれだけ傷ついても、その何倍も彼女は傷ついた。その事実が私を何時間も苦しめた。鼓動がハイペースを刻んで息ができない。それでも私がしたことが許されるはずがなかった。少しだけ待ってほしい、その一言が言えたらどれだけ良かっただろう。あれこれと思案するばかりで、食事もあまり喉を通らなかった。