ビルドイン・マイカントリー!   作:たいたい35

2 / 35


村の人々が活動を始めるより少し早い時間に、静寂の中目が覚めた。窓は少し曇っていて、その向こうにはかすかに月が残っていた。久しぶりのベッドで、さらに旅の疲れが溜まっていたこともあって、気絶したように眠ってしまった。なので、いつもより目覚めは良かった。頭の中でこれからの予定を確認しながら、装備を身につけた。ふと、小さなテーブルの上に、パンとスープが置いてあることに気づいた。家主が気を利かせて用意してくれたものだろう。湯気を立たせる鮮やかな赤いスープは程よく辛く、パンはしっとりとしていた。朝食を食べたことで身体が少しずつ温かくなって、いよいよ一日が始まる、そんな快い気分だった。

 

部屋を出ようとすると、フランが飛び込んできた。おはよう、元気に挨拶をして、支度はバッチリと言わんばかり。その健気な姿に、思わず笑みが溢れてしまった。

 

「どうかしたの?」

「ふふっ、なんでもない。行こう」

「えー、気になるじゃん!教えてよー」

 

理由を問いただそうと、ぎゅっと身体を寄せつけてきた。それでも私は言うことはなかったが、フランの温もりは、私が感じていた肌寒さを消してくれた。

 

「お嬢ちゃん達、今朝は冷えるから、気をつけて」

「はい。スープ、とてもおいしかったです。ありがとうございました」

 

家主に挨拶をして、宿を出た。今回の出費は多少の痛手になってしまったので、まずは何かしらの依頼を探すことにした。受け身の仕事なので誇れた稼ぎ方ではないのだが、生きていくためには、仕方ない。村を散策していると、日に焼けて黒くなったおじいさんが、話しかけてきた。

 

「嬢ちゃん達、こんな田舎に二人でどうしたんだい」

「旅をしています。今日は、東の森へ」

 

偉いねえと感心していたおじいさんが、東の森の話をした途端、急に顔色が変わった。理由を聞いてみると、どうやらこの村の何人かが、森に行ったきり、帰ってきていないというのだ。理由は様々で、野盗に連れられたとか、魔物に襲われたとか、道に迷ったとか、とにかく物騒な話だった。なんとなく嫌な予感がして、他の村人にも、詳しく聞いてみることにした。朝からヒソヒソと世間話をしている人達が目に入ったので、私達が森に行くことを伝えてみると、またもや青ざめた顔をして、反応した。

 

「二人とも、若いんだから、絶対にやめた方がいい。あそこへ行って帰ってきた奴はいないんだから。なんてったってあの森にある集落は、死の村なんだから」

 

聞き捨てならない言葉があった。やはり、ただ簡単に頭に浮かぶような事案ではなくて、もっと大きな問題が関わっているのだ。さらに詳しく聞かなければいけない。

 

「なんでも、森の中には小さな集落があるみたいで、そこでは、罹ると間もなく死に至る病が流行しているらしいのさ。そんなことありえないって?でも、無いとも言えないだろう。誰も帰ってきてないんだから。だからお嬢ちゃん達も悪いことは言わないから、近寄るのはやめた方がいい」

 

その話を聞いて、私達の意見は会話をしなくたって一致した。フランの目配せに私は頷いて、早速準備に取り掛かった。苦しんでいる人がいるかもしれない、それなら向かわない理由は私には見当たらない。地図に書き足しながら、私達は噂の死の村へと足を進めていった。

 

 

気を抜くと一瞬で迷ってしまう薄暗い森。一向に景色が変わる気配はしなくて、どこを向いても木々が鬱蒼としているばかりだった。かなり歩いたので、私達は一旦昼食を取ることにした。

 

「ほんとにあるのかな、そんな病気」

 

病原体などと、目に見えないものとの戦いに少し戸惑っている様子のフラン。大丈夫、私がついていると、私なりに励ましてみたつもりだった。フランは、そうだね、そうだよね!と元気に答える。今日の昼のスープには、いくつかのキノコも混ざって、味に深みがあった。

 

「もちろん毒は抜いたから安心してね。あたしの特技はこういう時にも役立つのです」

 

えっへんと得意げな彼女は医学に深い理解があって、私も何度も助けられた。野草で塗り薬を作ったり、今回みたいに、毒入りの食材を食べられるように処理したり、その知識は医者を遥かに超えるものだと思う。私とは違って、賢いのだ。けれど一度だけ失敗して、身体中が痺れたことがあって、それも今となっては旅の思い出となっている。

 

「あとどのくらいなんだろう。もうそろそろ着いてくれないと、ここで野宿はちょっと嫌かも。アリアがぎゅーってしてくれれば別なんだけどなあ」

「そ、そんな恥ずかしいこと、できるわけないだろう」

 

いつものフランの冗談で、私はまた顔を赤くしてしまっている。ジョークが成功して、意地悪そうに彼女が私を見つめた。紺碧の瞳が、じっと私を貫いて、終始落ち着かなかった。そんな空気から逃れるために頭を振って感情を整え、話を逸らすように私は口を開いた。

 

「そろそろ出発しよう」

「あ、アリア照れてる」

 

フランの言う通りここは少し湿度が高くて、お世辞にも過ごしやすい環境ではない。先が見えない森でも、何とかして村に辿り着く必要があった。彼女は私にくっついたままだったが、私達は先を急ぐため、少し早足で歩き始めた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。