ここ数日、窓を眺める機会が増えたような気がします。どんなに見つめても景色は簡単には変わらないのに。今日ついに大会の参加者を募る看板が国の中心に建てられました。もうすっかり有名な大会なので各地から名のある戦士達が集います。もちろん一発逆転を目指して新規の参加者も大勢参加します。優勝者が王女の婿となれるということが大々的に言われている今年は特に多くの参加者に恵まれてもおかしくありません。お父様は玉座でふんぞり返って志望者を心待ちにしていることでしょう。私は黙って王の間へと続くホールを眺めていました。一人、また一人と屈強な男達が過ぎ去っていきます。私にはとても持てないような大きな斧や剣、厚い鎧を身に纏い長い歩幅で王の間へと向かっていきました。しばらくすると王の間からお父様と参加者の声が聞こえてきました。きっと優勝した暁の話をしているのだと思います。一生を約束する莫大な富を求める方がほとんどで、強い戦士と戦いたいだなんて言う方もいました。その日はそれで終わりでしたが、次の日、また次の日も志願者は城へとやってきました。そんなある日、私は運命を変える出来事に直面したのです。
いつものようにホールを上から眺めていると、メイドが騒がしいのです。すると女性が二人入ってきました。上から見ても美しい長い黒髪と、隣には一回り小さな金髪の女性。旅の者であることは年季の入った服装から判断できました。まさかこの二人が大会の参加者だと言うのでしょうか、それはあまりにも危険でした。体型も細過ぎないもののすらっとしていて、お世辞にも戦士というような雰囲気ではないのです。しかし堂々と場内を進んでいく二人に何か胸騒ぎを覚えました。私は居ても立っても居られず、急いで王の間へと向かいました。
今まで参加者には興味を示さなかった私が唐突に王の間に入ってきたので、お父様も驚いていました。お父様の質問に答えることなく、あの二人が階段を上がるのを黙ったまま待ちました。やがて対面すると上からではよく見えなかった二人の顔がはっきりと分かって、この上なく凛々しく美しい方々でした。お父様の前までやってくると静かに跪き名乗ります。まるで忠誠を誓う騎士のように。名前はアイリス・ルーラン。アイリス様の顔を見た時、心の奥で感じていた胸騒ぎの正体が分かりました。それはアイリス様の瞳の美しさだったのです。遠くからでもはっきりと分かる程のその奥ゆかしさ。あらゆる絶望を一身に背負った悲しみの瞳のはずなのに、その奥で夢と誓いを強く抱く希望の光が確かに存在するのです。私の全く知らない世界がそこにありました。それにすっかり魅了されてしまってしばらく惚けていた私は、しばらく何も考えられませんでした。
「ほう、そなた達も大会の参加者か。二人いるようだが、どちらが出場する?」
「私が参加します」
「もしあなた達が勝ち上がり、優勝することがあれば、望みの品を一つ与えましょう」
お母様の長い話が始まりました。アイリス様は顔を上げることなく静かに聞いていましたが、ハンデの話になった時、強く言い放ちました。
「必要ありません」
私を舐めないでほしいと自信に満ち溢れ堂々とした表情です。お母様もお父様も驚いていましたが、案外すんなりと受け入れました。私もその気持ちは分かります。アイリス様は、今までやってきた人達とは何かが違うのです。その美しい瞳でしょうか、はたまた振る舞い、それとも気品?きっと全てが違うのです。数多の死線を乗り越えてきたことを彼女の全てが語っていました。
「なんだ、随分と自信があるようだな。今年のレベルはいつになく高い。はっきり言うが、ワシはそなたが勝ち上がれるとは思っておらんぞ」
お父様の挑戦的な物言いにもアイリス様が動じることはありません。お父様は続けて挑発して、重たい空気の中話は終わりました。私は会話に参加していたわけではありませんでしたが、とても長い時間に思われました。
迎えた大会の当日、煌びやかな正装と長い時間をかけた化粧と共に、護衛に連れられて王族用の特等席に私は案内されました。会場は円状なのでどこからでも全体を見渡せるように設計されてはいますが、王族の席は城から安全に来るために会場とは地下で繋がっています。毎年試合前から熱気を帯びるここですが、今回は想像していた何倍も皆が興奮していました。そして開会宣言のために参加者達が少しずつ顔を出し始めていました。
「よくぞ参った。やはりこの大盛り上がり、どんな試合が繰り広げられるのか、今から楽しみだ。今年は六十四の戦士がここバライアの地に集った。何度も噂されたような猛者から無名の騎士まで、まさに祭りよ。ワシから言えることはただ一つ、ワシを楽しませよ、全力を尽くせ。それだけだ。何か今日について質問はあるか」
質問は無く、そのまま参加者達は去っていきました。もちろんアイリス様も。腰には前は無かった小さな袋が提げられていました。観客の皆が初戦を待つ中、お父様はお酒を飲み顔を赤くしていました。