その後も何試合か続いて、ついにアイリス様の第二試合が始まりました。相手は大斧使いのブルーノさん。初戦では巨体と共鳴し放たれる一撃で相手を叩き潰し観客を大いに沸かせた戦士です。さっきはその恐ろしさに目を閉じて震える程でしたが、今はもう怖くありませんでした。アイリス様がその優しさで包み込んでくれているような気がしていたのです。アイリス様ならきっと大丈夫、そう思うのです。まるで地響きのような音がした後、ブルーノさんが会場に姿を見せました。二人は何か言葉を交わして、試合開始の鐘が鳴りました。瞬間の大斧の初撃は、その音の大きさの割にはあっけないものでした。アイリス様はまるで羽のようにゆったり躱したのです。そして首元にそっと剣を当てました。しかしブルーノさんは諦めません。後退して精神統一を始めました。アイリス様も鞘に剣を収めて目を瞑り、腰を落とします。私はこの構えに見覚えがありました。ブルーノさんが斧を振るった瞬間、ついにアイリス様の身体に触れることはなく真っ二つに折れていました。
「まさか、昔ジパングで見たことがある。これは居合だ。よもやこの辺りでここまで練度の高いものが見られるとは」
お父様も驚きを隠せないようでした。またまた会場がざわつく中、アイリス様は身を翻して去っていきました。ああ、世界は広いです。こんなに美しく強い方がいただなんて。私の心はアイリス様に支配されていました。最初に見た時、その瞳に惹かれて始まった一目惚れは、大会を媒体にもう抑えきれないところまでやってきているのです。私の結婚の相手が決まるという今年の大会でアイリス様がやってきたのは、もう運命を信じないわけにはいきません。この一目惚れは、そう、運命なのです。
「戦士ヨッタが体調不良とのことで、棄権を申し出ました」
「ふん、急いで対処しろ。戦士が何をしておるのだ。情けない。これではアイリスは不戦勝だな」
唐突にアイリス様の次の対戦相手の棄権が伝えられました。お父様は苛立っています。その後も試合は行われて、いよいよ残り八人になりました。
「残り八人。どうだシャロン、お前が気に入った相手はいるか」
私が何も答えないでいても、お父様はそのまま続けます。
「あのアイリスとかいう戦士、他とは格が違うな。考えを改めなければいけない。実力の何割を出しているのか、見当もつかん」
私の反応を試すようにアイリス様を話題にしました。耐え切れなくて、つい話してしまいました。
「お父様は全て知っていてあんなことを言ったのですか」
アイリス様と初めて対面した時、お父様程のお方がその強さを見抜けないわけがないのです。アイリス様が纏う覇気をお父様が感じないわけがないのです。けれどあえて期待していないだなんて言ったのです。アイリス様を試すために。
「さあ、どうだかな。そしてもう一人、ライーダも抜けている。あやつも長けた技術で余裕を持って勝利している。この男ならあの女剣士にも対抗できるだろう」
「お父様、アイリス様のあの瞳は、なぜあんなに悲しげなのでしょうか」
「あの女が気になるか。まあよい、全ては結果が示してくれる」
準々決勝が終わって、ついにアイリス様は準決勝まで勝ち上がりました。勝ち抜いた四人は会場に集められて、お父様が狼の遠吠えのように大声を出しました。
「六十四名より選ばれしそなた達四人。その実力に心からの敬意を表するとともに、いよいよ準決勝を執り行うことを宣言する。第一試合は一時間後、アイリス対ノーマ。各自万全の状態で臨むこと。それでは解散とする」
今回はアイリス様が遅れてやってきました。会場にはもうアイリス様を罵倒する声はなくて、一人の戦士の登場に歓声が飛び交いました。二人の戦士は静かに構えて、試合が始まりました。次々と飛んでくる針やナイフを蝶のようにゆったりと躱したと思ったら、一瞬で距離を詰めました。それに驚いたノーマさんは、爆弾を囮に慌てて距離を取ります。加えて大量のナイフがノーマさんから飛んできました。アイリス様は急加速してそれを躱します。今度もまたまた優しくレイピアを首に置いて、試合は終わりました。