そこからはもう止まりませんでした。
「初めはこの気持ちが分かりませんでした。けれど今ならはっきりと分かるのです。私はアイリス様に強く惹かれています。その美しい瞳が、私を恋焦がれさせるのです。外との関わりが無かった私に、神様が与えた初めての機会なのです」
私の突然の告白に明らかな動揺を見せています。けれど今伝えておかないと次がいつになるか分からない。冷静になってしまったら夢が醒めてしまう気がしてならなかったのです。困惑されたとしてもアイリス様に私の思いを全て伝えてしまった方が気持ちが楽だったのです。
「今の私はもうアイリス様のことで頭がいっぱいなのです。さっきの笑顔が頭から離れないのです。私のそばで、その笑顔を独占したい。お父様はあのようなことをおっしゃっていましたが、私はアイリス様が良いのです。あなたと、あなたと結婚したいのです」
涙を溜めながら懇願するように、すがるように。アイリス様は震える私の手をそっと包んでくださいました。見ず知らずの私の恋慕を茶化すことなく真剣に、ただ一言だけ伝えました。
「シャロンの思い、全て伝わった」
それ以上の言葉が出てくることはありませんでした。何かに怯えるようにアイリス様の唇が震えています。その姿を見て私はようやく目が醒めました。そもそも私はアイリス様のことを何も知らない。アイリス様も私のことなんて知っているわけがない。アイリス様からしてみれば、他人から急に結婚してほしいなんて言われたところで厄介なだけなのです。私はアイリス様の気持ちを少しも考えることなく自分の都合の良いように言葉を並べて、アイリス様に何も言わせないようにしていただけなのです。そんな身勝手な私の願いが叶って良いわけがない。そう理解した瞬間、視界がパキパキと割れていきました。ヒビが入った窓ガラスが崩れ落ちていくように。さっきまであんなにうるさかった心臓の音はもう聞こえない。変に冷静でした。最後の最後までわがままな私は、とうとうアイリス様の返事を聞くことなく、続けました。
「良いのです。私はアイリス様に恋慕を伝えられただけで満足なのです。たとえそれが失恋だったとしても。諦めたわけではありません、今から少しずつ私を見てもらえば良いのです。次は即答できる程に私に夢中なアイリス様にすれば良いのです。だから、そんな顔をしないでくださいませ」
何を言っているのでしょうか、頭では分かっているはずなのに、諦め切れない。すぐにでも彼女の口から結婚しようと言ってほしい。自分に嘘をつく度に、涙が溢れて止まらない。やっぱり私はわがままだったのです。子どもの頃からずっと。けれど今まで私のわがままは叶わなかった。叶わないわがままなら、願ったところで罪ではないはずです。それなら、このわがままの実現を最初で最後の罪にしたいのです。彼女が手に入るなら、アイリス様が手に入るなら何でもいい。その本心が、私の理性をどこかへと飛ばしてしまいました。
「二人きりで、お出かけしたいのです」
戸惑いながら、分かったとだけ言いました。渋々なのは知っていながら見えてないふりを突き通します。
「良かった……。明日の正午、城の裏手でお待ちしております。アイリス様の旅のお話、たくさん私に聞かせてくださいませ」
これでもっともっとアイリス様のことを理解できる。黒い雲に包まれたアイリス様を裸にできる。そうすれば、もっと近づける。明日が楽しみで楽しみで仕方がありませんでした。
当日、少し早めに準備をしていました。コックがいるのに練習したお料理も、メイドがいるのに練習した裁縫も、今日のためだったのかもしれません。好きな人には、自分で作った物を喜んでほしいのです。あれだけ渋っていた外出の許可も、今までが嘘のように簡単に承諾されました。アイリス様が付いているのなら何も問題は無い、お父様はそう言っていました。ああ、逸る気持ちが抑えられません。もしかしてこれはデートにあたるのでしょうか。初めてだらけのデートの時間はすぐそこまで迫っていました。