「アリア、行っちゃったな。何もないといいけど」
今日はあの王女様とデートだって。こんな晴れの日に二人きりだって。アリアと二人でいる時は、この部屋は正直広くなかったのに、今は空いたスペースが邪魔で邪魔で仕方がない。本当だったら今日もあたしとアリアは二人きりだったのに。求婚されたとか、彼女の気持ちがどうとか、そんなのあたし達には関係ないし、好きじゃないなら断っちゃえばいいのに。アリアは優しいけど、あたしにだけってわけじゃない。皆平等に優しいの。あたしも結構アピールしてるけど、あんまり効いてなさそう。でも、アリアに救ってもらって、さらに一緒に楽しい旅をさせてもらえているってだけで幸せなのかな。でもあたしはもっともっと貪欲に狙っていきたいの。だってアリアはあたしのものだもん。もっともっとアピールしなきゃ。そう言っても、本当に退屈。ぼーっと目の前の絵画を眺めることしかできないのは本当に退屈。何しようかな、城内探検……は、怒られるよね。二人の尾行は心がムカムカするし。ああもう、暇だなあ。
「あ、そうだ。あの鍛冶屋さん」
アリアが作ってくださいって頼んでいた弓、もうできてるかのかな。せっかくならバライアの城下町、回ってみよう。
城内は意外と静かだけど、街は盛り上がっている。一人一人が生きているって感じがして、ちょっと良いな。「フランの故郷」とは大違い。みんなあたしにも笑顔で接客してくれるし、つい色々買いたくなっちゃう。あそなんて、綺麗な宝石が売っている。近くでよく見てみると、うっとりしちゃうくらい美しいの。
「お嬢ちゃん、目が高いね。でも、結構高いよ?」
「うわ、ほんとだ」
あたし、そんなに幼く見えるのかな。これでも十六なのに。アリアとだってそんなに離れてないのに。連れの子どもみたいに思われることもあるし、ちょっと嫌だ。もっと夫婦みたいにくっついたりすれば、みんなも分かってくれるのかな。この宝石、綺麗なだけあってやっぱり高い。あ、このエメラルド、アリアの目に似てる。吸い込まれそうなくらい綺麗……。
「これがいいのかい。お題さえもらえれば指輪にも腕輪にも、首飾りにもできるよ」
「とっても綺麗です。どこで取れるんですか?」
「エメラルドは貴重だよ。この辺ではまず取れない。アンターニアのずっと北の方で採掘されたのを仕入れてるんだ。だからそれなりの値段。誰かにプレゼントかい?」
「はい、アリア、じゃなくてアイリスにプレゼントしたいんです。一緒に旅をしてるんですけど、似合いそうだなって思って」
「アイリスってあの大会の?それは驚いた。そういうことなら一個無料で包んであげるよ。大会を盛り上げてくれた彼女への私からのご褒美だ」
「そんな、悪いです。それにプレゼントは自分のお金で出したいです」
「じゃあ宝石分は負けてあげるよ。金具代他は頂戴しようか」
「分かりました」
あとは何に埋め込むかだけど、指輪はちょっと違うかな。うん、首飾りにしよう。これなら絶対アリアに似合う。細かい内容を決めて、さっそく制作をお願いした。
「適当に時間が経ったら取りにおいで」
「はい。本当にありがとうございました!」
あたしは一気に上機嫌になった。アリア、喜んでくれるかな。アリアは自分のことにあまりお金を使わない。いつもあたし優先で、無駄な出費でもあたしのためなら簡単に出してくれる。綺麗なお洋服とか、素敵なティアラとか、それこそあのシャロンさんみたいなかわいい格好に憧れたりしないのかな。そうでないにしても、そろそろ新しい服を買わないとだよね。あたしが直しても傷が少しずつ目立ってきているから、今度は動きやすくてかわいいのがいいな。そんなことを考えながら回っていると、例の鍛冶屋さんに到着。
「弓、もうできましたか」
「おう、あんたは。もう少し待っててくれよ、明日にでもまた来てくれ。きっと最高の出来になる」
あたしがここに来たのにはもう一つ理由があって、それは、アリアのために技術を磨くこと。少しでも鍛冶の心得があれば、何か役に立つかもしれないから。
「鍛治について知りたい?そりゃ唐突だな。後継ぎはまだ考えてなかったんだが」
「アリア、アイリスの役に立ちたいんです」
「まあ見学くらいならいいか。そのアリアも、こんな慕ってくれる子と旅なんて幸せ者だな」
奥に案内されると、ものすごい高熱が襲ってきた。炉の中ではドロドロの真っ赤な液体が焼かれていて、元々何だったのかもあたしにはさっぱり。店主さんが言うには、鉄なんかを炉で溶かしてそこから成形するみたい。
金床に取り出されて、何人かの男の人が一生懸命汗をかきながら叩いている。どれも初めての光景で目をキラキラ輝かせながら見ちゃう。
「うちは安全に仕事できるように独自の方法を採用してる。だからお嬢ちゃんでも小さなナイフくらいなら作れる。俺が見ててやるから、やってみるかい」
「はい、お願いします!」
袖を捲って、エプロンを着けて、店主さんが小さなドロドロの塊を取り出して、それをあたしが小柄なハンマーでトントン叩く。このハンマーが特殊みたいで、軽くて変な色をしているけど、鉄との相性が良いから簡単に作業ができるみたい。初心者のあたしでも店主さんに教えてもらいながら、アシストしてもらいながらなら良い物を作ることができそう。
「うわっ!」
「おお、やってしまったな。なに、初めてでこれなら上出来だ。あとは俺がなんとかしておこう」
調子に乗って叩く速度を上げたら一瞬で形が崩れていっちゃった。やっぱり武器を作る人はすごい。こんなに難しい作業を簡単そうにやってみせるんだもん。店主さんも、私のミスができるだけ目立たないようにしてくれた。形は少し歪だけど、店主さんは褒めてくれて、少し嬉しい。
「これは明日弓と一緒に渡そう。殺傷能力は高くないから、簡単な用途専用だな。お代は、そうだな。そのアリアさんにここを宣伝するよう言っといてくれ」
街の人に何から何まで助けてもらって、今日は本当に良い経験になった。ここの街の人は活気があって、自信に溢れていて、商売上手で、よそ者も拒まない。暮らしやすくて、素敵な街。あたしもこんな場所に生まれたかったな。もうすっかり日が暮れちゃったから、急いで城へ戻ろう。そう思ってスキップしていた帰り道に、一番見たくないものを見ちゃった。視界の端に少し映っただけなのに、何よりも鮮明に映ったの。
「アリア……」
アリアとその側にシャロンさん。あたしは思わず木の陰に隠れて盗み聞きをした。こんなことしてはいけないのに、卑怯なのに、身体が言うことを聞かない。
「全部、分かっています。無理はしないでくださいませ。アイリス様にはフラン様がいます。私が入る余地など無いのです。一言、断っていただくだけで良いのです。それに、たった数日でアイリス様に振り向いてもらうだなんておこがましいのです」
アリアは、彼女は全部理解してるって言っていた。あたしにはよく分からなかったけど、今になってようやく分かった。シャロンさんは真っ直ぐだったんだって。あたしが思うような卑怯な人じゃなくて、何も知らないからこそ全部知ろうとして、アリアに好きになってもらえるように努力して。叶わないものだって分かっているのに、最後まで諦めなかった。そんな素敵な人ならアリアだってすぐ断れないよね。少なくとも盗み聞きなんて卑怯なことをしてるあたしに、色々と口を出す権利があるわけない。
「二人とも、ごめんなさい」
それ以上を見ると自分の惨めさに壊れてしまう気がしちゃったから、走って帰った。でも、部屋に戻る気になれなくて、城内を探索して過ごした。アリアが何を言っても受け入れよう、その覚悟ができるまで、部屋には入らなかった。