「じゃあ行こっか」
活気に溢れた城下町が目に飛び込んできた。大会が終わった後でもこの街の繁盛は止まらない。あそこで汗をかきながら薬を大量に仕込んでいる男性も、目の前で魚の売り込みをしている女性も、ここに暮らす一人一人が生き生きとしていて、街の精彩を引き立てている。感心するように街を回っていると、後ろの方から呼び声が聞こえた。鍛冶屋の店主が大きく手を振っている。
「俺はラッキーだな。まさか大会の優勝者に武具作りを依頼されたなんて。あんたが買ったと知ったらきっと客足は鰻登りだ。さ、これが頼まれてた品だぜ」
目立つ台の上には依頼していた弓が置かれていた。一寸の狂いもない綺麗な曲線を描く造形に、竹の美しい目が日光を吸収し光り輝いている。弦の張りも、無駄な力の消費を極力抑えることができるような最適な張力で張られていた。
「これはすごいな。私が見たどんな物より精巧だ」
「あんた程の戦士にそう言ってもらえるなんて光栄だな。そこのフランさんも気に入ってくれたようで何より」
弓の美しさに負けない程の澄んだ瞳で完成品を見つめている。高い金を出して頼んで本当に良かった。
「ただ、竹の弓っていうのはなかなか扱いが難しい。その分軌道も綺麗なんだけどな。初心者には厳しいが、あんたが指導するなら大丈夫だろう」
「アリア、あたしたくさん練習してアリアと一緒に戦えるくらい強くなるから!
「ふふっ、それは頼もしいな」
「おっと、こいつを忘れちゃいけねえ。ほら」
私の手に差し出されたのは、小さなナイフだった。柄の部分こそ持ちやすく綺麗なものの、肝心の刃は少し歪んでいて、殺傷能力はあまり高くはなさそうだった。
「そいつはあんたのためにそこのお嬢さんが打ったものだ。本来数日で良いナイフはできねえが、今日出発だからな、急いで仕上げた。だからまあ料理とかにでも使うといい」
「これを、フランが?」
「サプライズで渡したかったんだけど、やっぱり難しかったの。不格好だけど、せっかくならアリアに使ってほしいな……」
俯くフランの頭をポンポンと撫でた。フランは私のためにと思って時間をかけてこれを作ってくれた。たとえナイフを作るのに少し失敗してしまったからといって、その思いは決して不恰好なんかじゃない。私にはしっかり届いた。フランの前だから格好つけてはいるけれど、泣いてしまう程嬉しかった。
「ありがとう、フラン。本当に嬉しい。また宝物が増えてしまった」
「えへへ、どういたしまして!」
「泣かせてくれるぜ、おい。それに初めてでそんなに綺麗に作れるなんて上出来なんてもんじゃない。弟子に欲しいくらいだ。器用なパートナーがいてあんたも助かるだろう」
「全くです。フランにはどれだけ助けられたか分かりません」
大切にしてやらなきゃいけねえな。店主のその小さな一言に、私は深く頷いた。その後は私の壊れてしまったレイピアの代わりになるような物を品揃えから漁っていた。
「結構自信作を置いてるんだが、その顔じゃ気に入ったのもなさそうだな」
「すまない。ここに並んでいる物が良くないと言いたいわけじゃないんだ。ただ、あのレイピアはもう長く使っていたから、手に馴染んでしまって」
店主はしばらく考えた後、何かを閃いた様子で奥から一枚の地図を持ってきた。大雑把な地図を指でなぞりながら、一つの大陸を指した。
「このアンターニアを海でずっと行った先に、大陸がある。航海は危ないんで俺も詳しくは知らないんだが、腕利きの刀鍛冶が多く住んでいるらしい。名前は、ジパング。遠い異国だから嫌厭されるかもしれない、でもあんたは強いから問題無いだろう。気が向いたら行ってみるといい、船の旅は楽じゃないが」
「わざわざありがとう。検討しておく。その片手剣をいただけないだろうか」
はいよ、店主のその元気な声とは対照的に私はあまり見たくなかった財布の中身を恐る恐る確認してため息をつきながら代金を支払った。やはり武器は高い。
「またフランに辛い生活を強制しなければいけない。本当にすまない」
「えへへ、二人三脚で歩いていこうね!でも、ちょっとくらい王様にお金貰っておけばよかったかも」
フランの言う通りだった。落ち込む私を励ますフランを見ながら店主は笑っている。新しい剣を受け取って、少し離れて試し斬りをした。少し斬撃が重くなったように感じる。ただ鋭さはやっぱり落ちたかもしれない。けれどいつまでも悔やんでいたってしょうがない。色々と剣の感覚に馴染んでいく私を遠くから見ていたフランと店主が何か話していた。
「いつ見ても美しい剣捌きだな。無駄がなさすぎる。速度もとても目で追えたもんじゃない。どんな鍛錬を積んできたらここまでの域に達することができるのか。俺も色んな戦士を見てきたが、序列がここ数日で一気に変わってしまった」
「アリアが剣の修行を怠ったことは一日だってありません。とっても努力家なんです。それに、アリアが使えるのはレイピアだけじゃないんですよ!弓だって斧だってハンマーだって、何でも使えちゃうんですから!」
「一回くらい、手合わせをお願いしたいもんだ」
しばらく私が剣を振るっていると、周りに人が集まってきた。
「よおあんた、大会、すごかったな。あんたみたいな強い戦士がこの街にいてくれたら、この国も安泰なんだけどな」
通行人が話しかけてきた。それに続いて周りの人々が私を囲うように集まり始める。どうしてそんなに強いんだ、どんな修行をしたのか、褒美は何にしたのか、私は皆に揉まれるようになってしまって、恥ずかしい上に動けなかった。
「アリアはすごいんですよ!あんな魔物よりもっともっと大きなのも倒してきたんだから!」
「え、それは本当かい。なああんた、俺にも稽古つけてくれよ。あんたの教えなら、俺でも大会で結果を残せるかもしれねえ」
「何言ってんだよ、彼女をあんまり困らせるんじゃない。なあ、こんな奴より俺と一緒に来ないか。あんたと俺ならきっと良いパートナーになれる」
困り果てる私の袖をフランがぐいぐいと引っ張って、なんとか人混みを無理やり抜け出し、逃げるように街を後にした。