鳥の鳴き声が耳に残る朝、フランに起こされて一日が始まった。いつも通りフランのスープを飲んでから、まずは王への手紙を書くことにした。けれど何も決まっていないから筆が進まない。このまま考えていてもしょうがないから、セバスを隣の村まで迎えにいくことにした。
「おお、お久しぶりです。どうでしたか、バライアの街は。大きいでしょう、今年の大会の参加者は例年よりも何十人も多かったとか」
「セバスさんも元気そう!聞いて聞いて、アリア、とっても強かったんだよ!他の参加者なんて相手にならなかったんだから!」
「やはりそうでしたか。実はこの村まで噂は届いていたのです。ダークホースは最強の美人女剣士、やっぱりアイリス様のことだったのですね」
「や、やめてくれ二人とも」
褒めてくれるのは嬉しいのだが、どうしても恥ずかしい。フランにまた茶化されないうちに、咳払いをして続けた。
「セバスさんが言っていた通り、王に援助をお願いすることができました。手紙を寄越せば人材や物資を運んでくれるそうです。あなたと相談し、村の方針を決めていきたい」
この広い空間には無限の可能性がある。家一軒にしても、どこに建てるか、大きさはどうするか、構想をいくらでも膨らますことができる。この広い土地をどのように使っていくか、むしろここからが本番なのだ。
「ワシは、もう二度と魔物に苦しむ人が出ないような村をつくりたい。小さな村は、小さな魔物にさえ簡単に滅ぼされてしまうのです。バライアのような大国に堂々と攻め入る愚かな魔物はいません。だから、お二人に全部お任せして、どんな魔物にも負けない国のような村をつくっていただきたいのです。今まで様々な国を見てきたアイリス様とフラン様なら、きっと強い国をつくることができると思います。私はその大きな国に、小さな家を建ててひっそりと暮らしたい、そう思うのです」
そのセバスの言葉で、私達の方針ははっきり固まった。魔物の被害は止まらない。魔物の根絶を謳うのなら、まずは魔物から逃れた人々が安心して暮らすことができる場所が必要だ。私の中で少しずつ街のイメージが完成されていく。
「それなら、色々な街を回る必要があるよね!バライアの防衛設備だって参考になるだろうし、他にも役に立つ武器なんかがあるかも!せっかく旅をしてるんだから、色々な国の特徴が混ざったような場所にしたいよね!」
脳に電気が走ったような気がした。魔物に襲われないという真の安心の中で、出身や身分に縛られず様々な人々が共生し、助け合って暮らす場所。二人の意見は、私が求めている理想と完全に合致した。私の旅のゴールがまた一つ増えたのだ。これが叶えばどれだけの笑顔が守られるか、想像もつかない。
「バライアの王に援助を求めます。まずは皆で協力して村の原型をつくりましょう」
「えへへ、アリア楽しそう。今までで一番良い笑顔してる」
私は急いで手紙を書き上げた。まだ小さくても、とりあえずは人が暮らせる環境が必要だ。できるだけ多くの資材と人材を依頼した。あとはこれをバライアまで届けなければいけない。
「フラン、これをバライアまで」
「ちょっと待っててね」
フランが口笛を吹くと、どこからか鳩がやってきた。彼女が飼い慣らしているペットというわけではなく、才能だった。彼女が口笛を吹けば、必ずそれに魅入られた動物がやってくる。
「えへへ、鳩さん、ありがとう。このお手紙、バライアまでお願いします」
腕に乗せた鳩に文を持たせて、もう一度口笛と共に勢いよく飛ばした。いわゆる伝書鳩。野生の子でさえ正確に目的地に飛んでいくのだから、フランの口笛にはどんな魔力があるのだろう。あの鳩も、任せてくださいと言わんばかりに羽をバタバタさせていたのだから、よく分からない。後はバライアから反応があるまでしばらくの休憩だった。
「次はどこに足を運ぶ予定ですか」
「落ち着いたら、ジパングに向かおうと思っている」
「ジパングですか。それはまた遠いですね」
遠い異国のことなのに、セバスはジパングのことを知っている様子だった。
「ジパングは今、外部を拒んでいます。交流や貿易などは限られた場所としか行っていません。お二人が港に着いた瞬間、敵とみなされることもあると思います」
「そんな物騒な場所なんですか?」
「ジパングの王は慎重です。情報の統制のため、自分が不利になるような情報を外部から入れないようにするため、制限しているのです。よそ者は徹底的に排除されます」
「アリア、どうしよう。そんな場所に行くなんて危ないよね。海を渡るから逃げられないし……」
その情報が確かならジパングに行くことは命を捨てにいくようなものだ。ましてフランをそんな危ない場所に連れていくなんてもってのほかだ。
「ですが、金が多く取れると聞きます。さらに四季と呼ばれる気候に属しているとか。至る所で絶景が見られるとか。ジパングが公に開かれたら一度は行ってみたいものです」
今すぐに行く必要があるわけではない。航海も丈夫な船が無ければ危険だし、特に用事も無い。今はアンターニアの魔物を全て葬り、ここを安全な村にするのが先だ。私達でもできることを探そう。村のレイアウトや井戸水のための水源の確保の方法など、色々話し合っているうちに日はすっかり暮れてしまった。