「もしアリアが、あ、アイリスが勝ったら、お姫様はどうなるのですか?」
フランが恐る恐る尋ねた。おそらくそれは、最上位の男の妻となるのだろう。王の前で緊張しているのか、それとも他の理由があるのか、妙に落ち着きがなかった。
「ふむ、あまり考えてはいなかったが、やはり上から数えて上位の男を、迎えるしかないだろう」
その発言に王の眉が動いた。妻に呆れたように言葉を放つ。
「何を言う。そんなことをしては大会を催す意味がないだろう。もしそなた達が頂点に立ったのなら、そもそもこの話は無かったことになる。ワシが求めているのは、我が娘、シャロンにふさわしい人間だ。一度でも敗北するようなことがあれば、論外である。しかし、それではそなた達も損をしたような気分になるだろう。優勝したというのに暗い顔をされては、大会の格も下がってしまうというもの。その時までに、何か考えておこう」
王妃は夫の言葉に少し悔しそうにしていた。他にも、大会のルールに関する様々な説明があった。防具に関しては基本的には不問、大会当日までは宿は無償であること、そして、武器に関しても基本的には不問であること。何よりも私が気になったことが、勝利条件だった。このルールの上では、死人が出てもおかしくない。それに、たとえ大会とはいえ、人に剣を振るうことはできない。
「勝利の判定はこちらで下す。もしくは本人が棄権を希望すれば相手の勝利だ。心配するな、この大会も歴史が古いが、死人が出たことは一度も無い」
「相手を傷つけることがなければ、勝利にはならないのだろうか」
「おかしなことを聞くのだな。無論、闘いである以上は多少の痛手は必要だろう。しかし、圧倒的な実力差があればその限りではない。もし何分も攻撃を読み切り、相手を絶望させるようなことがあれば、それは見ていてワシも観客も面白くないのでな」
「それなら、安心しました」
「なんだ、随分と自信があるようだな。今年のレベルはいつになく高い。はっきり言うが、ワシはそなたが勝ち上がれるとは思っておらんぞ」
挑戦的な瞳で、嘲るように王が言った。それでも良いと思った。周りから注意されないなら、その方が戦いやすい。少しだけ胸が熱くなっている気がした。
「大会は明後日より始まり、トーナメント表は当日開示する。勝ち上がれるとは思っておらんが、期待はしておる。媚びてくるような小心者より、驕る挑戦者の方が幾分かマシだろう。万全の状態で臨むように」
深く頭を下げてから、フランを引き連れて城を出た。城内での態度が問題になったのか、視線が痛かった。
「あたし、あの王様好きじゃない。アリアはこんなに強いのに、ちっとも分かってないもん」
道中、顔を膨らませてフランが不満を述べていた。王に謁見している時も、身体を震わせて我慢していた。よく耐えてくれたと思う。
「優勝して見返してやればいい、フランが教えてくれた」
自分が言ったことを覚えていてくれたことが嬉しかったのか、すぐに機嫌を直してくれた。この後は、せっかく無料だから宿でゆっくりしようという話になっていたが、フランが何かを思いついたようだった。
「あたし、アリアのために良く効くお薬を作りたい!」
思いがけない提案だった。道具の持ち込みはある程度は許可されている。当然、皆薬草やナイフなど、小物を忍ばせておくだろう。私も、動きに支障が出ない程度には持っておく必要があるのかもしれない。
「だから、その、アリアがよければ、一緒に材料を獲りにいってほしいの」
快く了解すると、その勢いで楽しそうに城下町の外へと走っていった。そよ風に吹かれて、私は彼女をゆっくりと追いかけた。