ハニア探偵六角形   作:saki@ssssaaakkkiii

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3.3 6と6

 イランドは横向きになって倒れていた。ふとももで切断された二本の足が、体の前にある。足先が胸のあたりに、太ももが腰のあたりになるよう折り曲げられ――体全体が、数字の6または9を描いていた。

 僕は間違っていたのだろうか。イランドは、犯人ではなかったのだろうか。僕たちと一緒にいたイランドは偽者で、目の前の死体が本物、あるいはイランド=ハニーアの偽者の二人目――という可能性も検討するがすぐに否定される。死んでいるイランドの顔や服装は、先ほど見たイランドのものとそっくりだった。ほぼ確実に同一人物だ。本物にせよ偽者にせよ、僕たちと同行していた自称イランド=ハニーアは死んでいた。

 あたりを見回しても、キサの姿はない。

 キサが犯人である可能性。イランドとキサは共謀して殺人を行った。しかし何らかの理由でキサが裏切り、イランドを殺した……。イランドが裏切って殺し合いになり、結果キサが勝利したという場合でも同じことだ。いずれにせよ、全ての殺人をイランドかキサが行った可能性は否定されていない。イランドの死体の側にはイランドのものと思われる鉛筆があった。そういえば今までの死体はどれも鉛筆を持っていなかった。何か意味があるのだろうか。

 ハニアはイランドの髪にじっととまっている。ずっといたその場所が好きなのかもしれないが、すでに主人は死んでいた。

 

 イランドは目を閉じているため片目が潰れているかは分からないが、わざわざ確認する気は起きない――と考えていると、扉が開く音がした。僕が出てきたのとは違う扉だ。そちらを見ると、ブルートが立っていた。ブルートは死んでいなかったのか。

「ブルートさん。何があったんですか?」

「イランド君とキサ君が逃げ出したから追いかけたんだ。君に声をかけるべきだったのかもしれないが、あとを追うことを優先した。だが以外にも二人は素早くて、追いつけなかったんだ」

 そこまで言ってブルートは絶句した。イランドの死体が目に入ったのだろう。

「そんな、イランド君まで。二人とも、同じ……」

「二人?」

 僕の疑問に、ブルートは淡々と答えた。

「キサ君も向こうで死んでいた。そこのイランド君と同じ殺され方でね。」

 

 ブルートに連れられ、たった今ブルートがやってきた扉に入る。通路を通り扉を抜けると、そこではキサが倒れていた。イランドと同じだ。足が切断され、体全体で6ないし9を描いている。頭を上にすれば6だ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「6と6。ハニアの数字……」

 呟いてしまう。イランド=ハニーアはハニーアイランドのアナグラムで、キサ=へゴンもヘキサゴン、正六角形だ。六マスの領域を六つ作るのがハニーアイランドのルール。()()()()()。助手は正()()()。どちらも死んでいた。

 ブルートがゆっくりと話し始めた。

「もしかすると、見立てられるパズルはその人に近いものになっているのだろうか。ブラン君とノワル君は仲が良かったから、あるいは二人組だったから、結婚を想起させるリングリングになった。イランド君とキサ君はハニアに。ナナ君は四角に切れだったが――あれはもしかすると君を殺す予定だったんじゃないか」

 四角に切れに見立てられるのに最もふさわしいのは、満場一致で僕だ。ニーク=レキシカ。四角に切れ。

 僕が見ているのはキサの死体ではなく、壁の煉瓦模様だった。前に四角が敷き詰められていると考えたけれど、これはよく考えるとHexと位置関係が同じじゃないか。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 どの領域も六つの領域と隣り合う。どの頂点も、三つの領域の境になっている……。

 六つ?

 ブランとノワルの死体は、両手両足と首と胴体で、六つずつになっていた。

 

 

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ナナの体は、切断こそされていなかったけれど、縦一本横二本の線で六つの領域に分かれていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 リングリングという見立ては間違いで、四角に切れという見立ても間違いで、五つの切断というのも間違いで、全部6、あるいはハニーアイランドを意味していたのだろうか。犯人はハニーアイランドに執着があるのか。一行の中で最もハニーアイランドを好きであろう二人は、既に死んでいるが。

 

 ブルートがハッと気がついた。

「オミナス君とグリン君はどうしている?」

「勝手に遺跡を探索しようとして、ナナさんの死体を見つけて――茫然としていました」

 正直に言う。

「そうか。私が悪かった」

 ブルートが、悲しそうな顔をした。

「何がですか?」

「犯人は外部犯に違いない、そうでなくともイランド君かキサ君だろう、私はずっとそう思い込んでいた。でも違った。そんな馬鹿な私のせいで、イランド君とキサ君を死なせてしまった」

 ブルートの顔には後悔が滲んでいた。

「犯人は――クラーケンだ」

 確信を孕んだ声で、ブルートは告げた。

 

――――――――――――――――

 

「まず、本当に外部犯は存在するのか。私はこの遺跡の中をある程度の時間探索した。オミナス君だって、イランド君だってそうだ。だのに、誰も犯人らしき人物を一度たりとも目撃していない。さっきイランド君を追いかけた時も、誰も見なかった。クラーケン以外はな」

「クラーケンさんに会ったんですか?」

「ああ。ただその時はイランド君を追いかけていた。その後は二人を見失ったんだが……。いずれにせよ、犯人は遺跡を歩き回って何人も殺しておきながら、誰にも見られていない透明人間だ。――外部犯であるならば」

 僕とブルートとクラーケンで話した時を思い出す。ブルートは、犯人がパズルだと断言した。それは、あの残虐な殺人をするような王国民はいないと信じていたからだ。しかし、その信用は裏切られた。

「今まで隠していて悪かった。いや、言う必要がないと思っていたんだが、私とクラーケンは別行動を取っていた時間がある」

 初耳だった。

「私が大きめのパズルを全探索する様子を見て、クラーケンは周りを見に行くと言っていなくなったことがある。私がそのパズルを解きクラーケンと合流するまでには、ある程度の時間があった。クラーケンが事前にこの遺跡の構造を把握していたとしたら、ナナ、ブラン、ノワルを殺害することは不可能ではない。まさかクラーケンが犯人だなんて思いもしなかったんだ。私が悪かった……」

 ブルートの自責の念は相当であるようだった。

 内部犯だとすると、残っているのはブルートとクラーケンとオミナスとグリンと僕。皆に愛される団長ブルート、殺人をするわけがない子供たち、勿論僕を除くと、残るのはクラーケンだけ……。いや、クラーケンだって猟奇殺人に手を染めるような人間ではないはずなのだ。だが、相対評価だとクラーケンになってしまう。

 相対評価というより、条件付き確率と呼ぶべきか。クラーケンが猟奇殺人犯である確率は普通0に近しいが、そこでこの猟奇殺人という条件を加えると、たちまちかなり高くなってしまう。条件付き確率が直感に反する値をとるのはよくある話だが……。そういえば、パズル庁を発つ時、クラーケンは何か考え事をしていた。あれが殺人計画の思案だったとすれば――馬鹿馬鹿しい。考え事なんて誰でもする。ただのこじつけだ。

 ブルートには別の根拠もあるようだった。

「私が、クラーケンが犯人だと確信するに至ったのは、見てしまったからだ。イランド君を追いかけているときに視界の端にうつったクラーケンは――紙切れを持っていた」

「紙?」

「小さい、長方形の紙だ。分かるだろう。()()()()()()()()()()()()

 僕は息を呑んだ。メモ帳から四角く切り取った後、迂闊にもそれを手に持っていたクラーケン……。

「君はオミナス君たちのところに行ってくれ。私はクラーケンを探す。見つけてみせる」

 ブルートの決心は固いようだった。そこで僕とブルートは別れた。もう犯人まで把握しているのだから、ブルートが遅れをとることは無い……と思いたい。

 急いでオミナスたちがいるはずの、ナナが死んでいた場所に向かう。

 オミナスたちは、クラーケンが現れても全く警戒しないだろう。これでオミナスたちが死んでいたら、僕のせいだ。僕だって、外部犯とばかり思い込んでいた。

 僕にだって、信じられない気持ちはある。

 先ほどイランドとキサについて検討した可能性をクラーケンにも当てはめてみる。即ち、クラーケンは魔王の信奉者ではないか。クラーケンは、CaSPに対し否定的だった。CaSP暴走の直接的な原因の一つはクラーケンだ。それ故魔王に傾倒した。あるいは、魔王に傾倒していたが故CaSPに否定的だった……。しかし、王国民の中に、CaSPへの反対の声は少なからずあった。クラーケンと魔王を結びつけるには弱いか。

 ただクラーケンの怪しい点は、ブルートが言っていた点以外にも思いついた。

 『私は皆を探して、この場所に集める。ブルートとニークは、申し訳ないが死体を改めて調べてくれ。二人を殺したのが誰なのかははっきりさせておきたい』

 クラーケンの指示だ。これだって、僕とブルートの位置を明確にした上で、自分は次の殺人――標的はオミナスかグリンかイランドかキサ――をしに行くためだったとも考えられる。またそもそも、あのとき一番冷静だったのはクラーケンだ。自分が殺したから、動揺することも無かったのではないか。

 どうだろう。それはクラーケンが犯人である証拠というより、ただクラーケンの性格によるものではないかと思ってしまう。しばしば暴走する団長ブルート=エヴォルスを、陰ながら支える副団長クラーケン=ブロッサム。連続猟奇殺人犯のイメージはそぐわない。そのイメージが当てはまる人なんて、僕は一人も知らないけれど。

 

 目的地に着いた。そこには変わらずナナの死体があった。しかし、オミナスとグリンの姿はない。

 床に横たわっていたナナの体は壁に寄りかかっており、その手には手帳が握られていた。ナナが生き返ったわけはない。オミナスとグリンがそうしたのだ。手帳を持ち上げる。遺跡探索に行くことになった旨書かれているページ。四角く切り取られているページ。その次のページに、新たな文言が書き加えられていた。

 

 『ナナ、必ず犯人は突き止める。だから安らかに眠って。

 あなたの親友 オミナス=アルカ グリン=クライス』

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