当然の様に立っているイランドに、僕の脳内は混乱で埋め尽くされる。僕は、イランドの死体を見た。イランドは死んでいた。――本当に?
僕の脳内の推理とオミナスの推理が、同時に始まった。
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「まず最初の疑問点は、あなたは何故遺跡を見つけられたのか、ということです。あの遺跡は今日発見したと、ノワルは言っていました。あなたたちが同じ日に遺跡を見つけたのは、偶然では片付けられません。」
僕はイランドの脈を確認しなかった。呼吸もそうだ。連続殺人の被害者であることは一目瞭然だったし、髪飾りのハニアに気を取られていたし、すぐにブルートが入ってきたし、イランドは足を切断されていたし。だが今となると、あれが
「とすると、考えられる可能性は二つです」
まず、自分の膝を丸める。そして、別人の足を体の前に置く。足を事前に準備したのであれば、ブランとノワルの足を利用する必要性はない。人形の足でも、まともに確認されなければ問題ないからだ。最後に、髪飾りを兼ねていたハニアを放つ。ハニアに視線を誘導させることで、自身に注意が向けられにくいようにしていた。イランドの体を調べようとしたら、僕たちを襲っていたのかもしれない。髪飾りはイランドの形見でもあるから、それを解いてしまうのは気が咎める。だから僕たちは、イランドの体を調べない――ここまで計算していたとしたら。
「一つは、あなたはノワルさんたちを尾行していた。もう一つは、あなたは最初からこの遺跡を知っていた。
僕は、その両方だと思っています。あなたとキサさんは、二つで役割分担をしていた。二人以外の、さらなる協力者がいても構いませんが」
イランドは、そうやって自身の死を偽装した。それを終えて立ち上がったところで、オミナスに遭遇した。
「ここで疑問が生じます。なぜノワルさんたちは、あなたたちが潜んでいる遺跡を発見したのか? 言い換えると、あなたはどうやって、ノワルさんたちに自分が潜んでいる遺跡を発見させたのか。
答えは、
では、何故死体に扮する必要があったのか。――イランドの、犯行の一環というのはどうだろう。イランドの死体を見た人は少なからず動揺するか、そうでなくとも警戒を解く。本当に死んでいるだろうか、助けられないだろうかと考えて無防備に駆け寄ってきたりしたら儲け物で、イランドは起き上がって相手を襲う。さらには、髪飾りのハニアは相手を刺す。イランドの体は6を描くと同時に横向きだったから、体の下にある左手は武器を隠し持つことができた。
「さらに、ここであなたに好都合なことが起きた。ノワルたちが、僕やブルートを町から連れてきたことです。きっとあなたは心が躍ったことでしょう。人類存続キャラバンのトップや僕たちを、一網打尽にできると」
死んだふりをして隙を窺う、この手がブランとノワルを殺す際にも用いられたのなら、あの足はブランとノワルのものではないということになるが。あるいは、最初はただ倒れているだけだった。連続殺人を進め事態を皆が把握すると同時に、連続殺人の被害者であると装うため、死体の足を用いて6を描いたとも考えられる。
「あなたの動機は、
今思い返せば、イランドの死体は目が潰れていることを確認できなかった。また、鉛筆を携帯しているという特異な要素があった。ブラン。ノワル。ナナ。クラーケン。皆、死体の側には鉛筆が無かった。それが連続殺人の被害者の共通点だとすれば、イランドの死体のみ側に鉛筆があったのは、実は死体ではなかったからとすれば納得できる。もし死んだふりをしている時に遺跡のパズルに襲われたら、鉛筆を用いて反撃するしかないからだ。
「魔王が関与しているという推測は、決して唐突ではありません。鍵になるのは今回のCaSPの暴走です。CaSPが暴走した直接的な要因は、クラーケンさんとその協力者がCaSPに自分で作った高難度パズルを入力したことでした。結果、地上にも多数の規格外パズルが出現することになった。それらはすぐに討伐され、
僕は死体がハニーアイランドに見立てられているという推測を思い出した。イランドは当然ハニアに執着がある。ハニアに見立てたわけではなくとも、死体を適当に装飾することで、リングリングの見立ての披露といった遊びをして、僕たちに自身の猟奇性を自慢することができる。殺人犯がやりそうなことだ。
「魔王の復活が失敗したことを嘆いたあなたたちは強硬手段に出た。遺跡を利用し、ブランさんやノワルさんを殺す。それか、ブランさんとノワルさんを人質にしてブルートさんたちを脅す。そんな計画だったのでしょうが、実際はブルートさんたちまでもが遺跡にやってきた。鴨がネギを背負ってきたようなものです。魔王信奉者の苦し紛れの策は、期せずして、これ以上ないほどの成果を出すことになりました」
つまるところ――犯人はイランド=ハニーアだ。
「以上が僕の推理の全容です。犯人は、イランドさん、あなたですね」
僕とオミナスの推理は、同時に終わった。同じ結論を以て。
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けれど、イランドの表情には余裕があった。
「オミナス、推理としてはまずまずだね! 私の弟子にならないかい? キサがいるから一番弟子の座は与えられないけどね。ああでも、この提案には二つの問題があるか。
第一に、君の推理は一から十まで誤りだということ。いや、一から六くらいまでかな。うん、全部とは言わないけど、私が犯人であるという結論を含めて色々間違ってるよ。
私は魔王への信仰心なんて微塵も持っていない。あと、私は探偵であって殺し屋ではないんだ。ブランやノワルを殺してくれなんて依頼、されたとして受諾するわけがないだろう?
まあでも確かに、この遺跡を偶然見つけたというのは嘘だ。白状すると、僕はある依頼を受けているんだよ。〈
……僕を守るように、誰かがイランドに依頼した? イランドは僕を尾行して、さらには先回りして遺跡の入り口のノワルに会ったのか?
「CaSPの暴走の裏には魔王の信奉者がいた、これは正しいかもね。私は魔王の信奉者でも何でもないけれど、規格外パズルの大量発生で一番得をするのは魔王だろう。まあここまではどうでも良い」
イランドは真面目な視線をオミナスに向けた。
重要なのはこれだ。第二の問題――
単純な話さ。この遺跡に入った時、ブルートは複数人で探索するよう提案したことを覚えているかい? 遺跡探索の安全のためのそれが、期せずして、互いの不在証明になった。私とキサ。ブルートとクラーケン。ブランとノワル。そして、君とグリンとナナだ。あとは入り口で居眠りしていたのが一人。
でも、単独だった者は犯行が可能とか、そういう話じゃない。別行動を取っていた組があるかもしれないからね。
ではここで、君とブルートの会話を思い出そう。
『クラーケンはどうしているんだ?』
『ナナがいつの間にかどこかに行っちゃったと言ったら、探しに行っちゃいました』」
イランドはブルートとオミナスの声真似をした。
「
第一に、ナナは好奇心から単独行動をするような性格ではない。――ああ、君たちはなんだかんだで有名だから、私はナナの性格を知っているんだ。特にナナは色々とツアーを担当しているしね。そんなナナが自分からいなくなるはずがない。遺跡探索は、殺人云々以前にパズルを警戒しながら行うものだ。君たち三人が――少なくともナナは――真面目に遺跡探索をしていたのなら、単独行動をして、『どこかに行っちゃった』ことなんてあり得ない。血気盛んなグリンに置いていかれたとしたら、『どこかに行っちゃった』とは言わないだろう。では『ナナがいつの間にかどこかに行っちゃった』本当の理由は何なのか? 簡単、
第二に、クラーケンの行動。この遺跡は、どうやら然程広くはない。君たちがクラーケンと会ったのも、入り口からあまり離れてはいないはずだ。クラーケンは、安全のため、君たちを入り口まで送り届けてからナナを探し始めるはず。でも実際はそうしなかった。何故か? ナナと同様だよ。
『ナナがいつの間にかどこかに行っちゃった』という言葉を検討すれば、ずっと前から明らかだったんだよ。
君とグリンだね。犯人は」
イランドが推理を終えた。そして、少し付け加える。
「私が気がついていないとでも思っているのかい? 君が今、後ろ手に武器を持っていることに」
僕はオミナスを見た。生きていたイランドにばかり注目していたが、オミナスは何か隠し持っていた。鉛筆ではない。それはハンマーだった。
直後、事態が動いた。僕は、イランドとオミナスに注意を向けすぎていた。
背後からの一撃が突然僕を襲った。世界が揺れる。僕が少しだけ押し開けていた扉が閉まるが、その向こうからイランドの悲鳴と、「そんな。犯人はクラーケンでは……」という叫び声が聞こえた。オミナスがイランドを襲ったのだ。
そして、僕の目の前にいるのは、血走った目をしたグリンだった。
――オミナスとグリンの共犯。
その可能性を受け入れる前に、僕の意識は闇に閉ざされた。