「ああ、今から説明する推理を私が導いた論理なんて考えるだけ無駄だよ。手がかりを眺めて
イランドはそう前置きをした。
「この事件の本質は二つある。その片方は、〈死体に施されたパズルの見立て〉だ」
「ブラン=アルカとノワル=アルカは〈双子〉。二人は双子だからね。一応言っておくとリングリングの見立ては誤りだ。二人の薬指を切断したのは私とキサだから、結婚指は云々は丸ごと虚構だよ。うん、死体がリングリングに見立てられていると指摘するという、探偵っぽいことをしてみたかっただけだ。死体の薬指を切断するだけなら、返り血はないに等しい。頭部と両手両足を切断して並び替えたのは私たちではない。〈双子〉にするだけにしては装飾が過剰だから、〈四角に切れ〉と〈天体ショー〉も表しているんだろう。
ナナ=ヴェアードは〈四角に切れ〉。2×3の長方形だね。切り傷自体は点対称でもあったから、〈天体ショー〉も表していたのかもしれないね。
クラーケン=ブロッサムは〈ぬりみさき〉。体の上に置かれた石がみさきを表していた。これも、〈天体ショー〉でもあったかもしれない。
ブルート=エヴォルスは〈天体ショー〉。卍型で、中央の頭部が対称の中心だ。
オミナス=アルカは〈ヤジリン〉。自分の手を矢印にして、ループを形成していたね。
まあ、どの死体がどのパズルを表していたのか、細かいことは重要じゃない。一つの死体が複数のパズルを表していても構わない。
以上をまとめると、死体が表していたのは〈双子〉〈四角に切れ〉〈ぬりみさき〉〈天体ショー〉〈ヤジリン〉ということになる。
これらは全て、たった一つのパズルを指し示している。
そう、
まずは〈双子〉。昔の魔王軍との戦いで、
次に〈四角に切れ〉。へやわけのへやは、基本的に長方形だね。だからへやわけを〈へやをわけろ〉と解釈すれば、それは〈四角に切れ〉と同じ意味になるんだ。
そして、1つ飛ばして〈天体ショー〉。へやわけに「各部屋の黒マスは点対称」というルールを加えた変種、
最後に、〈ぬりみさき〉と〈ヤジリン〉だ。パズル名そのままだね。〈へやわけ〉。〈ヤジリン〉。〈ぬりみさき〉。
つまるところ、
では、この事実は何を示唆しているのか? 単純――
この遺跡は、大きな空間と通路によって構成されているね。それはまるでグラフのようでもあるが、頂点に大きさがある。空間。へや。通路は単に連結を意味する。
つまり、
イランドは懐から、小さな長方形の紙を取り出した。
「これはナナの手帳の一部だ。私が切り取った。ナナの死体が見つかった当時を思い出してみようか。私がナナの死体がある
さてこの紙に書かれていたのは、この遺跡の図だった。未完成だったが、私が書き加えて完成させた。うん、部屋の数は少ないのに一つ一つが広いのと、通路が長いのと、君はほぼ見ていないかもしれないがパズルがそこそこいたから手間取ったよ。そういえば、この遺跡にいるパズルは全てへやわけだったね。
まあそれは良い。重要なのはこの遺跡の全体像だ。通路を省略し、部屋だけの位置関係を書くとこうなる」
「へやわけだが、しかしこれは複数解だ。ここで大事なのが次の二つ。
一つ目は、ブランとノワルが死んでいた部屋だ。あの部屋のものは二つ一組になっていた。私が試しに壁に刻んでみた丸は、気がついたら二つになっていた」
僕がリングリングやベン図だと考えた二つの丸は、イランドの実験の産物だったのか。
「つまるところ、
二つ目は、この図において右下に位置する部屋。私は行ってみたけれど、何も無かった。何もね。石塊どころかチリ一つなかった。壁も他の部屋の煉瓦模様と違ってまっさらだった。それは、
これらの情報を記入してみよう」
「さて、もう解くことができるね。このようになる。解なしではないよ」
「そして、殺された一人一人が黒マスに対応しているんだ」
「これが、今回の連続殺人の全貌だよ」
――――――――――――――――
「では、事件の流れを順番に追っていこう。
まず、いわずもがな左上の2in2×2が入り口だ。ここで一回、
僕には心当たりがあった。ブランの死体を見た夢。あれは夢ではなく現実で、仮置きの途中だったのだ。眠るときに感じた遺跡全体の揺れが、仮置きを意味していたのだろう。
「隣接禁と分断禁ですぐに破綻するから、この仮置きは破棄された。そして改めて左上の部屋を正しく埋めることで、ブランとノワルが死亡」
僕は、夢――仮置き中の現実だったわけだが――と現実間のノワルの死体の相違を思い出した。同じ空間で違う場所にあったのは黒マスの位置が変わっていたからで、夢の中でノワルの頭部がガラクタの山の中、死体から離れた位置にあったのは、遺跡全体のへやわけが分断されていたことの表れだったのだろう。全ての死体の中で、死体のパーツが分断されていたのは夢の中のノワルの死体だけだった。現実でのブランとノワルの死体は六つに分けられていたが、四肢は接して長方形を為していたし、胴体は完全に四肢の中心にあるのではなく少し端に寄って足に触れていた。
「次に、右上の部屋でナナが死亡」
「で、問題はここだ。この状態で、もう一度仮置きが行われた。私にはこの時の記憶が無いんだが、君には分かるだろう?」
僕はもう、イランドとキサが死んでいた意味を理解していた。あれは死んだふりではなく、本当に死んでいたのだ。自分が歩いた経路を思い出す。それで、イランドとキサが対応していた黒マスは想像できる。
「中央ですね。中央が白であると、仮置きされたと思います」
オミナスとグリンがナナの死体があるところに意気揚々と向かった時、僕は強い目眩を覚えてしゃがみこんだ。あの時、二度目の仮置きが行われたのだ。
「まあ、仮置きの位置としては妥当だろうね。その一つの仮定で二つの黒マスが決まる」
「で、ここで右下で一人が死んだ。君は見たかい?」
その時イランドは死んでいたから、直接知ることはできなかったのだろう。
「クラーケンさんでした」
「最後に、右上の、ナナさんが死んでいた部屋で僕が殺されかけました……。でもそれで破綻ですね。盤面は三つに分断されます」
『三つ、三つだ。三つに分けて……連続してはいけない……』
僕を殺そうとするブルートの呟きを思い出す。
「だから、中央を白と仮置きする直前に
それが、僕がブルートに殺される寸前に意識が途切れた理由か。人格の切り替わりではなく、世界の巻き戻りだったのだ。
イランドが話を続ける。
「中央が白と仮定して破綻した、つまり中央は黒だと分かるね。だからその場所でブルートが死亡」
「また、次の一手が非自明になるが……」
僕は気がついた。
「再び仮置きが行われたんですよ。僕は、オミナスさんがあなたを襲ったのを見ました。黒と仮定されたことで、あの場所であなたが死んだのでは」
この時の仮置きでは、世界は揺れなかった――違う。
イランドが僕の情報を受けて図を変える。
「これは3連禁と分断禁によって破綻していますね。」
「オミナスとグリンが犯人という推理を折角こじつけたのに、オミナスは大した反応もせずいなくなってしまった。私はそう記憶しているが、君が見たものは違うというわけだ」
「はい。ほぼ同時にグリンさんに襲われたので最後まで見てはいませんが」
仮置きが破棄され、白マスが1つ確定する。
「一つ黒マスが確定するね。状況からして、それがオミナスかな」
僕は肯定した。あの部屋で、オミナスは死んでいた。
「そして右下でクラーケンが死亡」
そうか、二度目の仮置きが消えた時点でクラーケンも生き返っていたのだ。二度目の仮置きの時と全く同じところで死んだが故に、僕は死体を見てもそれに気がつかなかった。
「最後、この部屋でグリンが死亡すれば、このへやわけは遂に解かれたというわけだ」
「以上は、この事件の全体がへやわけに見立てられ、さらには仮置きの破棄と同時に時間が巻き戻っていたという話。
次は――皆は誰に殺されたか、だ」
イランド=ハニーアによる解決編はまだ続く。