「この事件では黒マスが死体と対応している。けれど普通「黒」というのは事件において、犯人を意味するだろう。あいつはシロだ、あいつはクロだ、あいつはグレーだというようにね。この事実と、私が遺跡を歩き回って観察した皆の行動から得た結論は一つ。
この事件で黒マスになった、即ち殺されたのは基本的に全員クロ――
――――――――――――――――
「まず、右上隅の部屋で起きた殺人。ブランがノワルを殺した。ただ、殺したというより、「目に鉛筆を突き刺した」と言った方が正確だね。ノワルは誰も殺していない。でも殺されて黒マスになった。何故か? 私の推測に過ぎないけれど、
しかしその殺人は仮置きの中のこと。仮置きは破棄され、ノワルは生き返った。
さてここで、この遺跡には〈黒〉が二人いたことになる。名前が黒を意味するノワルと、仮置きの中でノワルを殺したブランだ。
そこで起きたのが二人の相互殺人――ただ、これにはナナも参加していた。ナナが次に死んだのはそういうことさ。誰が誰を殺したのかは微妙だが、ナナは誰かを殺し、ブランとノワルは死んだ。よってナナが〈黒〉になった。
次に、クラーケンがナナを殺害。〈黒〉がクラーケンへと変わる。
ここで二度目の仮置きが開始される。ブルートが私、キサ、クラーケンを殺害。後で言うけど、私とキサは部外者だし、死んだ場所だって、本来なら黒マスはないところだった。だから、〈黒〉ではない私たちも殺されたんだろう。クラーケンが死んだ場所は、仮置きの途中とはいえ正解の黒マスの位置とたまたま一致していたね。
そしてブルートは君を殺そうとするが、ここで仮置きが解除。時間が巻き戻って私とキサとクラーケンは復活。でもブルートは時間が巻き戻っても〈黒〉のままだ。だからオミナスが、ブルートを殺害。
三度目の仮置きが行われ、オミナスが私を襲う。正解では無い黒マスだから、また部外者の私が標的になったんだね。しかしその仮置きはすぐに解除。
そして、クラーケンがオミナスを殺害。グリンがクラーケンを殺害。クラーケンは生き返って殺人をしたけれど、すぐに同じ場所で同じように殺されたから君はクラーケンが生き返ったことに気がつかなかった。
最後に、君がグリンを殺害。まあ、これは未遂に終わったけどね」
グリンは、片目と片腕を失いながらも生きていた。
〈黒〉をバトンとした殺人のリレー。ノワル←ブラン⇄ノワル←ナナ←クラーケン←ブルート←オミナス←クラーケン←グリン←ニーク。
仮置きが解除されると〈黒〉は変わらないが時間が巻き戻る都合上、複数回走っている人もいる。また、ブルートは部外者であるイランドとキサを二度目の仮置きの中で殺しており、オミナスも同様に三度目の仮置きの中でイランドを襲っていた。
二度目の仮置きの中のイランドとキサの死体がハニーアイランド――へやわけの関連ではない――に見立てられていたことをその時の記憶が無いらしいイランドは知りようがないだろうが、多分イランド=ハニーアとキサ=へゴンの名前がハニアを基に付けられているからなのだろう。
「では、動機は何か? 皆、冷酷な殺人鬼だったのか? 勿論違う。
君も身をもって体験しただろう。
各殺人の状況はこうだ。
まず、殺す人と殺される人が二人――ブランとノワルとナナが殺し合った時だけは三人かな――で部屋に閉じ込められる。
殺す人は当然鉛筆を用いてパズルを解こうとして、鉛筆をパズルの入り口に当て――結果的には突き刺した。これは殺される人の目だ。よって目が潰された。しかしここで、鉛筆は砕け散ってなくなってしまう。
皆は考えた。鉛筆がない状態で、どうやってパズルを解けば良いのか?
そう、ガラクタの山の中の刃物を使うんだ」
僕も、正しくその思考を辿った。あの時は僕だけが反撃の方法を思いついたと考えたが、実際は皆思いついていたのだ。
「部屋は閉じられているから、殺される人は逃げられないし、誰かが目撃することも、助けに入ることもない。皆仲間だから、呆然とするか、説得を試みるかして、結局殺される」
ブルートに殺されかけた時の僕がまさにそうだった。誰も、仲間が自分を殺そうとするという現実を受け入れることはできない。今は偉そうに語っているイランドも、仮置きの途中で殺された時はそうだったのだろう。
「
ブルートとオミナスの会話を思い出す。
『やあ、オミナス君。クラーケンは見なかったかね?』
『会いましたよ! 結構強いパズルと戦ったって言ってました。あと、ここに戻ってブルートさんと合流しなさいとも』
あの時、クラーケンはそうと知らずにナナを殺した後だったのだ。ナナの死体は皮膚に切れ込みが入っているだけでどこも切断されていなかったから、返り血はほとんどなかっただろう。元気に遺跡探索をしていたオミナスたちがクラーケンが人を殺していたと気付かなかったのも無理はない。ブルートが僕を殺そうとしたときの『君が、皆を殺したんだな』という言葉は、僕ではなく、ブルートが見ていたパズルの幻覚に向けられていたのだ。ブルートは僕と同様の思考を辿り、目の前のパズルが猟奇殺人の犯人だと判断したのだ。その時点でブルートはクラーケンも殺していたが、特殊なパズルが複数体存在することはありうる。
「死体が皆鉛筆を持っていなかったのは、自分が殺人をした時に失ったからだね。予備もその時に失ったか、そうでなくともこの遺跡の強力なパズルを解くのに役立つのが鉛筆ではなく刃物だと分かったのだから最早重要ではなかっただろう」
イランドとキサの死体だけ鉛筆を持っていなかったのは、二人が部外者とやらであり、誰も殺していないのに殺されたからだったのだ。オミナスが、イランドが犯人だと推理していた時に後ろ手にハンマーを持っていたのは、パズルを解くつもりでブルートを殺した時に利用したからだったのだ。ブルートの死体の四肢は卍型にねじ曲げられていたが、それにあのハンマーが使われたのだろう。
「特殊なのは、仮置きの時にのみ行われる殺人だ。本来黒マスでない位置が黒く塗られる時に起きる殺人。これは、当時の〈黒〉が担当した。ブルートが私とキサを殺し、さらには君も殺そうとした。また別の時は、オミナスが私を殺そうとした」
イランドの『犯人はクラーケンでは』という叫びの意味が分かった。あの時点でイランドは、仮置きが行われたことを知らなかった。さらには、ブルートが死んだと分かっていなかった。つまり〈黒〉が、ナナを殺したクラーケンであると思っていたのだ。だから、オミナスを全く警戒していなかった。
狂った殺人鬼なんてどこにもいなかった。皆、仲間を特殊なパズルだと思って殺していただけだった。
「じゃあ、扉を閉めて探索者を閉じ込め、幻覚を見せた上で鉛筆を破壊して殺し合わせ、それらでへやわけを解く様子を形作るというのが、この遺跡の機構だったということですか」
僕はイランドに質問した。古代人が犯人ではないかと考えたことがあったが、遺跡の機構を構築していたという意味では、あながち的外れではなかったのだろうか。
「それは半分正解で、半分間違いだ。勿論殺人をさせたのは遺跡の機構だけれど、重大な問題が残っている。
ではその人物、この事件を裏で動かしていた黒幕――
僕の頭に一つの言葉が蘇る。
『イランドも言ってたわ。あんたが犯人だって』
僕が、自分が皆を殺していたのではないかと思っていた時に、グリンに言われたこと。あれが、この事件の真相だったのか?
「グリンさんは、僕が犯人だとイランドさんが言っていた、と言っていました。でも、僕はその真犯人、黒幕とやらじゃない……だって、5×5のへやわけを仮置きしながら解くなんて、全くやっていないんだから……」
イランドはそれを聞いて、心底おかしそうに笑った。
「私はグリンにこう言った。
真犯人は
グリンはそれを聞いて、
――――――――――――――――
違う。イランドはまた、冗談を言っているだけだ。僕がニーク=レキシカであることなんて、僕が一番よく知っている。自分を別人だと思い込むなんて、多重人格云々より荒唐無稽だ。僕には、ニーク=レキシカとして生きてきた記憶がある。
「ところで、君の認識を聞こうか。CaSPの暴走は知っているだろう? あれは何故起きて、事態はどう収束した?」
イランドの質問の意図はよく分からなかったが、正直に答える。
「規格外パズルのことですか?
まず、クラーケンさんとその協力者が、CaSPに秘密裏に高難度パズルを入力していました。そのせいで、CaSPは規格外パズルを多数出力するようになりました。パズル庁CaSP担当のオミナスさんとグリンさんとナナさんが対処に当たってたんですが、事態は悪化する一方で、ついには地上にも規格外パズルが出現しました。
そのため、CaSPを無理矢理停止し、パズル庁の職員と王国民の有志総出で、規格外パズルを掃討しました」
僕の疲労の原因は、街に潜伏する小さいが凶悪性のパズルをしらみ潰しにする作業をしていたことだ。イランドは楽しそうに新たな質問をした。
「じゃあ、魔王との関連は?」
「魔王、ですか?
イランドは笑うことを抑えられない様子だった。
「そう、君の認識はそれ止まりなんだ! 君は、CaSPの暴走の黒幕が魔王の信奉者であることを知らない! 君は、
イランドが笑っているのは癪だったが、僕の脳内には困惑しかなかった。CaSPの暴走は終わっていない? ぐんたいあり? それはつまり、今この瞬間も、規格外パズルたちと王国が戦っているということじゃないか! ブルートもクラーケンもオミナスもナナもこの遺跡で死んだのに?
僕とイランドの間には、途方もない前提の違いがあった。
「さあ、もう気がつけるだろう。この遺跡で起きた連続殺人。皆の行動は、あまりにも都合が良かった。私とキサと君を除くと七人であり、この遺跡というへやわけの黒マスの個数と一致するというのもそうだ。自分が誰かを殺す場所にも、殺される場所にも都合よく移動するというのもそうだ。大体、仲間が惨殺されているというのに、皆ある程度平常心を保っているというのもそうだ。全部が全部、都合が良すぎるんだ!
それらの理由は単純」
そして、イランドは真実を告げた。
「
自分をニーク=レキシカだと思い込んで、虚構の世界を構築し、偽物のブルートやオミナスたちを登場させ、しかし外部から解かれることによって連続殺人を演出せざるを得なくなった、一体のへやわけなんだ」