ハニア探偵六角形   作:saki@ssssaaakkkiii

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5.3 蟻と蜂

<半日前(始)>

 

 僕――ニーク=レキシカはパズル庁を発った。ヘイヤ平野南部で、パズルを収集してほしいという緊急の依頼があったからだ。用途は研究のようだし、パズル庁としては応じないわけにはいかない。行政のサービスの一環だ。最近CaSPは規格外パズルを度々出力しているから、あまり目を離したくはないのだが。

 ただオミナスとグリンとナナは、原因を突き止めかけているらしい。数日前CaSPに、怪しい人物が忍び込んだ。その人物が、いわば犯人の一人だった。その人が入力したパズルによって作り出された規格外のスネークと、三人は戦ったらしい。その人物が持っていたパズルが、作風からしてクラーケンのものであると三人は考え、今日訪ねに行くようだった。クラーケンの性格をよく知っている僕には分かる――クラーケンは、自動生成の易しいパズルが溢れている現状を憂いて高難度パズルをCaSPに入力する行動に及んだのだろう。もし今CaSPが規格外パズルを出力したら、パズル庁の他の職員の対処に期待するしかない。

 街を出ようとしたとき、視界の端に見知った顔、それに非常に懐かしい人物を捉えて僕は驚愕した。十年前、人類存続キャラバン解体の際に姿を消した、ブランとノワルがいた。側にはブルートもいる。

「おや、ニーク君じゃないか!」

 ブルートが僕に気がついた。

「何をしているんですか?」

「最近、CaSPが規格外のパズルを多数出力しているのは君も知るところだろう。その原因を調べているところだ! 君も何か知らないかね」

 どうやら、オミナスやグリンやナナといった現役のパズル庁職員とは別に、ブルートもCaSPについて調べているようだった。

 ブランが口を開く。

「久しぶりね。私とノワルは、ブルートの手伝いをしているの。ブルートの予感では、これから十年前みたいな大事件に発展するそうよ」

 十年前といえば、二回目の魔王出現だ。規格外パズルに魔王が関連しているかは分からないが、それに匹敵する事態が起きるのだろうか。

「僕は今急いでるので、また後で会いましょう」

「今日にも何かあるかもしれない。気をつけてね」

 ブランの言葉を背に、僕は先を急いだ。二人が街に戻ってきたのは嬉しいが、今は依頼の方が先だ。戻ったら、いくらでも話す時間はあるのだし。

 ヘイヤ平野に入る。生息しているパズルは比較的穏やか――街の側だから当然だ。危険なパズルが現れたら、すぐに討伐依頼が出て、元気な冒険者の餌食になるのだから。

 

 小一時間程歩いたところで異変が起きた。微かに、地面が揺れたのだ。周囲を見まわすが、ヘイヤ平野は平和そのものだ。

 すぐに、再びの振動があった。先程よりも強い。地下深くから、何かが近づいてきていると感じた。

 パズル庁に連絡するべきだと思い、鞄から通信機を取り出した――この判断は失敗だった。

 直後、真下から鉄の塊のような何かが飛び出す。僕は完全に不意をつかれて宙を舞い、地面に叩きつけられた。通信機が手から離れる。

 把握し切れないほどの振動と共に、周囲に大量の同様にものが大量に現れる。すぐに分かった。

 武装した巨大なアリの大群。ぐんたいありが僕を囲んでいると。

 

――――――――――――――――

 

 僕は落ち着いて周りを見る。このぐんたいありが凶悪性とは限らない。地面に皆で飛び出したら、偶然歩いていた人間にぶつかってしまっただけ――そんな希望を抱く。通信機は、アリのうちの一匹に踏み潰されていた。だからあてにならないんだ、通信機は。

 大量のアリの目線が僕に突き刺さる。このまま、どこかに行ってくれ――と僕は願った。パズル庁に報告さえすれば、このぐんたいありを討伐するか否かは決定されるはずだ。

 しかしその希望は潰えた。ぐんたいありは、僕に敵意を剥き出しにして襲いかかった。

 

 今まで見た中で、最も大規模なぐんたいありだった。仮にCaSPが出力したら、文句無しに規格外だ。パズルに長けたものが複数いれば討伐可能か。安全に討伐するなら、人類存続キャラバンのように有志を募って人数を揃えるしかないだろう。

 いずれにせよ、僕一人には荷が重い。けれど絶対に討伐出来ないほどではなかった。ぐんたいありは、よく観察すると十の小隊に分かれていた。解く側からすれば有利だ。そもそも、討伐する必要もない。何とか逃げて、街まで戻る。それには、小隊を一つ二つ解けば十分。

 僕は勝機を見出して――注意を怠っていた。蜂の羽音が聞こえると思った瞬間、僕は、何かに吹き飛ばされた。

 

 倒れたまま、自分を急襲したものの正体を見る。ハニーアイランドだった。それも、異様な。星や数字や矢印がある。未知の変種ルール。僕は、横の全方位、及び地中にいるぐんたいありの位置を把握していた。だからこそ、上空から急降下してきたハニアに気が付くことができなかった。

 何とか立ち上がる。鉛筆があるからまだ戦えるが、一人で解ける気がしない。ここはヘイヤ平野であって遺跡ではないし、街の近くだ。なのに何故、規格外パズル相当が2体もいるのか。それも、明らかに連携を取って現れた。

 唐突に、ハニアの背から人間の声が聞こえてきた。

「あなたも不運ですねえ。無駄な抵抗はやめて、潔く魔王様復活の礎になることをお勧めしますよ」

 魔王? 聞き逃せない単語に動揺した直後、ぐんたいありとハニーアイランドが同時に攻撃を始めた。

 

 無理だった。大きすぎるぐんたいありと、ルールさえ分からないハニーアイランド。一対多にも程がある。これらが魔王信奉者の手駒だとしたら――ブルートの言は正しかった。十年前と同規模か、それ以上の戦いになる。

 意識が飛びそうになり、倒れかかった時。近くの草むらから現れた誰かが、僕を支えた。

「おや」

 ハニアの背から意外そうな声が聞こえた。

 僕は誰かに抱えられた。蜂の髪飾りが見える。その誰かは僕を抱えたまま、草原から、洞窟のような場所に飛び降りた。そのまま洞窟を走り、階段を駆け下り、扉を通って……。

 

「ここまできたら大丈夫だと思います。あなた一人を深追いするほど暇ではないでしょう」

 僕に、口を開く程の気力は残っていなかった。助かった。その安心感で、意識は急速に遠くなる。僕がいるのは壁が煉瓦模様の施設――遺跡だろうか。

「私は探偵です。じゃあ、勝手に決めちゃいますね。依頼は、あなた――〈()()()()()()()()()()()()()()()()〉。一応、対価は払ってもらいますよ」

 

 <半日前(終)>

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