夢が夢であると分かるのは、目が覚めた時の話。今見ているものが現実なのか夢なのか、基本的には分からない。
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僕は目を覚ました。周りを見回すが誰の姿もない。眠っている僕を放置して帰ったわけはない。皆はまだ遺跡の中にいるのだ。
腰掛けていた岩から立ち上がって伸びをしながら、どうするべきか思案する。入り口で待機するというブルートへの言葉を守っても良いが、多少歩き回っても文句は言われないだろう。僕も、遺跡への好奇心を人並みには持ち合わせている。疲れがある程度取れた今、満を持して僕の休暇が始まった。――ということにする。鞄から手帳を取り出して一ページ破き、『僕も探索することにしました。ニーク』という書き置きを残しておいた。これで、入り口に戻ってきた人が僕の不在を心配することはないはずだ。誰かが僕に助けを求めにここにやってくることがあったら、申し訳ないと言うしかないが。
近くにある扉の一つを選び、押し開ける。その奥には細い通路が続いていた。道は曲がりくねっているが、壁は明らかに人工物だった。随分長い。
通路は終わり、扉に突き当たった。少し開け、中の様子を覗く。そこには広い空間があった。パズルの姿は見えない。入り口に再び繋がったわけは――余程特殊な魔法が用いられていなければ――ないから、この遺跡は大きい空間とそれを結ぶ通路で構成されている……と断じるのは早計にしても、大分広い遺跡である事は間違いなさそうだ。
そこまで考えたところで、強烈な違和感を覚えた。扉の隙間からはガラクタの山も見えるのだが、違和感の源はそれだった。
ガラクタが、全て二つ組なのだ。
入り口の空間と同様に、石塊や工具や何かの破片が山になっている。それらが、いずれも同型であるものと隣り合っているように見えた。配置は乱雑なのに、丁寧に二つずつがペアになっていることが違和感の正体だった。のこぎりやさしがねならまだしも、石塊が同型というのはおかしい。もしかすると、ガラクタの山全体が何かのパズルなのだろうか。二つ一組というテーマのパズルは、ナンバーリンク、遠い誓いなどいくらでもある。
扉を開けて、警戒しながらガラクタの山に近づいていく。ガラクタたちはぴくりとも動かない。パズルではないのか。そう思った時、僕の目は捉えた。
ガラクタの中にある、人の頭部――切断されたノワルの首を。その片目は潰れていた。
僕の歩みは止まった。脳が現実を受け入れられず、勝手に解釈を考える。人形ではないか。人の顔を模倣する、特殊なパズルではないか。
すぐに、僕は気がついた。ガラクタの山の向こうに、何か赤黒いものがある。その赤黒い物体はまるで――
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僕は目を覚ました。意識が覚醒した。夢を夢であると理解した。入り口の空間で、眠りに落ちた時と同様に岩に腰掛けていた。姿勢もほとんど変わっていない。
びっしょりと汗をかいている。悪夢にも程があると、心の中で悪態をついた。
そして同時に、あれが夢だと確定させたい衝動に駆られた。全ては僕の過労か何かが引き起こした妄想、そうに違いない。
夢と同様に、『僕も探索することにしました。ニーク』という書き置きを手早く残した。字が汚くなったのは仕方がない。夢と同じことをすると同じもの――ノワルの死体――を見るような気がするが、それはただの強迫観念にすぎない。僕は夢で通った扉へと向かった。恐る恐る開けると、そこには通路が続いている。
夢と全く同じだ。僕は何故、この先が通路であると知っていた?
進みながら、遺跡に入った直後に抱いた微かな既視感を思い出す。僕はこの遺跡かそれに似たものに、来たことがあるのだろうか?
今は、ブランとノワルが死んでいないことを確認する方が先だ。駆け足で通路を進む。通路の突き当たりの扉――これも夢と同じ――を勢い良く開いた。やはりそこには、ガラクタの山があり、それらは二つ一組で――
それだけだった。何度目を凝らしても、そこにノワルの頭部は無かった。
ガラクタの山の向こう、血溜まりと人の胴体、手足があった場所を確認する。そこにも、何も無かった。血の跡さえ無い。たとえ何者かが死体を片付けたとしても、全く痕跡が残らないことはあり得ない。
夢だった。全て夢だった。心の底から安堵が広がる。とりあえず、入り口に戻ろう。夢と同じように書き置きを残そう。そう考えて扉を戻ろうとした時――視界に入った。夢と同様の物が。
胴体と、それを囲む手足。血塗れで、赤黒い。胴体の上にノワルの頭部が乗っていることが、夢との相違だった。
さらに、視界の端にもう一つの死体を捉える。手足と胴体の配置はよく似ている。その上にあるのはブランの頭部。
叫び声が耳をつんざく。それが僕の口から発せられたものだと、遅れて気がついた。