ハニア探偵六角形   作:saki@ssssaaakkkiii

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2.4 四角に切れ

「四角に切り取られた手帳、これはそのまま四角に切れを意味する。……犯人の、狂った論理においては。ナナ君の体に入っている線も、体の六分割であるとすれば、やはり四角に切れに対応する。リングリングの次は、四角に切れ……」

 それを聞きながら、僕は遺跡の壁を眺めていた。互い違いの四角。四角に切れ。

「あるいは、最初から四角に切れだったのかもしれない。ブラン君とノワル君の手足は、切られて長方形になっていた。ブラン君とノワル君の頭を上から見たら黒いというのは、リングリングの黒マスではなく、四角に切れの黒丸だったんじゃないか? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()1()()()()()()()()……。それを囲んでいた手足は、まさに四角に切れの四角を書くことに相当する……」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 イランドとは異なり、ブルートの目はちっとも笑っていなかった。

 仮に三人の死体が四角に切れに見立てられていたとして、それにはどんな意味があるだろう? 四角に切れ――ニーク=レキシカ。

 2×3の長方形になるような切れ込み。チョコのようだ――と考えた時、ある問題を思い出した。

 『2×3のチョコレートを六つに分ける時、何回割る必要があるか?』

 答えは割り方に依らず五回だ。一回割る度に欠片の数が一つ増えるから、一つが六つになるためには五回。ブランとノワルの体も、五箇所が切断されていた。右手、右足、左手、左足、頭。()()()()()――いや、ただの偶然の符合だろう。

「じゃあ……ブラン、ノワル、ナナの片目は潰されていた。これはどう思う? 何か解釈できるかな?」

 イランドの言葉をブルートは真剣に検討していた。イランドに完全にあてられている。あるいは、犯人の思考を推測するという点ではなんら間違っていないのか。犯人が三人の片目を潰したことに、何か重大な意味は隠されているだろうか?

「片目がないと――遠近感が乏しくなるな」

「確かに。三次元から二次元。死体という三次元が、パズルという二次元に見立てられていることを暗示しているのかな?」

 パズルは高次元のものもあるし、生息しているパズルそのものは三次元だ。しかし、犯人の意図を探る際に少数の現実的な例外を持ち出すのは無粋だろう。それでも僕には反論があった。

「見立てに結びつけたいのは分かりますけど、強引だと思います。もっと単純に、目を狙うことは、殺すときに理にかなっているんじゃないですか? 目は急所ですし、その奥には脳があります」

「一石二鳥というだけのことかもね。目を潰して抵抗力を奪う。同時に、パズルに見立てていることを仄めかす」

 その仄めかすというのだって大分怪しい。それが分かった――というよりこじつけられたのは、イランドがリングリングの推理をしたことに起因するのだし。イランドがいなければ、誰も死体の見立てなんて考えなかっただろう。

「目が潰されていることなんて、いくらでも解釈できます。理詰めと膏薬は何処へでも付きますから。新しいことを思いつくたびに一石三鳥、四鳥と増えていくだけでしょう」

 犯人が、目を潰すのに快感を覚えている。かつ、同じ人の目は二度潰したくない。そんな解釈もある。強引という他ないが、連続殺人鬼の思考なんて分からない。

「ニーク君の言う通りだ。犯人の心のうちを推測してもあまり意味がない。では、動機に関してはどうだろう」

「ブランもノワルもナナさんも善人だと思いますけど、恨みの一つや二つ、買っていてもおかしくないでしょう。ナナさんは大衆相手にCaSPの紹介をしていましたから、CaSPへの恨みがナナさんへの恨みに転化した可能性もありますし」

 CaSPは当初から賛否両論だった。自動生成された、難易度の低い、規格内のパズル。それを大量生産するCaSPは、ペンシルパズルへの冒涜だという意見も聞いたことがある。楽しんでいる人の方が多かったはずだが、一部の少数派が恨みを募らせて、ナナを殺害するに至った――否定はできない。出来ないが、暴力的な手段にも程がある。王国にそんなことをする人がいるだろうか。そもそも、既にCaSPは停止している。

「動機は考えてもしょうがないよ。それより検討するべきなのは、犯人はどの段階で遺跡に入ったか、だと思うけど」

 イランドが話題を変える。

「第一の可能性は、犯人が内部犯――つまり、遺跡に入った私たち十人の誰かである可能性だ」

 ブルートは即座に反論した。

「内部犯ではない。オミナス君もグリン君もニーク君も、クラーケンも、私はよく知っている。衝動的に過ちを犯したり、誤って死なせてしまうことはあるかもしれないが、この殺人は明らかにそれとは性質が違う。外部犯――そうでなければ、君とキサのどちらかかまたは両方が犯人ということになるが」

 イランドは肩をすくめた。

「私は犯人じゃないって。キサも、遺跡に入ってからはずっと私と一緒にいる。それに私は内部犯だと断定なんてしていない。あくまで可能性だよ。第二の可能性は、犯人が、最初から遺跡にいた可能性だね。そして第三は、犯人が私たちの後に遺跡に入った可能性」

「三番目はないだろう。入り口にいたニーク君が気がつかなかったわけがない」

 僕が眠っていたことをブルートは知らないのだ。犯人は、僕の真横を通って遺跡に入った可能性がある。しかしそれを言う前に、イランドが別の点を指摘した。

「何も、出入り口が一つだけとは限らない。例えばこんな場合だ。犯人は君たちの後をつけていた。そして君たちと私たちが合流し、遺跡に入っていく。階段の下の扉に入るところまでは見たとしよう。しかし、それ以上追うのは躊躇われる。私たちが入り口の周辺にどのくらいたむろするかは分からないから、犯人が扉を開けた瞬間多人数と鉢合わせる可能性がある」

 僕は、階段の上方で光った目を思い出した。あれは犯人だったのだろうか。

「それを危惧して、別の入り口がないか探す。するとたまたま見つかったから、そこから侵入して殺人を開始した。こうすれば、第三の可能性も筋は通るね。別の入り口が見つかったのは偶然というほかないけれど」

「その場合、犯人が利用した出入り口を見つければ脱出できるのだろうか」

 ブルートがもっともな指摘をした。何も、犯人を探して追い詰める必要はない。パズラーバ王国の治安の向上という点では良いが、無事に脱出することの二の次だ。

「そもそも、何故入り口の扉は開かないのかな。あの扉にかんぬきとかは無かった。遺跡の機構で閉まったか、そうでなければ――犯人が外側から爆破したとかね。ここは地下だし、あの扉は外開きだったから、階段あたりが崩れるだけで、人の力では開かなくなる」

 入り口の空間で眠る時、微かに感じた揺れのような何か。あれは爆破の揺れだったのか?

「話は戻りますけど、二番目の可能性、犯人が最初から遺跡にいたというのはどうでしょう。遺跡を熟知して待ち構えていたのであれば、犯行は大分容易になります」

「それも排除できないね。うん、夢を見るなら、遺跡の中でずっと生きていた古代人が犯人かもしれないね」

 古代人なら、倫理観が欠如していてもおかしくない。どの可能性も、それを決定的に肯定ないし否定する材料は見つからなかった。

 

「どうします? クラーケンさんを待つか、イランドさんとキサさんを連れて探しにいくか……」

 ブルートに相談する。

「とりあえず入り口に戻ろう。クラーケンが戻っているかは確認しておきたい」

 ブルートはイランドの腕をしっかり掴んだ。また逃げることができないように。キサは自分でついてくる。一言も発さないから存在感が薄いだけで、キサも立派な犯人候補には違いなかった。

 

 四人で入り口の空間に戻ると、そこではオミナスとグリンが、暇そうに雑談をしていた。――二人は、まだ事件の存在すら知らないのだ。

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