後藤ひとりアンチ系幼馴染み(自称) 作:売れ残りのピック
──私は後藤ひとりが嫌いだ。
私と後藤ひとりは家が隣のいわゆる幼馴染みというやつで、しかも親同士の付き合いもあったものだから自然と私と後藤ひとりは二人で一緒になることが多くなった。
『ひとりちゃんはかくれんぼ参加しないの?』
『あっ、えっと……』
『……仕方ないなぁ、じゃあ私と一緒に絵でも描こうか』
『えっ、いいの……?』
『いいからいいから。何描く?』
後藤ひとりは自ら誰かと関わろうとすることがなくて、いつも私から後藤ひとりを一人にさせないように関わりに行っていた。
『ひとりちゃん、お菓子交換しようよ』
『うん……!!』
『よし、私からはこのフィッシュ&チップスを差し出そう』
『お菓子じゃない……!?』
遠足や体育。休み時間など……常に二人でいたせいで、先生やクラスメイトたちにコンビのようなものだと思われていた。そのせいで、後藤ひとりへの連絡を私を介してする人たちも現れてきたのだ。
『たかだか一緒に班として行動するだけだから。隠れないで、ほら前に出て』
『あっ、えっ、あっ……』
『ひとり、別に怖くな──って幽体離脱してる!?帰ってきて!!早く帰ってきて!!』
このままじゃ不味いと思って私が取った行動は後藤ひとりを私以外の誰かと関わらせる量を増やして、友人を増やさせるというものだった。
ただ、結果は失敗。たびたび後藤ひとりが人間を辞めてしまい、その対応に私は追われ──気づけば私の後藤ひとり係という役職は確固たるものになってしまっていたのでたる。
その時にはもう私は後藤ひとりに嫌気がさしたというか、嫌いになってきていて──
『私、中学校では後藤ひとりとは関わらないから』
『……えっ?』
『流石にずっと私に頼られてもね……あっ、勉強は教えるから安心してよ』
『えっ……あの冗談、ですよね……?』
『……私は本気だよ、後藤ひとり』
中学校では体育祭などであまりにも可哀想になる時以外は後藤ひとりを完全に避け、私は青春と言うものを取り戻すように他の人と仲良くなっていった。
ギターをやったり、友だちと遊園地で遊んだり、バンドを組んで文化祭でライブしたり──まあ、そんなこんなで青春を楽しむだけ楽しんだ訳である。
しかし、その裏で後藤ひとりの交友関係は何も変わっていないどころか、変なアピールをするせいで悪化する始末。
そのせいで後藤ひとりは高校を誰も自分のことを知らない場所に行こうと、わざわざ高校を片道二時間もかかるところを選んでしまったのである。
確かに私は後藤ひとりが嫌いだ。それでも、彼女を見捨ててしまったところには思うことがある。
「ごめんね、後藤ひとり」
「えっ……?」
知らなかったのだ、そこまで追い詰められていたなんて。分からなかったのだ、こんなに近くにもいながら後藤ひとりの変化に。
でも、今からでもやり直せるかもしれない。今度は絶対に後藤ひとりのことを見捨てたりはしない。
いつになく真剣な私に少し怯えているような後藤ひとりに対して、私は今の思いをハッキリと告げた。
「私が見捨てなければ、後藤ひとりがバンドメンバーになれたなんて幻覚が見える程追い詰められることはなかったのに……」
「……げっ、幻覚じゃないから!!」
「あはははは、うん。私は分かっているから……今度はずっと側にいるから……」
「全く信じて貰えてない……!?」
後藤ひとりがバンドを組むも既にあるバンドに入るのも絶対無理。それは私の確かな頭脳が下した、あまりにも可哀想な答えだった。
「──つまり、公園でギター背負って落ち込んでいた所をちょうどサポートギターを探していた子に見つけられ、演奏に参加して、さらにそのバンドのメンバーになった……ということ?」
「だいたいそんな感じで……」
「なるほど、自分を騙しきるためにそこまで整合性のある幻覚を……」
「まだ信じられてない!?」
幻覚なのに後藤ひとりの活躍っぷりがどこにも無いところや、演奏直前までめちゃくちゃ逃げようとしていたところ。最終的に段ボール箱に入って演奏することになったなど、真実味はあったがそれはそれ。
確かによくできた話だが、違和感がある部分はいくつかあった。
「肝心のバンド名が結束バンドなのはね」
「いや、本当にそういうバンド名で──」
「あと、そんな状況で後藤ひとりが一回も人間を辞めてないのは流石に……」
「私のことなんだと思ってるの……!?」
心外とでも言いたげな後藤ひとりの目に、私はただ、あれ自覚がないんだと思っただけだった。
とにかく、私が後藤ひとりを説得しようとするのだがどうにも様子がおかしい。私を信じさせようと次々と情報を出してくるが全然矛盾点は見つからないし、自分の言葉を一切疑わず堂々と発言している。もしも、嘘をついていたならば後藤ひとりは罪悪感で顔を背けたりする筈なのである。
けれど、そんな様子が一切ない。そうなれば、流石に私にも一つの考えが浮かんでくる。
「……もしかして、本当の話?」
「そうです、本当の話です……!!」
「つまり、後藤ひとりは幻覚を見る程追い詰められてない?」
「えっと、まあ、はい。そうですけど……」
「良かった。じゃあ、ずっと側にいなくていいんだ……」
「……そこ!?」
ほっと胸を撫で下ろす私に後藤ひとりは驚いていたが、実際にずっと側にいるのは厄介どころではないので仕方がない。
通う学校が違うだけで面倒なのに、片道二時間もかけなければいけないとなれば最悪だ。いくら罪滅ぼしのためといえど、嫌なものは嫌なのである。
まあ、その必要はないと分かったので良しとして、話を本流へと戻す。
「えっと、その結束バンドに入ったのは分かるんだけどさ。それでどうしたの?」
「私、ソロだとそこそこは弾けるんですけど、誰かと一緒にやるとなるとそうじゃないみたいで……」
「あー……うん、だいたい分かったよ」
自分もバンドを組んだことがある身だから分かるけれど、バンドの演奏はバンドメンバーと呼吸を合わせることが重要だ。けれど、コミュ症で私以外だと目すら合わせられない後藤ひとりがそんなことが出きる筈もない。
大方、一人で突っ走る演奏をして可哀想なことになったのだろう。ソロだとネットで話題になるぐらいには弾けるのに、現実は難儀なものだなと思ってしまった。
「仕方ないな、ついてきて。その人たち本人じゃないからたいした練習にはならないかもだけど……まあ、誰かと合わせる練習をしておいて損はないでしょ」
「……!!うん!!」
これ程度の頼みならわざわざ断る程のものでもない。私はギターを持つと、後藤ひとりと一緒に防音室へと向かった。
私の幼馴染みは私のことを嫌っている……らしい。
らしい、というのは私からするとあまり実感がないからだ。実際私のお父さんもお母さんも私と
だから、中学校で関わる気はない、と言われた時はその日は他に何も入ってこないほどショックを受けたんだけど──結局学校以外での関わりは一切変わらなかった。
勉強はテスト前に限らずずっと教えてくれてたし、学校でも体育祭などで私が死にかけている時は友だちをほっといてまで、私を助けてくれていた。
じゃあ、本当は私のことは嫌いなんかじゃないんじゃ──と希望を持って、聞き出せば即答で「嫌い」と返ってくる。
なんで……?と何度も疑問に思った。その度に考えたけれど、答えは未だに出ていない。
分かったのは、知里の
「さて、実際に一緒に何曲か弾いた訳だけど」
「うん」
「そこまで悪いって感じじゃあなかったね」
「……あれ?」
「まあ、確かになかなか合わせられてはないけどそれも許容範囲というか──」
くどくどとさらに何かを言っている知里を横目に、私は考える。確かに結束バンドでの演奏はお世辞にも誉められるものじゃあなかった筈だ。
けれど、今知里と何曲か合わせて弾いたけど知里はそこまで悪くはないと言ってくれた。これが示す答えはつまり──
「──私、もしかして急成長してる!?」
「んなわけあるかいっ!!」
「いたっ」
もう大丈夫、私はギターヒーローとしての実力を出しきることができて皆私を誉めてくれる、と思ってたところに容赦ない拳骨が落ちてきた。頭を押さえる私を気遣うこともなく、知里は話を続ける。
「多分、私相手だからある程度合わせられたってだけだよ。私相手でも許容範囲程度ってことは、他の人ならもっと酷い筈」
「えっと、つまり……」
「コミュ力を私ぐらい上げない限り、ソロと同じ実力で弾くのは一生無理じゃないかな」
「あっ、無理……」
「うわっ、気絶した。面倒……」
──幼馴染みの容赦ない一言は気絶したことによって聞かずに済んだのだった。