後藤ひとりアンチ系幼馴染み(自称) 作:売れ残りのピック
きくりさんのお礼を受け取ってから数ヶ月。そこまで長い期間ではない筈だったが、わりといろいろなことがあった。
きくりさんに飲み屋に誘われる度に断ったり、中間テストが近づいたので後藤ひとりへのコーチング時間を増やしたり、勉強と作詞に追い込まれた後藤ひとりがどこかへと逃げ出したり、きくりさんと偶然会ってまた助ける羽目になったり──あれ?なんか、きくりさんとの交友関係続いてない?
ともかく、そんないろいろなことが私の周りだけでもあった訳で、それは後藤ひとりが所属しているバンド結束バンドとやらでも例外ではないらしい。
新たなメンバーを迎えた初ライブ、それに出るためには前はやっていなかったオーディションを受け、合格しなければいけないらしいのだ。
だから、中間テストが終わったこともあり、コーチング時間は元に戻してその分練習に当てていたのだが──
「今日はここまでにしようか」
「……えっ?」
私が手伝っている、後藤ひとりの人に合わせてギターを弾く練習。いつもは少なくとも一時間はするのだが、今日は三曲を演奏して終わらせた。
それに対して、後藤ひとりは何かやらかしてしまったのだろうか、という考えが浮かんでしまったようだ。勝手に一人の世界に入りこもうとしていたので、それを止めるように私は話を続ける。
「正直、私とならもうやらなくて良いぐらい合ってきてるし……明日、オーディションなんでしょ?」
「あっ、はい」
「だったらゆっくり休んだ方がいいよ。というか、それが理由でバンドの練習も早めに終わったんだろうし」
「それはそうなんですけど……」
私の言葉に後藤ひとりは顔を伏せる。いざ本番という明日に不安があるのだろう。いつもの考えすぎだと言いたいところだが、こればかりは後藤ひとりのように緊張してしまうのが普通だ。
だから、不安を持つこともおかしくはないのだが──その不安を残したまま良い演奏ができるかと聞かれれば、それもまた違う訳で。
難しい話だよなぁ、と考えていると珍しく後藤ひとりから話しかけてきた。
「その、知里はなんのためにバンドをやっていたの?」
「……急にどうしたの?」
「あっ、いや、えっと……今、自分がバンドをやっている理由を考えてて、でも、思いつかないから知里のを参考に……ってやっぱりおかしいですよね!自分のことなのに他人のを参考にとかおかしいし!それに──」
「はい、ストップ。急に聞かれたから疑問に思っただけで別に怒ってないから。早く落ち着いて」
「あっ、うん」
昔のことを突然聞かれてしまったせいで、それが態度に出てしまっていたらしい。何も変われていない自分に反省しつつ、言葉を捲し立てる後藤ひとりを落ち着かせて、質問に返答する……これを返答と呼ぶかは微妙なラインなのだろうが。
「まあ、聞いてきた理由をがそれなら、言わないでおこうかな。自分でも言ってたけどそれは他人のものを参考にするようなものじゃないし」
「あっ、そうですよね……」
「それに、後藤ひとりなら答えが出るまで自分で考えて考え抜く方が絶対良い答えが出るからさ」
一度自分の世界に入ったら周りの音が聞こえなくなるほどの集中力、それは後藤ひとりの唯一にも近い長所だ。大抵の場合悪い方向にしか働かなくて私を苦しめたものだが──今回の場合は絶対それが良い方向に働く筈だ。
私のその言葉に、後藤ひとりは納得がいっているようないっていないような、微妙な顔で「はい」とだけ溢した。まあ、分かっているだろうと信じてそこはスルーする。
「ちなみに他に聞きたいことはあったりする?」
「あっ、いえ他には何も……」
「そっか、じゃあ今日は解散しようか。おやすみー」
「はい、おやすみなさい……」
そんな別れの挨拶を済ませると、後藤ひとりはギターを背負って防音室を出ていく。バタンッ、と扉が閉じてしまえば、ここは私一人の空間で静かな場所になってしまう。
それがなんとなく嫌で、この前替え玉を頼まれた時に練習した(途中で冷静になって替え玉は駄目だと説得したが)後藤ひとりが作詞した曲を演奏する。
「……バンドをやっていた理由、誤魔化しちゃったな」
そんな私の小さな独り言は、演奏によってかき消された。
私は本気だった。最初は青春の思い出のために始めたバンドだったけれど、いつの間にか私の中に熱意が生まれていて──それから私は本気でバンドに取り組み始めていたのだ。
毎日、必ず三時間はギターの練習をしていたし、その年の文化祭が終わったあとでもメンバー四人と練習を繰り返していたものである。
オリジナル曲だって作ったりして、高校生になったらどこかのライブハウスでバンドを続けながら、いつか必ずデビューしようと誓っていた──その筈だった。
『……何それ』
『ごめんなさい、親に指定された高校が進学校で、それで親に遊びよりも勉強を優先させるように言われていて……』
『お前には悪いとは思うけどさ、だからって受験勉強を怠るわけにはいかないだろ?』
バンドメンバーのベースとドラムが受験勉強をするために練習に来なくなった。正直に言って、不満は隠せそうにはなかった。
けれど、本来ならばたかだか半年ぐらい別にいいよ、と笑って許してやるべきだったのだ。
『……ならいいよ、もう来なくても』
『知里さん……?』
『勉強が忙しいんでしょ?高校も県を跨ぐぐらい遠いしさ、だったらここで解散した方が互いのためじゃない?』
『おい、そこまで言わなくても──』
『だってさ、所詮は
『……!!』
けれど、当時の私はその一言が許せなかったのだ。私たちの活動を遊びと称されたことに──ではない。
練習するばかりでライブなんて文化祭以外でやったことしかないし、動画サイトに演奏を上げていた訳でもないのだ。そんな活動を遊びと称されてしまうのは、ムカつきはすれど納得はできる。
けれど──それを否定せず、その言葉に従っていた彼女に私は怒ってしまったのだ。
『じゃあね、楽しかったよ。けど、私は本気でやるから』
そんな言葉を最後に、私はその二人を拒絶して会うことすらなくなり、その場に居なかったもう一人のギターも気まずくなったのか、私から離れていった。
それから、私はそれまで以上にギター練習に力を入れるようになる。新しくバンドを組んでも実力不足と言われないように、スカウトされる程の実力を身につけるために。そして、私は間違っていなかったんだと証明するために。
『……こんなに上手だったんだ』
けれど、数ヶ月後の高校の入学式の前日に、私が間違っていてあれは単なる我が儘だったと気づくことになる。
その切っ掛けは──見覚えのあるピンク色のジャージを着てギターを演奏する『