後藤ひとりアンチ系幼馴染み(自称)   作:売れ残りのピック

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基準はあの日のあの演奏

 さて、オーディションに合格したらしい結束バンドのライブ当日。そろそろリハーサルに取りかかってるであろう時間を見計らって、私はライブハウススターリーへとやって来ていた。

 なんだが恐ろしいてるてる坊主をくぐり抜け、後藤ひとりのお母さんから譲って貰ったライブチケットで受付を通りすぎる。そうしてライブハウスの中へと入っていけば、そこには一人見知った顔がいた。

 

「きくりさん……?」

「あれぇ?知里ちゃんだ~!こっちこっち~」

 

 呼ばれてしまったのでとりあえずドリンクだけ先に購入して、きくりさんの元へと向かう。近づいて分かったが、どうやらいつも以上に出来上がっているようで酒の臭いが凄い。

 結局交流続いてるままだなぁと思いつつ、折角出会ったので普通に会話をすることにした。

 

「きくりさんはどのバンドのライブを見に来たの?」

「私~?私はねぇ、ぼっちちゃんのライブを聞きにきたんだぁ……知里ちゃんは?」

「ぼっちちゃん……?まあいっか。私は幼馴染みが出るからその応援って所かな」

「へー、幼馴染みの応援かぁ……くぅ!青春だねぇ……見てて辛いよ……」

 

 私の言葉がどこか奥深い所に刺さったのか、きくりさんは手に持っていたお酒を一気に飲み干す。そのお酒がドリンクのではなく、持ち込みの紙パックの安酒なのが実にきくりさんらしい。

 そんな思考に慣れてはいけないものに慣れている気がするな……、と思っていた時だった。きくりさんの隣にいた金色の髪の女性が口を開く。

 

「……この子、ファンの知り合いか?」

「ん?いやぁ、知里ちゃんは違うかなぁ。私が酔いで苦しんでた時に知里ちゃんに助けてもらって、そこから私たちの仲睦まじい交流が始まったんだよねぇ……」

「マジかよお前……」

 

 その女性は呆れたような表情できくりさんを見る。そして私も似たような表情できくりさんを見た。きくりさんは「なんで知里ちゃんまで!?」って言っていたが、これはきくりさんの方が悪いと思う。

 

「いや、仲睦まじい交流って言われてもお礼のライブを除けば私が何回か酔いに苦しむきくりさんを助けた記憶しかないし……」

「……助けられたの、一度だけじゃないのかよ」

「うっ……いやいや、何回も飲み屋に誘ったりしたよぉ?」

「飲み屋、女子高校生相手に誘う場所じゃないですよ」

「本当にお前……」

「──でっ、でも!知里ちゃんと私は仲良しだもんねぇ~!」

 

 何も言い返せなくなって、どうやら全てを誤魔化そうとしているらしい。きくりさんは無理やり私と肩を組んで、表情が睨むようなものに変わった女性に仲良しさをアピールしている。

 自分が一因を買ったとはいえそんなきくりさんがいたたまれなくなって……なんとか話を変えてあげることにした。

 

「えっと、ちなみに貴女は誰なんでしょうか?きくりさんと知り合いみたいですけど……」

「……はぁ。私はここの店長だ。で、こいつは大学の時の私の後輩」

「店長さんで大学の知り合い……ちなみにきくりさんって大学生の頃からこうでしたか?」

「いや、全然。大人しいやつだったぞ」

「えっ……!?」

「そんな驚きの顔で見られちゃうと私にもくるものがあるよ、知里ちゃん……」

 

 そんなことを言われたって、こんなどうしようもない酔っぱらいが元は大人しい性格だったというのだから驚く他ない。

 飲酒してライブどころかお客にお酒を噴射する。よく道で酔い倒れている。勢いで物を壊してしまうことも少々あるらしい。そんな人が、元は大人しい性格だったと聞いて驚くなというのが無理な話だ。

 詳しい話を聞き出そうとしたが「知里ちゃん……そろそろライブ始まるよ?そろそろ意識をステージに向けよ?ねっ?」と冷静な声できくりさんに止められた。

 これ以上話を深掘りされたくないが故の方便ではあるのだろうが、ライブがそろそろ始まるというのも事実。仕方なく、私はその言葉に従う。

 そこで、ライブハウス内が少し静かになったその時だった。

 

「一番目の結束バンドって知ってる?」

「知らない興味なーい」

「見とくのたるいね」

 

 それはたった一組の客のぼやき。それら別に大きい声という訳でもなくて、もしも私たちが会話を続けていたら少なくとも私は聞こえなかったと思えるぐらいの声量。

 けれど、天候のせいで客が少なく静かなこのライブハウスでは少し大きな声だった。もしかしたら、裏で後藤ひとりも聞いてしまっているかもしれないと疑ってしまう程に。

 嫌なことに、そういう考えほどよく当たってしまうものなのだ。

 

「初めまして!結束バンドです。今日はお足元の悪い中お越しいただき誠にありがとうございます~!」

「あはは喜多ちゃん、ロックバンドなのに礼儀正しすぎ~!」

 

 時間がやって来て、登場した結束バンドには緊張と言うよりも動揺しているのが目に見えて分かる。

 恐らく、先程の声を聞いていたのだろう。声に元気を感じられないし、MCもただただ台本通りに喋っているようにしか聞こえない。

 空気にいたたまれなかったのか、早速演奏が始まったが、それもハッキリ言って良いとは言い難い。周りを見渡せば、大抵の客は聞く耳はあれど完全に意識を手元のスマホに向けていた。

 このままじゃ残念だけど失敗するだろうな──そんなことを思うと同時に、後藤ひとりと目があった。

 

 

 


 

 

 

──知里と目があった。

 

 知里はどう思っているのだろうか。演奏中なのにそんなことを思ってしまう。

 結束バンドなんて私しか知らない筈なのに、スターリーの場所だって遠いのに、天候のだって悪かった筈なのに、わざわざ来てくれて。

 それなのに、私はいつもの演奏なんてできなくて、バンドの演奏もさっきのことがみんなに響いていて、いつもと違って勢いもなくて……知里はこの演奏にどう思っているのだろうか。

 そんな思いもあって知里を見ていたのだが、もしかしたらそんな私の意志が伝わったのかもしれない。私のその疑問に返答するように知里は口を開いた。

 

後藤ひとり、このままじゃ私帰っちゃうぞ?

 

 知里は煽るような、挑発するような、そんな分かりやすく作られた表情でそう言った。音としては出ていない、単なる口パク。けれど、知里は間違いなくそう言っていると私は確信できる。

 だったら、私はどうするか。幼馴染みのそんな挑戦状にどう返すべきか。当然、()()()()()()()()()

 私は知里から目を離して、ただただ自分の演奏に集中し始めた。

 

 

 


 

 

 

 後藤ひとりの変化から全体の流れが変わった。後藤ひとり以外のメンバーも動揺が抜けたのか安定感が増して全体的にまとまってきたし、その明らかに変わった演奏に客たちもスマホからステージへと目を移している。

 

「ちょっといいじゃん……」

「ね……」

 

 最初に興味ないと言いきっていた二人組も掌返し。何故だかそれに店長さんが自慢げに見事などや顔をしていたのが結束バンドが推しバンドなのだろうか。

 

「そういえばさぁ、知里ちゃんの幼馴染みってぼっちちゃん……じゃ分かんないか。ひとりちゃんなの?」

「……えっ、知り合いなの?」

「うん、出会った切っ掛けは知里ちゃんとほぼ同じなんだけど、その後が結構違ってねぇ……このライブのチケットを売るために一緒に路上ライブなんかもしたんだぁ~」

「……あははは」

 

 きくりさんに振り回される後藤ひとりの姿が簡単に想像できて、渇いた笑いしか出せなかった。

 後藤ひとり、人の頼みを断れないとこんな駄目な大人と関わりも持ってしまうのだよ……まあ、その点で言えば私も同じ穴の狢な訳だけど。

 

「その時にねぇ、この子は絶対上がってくるって確信したんだぁ~!今回のライブだって、最初は良くなかったけどちゃーんと持ち直して見せたしさぁ……知里ちゃんは今回のライブどう思った?」

「……普通に良いと思うよ。少ないけどここにいるお客さんは全員満足してるみたいだし……ただ」

「ただ?」

「後藤ひとりの演奏だけに限ったら及第点ギリギリかな」

 

 緊張と動揺に打ち勝って、お客さんを満足させて。あまり人のことを言えるような立場ではないとは言え、初ライブでここまでできるのは素直に凄いと思う。

 ただ、それは結束バンド全体での話。後藤ひとりだけを対象にとれば話は変わってくる。

 

「幼馴染み相手に手厳しいねぇ、知里ちゃん……」

「適正な評価だよ。後藤ひとりなら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……あれ?もしかして、知里ちゃんってひとりちゃんの大ファンだったりするの?」

「まあ……うん。ファンかはともかく、後藤ひとりの演奏は嫌いじゃないよ」

 

 後藤ひとりのことは嫌いだけれども、彼女の演奏は嫌いにはなれない。

 それはどこか牽かれるような上手な演奏だから、というのもあるのだが。それだけじゃなくて、私が間違いに気づけた切っ掛けだからというのもある。

 だから、感謝はすれど未だに聴き返してしまうあの演奏を嫌いになれる筈がない──なんて、思っていたのだが。

 

「あはははは!知里ちゃんって素直じゃない所もあるんだ~!」

「えっ、普通に素直な感想だけど……」

「いや、今のどこが素直な感想なんだよ。お前明らかにぼっちちゃんのファンじゃん」

「店長さんまで!?」

 

 どういう訳か、二人の中では私が素直になれない後藤ひとりのファンということにされてしまい……最後のバンドの演奏が終わるまで、否定しようと説得し続けていたのだが、結局それが覆ることはなかった。

 おのれ、後藤ひとり。

 

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