後藤ひとりアンチ系幼馴染み(自称) 作:売れ残りのピック
初ライブの打ち上げで、私と虹夏ちゃんが店の中に戻ってきた時、ちょうど店長さんとお姉さんが気になる話をしていた。
「うぅ……知里ちゃんも来れば良かったのになぁ……こんなに楽しいのにぃ……」
「一応言っておくが、あの子みたいに遠慮して来ないのが普通で、お前みたいに押しかけて来るのがおかしいからな?」
「えぇ~?先輩もなんだかんだ来ても良いみたいな話ししてたのにぃ?」
「……ぼっちちゃんの過去話とかを聞いてみたかっただけだよ」
どういう訳か、私の幼馴染みの話をしている店長さんとお姉さん。そういえば、ライブ中に知里と目があった時、その隣に店長さんとお姉さんが居た気がする。
どこかで知り合ったのだろうか、と疑問に思ってしまって、気づけば言葉にしてしまっていた。
「あっ、あの店長さんとお姉さんって知里と知り合いなんですか……?」
「ぼっちちゃんだ、おかえり~」
「あっ、はい。ただいまです……」
お姉さんの挨拶に返事しながら、質問の答えを聞くために店長さんの隣に座る。ちょうどの流れで、虹夏ちゃんも私の隣に座った。
「あー、いや私は今日出会ったばかりで少し話した程度だな。知り合いなのはコイツだけだよ」
「うん、知り合いだよぉ……私と知里ちゃんとは数ヶ月前に知り合ってねぇ……そこから仲良くしてるんだぁ……」
「あっ、そうなんですか……」
「うんうん、でもねぇ……ぼっちちゃんと幼馴染みだったって分かった時は驚いたよ……ぼっちちゃん!世界は狭いんだ!」
「あっ、はい……」
お姉さんの勢いに押されつつも、その言葉にどこか納得してしまう。私とお姉さんが出会ったのは偶然なのに、そのお姉さんと知里が知り合いで。意を決して誘った喜多さんが、結束バンドから逃げたギターで。
酔っぱらいの妄言なんて捉え方はできちゃうけれど、私はどこかその言葉は的を射てるんじゃないかと思った。
「へー、後藤さんって幼馴染みが居たのね!私、昔の後藤さんの話を聞いてみたいわ!」
「あっ、いやそんなたいした話なんてないですし……」
「ぼっちの幼馴染み、少し気になる。特に人間性」
「あっ、その、私相手だと遠慮がないですけど、基本的に優しいですね」
いつの間にか、喜多さんとリョウさんも話に入ってきて、ちょっとした質問攻めを受ける流れになってしまう。
そんな質問にいくつか応答していると、それまで無言だった虹夏ちゃんが突然口を開いた。
「……ねぇ、ぼっちちゃん。その幼馴染みって、髪が薄紫色だったお客さん?」
「あっ、はい。そうです」
「ギターをやってたりする?」
「あっ、ギターもやってます」
「今、バンドに入ってたりは?」
「えっ、いや今はバンドには入っていない筈ですけど……どうしたんですか?」
虹夏ちゃんの質問、それは問というよりはどこか確認に近いものがあった。そして、質問の内容もこれまでの私と知里の関係性やエピソードを聞いてくるものとは違う。
それを不思議に思って、虹夏ちゃんの質問の意図を考えてみると──すぐに分かってしまったのだ。虹夏ちゃんの考えが。
「いや、私の友だちが探している相手の特徴と──」
「わっ、私、これまで以上に頑張りますのでどうかクビだけは……」
「ぼっちちゃん!?」
「虹夏、昨日の今日でそれはぼっちが可哀想」
「折角、後藤さんがライブを頑張ってくれたのに……」
「いやいや!今日のMVPを突然追放なんてしないから!ねぇ、ぼっちちゃん!誤解だから早く帰ってきてー!!」
謝罪と命乞いに集中している私が、虹夏ちゃんのその言葉に気づくのは、もう少し後になるのだった。
「ウニだ……」
「ウニだね」
夏休みもあと数日で終わるという頃、私と後藤ひとりは水族館に遊びに来ていた。
お客さんはそこそこ入っているようだがここは水族館。他のお客さんは勿論、店員さんから話しかけられたりはしないし、人々の会話の声量も小さく騒々しくもない。たまに周りが見えてないのかと言いたい程のいちゃつきカップルが来て、その度に私がキレかけるぐらいである。
そんなこともあって、後藤ひとりも水族館を普通に楽しめているようだった。ヒトデやナマコ、ホタテなどの展示の前で止まっては、シンパシーを感じている。
「うん、私ウニになる……!」
「いや、ならないしなれないよ。ウニって高級だし」
「──あっ、烏滸がましくも私なんかが高級食材のウニになろうとしてすみません……」
「この理論が諦める理由になるんだ……」
水槽の中でキャベツを食べている姿がどこか羨ましく写ってしまったのか。後藤ひとりはウニになりたくなったようだったが、ふと思い浮かんだことを言うとすぐに撃沈してしまった。
撃沈し踞っている後藤ひとりをすぐに起こして、水族館の探索を続けていく。小さい魚の群れや、じっとしているウツボ。あと、これまた小さな亀などが飾られている小さい水槽しかなくて──正直、私に退屈の感情が生まれてきていた。
「この辺り地味なやつしかいないね」
「うん、目新しいのはもう見て回ったから……でも、こういう雰囲気の場所は落ち着けるから好き……」
「後藤ひとりはそうかもしれないけどさ……私はまだ派手なのを求めてるんだよね。なんというか、こう……カバの火の輪くぐりとかさ」
「色々と混ざりすぎてる……!?」
流石にそんなものないとは私も分かっているが、実際カワウソとのふれあいコーナーやイルカショーなどめぼしいものは全部見終わった後なのだ。
それらをひとしきり楽しんだのだから、今の地味な場所がつまらなく思えて、何か派手なものを求めてしまうのは仕方ないと思う。
けれど、ないものはない。火の輪くぐりなんてパフォーマンスをやっているところはあってもサーカスぐらいで、カバだってどちらかと言えば水族館よりは動物園の方にいるだろう。
仕方なく現状維持を受け入れて、今のタイミングでいいかと私は後藤ひとりに一つ手土産を手渡した。
「ほいっ、ライブおつかれさん」
「えっ?」
「途中でお土産屋で買ってきたやつだけどね」
「……いいの?」
「そりゃあ今日はこの前の慰労会のつもりできてたし……まっ、家族たちと食べてよ」
お客さんが少なかったとはいえ後藤ひとりという人間が人前でライブをやり遂げたというのは、昔の私からすれば考えられない程の偉業だ。
しかも、緊張から奇行に走って失敗という結果でもなく、ちゃんと成功と言って良い形に収まった。これは紛れもなく後藤ひとりが成長した結果で、幼馴染みとしてその成長を祝わずにはいられなかったという訳だ。このまま成長していけば私が頼られる回数も減るだろうし。
「良いライブだったよ、後藤ひとりも人前なのにソロでの演奏の片鱗が感じ取れた演奏だったし、お客全員で盛り上がれたし」
「あっいや、そんなみんなが頑張っていただけで私なんて──」
「そうだね。あの演奏にソロでの片鱗が感じ取れたのも自分の演奏に集中しきっていたからで、他のメンバーと合わせようとはできてはなかったし」
「──えへ、えへへ……あれ?」
「そもそも、片鱗が感じ取れていただけでソロでの演奏の方が圧倒的に上手いから、人前での演奏でももっと慣れてできるようにならないとね」
「あっ、はい……」
後藤ひとりは褒めるとすぐに調子に乗ってしまうので、褒めるのは程々にして、思ったことをズバズバ言っていく。
正直、あの時は結束バンドのメンバー全員がいつもの調子を出せていなかったようだから、後藤ひとりが自分一人に集中してみんなを引っ張っていく演奏をしたのは一つの正解だとは思う。思うのだが、それをわざわざ言う私ではない。調子に乗らせてたくないし。
けれど──
「これからも頑張りなよ、後藤ひとり。幼馴染みとして応援してるからさ」
──これぐらいなら良いだろうと、たったそれだけの応援の言葉を告げる。
まあ、その張本人は私の指摘に落ち込んでいて聞いていなかったようだが、聞いてなかった方が悪いと、私は二度目は口にしなかった。