超昂大戦SS 絶望世界の超昂戦士 〜護りたいもう一つの未来〜 作:環 藍河
公園にたどり着いたルビーとサファイアは、ガーネットとラズリが追ってこないことを確かめてから、変身を解除する。
「公園…壊されてる…。」
「…錆が酷い。最近の戦闘ではないな…。」
砕かれた遊具、ひしゃげたベンチ。
屋台は燃え、植木は銃弾でへし折られ…。
こちらの世界の苦境は、一目瞭然だった。
少なくとも戦闘の爪痕を消すどころではないほど、人類が追い詰められているのか…。
1本だけ残る街灯が、かえって寂しい。
「情報を集めよう。こちらの世界でのアルダーク…それに国衛軍とやらが気になる。」
「うん…私は街と学園から当たってみる。ヒビキちゃんは想破と閃忍さんを!」
「通信機も使えるが、3時間後、またここで落ち合おう。無理はするなよ。」
アカリは閂学園へ、ヒビキは月想館学園へ。
…
……
「学園…もぬけの殻だったよ。生徒だけじゃなく、先生たちも一人もいなかった。」
「月想館もだ。潜入調査はやり放題だったが…」
合流し、情報を擦り合わせるアカリとヒビキ。
「加茂野ヒサキ…学籍上は先月、月想館を自主退学している。」
「ヒビキちゃんみたいに閂学園に転入してきてはいないんだね…。
こっちの名簿で見つかったのは、谷崎アケミちゃん。やっぱり先月からずっと欠席してる。」
「月想館は1か月前からセンニン科が終日特別活動、その後休校だ…。おそらく弓張衆はこのときからずっと総動員、学徒出陣だ。」
「ゆみはり…?」
「我々の世界での『上弦衆』は、こちらではそう名乗っているようだ。」
「弓張衆…。閃忍さんたちがいるのに、あんなに街を壊されるなんて…。」
アカリは思い出していた。駆け出しの頃、自分が苦戦した滅忍を容易く打倒した、ゴウカやシズカ…想破七閃の飛び抜けた強さを。
「おかしいよ…超昂戦士も閃忍さんも、アルダークに勝てないなんて…!」
さっき倒した戦闘力のコマンダーたちに圧倒されるような閃忍ではないはず。弓張衆には七閃がいないのか…あるいは、彼女たちが戦えない理由が…?
「その部分は引き続き調べよう。…アカリ、街はどうだった?」
「商店街は、お店の半分以上が壊されて、残りは全部シャッターが降ろされてた…。どの店も、2階の灯りまで全部消えていたよ。」
「商店街もか…。住宅街も人の気配が無かった。せめて避難を…疎開していることを祈ろう。」
こちらの閂市は、文教地区も商業地区も住居区も、機能を停止していた。おそらく明日も、早朝から市街地が戦場になるだろう。
「図書室に残っていた新聞…先月末から、ほとんどアルダークと国衛軍の戦闘のニュースばっかりだったよ。」
「ああ、私も読んだ…だが、情報統制の痕跡がおびただしい。おそらく国衛軍がメディア規制を敷き、苦戦や敗戦を隠蔽している。」
「ヒビキちゃん…先週の『国衛軍は新戦力を近日投入』って記事、見た?」
「ああ…おそらくアイさんやメイさんのようなビートブレイカーだろう。メディアも『これで戦局が好転する』と好意的に書いている。
だが…記事の日付からすれば、とっくに実戦配備され、アルダークを撃破していなけれぱおかしい。」
「アイさんたちの同位存在がいるなら…少なくとも、夕方戦ったコマンダーやフーマンくらいの強さなら、軽く倒せるはずなのに…。」
起ち上げ直後のダイビートは、様々な集団に協力し、手を組んだ。
上弦衆の閃忍には龍の力を。公募した超昂戦士と国防軍と久世には、ADDDとDチャージを。
だが…
「そもそも、ダイビートのメディア露出が全く無い。新聞やニュースアーカイブはおろか、配信動画も根こそぎ消去されている。
どうやら…ダイビートの存在を市民に知られないよう、工作している勢力が存在する。」
「それって…」
ぶるるるるるるっ。
ビートポータルとペアリングした2人の通信機に発信された警報。
「ヒビキちゃん!」
「ああ、基地に侵入者だ!」
「『フラックスプロージョン・ビートチェンジ!』」
2人は変身し、廃墟のはずの基地へ向かう。
ビートポータルは隠し通路で秘匿され、基地の地下で手つかずだった。即ち、まだ敵にその存在を暴かれてはいない。
アルダークのコマンダーも、超昂戦士のエナジー源の秘密を暴くため侵攻してきた。
そして、ビートブレイカーが国衛軍に配備されない理由…おそらくはダイビートがまだ国衛軍に必要な情報を与えていない。
軍はADDDの存在を知りながら、あるいは既に入手したにも関わらず、使いこなせないのだろう。
そして。
(ガーネットは、国衛軍を憎んでいた…!)
ルビーたちのADDDを『国衛軍が盗んだ』と言った、ガーネットとラズリ。
アイ、メイ、ユイ。親子鷹・ビートブレイカーを擁する国防陸軍特能戦技部隊は、ルビーたちと何度も共闘した、信頼できる仲間たち。
だが…
【こちらの仲間が向こうでも友好的とは限らない。敵対的ですらあり得るの!】
転送直前にさやかさんが告げた警告が、的中してしまった。
こちらの国衛軍は…ダイビートの敵と見て間違いない。
ならば。
強力な戦士を召喚できるビートポータルは、ダイビートの切り札。そしてアルダークが狙い、国衛軍も喉から手が出るほど欲している設備…!
(居たぞっ! あれは…)
(国衛軍の輸送車両と…兵士!)
防弾特殊鋼製の幌に刻まれたJSDFのロゴは、スペルこそこちらの国防軍と一致するものの、どこか禍々しい。
「おらあっ、とっとと降りろおっ!」
どがっ。
「うぐっ…、…ううっ…。」
(【〘くっくっくっ…〙】)
国衛軍の兵士が、銃床で捕虜を殴打し、降車を急かす。周りを固める兵士たちも、それを下卑た笑いで冷やかす。
末端まで教育の行き届いた国防軍では絶対に許されない、陵虐行為が常態化しているのか…。
降りてきたのは…カーキ色のトレーナーにホットパンツ、ずたぼろの白衣で身を包み、いかつい屈辱的な手錠で自由を奪われた女子。
(…さやかさんっ!
…いや、沙菜香さん!)
顔と首筋に複数のあざ、掛けた眼鏡のひびも痛々しく、息も絶え絶え…明らかに衰弱していた。
「あんた達…よくも、私たちの基地を…!」
「俺達じゃないからな。昨日アルダークの奴らが襲撃したんだとよお。案外とっくにお前たちの秘密兵器、暴き終わって決戦準備中かもなあ。」
「ふん…!」
「だあー、かあー、らあ〜! とっととゲロってオレら国衛軍に超昂戦士を使わせればあ! 万事ハッピー、お前もオレらもウィンウィンだって! ま〜だわかんねえのお、科学者さんよお!」
「あんた達みたいなゲスしかいない国衛軍に、ADDDは勿体ないのよ。女の子いじめてイキがってるガキんちょは、せいぜい水鉄砲でもイジってれば十分よっ!」
「くはーーーっ!!」
再び肩提げ銃をハンマーよろしく振りかざすゲス兵士に、沙菜香が歯を食いしばる。
どごっ! ぐちゃっ。
「ぶひゃっ!」
…来るはずの衝撃は無く、代わりに兵士が潰れ、石畳の割れ目に無様に横たわる。
「なっ…超昂戦士いっ!?」
「貴様らの如き下衆に、地球を護る資格なし!」
「この人は…返してもらいます!」
…
……
「ひっ…ひいいっっ! 覚えてろっ畜生!」
ルビーとサファイアに鎮圧され、三下雑魚のテンプレート捨て台詞を吐き、国衛軍が撤退していく。
「沙菜香さんですね。私はエスカ・サファイア。」
「平行世界から、救援に来ました! エスカ・ルビーです!」
「あ…ああっ…!」
国衛軍の捕虜となっていた沙菜香博士。
だが、奪還叶った、その第一声は。
「お…お願いっ。司令さんを、助けてっ!
司令さんが…死んじゃうっ…!!」
「『なっ…?!』」
筆者の環藍河です。連日のご来訪・ご愛読、誠にありがとうございます。
今日お届けの第2章は、ルビーたちが飛び込んだ平行世界の輪郭をチラ見せする部分…説明回となります。クリスマスイブにも関わらず、味気ない回で申し訳ありません。
この後は毎日1章ずつ、12月30日夜に完結編の第8章を投稿して、2022年を締めくくる予定です。ではまた明晩。