超昂大戦SS 絶望世界の超昂戦士 〜護りたいもう一つの未来〜 作:環 藍河
「…名を問おう。」
「…エスカ・サファイア。
ラズリ、これは…お前の望む戦いなのか?」
「…御大を、救う。ガーネットを、護る。
我は…想破を追われ、浮かぶ瀬も無く沈むばかりだった。
そんな我を掬い上げ、再び立ち上がる力と、この命の意味をくれた2人の為に戦えるのだ…。我の信じる大義は、ここに在り!」
「そうか…。ならば、私も全力で応えよう。
青嵐の超昂戦士、エスカ・サファイア!
推して参る!」
「蒼玉の超昂戦士、エスカ・ラズリ!
この命、只では散らさぬ!」
…
……
「あ…ああっ…。
ダイビート同士で…超昂戦士同士で戦うなんて…!
何で…、何でこんな…!」
沙菜香は自己防衛システムで戦いを止めるべきか逡巡するも…できなかった。
ガーネットとラズリの、決死の眼差し。
ルビーとサファイアの、覚悟の眼差し。
4人が自分の全てを賭けて、戦っている。
その重さが、沙菜香の指を端末から離し…。
紅と茜、青と蒼。2つずつの輝石が響き合う。
…
……
「やああああっっ!!」「はあっ!」
手数だけなら攻勢にも関わらず、ガーネットの拳は空を切り、届きかけた一撃すらルビーのガードに阻まれる。これが我流の限界なのか…?
「はあっ…はあっ…」
「そんな戦い方じゃ、エナジーがいくらあっても足りないよ! 確実に当たる一撃にだけ、エナジーを込めるの!」
「黙れっ! 敵のくせに教官気取りかあっ!」
激昂するガーネットが、右手首のパルシオンにエナジーを注ぐ。
「もう一度、爆ぜろっ! スーパーノヴァ・エスカレーション!」
どおおおおおっ…!
その技の名は、生命を全うした星の最期の輝き。
ガーネットの全てを…叶わぬ祈りを込めた拳。
「ええいっ!」
がっ、ぐぐぐっ…。
踏ん張る右脚が、強化された基地の石畳を沈めるほどの凄まじい威力。
それでも、ルビーはその全てを受け止め、なお微動だにしない。
(…そんなっ…! 会心の一撃だったのに…!)
バックステップで間合いを取り直すも、狼狽するガーネット。
「立ち止まらない! 効かなければ、効くまで撃ち込むんだよ!」
「っ…!! うるさいっ!!」
…
……
「眠れっ、我が氷の棺で!
コキュートス・エスカレーション!」
「喝っ!!」
ぱりーーーん!!
サファイアが強靭な気を放った刹那、ラズリの凍気は一瞬にして、薄氷が砕けるように雲散霧消する。
(なっ…!)
「昨日、右脚に受けて理解した。この技は絶対零度の凍気そのものを放つに非ず、放った凍気を絶対零度と錯覚させる幻惑だと。」
「! …ううっ…!」
「幻惑ならば、その喝破は忍びの十八番。」
とりわけ、断絶の力を備えるサファイアには子供だましも同然だった。
「ラズリ、とくと見よ。そして、その身で覚えろ。本物の凍気を!」
ぴきいいい…ん…!
サファイアが印を結ぶと、手甲のパルシオンが蒼白の輝きを拡げる。
「うあ…ああっ…!」
呑み込んだ吐息から、肺まで、心臓まで凍らされてしまいそうな、桁違いの凍気。
ラズリはその実力差を改めて思い知らされ、色を失う。
「ブリザード・エスカレーション!」
「あああああぁーーーーーっっ!!」
避けることさえ思いつかない。
否、どこに逃れようと間に合わず、回避行動そのものが無為。
強者の練り上げた凍気が、ここまでとは…!
遠のく意識の中で、ラズリは自らの尽きた命運を悟った。
(御大…、ガーネット…。無念だ…。)
「はあっ!」
しゅっ…すたっ。
サファイアは地を蹴り、極点の吹雪に呑まれて宙を泳ぐラズリを受け止め、大地から庇う。
「お前の技も、必ずここまで強くなる。もっと修練に励め。」
(エ…エスカ・サファイア…?!)
…
……
「ラズリっ、ラズリいいいっ!」
必勝を共に誓った相棒が力尽きる姿に、我を失うガーネット。
「左右から、頭っ! 防いでっ!!」
(なっ…!?)
「ストライクーっ、エスカレーション!!」
「がっ! ぐふっ…あああっ!!」
もはや条件反射のように、ルビーの叫ぶ指示のまま繰り出しただけのディフェンス。
そのおかげで、急所への被弾こそ避けたものの…
(両腕が…持って行かれそう…っ!!)
身をもってルビーとの実力差を知る。
どさっ。
「かはあ…っ、はあっ、〜〜っ…。」
両腕の感覚はもう失われ、体躯を支える脚も既に限界。
ガーネットは震える両膝を大地に落とす。
「…ガーネット、あなたの限界はこんなもの?」
「!!!」
ルビーの容赦ない一言が、ガーネットの折れかけた心を甦らせる。
「…言ったよね。もう何も奪わせないって。
あなたの護りたいものは…もっと大きくて、重いんでしょう?」
…ぐぐっ。
「知ったような口を…きくな…。」
心臓は、ADDDは、もう全力以上に回り続けているのに。
それでも届かない。絶対に勝てない。
(やめろ。)(ムダだ。)
(そのまま倒れて、もう休め。)
…うるさい。
(ただのやせ我慢だろ。)
(何もできないだろ?)
…黙れ。
(諦めろ。)(もういいだろう?)
(敵わないのに、どうして、戦う…?)
…!
「…わたし、しか…!」
「ガーネット…」
満身創痍を振り切り、立ち上がる烈火の戦士。
「私しか、いないんだああーーーっ!!
ダイビートを…、ラズリを、ユーミさんを、沙菜香さんを…。
司令を、護れるのは!
もう、世界中で、私だけなんだああーーーっ!!」
だだだだだだっ…
「あああああーーーっ!!」
咆哮とともに放つ、自分の全て。
「負けられないっ! 負けられないんだっ!!
スーパーノヴァ・エスカレーション!」
もう限界など、とっくに突破して。
それでも、その先を拓かないと、また奪われるから。
ずしい…んっ。
「ぐっ…!?」
受け止めるルビーは、1撃目より強く鋭くなったガーネットの拳撃に気付く。
それでも。
「まだまだあああーーっ!!」「ああっ!」
百戦錬磨のガードで、ガーネットを拳ごと弾き返す。
「ううっ…はああっ、かはっ…」
何度破られたって…自分には、これしか無い。
もう一度、いや、何度だって!
「があああああっっ!!」
超昂戦士は、自身の最高の技を繰り返す。
「スーパーノヴァ・エスカレーション!
スーパーノヴァ・エスカレーション!」
……
…
(…っ、〜〜っ…)
かろうじて両足で直立し、ルビーに正対。
エスカ・ガーネットは、全てのスタミナを振り絞り、ありったけの必殺技を放ち…そして。
焼き切れた。
拳は上がらず、脚は岩と化し、もうガードすらできない。
その場の誰もが、ガーネットの戦闘不能を悟っていた。
(…立つなっ…、もう、立つなあっ…!!)
ガーネットが全てを振り絞り、命の限り撃ち込んだ超新星爆発に、ルビーは吹き飛び、瓦礫にうずもれ、土煙に呑まれる。
サファイア、ラズリ、ガーネット、沙菜香…みんな固唾を呑み、その奥を凝視した。
「フラックス、プロージョン…」
だが、ガーネットの願いは虚しく。
「ビート・エヴォリューション!」
プリズムの弾ける光を散りばめた、真紅の輝きが霧を晴らす。
(なっ…!)
「凄いよ、エスカ・ガーネット。新人超昂戦士とは思えない…。あなたは、たった1人で必殺技を…こんな威力にまで磨き上げたんだ…。」
エスカルビー・アステライズフォーム。
そのまばゆい勇姿は…。
(は…ははっ…ケタ違いだ…。私なんかとは…)
ガーネットの闘志を挫く。
(…勝て…ないよ、こんなの…!)
うなだれ、絶望を噛み締めるガーネット。
(私…とんでもないケンカを…売っちゃったんだ…!)
「…やめろ…。」
「ラズリ…!」
「やめて、くれ…っ…。
ガーネットを、潰さないでくれ…っ!」
まだ意識もおぼろげなエスカ・ラズリが、溢れる涙も拭わず懇願する。
「そいつは…私の、私たちダイビートの、最後の希望なんだ…。
奪うな…。奪わないでくれえええっっ!!」
(…!!)
その声が届いたのか。
絶望を払うように首を二度振り、喉を振り絞り、上がらぬ両腕を、せめて指だけでも。
無我夢中のガーネットは…微かに吠える。
(…まも、るんだ…。たすけ、るんだ…。
わたし、が…!)
「ガーネットおおおっっ!!」
ざっ、ざっ、ざっ、ざっ…
(あっ…、ああっ…!)
ルビーはガーネットに、無言で歩み寄る。
(ダメだ…。もう、もう…!)
ざっ。
遂に、胸どうしが触れ合う間合いを許し。
(ああっ…。司令…司令いっ…!)
最期を…永遠の別れを、覚悟した瞬間。
ぎゅうっ…。
戦士は戦士を讃え、抱擁する。
「私も…もう何一つ、あなたから奪わせないよ。
あなたが全力で護り抜いたもの、全部。」
(…えっ…?)
「ここからだよ、ガーネット。
奪われたもの、私と一緒に取り返そう。全部。」
「な…何で…? 私、あなたに拳を…」
「言ったでしょう? 私とサファイアは、ダイビートを救援するために来た、超昂戦士だって。それとも私は、まだガーネットに認められるには足りないかな?」
「エスカ・ルビー…!」
「さっきは、あなたを試すようなひどいことを言っちゃったね…ごめんなさい。
でも…わかった。エスカ・ガーネット、あなたは凄いよ。最高の…最強の超昂戦士だよ…!」
だが、ガーネットは肩を震わせ、ルビーの最高の賛辞を拒絶する。
「私…私は…。ダイビートで、何一つ、護れなかった…。閂市も、司令も、沙菜香さんも、基地も護れなかった…。
そのくせ強がって、弱いくせに出しゃばって…。
最初から、何もしない方が、まだマシの…。
最低の…、最弱で、最悪の…、
無様で、惨めな戦士なのに…!」
「違うよ…っ!」
抱きしめる両腕に力を込め、ルビーは戦士の卑屈を否定する。
「私の憧れるレジェンド戦士さんが教えてくれたんだ。『あなたが自分の護りたい人を護って、あなたを護りたい人があなたを護る。ヒーローの戦いなんて、それでいいんだよ。』って。
弱くても、ヒーローにふさわしくなくてもいいの。
カッコ悪くても、身の程知らずでもいいの…!」
その腕から、両胸から、吐息から。
ガーネットの全てを受容し、肯定するルビーの熱が、鼓動となって伝わる。
「だから…お願い。力が足りないからって、自分が弱いからって…そんな理由で、誰かを助けたい気持ちを、我慢なんかしないで…!
だって私、今のぼろぼろの…それでも立ち向かうガーネットを見て、全力であなたのこと、応援したいって思うもん…!」
ハグを解き、ルビーは勇者の両肩を力強く掴み。
「ガーネットは、何度負けても、戦い続けた。奪われても、追い詰められても、諦めなかった。
そして…私たちが来るまで持ちこたえた。
こんな強い超昂戦士、見たことないよ…!」
(ル…ビー…!!)
こんな凄い超昂戦士が。
こんな情けない、無鉄砲なだけの私を。
認めているなんて…!
「ガーネット…これからもあなたは、自分の思う人を護り続けて。
もうあなたは、一人じゃないから…!」
(!!!)
一人じゃない。
たったそれだけの一言。
「う…、あぐうっ、ぐすっ…。」
それが、やっと。やっと。
「〜〜〜〜っっ…!」
孤立無援のガーネットに届いた、最高の救援。
「うわあああああーーーーーっ!!
うぐっ…、ひぐっ、ひぐっ…
うっ、ううっ…、〜〜〜っっ、…!」
迷子の子どもが、やっと母の胸に帰ったように。
「うわあああああーーーーーんっ!」
暁の朝陽に包まれ…
エスカ・ガーネットは、心の限り泣いた。
筆者の環藍河です。年の瀬迫るご多用中、お読みいただきありがとうございます。
この後はエピローグを2章に分け、予告通り明日とあさってお届けの予定です。