この作品は、エルトリア様の主催するシェアードワールド「聖華世界」(ヴァース・ワールド)を使用しています。
俺はマハジャンの邸宅にはあまりいないようにしていた。
「当主が亡くなって相続時に見つかった隠し子。なお、母親の実家がこちらより格上の貴族であるため、闇に葬ることもできず迎え入れるしかなかった」
そんな厄ネタが家でどんな扱いを受けるかは推して知るべしである。
少なくとも養父になった現当主のパカナカ・マハジャンとその妻と息子娘からは家族どころかまともに人間らしい扱いをされたことがない。
使用人たちも、あからさまに傷つけることこそないものの、俺に関してはとことん無視するか観葉植物並みの態度をとることが日常だった。
家に居場所のない俺は、グレる……こともできなかった。
マハジャン家にお墨付きをもらった私兵部隊の白骨死団は、権力をいいことに寄る辺のない人間をいたぶるのを日々の業務にしているといっていい。
そのためチンピラとつるもうにも、マハジャン家の関係者である俺の姿を見ただけで我先にと逃げ出す有様だった。
そこで俺が入り浸ったのは、白骨死団の屯所だった。
地元の人間を採用すれば取り締まりに手心を加えたり機密を漏らしかねないという理由で、白骨死団の人員は基本的に都市の外から集められてきていた。
さらに暴力的な弾圧と陰湿な監視がメイン業務であることから、荒事が得意だったり他人を痛めつける心理的障壁が低い人間であれば経歴もろくに洗わず採用していたので、治安部隊たるべき白骨死団が帝国全土のならず者の見本市になっていたのだ。
ゆえに、日陰者とはいえマハジャン家の人間である俺に、利益目当てや好奇心で取り入る人間を探すのには困らなかった。
***
屯所に入り浸る俺が主にやっていたのは武術だった。
邸宅から近い屯所に、軍の特務部隊を不名誉除隊させられたという触れ込みのシンハーという部隊長がいた。
俺はこのシンハーに妙に気に入られ、良からぬ遊びに付き合っておごる代わりに、特務部隊仕込みの戦闘術とやらを教えてもらっていたのだ。
アルカディア帝国は軍事国家の側面が強く、寄る辺ない人間にとっては軍隊は栄達の道の一つと一般に思われている。
しかし一兵卒として入隊したところで出世は頭打ち、士官学校に入るにはしかるべき教育と学費を賄える太い実家か、学費免除の特待生になれるようなとんでもない優秀な才能がいる。
そんなもの薬にしたくても持ち合わせていない俺は、特殊部隊を漠然と目指し、そのために鍛えることで、憂鬱な日々から目をそらしていたのだ。