俺が贔屓にしている店は「居酒屋マヘンドラ」という。
6人入れば満席になる店に、今日は珍しく先客がいた。
「……白骨死団が暴れもせずに来ると思ったら、バカ様が一緒か」
吐き捨てた中年の男と
「おいおい、仮にも代官様の一族だろ?そんな口聞いちゃっていいのかい」
中年を窘める、髪の毛を右側から茶・青・赤・緑・黄に染め分けた冒険者風の若い男だった。
(若、舐められたままじゃいい加減沽券に関わります。そろそろ締めやせんと)
(待て。よそ者の前で諍いは拙い。俺が話す)
たちまち不機嫌になるシンハー隊長を手で制すると、俺は中年男に話しかけた。
「そう邪慳にしてくれるな。見れば旅の方と盛り上がっているようだが?ミリンダ・ナーガ・リュージュナ殿」
この中年男……名前は長ったらしいから以下ミリンダと呼ばせてもらうが、ミリンダはアナーガーミンの街ができた時から領主に仕えてきた譜代の騎士の一族だ。
まあ、譜代の騎士といっても単に歴史が古いだけで、権威があるわけでもない。
特にマハジャン家が成り上がって代官についてからのここ100年ほどは、利権を貪り民を虐げるマハジャン家に対抗する正義派の騎士として住民の支持こそ高いものの政治的には没落の一途。
最初は同調していた他の騎士たちも利益を餌に誑し込まれて離れていき、今では従機を維持するのがやっとにまで落ちぶれている。
当然蛇蝎のように我がマハジャン家を嫌い抜いており、特に悪行を振るっていない、むしろ事実だけ見れば抑える側の俺にも全く容赦はなく、顔を合わせるたびに暴言を吐いてくるのだ。
「ふん。白骨死団を飲む打つ買うで手懐けて何をする気か知らんが、家中にいながら家族の横暴をよう止めん男がデカい面をするのが気に食わんだけだわ」
親分格を舐められて怒りを表す白骨死団を何とかなだめていると、
「まあ、その辺にされよ、ミリンダ殿!養子と言い条その実引き取られた隠し子では、主家を諫めるも糞もあるまいて」
あまりにサラリと、冒険者風の男が俺の地雷をぶち抜いてきた。
俺はつかつかと進み出ると、手前のカウンター席に座っていた男に近寄り顔を知被けて唸るように宣告した。
「おい。お前、言っていいことと悪いことがあるぞ。今すぐそこに直って頭を下げて取り消せ」
だが男は面白そうに
「ふーん。嫌だと言ったら?取り巻きにこの店でも壊させるのか」
この返事で、俺の理性は飛んでしまった。
「舐めるな屑が。表に出ろ、タイマンだ」