突きつけられた刀に、男は怯えている……ように見えるが演技だ。目線の力がまるで消えていない。
「なんでそんなことを聞くんだ?たまたま居酒屋で出会った騎士様にこの街のひでぇ現状を聞いて、憤慨していた……じゃ不満か?」
その返事じゃ事情があるから話させろと言っているようなものだろう。
「確かに俺の家が代官として褒められた統治をやってないのも、そこのミリンダ・ナーガ・リュージュナの家を困窮するように追い詰めてるのも事実だが」
俺はこっちを殺意を込めて睨んでいるミリンダに一瞬目をやってから男に向き直り
「あんたはたとえ事実とは言え私怨たっぷりの一方的な噂話を聞かされただけで、話をうのみにして、権力ある代官家が暴力装置の部下をぞろぞろ引き連れているところにケンカを売るようなおっちょこちょいには見えん。……先に言っておくが、俺の実力を見たうえで何らかの味方に引き入れたいってんなら無駄だぞ」
俺の返答に、男は意外そうな顔をして見せた。
「なぜだ?嫌われ者ぞろいの代官一族の中で、あんただけは自ら悪さをするでもない、白骨死団も暴れさせない。その白骨死団には自分といるときには暴れさせない代わりに利益を与えてる。それにさっきの技、特務崩れから習ったな?人心を掌握し、私兵を取り込み、個人の武力も鍛えてる。それで事を起こそうとしてないなんて言い訳が通るかよ?」
俺はさらに言葉を重ねた。
「外からはそう見えるか。まあ、ある程度それも織り込み済みだから言っちまうと……ここから先は通りでする話じゃねえから、店に入るとしようぜ」
***
「……とまあ、あんたがおそらくそこのミリンダから聞いたんだろうが、俺は家にとっての厄ネタなのさ。家にいない方が有難いってんで小遣いだけもらってずっと近くの駐屯地に入り浸ってるだけの、文字通りバカ様だよ。あんたの言うことに間違いはない」
店主に迷惑をかけたくなかったので、俺は下戸の隊員二人を店の前で見張りに立たせ、残るメンツと一緒に店に入って先客二人組と飲んでいた。
「それにしたって態々反逆を疑われるような真似をしなくても」
男の言葉に俺は手を振ると
「ああ、別に一家の皆様方がどう思おうが俺は気にしてないよ。いずれ政略結婚の駒として婿養子にでもなるか……俺の願いが叶うなら、特務部隊にでも入るか。どっちにせよこの街を出ていくつもりだから」
内心常々思っていることを口に出すと、なんだか楽になれる気がした。