「関わり合いになりたくないから逃げるのかい」
話を続けようとする男を俺は手で制する。
「まあ待てよ。話を湿っぽいほうに逸らしても俺はごまかせねえぜ。……もう一度聞く。お前は何が目当てで俺を挑発した?……いや、大体察しはついてるよ。言わなくていい」
俺は言葉を続けていく。
「あんたの正体をここで叫んでやってもいいが、世の中知らねえほうがいいってことはあるもんよ。……だから、俺がこれからいうことはみんな独り言だ。酔っぱらいの」
俺は全然手を付けていなかったテーブルの上の酒瓶を掴む。
そして一気に、グイっと呷った。
「無礼講なればこのまま失礼申し上げます。ウイッ……マハジャンの家はもう人望を失い過ぎた。今更家中のだれが何をしたところで解決しねえ……俺は根切りに巻き込まれたくないから逃げたかった。それだけなんだ……」
ガクガク頭を揺らしながら俺は話を続ける。
「うっぷ。り、領主様が事を起こすなら……日和っている奴らが必ずすり寄ってくる。そいつらを総入れ替えできればいいですがそうもいくまいが……ゲェフ!」
一気に露骨な酔い方を見せる俺に下手な芝居だと視線が突き刺さるが、俺の口は止まらない。
「とにかく!く、首を取るのは、できたら我が家中の人間だけにしてやってくれれ……他は統計や報告部門を締めれば大体は全容の、かい、め、い」
ゴシャァ!
俺は倒れてしまった。
演技でも何でもない。
天地が回る。力が入らん。目の前が暗転する……
***
翌日、俺は頭を内側から機装兵にどつかれるような激痛で目を覚ました。
見知らぬ天井……ではなく、ここは駐屯地の隊長室だな……。
「あ゛あ゛あ゛~~~~」
考えたとたんに襲ってきた頭痛にゾンビもかくやという情けない呻き声を上げる俺。
「若、目が覚めやしたか。全く無茶をなさる!」
「俺はいったい何を飲んだんだ……こんな絶望的な二日酔い初めてだぜ」
痛む頭を振ったりさすったり余計に気分が悪くなるので固まったりしながら俺は何とかシンハーに返事する。
「口に入れるもんぐらいちゃんと見なせえ!水で割る前のアラックを一気飲みすりゃぶっ倒れて当然でさあ!むしろ良く死ななかったもんです!」
※アラック……蒸留酒の一種。水で割る前のアルコール度数、だいたい40パーセントぐらい。
「あ、あまり怒鳴るな。頭に響く……」
その後俺が使い物になるまでたっぷり半日を要した。
「さて情報のすり合わせと行くか」
俺はシンハーと密談に入った。