もしルフレがフォドラでもう一度目覚めたら   作:マークくんちゃんすここ侍

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序章 邂逅

 

 

 

 

「…………」

 

 何も見えない。視界が閉ざされている。目を開こうにも、体全体が痺れたように重たくて、動かせそうにない。

 

「…………」

 

 自分が誰かわからない。思い出、記憶、あるいはそういった類のものを亡くしていると気付くまで、さほど時間は掛からなかった。

 

「…………」

 

「……ているわ!」

 

「……?」

 

 女性の声が聞こえてくる。聞き覚えのない声、通行人か。自分には、それを判別するすべは無かった。続けて男性の声が聞こえてくる。

 

「……んじられ……ここにも……」

「冗談キ……ね………もう放………」

「貴方、それ……盟主の……なの?」

 

 三人だ。男性が二人と、女性が一人。話は途切れ途切れで聞こえにくいが、どうやら自分の事を見つけてくれたらしい。だけど、体はまだ動きそうになかった。

 

「……もう、わかっ…………トリ、担い……げて」

「…かった! …? これは、剣…?」

 

 自分を一人の男性が担いでくれたらしい。感覚はほとんど無いものの、聞こえてくる会話、単語や、状況からある程度察しは着く。それに、より近くに寄ってきてくれたからか、一人の声が鮮明に聞こえてくるようになっている。

 

「クロード、何かアテはあるのか?」

「この先……あるはず……」

「貴方、それを知っ…………悪……」

 

 もう一人の男性の名前はクロード、と言うらしい。クロードは二人の更に前を走り、自分を連れている青年と、もう一人の青年を先導しているようだ。

 

「まあ、今はいい。クロード、その村まで案内してくれ」

「任せ……」

 

 聞こえる限りの情報をまとめると、自分を担いでいる青年と、その隣を走る青年が、クロードという青年の案内で村まで走っている。焦っているように感じられるあたり、何かに追われているのだろう。それなら自分を担ぐのは枷になるはずだ。

 

 身をよじると、案外簡単に滑り落ちた。自分が地面に落ちるのを感じたか、青年は振り向く。自分の視界が利いてきて、その青年と目が合った。青い布を肩から垂らした軍服を着こなす、精悍な体つきの青年だった。

 

「すまない、落としてしまった! 大丈夫か!?」

「だ、いじょうぶ……」

 

 咳き込みながら応えると、青年がもう一度担ぎ上げようとしてくれた。それを手で制すると、地面に手を着いて立ち上がる。痺れはもう治まっており、手足も自由が利く。目や耳も見聞きできるようになっている。体の制限は治ったようだった。

 

「こ、こまで連れてきてくれて、ありが、とう」

 

 まだ少し違和感がある口を動かし、とりあえずの礼を伝える。足が止まった青年と立ち上がっている自分に気付いたのか、先を走っていた二人が戻ってくる。

 

「無事なのか?」

「だいじょう、ぶ。もう平気」

「平気とは思えないわね。貴方、本当に大丈夫なの?」

「問題、ない」

 

 はず、とまでは言わなかった。今は彼らの足を引っ張りたくない。もう動けるのだから、自分の足で走らなければ。彼らについて行くように、足を動かし始めた。

 切羽詰まった状況だったのだろう。それ以降、クロードという青年の言っていた村に到着するまで、誰も口を開こうとはしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 村に辿り着くや否や、青布の青年が声を張り上げる。

 

「すみません! ……おいクロード、本当にここなのか?」

「ああ。その筈だ」

「筈? 貴方、打算だけでここに来たの?」

 

 赤い布を垂らした女性がクロードに言う。呼吸を整え黄の布を揺らすクロードが、赤布の女性に答える。

 

「もちろん。でなきゃここになんて来ないさ」

「呆れた……」

 

「貴方も、もう大丈夫ですか?」

 

 青布の青年がこちらに尋ねてくる。こくりと頷き、言葉を返した。

 

「……ええ、もう」

 

 そんなやり取りを続けていると、すぐに人がやってくる。

 

「どうした、こんな夜に?」

「すみません、実は盗賊に追われていまして。力を貸していただきたいのです」

 

 青布の青年が応じる。見慣れない格好のその男は鉄兜を被り、暖かそうな服に身を包んでいる。帯剣しており、恐らくは剣士といったところだろう。

 

「盗賊……!? 少し待っていてくれ、団長を呼んでくる!」

 

 どうやら何かに追われているという推理は間違っていなかったようだ。盗賊ということは、何か金品を狙っての強盗だろうか。確かに彼らは品行方正という言葉が似合いそうな見た目をしているが、貴族の出なのだろうか?

 

 少し待っていると、さらに二人の人影が村から出てきた。一人は若くはなさそうだが、所謂『場』を何度も潜り抜けてきたと思わせる、壮年の男性。もう一人はクロード達とそう変わらなさそうな見た目だが、暗めの鉄板を仕込んだ服で守りを固める剣士、それもかなり手練と見える佇まいの男性だ。

 

「どうした?」

「突然すみません!」

 

 青布の青年が腰を曲げて、突然の訪問を謝罪する。

 

「こんな時間に、ガキどもが揃って何の用だ?」

「実は私たち、盗賊に追われているんです。どうか力を貸していただけませんか?」

「盗賊、だと?」

 

 壮年の男の呟きに、赤布の女性が答える。

 

「ええ、野営中に襲撃されたのです」

「上手いこと仲間と分断されて多勢に無勢。金どころか、命まで盗られるところでしたよ」

 

 クロードが更に続けて補足するが、その態度に壮年の男が訝しげな視線を向ける。

 

「その割には随分と呑気な……。 ん? その制服……」

 

 壮年の男が彼らの着る制服に目を向けた時、クロードたちの後ろから一人の傭兵が走ってくる。かなり慌てている様子だったが、こちらの来た道を走ってきたということはおおよそ察しが着く。それもやはり当たりだった。

 

「村の外に人影! ……チィッ、かなりの大所帯だぜ」

「来やがったか……。 まったく、ガキどもはともかくとして、この村を見捨てる訳にはいかねぇ。おい、行くぞ」

 

 壮年の男が黒い服の青年に促し、青年はそれに頷いて答えた。剣や槍、弓、斧など、各々の武器を抜いて盗賊に応戦を始めることになった。

 

 

 

 彼らの率いているという傭兵団と、こちらを追ってきた盗賊と思しき勢力の、武器と武器がぶつかり合うような甲高い金属音が、そこかしこから鳴り響いてきていた。

 

「村が巻き添えを食わねぇように、さっさと片付けちまえ。いいな、ベレト!」

「わかった」

「よし。俺は村の入口を死守する、お前は遊撃だ、片っ端から荒らしていけ」

 

 ベレト、と呼ばれた青年が答え、剣を握りしめてクロードたちの間をすり抜け、目の前にいる盗賊の一団に切りかかる。やはり見立て通り相当腕の立つ剣士らしく、斧や剣などて無秩序に殴りかかってくる盗賊を一人、二人と切り伏せ、その部隊の隊長らしき盗賊へと剣を向けて走り始めた。

 

 クロードたちもそれに続き、目の前の盗賊に得物を向け、切り、あるいは矢を放った。

 

 戦闘が始まる中、自分は…………いや、()は、戦場をまるで俯瞰しているような視界に一瞬戸惑っていた。

 

(……これは……?)

 

 敵の大まかな位置、戦うのに有利な地形、敵の大体の能力、そういったものがなんとなくだが、わかる。それとは別に、クロードたちの能力や技術も少しずつ読み取れていた。

 

 私は、ふたつ思い出した。ひとつは自分の名前。そしてもうひとつは自分の職……いや、兵種と言うべきだろう。

 私の名は《ルフレ》。兵種は《戦術師》だ。

 

「……森を抜けた先に敵が布陣しています! 森に陣取って迎え討ちましょう!」

 

 私の言葉に少し戸惑った一行だが、察しの早いクロードを筆頭に次々と森林に入り、守りの陣形を整えた。最後に森に入る前に、赤布の女性が聞いてくる。

 

「なぜ前方に敵がいるとわかったの?」

「わかりません、でも……とにかく、来ます!」

 

 私が言った通りに、木々を抜けて敵が迫ってくる。傭兵団とぶつかり合っていた部隊とは別の少数が、彼らに肉薄する。

 そのうちの一人が私に向かってきた。

 

「きゃ……!」

「死ねぇッ!」

 

 盗賊が斧を振りかぶって指揮を執っていた私に迫り、鈍重な刃を振り下ろす。私は短い悲鳴を出すが、その次の行動は避けるでも、身の危険を感じてしゃがむでもなく……。

 

「………なあっ!?」

 

 ………その斧を、右手に握っていた鉄の剣で受け止めていた。しゃがみつつ受けた斧を、剣を這わせるように逸らして勢いのまま弾き飛ばし、そして流れるように左手を相手の腹部に押し当て、叫んだ。

 

「サンダー!」

「な……ぐはぁ!!」

 

 雷光を伴う魔法の球弾を撃ち込み、大きな破裂音と共に吹き飛ばす。目立った外傷は無いが、中身が恐ろしい事になっているだろう。彼は死んだとして次の敵に目を向けた。

 

 と、そこまでしてようやく、自分の出来ることを思い出した。いや、出来ることというよりは忘れていた事を。私が何者で、過去何をして、誰と共に過ごしたか。

 

 私は、そこにはいないと分かっていて尚、その名を呼んだ。

 

「………クロムさん?」

 

 クロム。その名は忘れようもない。私は、全てを終わらせた。彼を()()()

 

 邪竜と呼ばれる存在、それは私と同一のものだった。邪竜を倒すには二つの方法があり、ひとつはクロムさんの持つ聖剣によってもう一度、千年の眠りにつかせる方法。そしてもうひとつは、同一の存在である私が邪竜を討ち、そして自死する方法。

 

 私は、後者を選んだ。平和になった世界を想像しながら、クロムさんを置いて世界に存在を抹消された、そのはずだった。

 

(なら、なぜ私は……)

 

 もう一度目覚める道理なんてなかった。私が死ねば私は消える。それは当然の事で。

 

 そこまで考えて私は首を振った。今は以前の記憶を振り返るよりもやるべきことがある。私を担いで走ってくれた恩に報いねば、と、剣を握って私も森へと駆け出す。

 

「状況は劣勢です、ここで立て直しましょう。傷薬を持っている人はいますか?」

「俺は持ってる」

「俺もだ」

「私もよ。集めてどうするの?」

 

 傷薬の数に限りがあるのであったなら、前衛を抑える青布の青年と赤布の女性、そしてベレトさんに分けようかと考えていたが、全員が持っているならそのままでも良いだろう。

 

「いえ、まさか皆さん全員が持っているとは思いませんでした。それならそのまま行きましょう。怪我をした人は下がって傷の手当を!」

 

 赤布の女性と青布の青年が、木々に隠れて傷口に薬を塗る。受けた切創が目に見えて治っていくのを見、傷薬の効能が私のよく知るそれらと変わっていないだろう事を確認する。

 

「クロードさんは、そこのベレトさんとふたりで盗賊を迎え討ってください!」

「わかった! …………何故俺の名前を?」

「担いでくださっている時から耳は聞こえていました。今はそれよりも、あなたの弓の技が必要です!」

 

 クロードは頷くと、そのまま前線に立って盗賊と剣を打ち合っていたベレトの援護に向かう。私も走ってクロードとベレトに続こうとすると、傷を治し終えて併走してくる赤布と青布の青年たちが質問を投げてきた。

 

「貴女、戦えるの?」

「少なくとも心得は!」

「だがその格好、剣士というには動きにくいはず。兵種は?」

「戦術師」

 

 青布の青年に私がそう返すと、赤布の女性が失速する。私達もそれに引っ張られるように足を止めた。

 

「戦術師……聞いた事がないわね……」

「エーデルガルト、今はクロードたちに加勢しないと!」

「……ええ、そうね!」

 

 エーデルガルトと呼ばれた女性が強く頷くと、もう一度三人で走り出し、今度こそ戦線に突入する。傭兵と盗賊が切り結び、死体がそこら中に倒れ伏している光景は、私が覚えている過去の戦争そのものだった。

 

 イーリス聖王国と、隣国ペレジアの国境争いから同盟国フェリアを巻き込んでの正面衝突、隣の大陸を牛耳るヴァルム帝国との戦い、そして……。

 

 その全てを今も鮮明に思い出せる。私とクロムさんが戦い抜いてきた、たった数年間の、濃密な記憶を。

 

「次はどうしたらいい!」

「! ……槍を使う貴方が前衛を! 剣や斧を持つ方はその援護をお願いします! 私は魔法を使えるので、クロードさんと行動します。先程と同じく前進して、向こうにある風車を盾にしつつ、森に布陣して第二陣を切り抜けます!」

 

 更に移動指示を出し、四人はそれに従って動く。見たところ斧を持っている盗賊は少ない。それに、斧を持った相手が来ても青布の青年は槍のリーチを活かした突きや薙ぎ払いで蹴散らしており、恐らくは幼い頃から武術、特に槍術の薫陶を受けたのだろう事が容易に汲み取れる。

 

 会敵し、青布の青年を集中して狙おうとする盗賊たちに、エーデルガルトさんとベレトさんが斬りかかり、そのまま押し退けて敵陣営に足を踏み入れていく。私とクロードさんは前方で戦う三人を弓と魔法で援護しつつ、近くに寄ってきた敵を剣で切りつけ、近接戦闘手段を持たないクロードさんを護衛する。

 

「! へぇ……あんた、魔法だけじゃなくて剣も使えるんだな。それに両方とも練度が高い……。出身国は?」

「その話は後で! 今が好機です、私たちもエーデルガルトさんたちに続いて突入しましょう!」

「わかったよ、後で聞かせてもらうからな!」

 

 私とクロードさんは弓と剣を構え、三人が切り開いた道を突っ切る。特に前進している私たちに続くように、後ろから傭兵団が続いて突撃し、私の近くに4人、ベレトさんたちの方に10人ほどが合流する。

 

「若いにーちゃんねーちゃんばかりにいいカッコさせられねぇぜ!」

「良い腕だな、あの数をこうまで押し返すとは!」

 

 ひとかたまりになった部隊を引き連れて、敵の本丸を打ち砕いたのだろう三人が戻ってくる。

 

「主力はあらかた片付けた。後は将だけだが、数が多い。一緒に来てくれるか?」

 

 青布の青年の言葉に頷いて答えた。

 

「はい、この戦いを終わらせましょう!」

「うへーっ、俺はもう戦えないっての……」

「うだうだしていて盗賊が逃げると思うの、クロード?」

 

 エーデルガルトさんが膝に手を置いて項垂れるクロードさんを叱咤すると、クロードさんは嫌々そうな表情を浮かべつつも、弓を手に握って冗談めかした物言いを返す。

 

「本気で受け取るなよエーデルガルト。俺はただ、平和的に話し合おうぜって提案しただけだぜ」

「さっきの発言のどこに、そんな文言があったというの……。まあ、いいわ。手早く片付けましょう。これ以上盗賊なんかに時間を取っていられないわ」

 

 その言葉を聞いて空を見ると、僅かながら白んで来ている。夜明けが訪れようとしていた。野営中に襲われたと言っていたあたり、睡眠前に襲撃を受けたというところだろう。

 

「では行きましょう。 ………え? 南の方角から人影、二人!」

「何、増援か!?」

 

 森をすり抜けていくように二人の影が盗賊の将がいる方に迫っていく。いや、あれは増援では無い。むしろ……。

 

「た、戦ってます! 私たちも行きましょう!」

 

 私たちは敵の本営へと、踵を向けて走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 青布の青年が、人影へと襲いかかっている盗賊に槍を叩きつけ、吹き飛ばす。エーデルガルトさんも同じように、魔法を使う人影の前に立ち、守るように迫る盗賊へ斧を叩きつけると、二人は振り返り、人影の正体を確認した。

 

「……ヒューベルト!? 貴方……!」

「殿下、ご無事で何よりです……。お手を煩わせてしまい、申し訳ございません」

 

「ディ……いや、殿下……!」

「ドゥドゥー、追ってきてくれたのか!」

「はっ。殿下が消えている事に気付かず、到着が遅れました。申し訳ありません……」

 

 人影は、二人のよく知る人物だったらしい。隣のクロードが肩を竦める。

 

「やれやれ、俺には来てくれないのか。ヒルダやローレンツあたりが追いかけて……いや、そうする光景が見えないな」

 

 苦笑し、私も返す言葉が見つからず、お互いに目配せして頷き合い、敵将へと突撃した。

 

「チィ……ジェラルト傭兵団、何故ここにいやがる!!」

「運が悪かった」

「!! ……テメェは、灰色の悪魔! けっ、無表情に剣振りやがって! 俺の邪魔ァすんじゃあねえ!!」

 

 ベレトさんと敵将らしき男が対峙している。ベレトさんは剣、敵将は斧、相性がいい相手だ、任せ切りでも大丈夫だろう。

 

「敵将はベレトさんに任せて! 私たちは取り巻きを片付けます!」

 

 この場の全員に通達し、ベレトさんと敵将に他人が干渉できない空間を作り上げる。ベレトさんを守るように、接近してくる部隊を片付けつつ、場を駆け回って細かく指示を下す。

 

「ふざけんじゃねぇ! 元はガキ数人を始末するって話だった。なぜテメェらがこんな辺境にいやがる!!」

「だから、運が悪かった」

 

「!! ………クソォッ!!」

 

 盗賊の首領とベレトさんが剣と斧で打ち合う。正確に言うなら打ち合うというよりも、ベレトさんの技量に首領がどうにか死力を振り絞って五分五分に届かないか、といったところだ。

 

「ちくしょう、化け物め……! おい、やれ!!」

 

「う、う! うおぉぉらぁっ!!」

「し、死ねぇぇっ!!」

 

「! 何っ!?」

「しまった!」

 

 青布の青年とエーデルガルトさんの脇を潜り抜けて、二人の盗賊が鉄の剣を握ってベレトさんに突撃していく。ベレトさんは難なく切り伏せてみせたが、その数瞬の隙が首領に僅かながら好機を生ませた。

 

「死ねぇっ!」

「……くっ!」

 

 その雄叫びに気付いたエーデルガルトさんが振り向き、折れた斧を捨てて腰に提げた短剣を抜き取り、構える。しかし対する相手は斧で、守りには適さない短剣では、その後の展開が見え見えだった。

 

「エーデルガルトさん!!」

 

 私がサンダーを詠唱する前に到着してしまう。クロードさんは弓で敵を倒してはいるものの、次を番えるには敵数に余裕が無さすぎ、青布の青年はそもそも受け持つ敵が多すぎる。エーデルガルトさんの従者のヒューベルトさんは槍と魔法での自衛と攻撃に手一杯で、ドゥドゥーさんも同じように盗賊を抑えるのが限界といったところだ。

 他の傭兵の皆さんもそれぞれが見ている敵と張り合っていて、他者の手助けをする余裕がなさそうだった。

 

「ベレトさん!」

 

 動けるのはベレトさんしかいなかった。私の叫ぶような掛け声に応じてベレトさんが走り出し、首領を攻撃しようとするが、更に近づいてくる盗賊に時間を取られ、もう間に合わなさそうだった。

 

 

 ……だが、ベレトさんはここにきて、凄まじい瞬発力を見せる。立ち塞がる盗賊を剣で切りつけ、倒した後、盗賊が干渉できないよう少し遠回りになる道を走り出し、そのまま直線を突っ切ると、エーデルガルトさんの腕を引っ張って押し退けた。

 

「どけえぇぇっ!!」

 

 斧が、背中に吸い込まれていく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……だが、ベレトさんはここにきて、凄まじい瞬発力を見せる。立ち塞がる盗賊を剣で切りつけ、倒した後、盗賊が干渉できないよう少し遠回りになる道を走り出し、そのまま直線を突っ切ると、エーデルガルトさんの胴を押して姿勢が低くなるよう転ばせ、そのまま振り返って斧を剣の腹で受け止め、力いっぱい振り払って斧を取り落とさせた。

 

 ……いま、なにが……?

 

「クソッ……強すぎる……退け、逃げろ!!」

 

 私がそう考えるのも束の間。盗賊の首領が下した指示を皮切りに、戦っていた盗賊が蜘蛛の子を散らすように逃げてゆく。

 

 少し間を置いて、騎馬の走る音が聞こえ、後ろを向くとベレトさんと一緒にいた壮年の男性が馬に乗っていた。ソシアルナイトかパラディンか、そういった手合いの兵種らしい。逆に傭兵らしからぬものだとも思ってしまう。

 

「ベレト、お前……今何か……?」

 

 彼も私と同じように違和感を感じたらしい。しかしその正体は掴めないままだった。

 

 その後、戦場の掃除をしている時に()()は現れた。

 

「セイロス騎士団、ただいま参った!! 生徒を脅かす盗賊どもめ、覚悟せえぇ………い?」

 

 追撃に来たのだろう、白い鎧の斧騎士が戦場跡にやってくるが、既に盗賊団は逃げていったあとである。不幸な事に、まだ逃げ損ねていた盗賊を見つけたのだろう、斧騎士が部下に指示を下す。

 

「おぉ、盗賊どもが逃げていくではないか! 貴公らは後を追うのだ!」

 

 そして彼がこちらに振り向く。

 

「さてと、生徒は……んぉ?」

「おおっと、面倒な奴が来ちまった……」

 

 斧騎士が壮年の男性に目を向けると、壮年の男性は面倒そうに目を背けるが、すぐに近くに寄ってこられ、話しかけられる。嫌そうな顔を隠そうともしないが、心の底から嫌という訳ではなさそうだった。少しだけだが、懐かしいというような感情も読み取れる。

 

「や、やはり!! ジェラルト団長ではないですか! うおおぉっ! お久しぶりですなぁ!!!!」

 

 斧騎士が彼をジェラルト団長と呼び、両拳を握りしめて感動を自分の動作に起こす。

 

「私の事っ、覚えておいでですか!? 自称《あなたの右腕》! アロイスですぞぉっ!!!」

 

 見た目に違わず、騒がしい……もとい、賑やかな人らしい。赤みがかった鼻と髭、快活な笑顔が特徴的な人だ。

 

「団長がいなくなってから20年……。ずっと、生きていると信じておりましたぞ!!」

「やれやれ、相変わらずうるせぇ奴だな、アロイス。それに、俺はもう団長じゃない。今はただの、流れの傭兵、そういう訳で次の仕事があるんでな。またな」

 

 ジェラルトさんが騎馬に跨ろうとするのを見送る……のをやめて、アロイスさんが肩に手を置く。

 

「ええ、ではまたどこかで……って、そうなるわけないでしょうが!! 団長には、修道院まで来てもらいますからね!」

「《ガルグ=マク大修道院》か。 ……はぁ、そうなるよな」

 

 ジェラルトさんとアロイスさんがやり取りを続けているのを見ていたが、肩をつんつんとつつかれ、後ろを振り向くと、先程共闘した三人と、彼らの従者の二人とで、合計五人がこの場にいた。

 

「ってわけで、俺たちも少し話をしようか? ああ、自己紹介だな。俺はクロード。こっちのがエーデルガルトで、この青いのがディミトリだ」

 

 クロードさんの言葉に続いて最初に質問を投げかけてきたのは、エーデルガルトさんだった。エーデルガルトさんの隣の従者の方も、紹介と同時に会釈する。

 

「改めて、エーデルガルトよ。そして彼が私の従者、ヒューベルト。貴女、その格好にさっきの用兵術……それに、剣技や魔術まで使いこなせるなんて、何者?」

「お、それ、俺も聞きたかった質問だ。答えてくれるか?」

「私はルフレです。イーリス聖王国の王クロムの元で、軍師をやって……やっていました」

 

 質問に答えを返すと、エーデルガルトさんの顔が顰め面になっていく。それだけではなく、まだ質問をしていない二人の顔まで曇っていく。何か変なことを言ってしまったかと探るが、それが何なのかは後で気付くことになる。

 

「……イーリス聖王国、ねぇ。で、あんたはそこの王族お抱えの軍師ってわけか。それで? その王族お抱えの軍師が、なんだってこんな時間にこんな場所で、しかも一人で倒れてたんだ?」

 

「………………分かりません。気付いたら、ここに倒れていました。ここに至った経緯も不明です。あの、ここはどこの国ですか? 緑豊かな場所ですし、イーリスの辺境……あ、大穴でヴァルム大陸でしょうか? あそこも自然が豊かで気候も心地の良い、農耕に向く土地が多かったですし」

 

「聞いて驚くなよ?」

 

 クロードさんの言葉に、私は喉を鳴らす。まさか、環境が整ったペレジアとイーリスの国境沿いでは、という予想は、クロードさんの言葉によって打ち砕かれる事になる。

 

「ここはフォドラ大陸だ。あんたの言うイーリス聖王国?や、ヴァルム大陸……ってのは、少なくとも俺たちは聞いた事のない国名、地名だ」

「え………ん、えっ?」

 

 予想外の言葉に混乱してしまう。そうすると、不可解な事が多い。まず言語に変わりがないのが変だ。大陸が違えば、基本的には海によって途絶した文化が各々の大陸で根付いていく。そうなると言語も多種類のものが淘汰され、ひとつのものが波及していく。私がフォドラの言葉を話せるのはおかしい。

 

 それに、私が最後に戦って消えた場所は、ペレジア国だった。だからペレジアやイーリスで目覚めたというのならわからないわけではない。だがそうではなかった。隣の大陸ヴァルムですらない、全く未知の大陸たるフォドラで目を覚ますなんて。

 

「……その様子だと、本当にわからないって感じだな」

「あまり質問攻めにしてやるな、クロード。俺たちはこの人の指揮に助けられたんだからな。 ……ああ、自己紹介をしていなかったな。俺はディミトリ=アレクサンドル=ブレーダッド、こっちの彼は、俺の従者を務めるドゥドゥーだ」

「……ドゥドゥー=モリナロだ」

 

 自己紹介を兼ねてディミトリさんが庇ってくれる。クロードさんも仕方ないという顔で質問を止める。そこに、先程獅子奮迅の活躍を見せたベレトさんがやってきた。

 

「貴方は……さっきはありがとう。腕が立つのね。貴方は傭兵なのね、しかも貴方の父は、セイロス騎士団元団長であり、歴代最強の騎士とも謳われる《壊刃(かいじん)》、ジェラルト……」

 

 エーデルガルトが父親を誉めそやすのを聞いているベレトさんだったが、ひとつの単語に思い当たらない節があったらしい。

 

「……セイロス騎士団?」

「セイロス騎士団を知らないの? フォドラで最も有名な騎士団だと思うのだけど」

「何かワケありって顔だな。なあ、さっきの話を聞くに、大修道院に来るんだろ? 道中色々と話を聞かせてくれ」

 

 大修道院? と、私とベレトさんは揃って分からないという顔をしていたらしい。クロードさんの補足説明が入る。

 

「ああ、俺たち、大修道院に併設されてる士官学校の生徒でさ。課外活動中に盗賊に襲われて……酷い目にあったって訳さ」

「貴方が真っ先に逃げ出すからじゃないの…」

 

 エーデルガルトさんの言葉に、クロードさんが笑いながら続ける。

 

「そうだったそうだった! 聞いてくれよ、あんた。こっそり俺だけでずらかろうとしたんだが、そこへこいつらが着いてきたせいでな、盗賊は揃いも揃って俺たちを追いかけてきちまった! とんだ笑い話さ」

 

 ベレトさんがくすりと笑う。ディミトリさんが呆れたような表情を浮かべてクロードさんに話しかける。

 

「クロード、お前はそんな事を考えて……おれはてっきり、みなの為に囮になったものかと……」

「あら、そうに決まってるでしょう。言葉の表しか見ないようでは、名君にはなれないわよ?」

 

 エーデルガルトさんの言葉に、ディミトリさんがむっと口を歪めて言い返す。

 

「言葉の裏ばかり読んで猜疑心に塗れたとして、それも名君になれるとは思えないな」

「おやおや、二人揃って帝王学の議論か? 流石だなぁ………しかし、猜疑心の塊みたいな俺からしたら二人とも、まだまだ純粋な、雛みたいな応酬だぞ?」

「雛!? ……貴方も、口が減らないわね」

 

 三人の口論が終わったところで、クロードさんがこちらに振り返る。

 

「そうだそうだ、あんた、ルフレって言ったな? あんたはどうなんだ? あんたの王様は、人を疑うって事をしてきたか?」

 

 突然に話を振られるが、私はクロムさんの事ならなんでも答えられる自負がある。

 

「クロムさんは王ですが、同時に武人です。貿易や同盟国間の会談、そういったものの調整や精査、話し合いは私がやっていました。だからクロムさんは、人を疑うことなんてしませんでした。それは私の役割でしたから」

 

 胸を張って答えると、クロードさんはにこやかに笑う。

 

「ははっ! それはいい、あんた程指揮に長けた人が言うんだ、きっと本当に人を疑わない王だったんだろうな」

 

「そのような王であれば、是非とも俺も見習いたいものだ。 ……ああそれと、もう一つ気になっていることがある。お前の事だ」

 

 ディミトリが私の隣に立つベレトさんへと目を向ける。

 

「盗賊団の頭領相手に、一歩も引かぬ戦いぶり。俺も、もっと精進せねばと思ったよ」

「確かにそうね。 ……貴方、ベレトといったかしら。ルフレも、帝国で働く気は無い? 何を隠そう、私はアドラステア帝国の───」

「待て、エーデルガルト」

 

 ディミトリさんが手で制し、前に出る。

 

「それなら俺も話がある。今ファーガス神聖王国は、お前達のような優秀な者を必要としている。是非、俺と共に王国へ───」

「そこまでだ」

 

 二人をクロードさんが止める。クロードさんはやれやれといった具合に肩をすくめる。

 

「まったく、二人とも手が早いな。会ったその日に口説くなんてさ。俺は大修道院に向かいながら、しっぽりと親睦を深めたいねぇ。な、ルフレ」

「え? あ……そうですね?」

 

 振られると思っていなかったから、思わず一瞬返答に詰まる。そのままクロードさんがベレトさんに尋ねる。

 

「まずは、あんたの好みでも聞こうかな? あんたはどの国が好きなんだ?」

 

 

 

 

 そこから色々と話が進み、気付けば夜はすっかり明けていた。私たちはアロイスさんに呼ばれ、傭兵団の皆さんと一緒に、大修道院へと向かう事になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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