もしルフレがフォドラでもう一度目覚めたら   作:マークくんちゃんすここ侍

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 遅くなりました。





教師

 

 

 

「……へえ、じゃあフォドラの外の大陸出身か。そりゃ色々大変だったろうな」

「ええ……色々と、向こうでもやる事がありましたし。こちらへ来た途端に盗賊に襲われましたし、大変でした」

「っははは、そいつは確かに大変だったはずだな。 フォドラはどうだ?」

 

 シルヴァンさんにお茶に誘われた私はそのお誘いを受けていた。中庭にあるいくつかのテーブルのひとつに落ち着いて、温かなカモミールティーを飲みながら、会話をしていた。

 

「私のいた国みたいに気さくな性格の人が多くて、とても馴染めそうです。とても暮らしやすい大陸ですね、このフォドラは」

「そうか、そりゃ良かった」

 

 微笑みながら、呟くように返すシルヴァンさん。そしてその続きを話そうとするのだが、その表情は少しばかり曇っていた。

 

「この大陸には三つの国がある。それは知ってるよな。大陸最大の国、アドラステア帝国。貴族が集まって同盟を成す、レスター諸侯同盟。そして、俺たちのファーガス神聖王国だ」

「はい。説明を聞いて知ってます」

 

 私はシルヴァンさんに答え、彼は更に続ける。

 

「この中で最も貧しいのは、ファーガスなんだ。元々農耕に向く土地じゃなかったんだが、この数年で色々あってな……」

 

 そう言うと彼は視線を逸らして小さく苦笑いを零す。ファーガス神聖王国の大貴族の嫡子であるシルヴァンさんだからこそ、平民や他国、他の大陸の人間では見えない視点から物事を測れるのだろう。

 

「あんた、もし青獅子の学級(ルーヴェンクラッセ)に入るんだったら、頼みがあるんだ」

 

 シルヴァンさんは私の目を見据えて言う。

 

「あいつら……いや、フェリクスやイングリット、ドゥドゥーと殿下の()()を詮索しないでやってほしい。色々あったんだ。本当に色々と……。どうか頼む」

 

 私はこくりと頷く。

 そもそも人の過去や探られたくない事を探るようなことをするのが好きじゃないというのもあるが、何より仲良くなれる人のされたくない事なんてしたいとも思わない。

 

「当然です。元々そんな事するつもりなんてありません。頼み込んでくるなんてよっぽどの事なんですよね。それなら尚更、そんな事しませんよ。安心してください」

「………なーんだ、それならそうと早く言ってくれればいいのに! まあ、あんたはそういう事する人には見えなかったし余計な事したかもな、はははっ!」

 

 彼の欲しかった返答だったのだろう。答えを受け取ったシルヴァンさんは頭の後ろで手を組んでそう言い、快活に笑った。もう先程までの暗い表情は、そこにはなかった。

 

「んじゃ! 今度はルフレが頼み事をしてくれないか? 俺だけが頼むんじゃ、不平等だろ?」

 

 シルヴァンさんが私の目をじっと見つめてくる。その頼みとやらを待っているのだろう。

 

「私が得体の知れないお願いをするって思わないんです?」

「ルフレみたいな可憐な子に………ああ、いや…冗談はやめとこうか。普通にあんたは理不尽な要求とかしなさそうなタイプだったからな」

 

 ふざけたと思えば、途端に真面目な回答を繰り出す。彼のような人は初めて会うが、不思議と話しにくさはなかった。彼が特に自分を偽っている訳でないのなら、きっと冗談めかした物言いを繰り返しながらも、心の中では別のものを求めているのかもしれない。

 

「じゃあ……そうですね……。 ……いくつか、聴いてくれますか? どれも、昔体験した話です」

「へぇ、昔話か。もちろんいいぜ、俺も気になるしな」

 

 

 

 

 

 

 

 まだ温かいカモミールを喉に流し込み、ほぅ、と一息ついてから、ルフレは話し始めた。その服装は王国貴族の価値観から言えば貴族的ではないが、それでも視線を落としながら息を吐くその姿は、深窓の令嬢とも思えた。

 

「イーリス、という国がありました。豊かな国ですが、軍隊は大きくなく、町に現れる賊等を征伐するのが彼らの主な仕事でした。そして、軍隊とは別に、城下町を守る自警団もありまして。そこの団長であるクロムさんに、私は拾われました。 ……その時はまだ、記憶を失ったままでした」

 

 その前置きの後に最後の一口を飲んでから始まった、昔話を語るように話すルフレの表情は、まるでいくつもの戦いを経験し、そして幾人もの人々と別れてきたかのように、悲しげだった。

 

「自警団で見初められてクロムさんお付きの軍師になったのですが、ある時の野営中に、放っておけば世界が滅ぶような出来事が起こりました。

 屍を動かし兵として使役する。シルヴァンさんはそれが許せますか?」

「まさか。死者の冒涜が許されるのは物語の中までだ」

 

 俺は嫌な予感に生唾を呑む。そしてそれは当たった。

 

「安直ですが、私はあれらを《屍兵(しかばねへい)》と呼びました。その方がより危険だとわかりますから。ですが、そういったものが各地に出現するようになってなお、イーリス聖王国の危機は未だ収まりませんでした。

 

 隣国ペレジアの非正規兵による、越境。

 無論それは侵攻を目的としたもので、事実上の戦争行為でした。これを良しとせず、クロムさんはイーリスの使者として、北方の国フェリアに赴き、見事同盟を取り付ける事に成功しました」

 

「へぇ…。 そのクロムさん、って人、自警団の団長なのに交渉の場にも着いたのか。て事は、思ったよりも偉い人なのか?」

 

 俺が聞くと、ルフレは思い出したように話す。

 

「あっ、そっか。あの時はまだ王子でしたね」

 

 それは、クロムさんという人の役職を、精々お忍びの将軍あたりかとばかり予想していたからこその、空白だった。

 

「…………………おっ、王子ぃ!?」

 

「はい! 立場に驕らず、常に強かにあろうとした、私の最愛の夫です!」

「お、おっ……!? 夫……………???」

 

 そこで俺の思考は停止した。

 

 

 ・・・・・

 

 

 私はシルヴァンさんにその続きを話そうとするのだが、そこで鐘が鳴る。メロディを奏でる鐘の音は、私に約束を思い出させた。

 

「あっ、ごめんなさい! レア様から呼ばれてるんでした。お茶、美味しかったです!」

 

 シルヴァンさんは笑いながら答える。

 

「え、ええそりゃもう! 気に入って貰えてよかった! ははは、はは……!

 

 ……俺とした事が、人妻とさえ見抜けなくなっている、のか? ……くはっ、俺の目も老いたか……。いや、この麗しさは確かに一婦人と捉えれば納得の行く……グッ、だがいくらなんでも───」

 

 その後に続いた言葉は、既に走っていた私には聞こえなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 走って到着した謁見の間には、既に三人の姿があった。ベレトさん、レア様、そしてセテスさん。私から少し遅れて、ハンネマンさんとマヌエラさんのふたりが謁見の間にやってきた。

 話の中心人物が揃ったのを折に、レア様が話し始めた。

 

「士官学校の様子はいかがでしたか? 清廉な魂の息吹に満ちていたでしょう」

 

 そうベレトさんと私に微笑むレア様の表情は、穏やかな笑みを湛える聖母のようにも見えた。まるでかの神竜ナーガのようで。

 

「さて、ベレト」

 

 惹き込まれそうな私を引き留めたのはセテスさんの声だった。セテスさんはベレトさんの目を見て続きを話す。

 

「君には士官学校の三学級のうち、ひとつを受け持ってもらうことになる。君のような素性のわからぬ若者に任せるのは反対だが、大司教たっての希望でね」

 

 そう言いながらセテスさんはレア様をちらりと見遣る。レア様は不動の微笑みを崩さず、ただベレトさんを愛しそうな視線で見つめているだけだ。そしてセテスさんのその言葉を補足するように、マヌエラさんとハンネマンさんのふたりが続けた。

 

「黒鷲の学級アドラークラッセ、青獅子の学級ルーヴェンクラッセ、そして金鹿の学級ヒルシュクラッセ。……もう見て回ったわよね?」

「新任の君が先に選んでくれても構わんよ。残るふたつの学級を我々がそれぞれ受け持とう」

 

 ベレトさんはしばらく決めあぐねているようだった。普段から無表情なその顔からは想像もできないほど口から「うーん」と漏れているのが、ギャップだ。

 

「あの、ベレトさん。お悩みでしたら、どの学級かじゃなくてどの生徒を教えたいかで決めてみてはいかがでしょう?」

「……なるほど」

 

 視点を変えてみるよう助言をすると、より一層深く考え込むベレトさん。それを私たちは固唾を飲んで見守っていたのだが、不意に顔を上げると、口を開いた。

 

「フェリクス」

「え?」

 

 聞き直す。

 

青獅子の学級(ルーヴェンクラッセ)に決めた。フェリクスとどこまで競い合えるか確かめてみたい」

 

 握り拳を拵えるベレトさんの瞳は決意で固まっていた。 ………もしかすると私は、アドバイスの方向性を間違えてしまったのかもしれない。

 

「ディミトリが級長を務める、青獅子の学級ですね。心は決まりましたか?」

「はい」

「うむ。彼らはみな、このフォドラの未来を担う有望な若者だ。この栄誉ある職務を誇りとして励むように!」

 

 

 

 

 ───セテスさんがきっぱりと言い切ると、ベレトさんは胸に手を当てて一礼する。ベレトさんが、マヌエラさんとハンネマンさんに連れられて教室へ案内されていった。

 それを見届けた私はセテスさんに話しかけられた。

 

「さて、ルフレ。私は君の、ジェラルトさんからの処遇についての話は伺っていない。君が望むなら特例として、教員の職務補佐などの仕事に就いても良いが……」

「そうですね……あ!!」

 

 セテスさんの魅力的な提案を聞いた瞬間、思い出した。ハンネマンさんに戦術の講義を担当して欲しいと言われていたことをだ。

 

「ハンネマンさんから生徒達に戦術・戦略を教えて欲しいと頼まれていたんでした……。それではいけないでしょうか?」

「ふむ。

 先生から直に頼まれているのなら、それでも構わないのだが……いいのだな?」

 

 その問いにこくりと頷く。頼まれ、任された以上はやり遂げる覚悟もある。私はセテスさんの目を見て、もう一度頷いた。

 

「……よろしい。ではルフレ。君もベレトと同じく未来ある生徒たちを導く、栄誉ある職務を全うし……む?」

 

 話の最中に何かが聞こえた。扉の開く音だ。セテスさんが言葉を止め、物音のした方を向く。

 

「お兄様! ……あら?」

 

 開いた扉の先から謁見の間の中に駆け寄ってくるのは、セテスさんやレア様と似たような綺麗な緑の髪を靡かせる少女。少女は私を見ると、恭しい一礼をする。私も胸に手を当て、頭を軽く下げて礼をした。

 

「フレン、どうした。 急ぎの用事か?」

 

 セテスさんの声が一段、あるいは二段と優しくなったような気がする。お兄様と呼ばれていたあたり、妹だろうフレンさんは、セテスさんからかなり溺愛されているのだろう。

 

「いいえ、大したことではありませんわ。 それよりも、こちらの方は?」

「ああ。この者はルフレ。先にここを離れたベレトと共に、士官学校の教員を勤める者だ」

「まあ、士官学校の! よろしくお願い致しますわ、先生。 私、セテスの妹のフレンと申します。お見知り置きを」

 

 改めて綺麗な所作で一礼をされる。作法にかなり凝るのだろうか? 

 

「うむ。まあフレンの話はさておきだ。近日中に生徒らの実力を図るための、学級対抗での模擬戦闘がある。ベレトを見かけたら、伝えるよう頼む。彼の実力を見定めたいのでね」

「わかりました」

 

 セテスさんに礼をしたあと、フレンさんにも軽く会釈し、謁見の間を後にする。

 近日中と言っていたということは、少なくとも数日の猶予はある。ベレトさんに伝えたあとは、教室を回って挨拶をしよう。それからハンネマンさんと打ち合わせして、講義の日程を決めて……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 訓練場から木剣を打ち合う高い音が聞こえてくる。樫の堅木を削り出して作ったと聞く訓練用武器は、特に頑丈に作られているらしい。鋼の武器にも並ぶ頑強さは、それこそ訓練するにはもってこいの性質なのだそう。

 

「おっ、ルフレか」

「ん……あ、クロードさん」

 

 偶然に訓練場の前で出会ったのは、生徒の寮から出てきたクロードさんだった。金鹿の学級(ヒルシュクラッセ)の級長を務めるクロードさんも、今ばかりはやる事から解き放たれて自由の身らしく、欠伸しながらも手を振って寄ってくる。

 

「今は青獅子が使ってるんじゃないか?」

「へ?」

「ん? 訓練場をさ。あんたも訓練場に用があって来たんじゃないのか? 俺は先生と話したくってね。隙を見計らって話しかけに行こうかと思ってたんだ」

 

 どうやらクロードさんはベレトさんに用があったらしい。何を話すのかまでは分からないが、ベレトさんに用があるのは私も同じなので、行動を共にするかと提案する。

 

「あ、それでしたら私と一緒に行きませんか? ちょうど私もセテスさんからベレトさんに伝言をお願いされてまして」

「セテスさんから? そりゃ確かに大事だ。じゃああんたが先で構わない、俺のは大した用事じゃないんでね」

 

 クロードさんと言葉を交わしたあと、訓練場に立ち入る。剣を打ち合う音が更に大きくなり、熱気が強く伝わってくる。

 訓練場の中は何人もの生徒が見物しており、外からでは誰が内にいるのか見る事はできなかった。それでも掛け声や気合いの入った言葉の数々から、そこに誰がいるかはわかった。

 

「ごめんなさい、通してくださいね」

「悪い、通らせてくれ」

 

 私とクロードさんの二人で人混みを掻き分けてなんとか最前列に辿り着く。やはりと言うべきか、ベレトさんがフェリクスさん……とドゥドゥーさんの二人を相手にしながら、互角に打ち合っている。

 

「おいおい、2対1かよ……なんというか、二つ名も納得の戦いぶりだな」

「二つ名?」

 

 知らないのか、と言いながらクロードさんはベレトさんの説明を始めた。

 

「先生の親父さん……ジェラルトさんっているだろ?

 そのジェラルトさん配下の傭兵団の人が言ってたんだよ。あんまり強すぎるから、ジェラルト傭兵団に灰色の悪魔ありって噂されてるってな」

 

 《灰色の悪魔》……あの綺麗な深緑の頭髪に、同じく光を閉じ込めたような深い緑の瞳のどこに灰色要素を見出したのかはわからないが、悪魔と言われれば確かに、その片鱗は見える。

 相手に対して、どんな素性の人間が相手だろうと油断せず、隙を見せれば一気に叩く。その強さがどれほどか聞かれれば、刃を交えるまでもなく答えられるはず。

 ベレトは凄まじく強い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人と武器を打ち合い初めてから、それなりの時間が経っていた。集中力を落とすことなく二人の動きに注視していれば回避も反撃も行える。それを抜きにしても、咄嗟の連携が上手かった。

 実戦を経験しているからこその動きでもある。

 

「フンッ!」

「ハッ!」

 

 目の前から来るドゥドゥーの重い一撃、そしてその手隙を埋めるフェリクスの素早い連撃。傍から見れば隙の無いように映るだろうか。

 だが、こういった速い者と遅い者の組み合わせには、往々にして弱点のあるものだ。

 

 鈍重で力のある者は、攻撃を避けずいなす能力(防御力)に優れる。反面素早い相手だと連撃を追い切れずに追撃を受ける事も多い。

 逆に非力だが素早い者は、手傷を受けずに避ける能力(素早さ)が高い。だからこそ不意に受けるたったの一撃が致命傷となりかねない。

 

 ドゥドゥーの二撃目を剣で受け流し、背に刀身をぶつけようとする。ドゥドゥーはそれを左の盾で受けようと、フェリクスはこちらの背後から素早く鋭い一撃を当てようとする。

 

 フェリクスの攻撃を誘う事こそが、勝利への糸口だった。

 

「……なっ!?」

 

 ドゥドゥーへ向けた一撃はフェイントである。本命はフェリクスが繰り出す致命の攻撃であり、勝利を確信したからこその油断を利用する。

 

「なんだと……!」

 

 ドゥドゥーが気付き、斧を振るおうと踏み出すが、こちらは既に行動に移っていた。彼がこちらへ斧を振るより早く、振り向き様にフェリクスの剣を剣で受け、鍔迫り合いに持ち込むと、顔と顔が密着しそうな距離まで押し込む。

 

 そこから剣を少し下げ、鍔を相手の剣の鍔に引っ掛けると、思い切り上に押し上げてフェリクスの武器を跳ね上げる事で手から奪い、徒手による格闘戦に移る前にとどめの一撃を足、そして胴に打つ。

 

「がっ、ぐ……!」

 

 迎撃の構えを解いてフェリクスの援護に向かおうとしていたドゥドゥーも救援には間に合っていない。連携は見事なものだったが、綿密では無い。人と人との連携である以上かならず穴があるものだ。

 

 ドゥドゥーの戦い方は、どちらかというと馬上の騎士や斧を使う戦士を相手にする方が適性がある。逆に剣士であるフェリクスのような相手に押し切られやすい。

 

 一対一の対面となれば、手数・フェイントを織り交ぜた攻撃で殆ど無力化できる。ドゥドゥーの盾と斧を使った攻防一体の戦いも十分実戦に耐えるものだ。これを機に上昇志向が身につけばよいが。

 

 上段から振り下ろすように見せかけ、目の前で攻撃を外して下段からの斬り上げで盾を捲って、空いた横腹に中段からの一閃を見舞う。

 

「そこまで……」

 

 イエリッツァの言葉で勝敗が明らかになる。木剣を鞘に仕舞うと、周囲を見る。青獅子の学級だけに留まらず、黒鷲や金鹿の生徒らも見物に来てくれていた。

 歓声の溢れる訓練場、その中でも特に目に映ったのが、ルフレの姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、一回は見たことあるけど……。改めて見ると化け物だね、先生は」

「一城を攻め落とすのとどちらが簡単なんでしょう…」

 

 正直フェリクスさんも相当だが、それ以上の腕を持つベレトさんの戦いぶりは凄まじいものがあった。相手をしたくない。

 もし戦うのなら、それこそ選りすぐりのパラディンを複数部隊単位でぶつけなければ勝てないかもしれない。あの人は単騎なら馬上騎士さえ難なく落としそうなイメージが……。

 

 あ、目が合った。

 

「ルフレ」

「お疲れ様です。変わらずお強いですね」

「ありがとう。フェリクスとドゥドゥーも強かった」

 

 そう言うベレトさんは額から汗を流してはいるものの、息を切らしているような素振りは一度たりとも見せていない。体力が無尽蔵なのか、それとも回復が異常に早いだけなのか、謎だ。

 

「そうだ! セテスさんがベレトさんに、近々学級対抗の模擬戦をするって伝えてくれと言っていましたよ。私は先生ではないのでたぶん参加はしませんが、ベレトさんは青獅子の学級(ルーヴェンクラッセ)の先生ですから参加義務があるんだと思います」

「対抗戦か。わかった、ありがとう」

 

 言葉を簡単に反芻して理解した旨を示すとこくりとベレトさんは頷いた。クロードさんの方を向くと、用を言うよう促す。

 

「それで、クロードはどうしたんだ。今は用があるんじゃなかったか?」

「その用だよ、先生。 今度学級対抗戦があるって話、今ルフレから聞いたよな。うちの金鹿の学級(ヒルシュクラッセ)でも先生の授業を受けたいって連中がいるんだ。だから講義の時間に青獅子の教室にお邪魔しようかと、ね」

「うーん……それはありなのか?」

「さぁね。まだ誰にも確認を取ってないんだ」

「俺にそれを言った理由は?」

「先生なら俺の学級の先生も説得できそうだろ。な、ルフレ」

「え? あ、はい。私もそう思います」

 

 急に話を振られるので少し驚くが、同意の旨を返す。

 

「そういう事だから先生、あんたが良けりゃ頼んでみてくれよ。俺の用ってのはそれだけ。アイツら俺に全部押し付けて自分のやりたいことやるんだもんで、結局引き受けちまった。はははっ」

 

 わかった、とベレトさんは簡単に答えて金鹿の学級(ヒルシュクラッセ)へと走っていった。

 

「おおっ、行動が早いな。 …あんたの用も似たようなもんだったな。伝言、と。うちの学級のマヌエラ先生、若い男に弱そうだから、先生ならまあ余裕で説得できそうだな」

「そうなんですか?」

「ああそうだとも。なんでも帝国の方で歌劇団の主役をやってたらしくってな。先生になるまでそういう出会いが無かったんだとさ」

 

 クロードさんは肩を竦めてやれやれと言ったような様子で話す。

 

「それ話して大丈夫なんですか?」

「おっ……と。他には内緒で頼むよ。酒に潰れて愚痴ってたのをコソッと聞いちまっただけなんでね」

 

 くすりと笑っている。そんな、無責任な……。

 

 と呆れていると、騒がしい訓練場の中でも響くほどの声が聞こえてきた。ベレトさんと私を呼んでいる。

 

「おぉーい! 先生! ルフレーっ! ここかー!?」

 

 快活なその声の主は、カスパルさんだった。彼は私の姿を見つけると、私たちがやったように人混みの間を通り抜けてくる。

 

「いたいた! よっ、ルフレ。と…クロード?」

「よう。なんか用か?」

 

「いや、クロードにじゃあねえんだけどよ。ハンネマン先生が呼んでるぞって伝えてくれってリンハルトから頼まれててさ。自分で行きゃあいいのに」

 

「それで呼んでくれたんですね。ありがとうございます。でもベレトさんは金鹿の教室の方に行ってしまったんですよね」

「えーっ!? …ん? いや、行き先はハッキリしてるしいいか。じゃあ伝えたからな!」

 

 物凄く簡潔に話が終わり、カスパルさんはもう一度人混みを抜けて走っていった。

 

「んじゃ、俺もそろそろ行くかな。一日中涙が止まらない薬の調合がまだなんだよ。その次は三日間鼻水が止まらなくなる薬を作らなきゃいけないしな。じゃ、またな、ルフレ」

「ええ、また。 …え? え、なんか凄いもの作ってませんか?」

 

 私が聞き返すよりも早く、クロードさんは姿を消した。地味に嫌なものを作っている……。

 

 

 ……一通り訓練が終わったのか、各学級の生徒も各々の場所へ戻っていっていた。

 後は疎らに生徒が残っている程度だ。私もハンネマンさんの下へ向かうべく、訓練場の扉に手をかけた。

 

 

 

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