【全25話】出海ルートに気付かないポンコツ英梨々 前哨戦 作:きりぼー
投稿前に修正しているのですが、気が付けば年を越してました。
まさかこんなに冴えカノの負けヒロインに人生を費やすことになるとは・・・
・・・おかげで楽しいよ(マテ
「どうした美智留・・・その恰好」
「えっ?変」
「いや、変じゃねーけど」
俺を迎えにきた美智留が、アイボリーカラーの可愛いPコートを着ていた。いつも革ジャンやGジャンのような短めのジャンパーを羽織るだけのあの美智留がだ。
「やっぱりいつものGジャンにする」
「いやいや、それで大丈夫だ。大丈夫。可愛い。うん」
「そう?ヘヘヘッ」
変な笑い方をして照れている。美智留にもこんな側面があることに驚いた。
今日はこれから美智留と一緒に波島家に遊びに行く。おそらく今年最後だ。俺としては前回負けたブロックスのゲームで雪辱したかったし、勉強をがんばっている出海ちゃんのことも気になっていた。
美智留は伊織とはアドレス交換していたが、まだまだ2人で会うような段階ではないようだ。とはいえだいぶ意識しているのはPコートを見てもわかる。
2人で並んで伊織の家へと向かう。
俺も別にファッションセンスに優れているわけでない・・・というか女子のファッションなどわからない。アイドルの制服の流行の方がまだ詳しいぐらいだ。
けれど、このPコートに対していつものジーンズにスニーカーというのがどうにも気になる・・・
下ももう少し女性らしい恰好をした方がいいと思うが、もしかしてスカートすらもっていないのかもしれない。そして高そうなPコートを着ていることからも、予算の分配ができなかったのだろう。
あえて指摘しないのが優しさなのか、俺が金を少し貸して、何か見繕ってやる方がいいのだろうか・・・
「で、伊織とはどうなんだよ?」
「へへへっ」
「・・・」
気持ち悪い笑い方だ。いつも豪快に笑うくせに、照れるとこんな笑い方するのか。ここは修正すべきだろうか。いや、まぁいいや。
「えっと、音楽の話が中心でさ。いろいろ教えてもらってるよ」
「例えば?」
「ドント セイ レディ?とか」
「ほう、じゃあ、君達の知らない物語とかもか?」
「そうそう、トモも良く知ってるね」
「いい曲だろ?」
「うんうん、なんかカッコいいし」
「そっかそっか。よかった」
俺が薦める曲は「どうせオタクの曲でしょ」と聴きしなかったくせに、伊織から薦めらて有名なアニソンを聴いてるとは・・・たぶんアニソンと言われていないのだろう。
「あと洋楽とか」
「それはビートルズみたいな古典か?」
「・・・うん。トモ、よくわかるね」
「ああ、なんとなくな」
アニソンだけでなく、他のジャンルの名曲を混ぜて薦めるあたりが、いかにも伊織らしい。「僕、音楽詳しいんだよね」ということを暗に示して、女子からの好感度を得るようなやつだ。
俺としては、「お前、伊織に騙されているぞ!」と教えてやりたい気がするが、なんだか嫉妬しているようで嫌だった。それに美智留がアニソンを学ぶならそれはそれで歓迎だ。こいつ、アニメってだけで毛嫌いするからな。俺をオタクとバカにするわりには、俺とよく遊ぶくせに。
美智留と音楽の話をしながら歩いたが、少し深くなると俺にはさっぱりわからない。音楽を分析する感覚が無理だ。いいなと思うことがあっても、なぜそれがいいのか説明はできない。普通はそうじゃないかと思うが・・・「疾走感あふれるサビから始まるじゃん?」みたいに言われると、まぁそうかな?とは思う。
「そうそう、トモ。ギター弾いてみた」
「ピック使った?」
「うん。まだまだコード覚えているところだけど」
「・・・コード?エレキやるのか?」
「ん?」
「配線必要なんだろ?」
「えっと、トモそれ・・・真顔でボケてる?」
「いや?」
「コードって、ほら、コード進行のコード」
「なんの話してるんだ?」
「ギター」
「ちょっとまってろ」
話が会わないので、ギター・コードで検索してみてやっとわかった。どの弦を抑えるかで和音ができるらしい。
「なるほど、ドレミファソラシドじゃねーんだな・・・」
「常識じゃん」
「そっか・・・すまん」
なんか、美智留にすごーくさりげなくマウントを取られた気がする。まぁいい、音楽でぐらい美智留に花を持たせてやらないとな。
「何か弾けるようになったら教えてくれ」
「もちろん。でも、アニソンは弾かないから」
「ああ、かまわん。そうだな、さっきの『Don't Say LADY』でも弾けるようなったら歌ってくれればいい」
「OK」
美智留ってバカだよな・・・と思いつつも、天才というのはこういう偏ったやつなのかもしれない。
そうこうしているうちに伊織の家についた。手土産は4つの和菓子だ。家のチャイムを押す前に美智留が髪の毛をいじっている。ほんと、こんな風に女の子になっていくんだな・・・と妙な感想を抱いてしまう。
ドタドタと音がして、玄関のドアが開いた。出海ちゃんだ。カラフルな虹色模様のセーターを着ている。下はベージュのロングスカートだった。
「倫也先輩、いらっしゃい!・・・と氷堂先輩もようこそ」
「どうもー、出海ちゃん。先日はご馳走様ねー」
「お粗末様でした」
「おい、美智留・・・さりげなく今・・・おまけ扱いされてたぞ」
「倫也先輩。そんなことないですって、来るってうかがってなかったので、失礼しました」
「いいよ。別に事実だろうし。気にしないー気にしないー」
「美智留。寛大だな・・・」
「寒いので中にどうぞ」
出海ちゃんに案内されてリビングに移動する。テーブルの上にはテキストとノートが広がっていて、勉強をしていたようだ。
「これ、和菓子だけどどうぞ」
「ありがとうございます。いただきます」
出海ちゃんはキッチンに移動してお茶の用意をしてくれている。気が利く子だ。俺と美智留はイスに座った。美智留はあたりをキョロキョロとしている。
「どうした?」
「伊織ちゃんはどうしたのかなと思って」
「ああ、お兄ちゃんならデートに行ったみたいですよ」
「だってさ」
パキッ、コキン・・・
美智留が右の指を鳴らした。表情は変わらないが一瞬固まった気がする。
「でも、もうそろそろ帰ってくると思いますけど。倫也先輩と約束していたんですよね?」
「うん。美智留が来ることも伝えておいたけどな」
「ランチを食べてから、戻ってくるんじゃないですかね?」
時刻は14時前だった。俺としては伊織がいてもいなくてもいい。出海ちゃんと2人だと気まずいから美智留を連れてきている。
出海ちゃんが緑茶の入った湯呑をテーブルに置いていく。それから和菓子の簡易包装を開けた。中には4種類の和菓子が入っている。出海ちゃんが道明寺をとり、美智留が栗饅頭、俺は大福をとった。残りの芋羊羹は伊織に残しておく。
少し沈黙しながら和菓子を食べた。なかなか共通の話題が難しいところだ。
「倫也先輩にいただいたゲームですけど、少しプレイさせていただきました」
「どうだった?」
「ゲームって感じじゃないですよね?映画というか・・・本というか・・・」
「アドベンチャー型は通称紙芝居ゲーって呼ばれているから、そうかもしれない」
「でも、話に引き込まれて面白いですよ。絵もとてもきれいだし、声優の声もかっこいいですし」
「そう、それはよかった。誰か、攻略できた?」
「いや、まだですけど・・・なんか迷いますよね、普通はあんなにモテないですし」
「はははっ」
「倫也。出海ちゃんに何のゲーム贈ったの?」
「リトラブ2っていう、有名な乙女ゲーだよ」
「うわぁ・・・オタクゲー?」
「まっ、偏見でいうならそうなるんだろうな」
実は偏見もなにも、腐女子ご用達の金字塔みたいなオタクゲーだ。
「美智留先輩はこのゲームをプレイしたことないんですか?」
「ないよー。あたしはオタク文化反対派だから」
「どうしてです?」
「トモをまっとうな世界に戻すのが使命だから」
「まっとう?」
「そうそう。このトモはね、せっかくのお金を全部オタクグッズにつぎ込んじゃうんだ。二次元の世界に閉じこもってしまったら、もったいないしー」
「・・・?何がもったいないんです?」
「何って、青春?」
「青春・・・って、美智留。言ってて恥ずかしくないか?」
「恥ずかしくはないよ。事実じゃん。あたしたちみたいにこれから青春時代を迎える若者が、家の中に閉じこもってゲームやマンガばかり読んでたらもったいないじゃん」
「それは人の自由だろ?外で遊ぶのがそんなにえらいのかよ」
「そうは言ってないよ。でも、友達を作ったりとか、みんなででかけて思い出を作ったりとか、部活に汗を流して大会を目標にするとか、そういうのって大事じゃん?」
「オタクでも友達はできるし、ネット上で集まって作品作るような思い出もあるし、コミュケに出店するなんていう目標だってあるだろ?」
「でも、それはオタクじゃん」
もはや、美智留のオタク批判も病的だな。ロジックになっていない。こいつがなぜオタク文化をここまで毛嫌いするのか・・・
「あの・・・2人とも落ち着いてください」
「ああ出海ちゃん。大丈夫。トモとこういうのはいつものことだから」
「そそ、ケンカじゃないから」
「仲いいんですね」
「仲がいいというか・・・従姉妹だしな。子供頃から一緒だから兄妹みたいなもんだ」
「出海ちゃんはどう思う?オタク文化」
「私は別にそんな風に別れていると思えないです。マンガを読むのも好きですし、アニメも見ますし」
「マンガならあたしも読むよー」
「なら、何がいけないんです?」
「そのマンガに出てくる美少女のポスター部屋に貼ったり、フィギュア買ってきて部屋に飾ったりするんだよ?そういうのって気持ち悪くない?」
「別に・・・というか、お兄ちゃんがそんな感じなんで」
「それ、トモの悪影響でしょ」
とんだとばっちりが来たもんだ。なぜそうなる?伊織がオタクだとは思わないのか。いや、でもあいつの場合はすごく守備範囲が広く、その中にオタク文化もあるという感じなのかもしれない。音楽についても詳しいようだし。
「っていうか、お前なんでそんなにオタクを毛嫌いするんだよ?何も迷惑かかってないだろ」
「そうだけど、そうでもないよー。昔はトモはいつも遊んでくれたのに、だんだん遊んでくれなくなったし、オタクになってからじゃん。距離ができるようになったのって」
「いつの話だよ・・・俺は小学生の時からずっとマンガとかアニメが好きなんだが?」
「違うよトモ」
「なんでわかるんだよ」
「小学生の時にだんだんとオタク文化にのめりこんでいったんだよー。澤村ちゃんと仲良くなり初めてからー・・・って・・・あっ、ごめん」
「美智留・・・」
ふと、固まって出海ちゃんの方を見たが、きょとんとしている。
「まぁ、なんか誤解がありそうだな。今度、ゆっくり話合うか・・・」
「そ・・・そうしようか。トモ」
「あの、倫也先輩。美智留先輩」
「なんでしょう?」
「澤村ちゃんって誰ですか?」
こんなくだらない会話にもちゃんと耳を傾けて、えらい子だな~とのんきな感想を述べている場合じゃない。英梨々のことは黙っておきたい。いろいろと面倒なことに波及しかねない。
その時、玄関のドアが開いた。伊織が帰ってきたようだ。
「いやぁ、遅くなってすまないね。ようこそ倫也君。そして氷堂さん」
「こんちわー。お邪魔してまーす」
「伊織、お前、さっそく浮気がバレてるぞ」
「浮気?何のことだい?」
「デートしてきたんだろ?」
「デート?確かに女子とは会ってきたけれど、デートと言えるのかな」
「女子と会ったらデートだろ」
「でも、女子2人だし、1人は彼氏がいるようだし」
「どんなシチュエーションだよ・・・」
まったく、モテるやつの行動はさっぱりわからん。伊織は気にしない様子でお茶をいれて、同じテーブルに座った。
「伊織ちゃん、これ和菓子のお土産。さっきみんなで食べちゃったから芋羊羹しか残ってないけど」
「芋羊羹好きだし、嬉しいよ。ありがとう、氷堂さん」
さりげないなんだよな。目を見てしっかりと挨拶をする。名前を呼ぶ。それでいて親し気ということもなく、距離感もある。
「金出したの俺だけどな」
「そうかい?ありがとう。倫也君。いただくよ?」
「・・・ああ。食え」
男に対しても態度があまり変わらない。余裕というか、不敵というか・・・
「お兄ちゃん、女子相手に何してきたの?」
「相談。1人が彼氏出来立てで、年末年始の過ごし方とか、服装のこととかきかれてね。買い物に付き合ってきたのさ」
「ふーん」
「それって、もう一人が伊織ちゃんに興味があるんじゃないのー?」
「そうかもしれないね」
「ああ!もう、伊織のその態度!なんでそんなに余裕なんだよ」
「どうしたんだい?倫也君」
「伊織のことを好きかもしれない子なんだろ?だったら、あんまり気の有るそぶりをみせるべきじゃないだろ?」
「僕は相談されたから、自分ができる範囲で答えてあげただけさ。何が問題あるんだい?」
「で、相手がますますお前のことを好きなったらどうするんだよ?」
「どうもしないさ」
「どうもしないって、おまえ・・・」
「倫也君は少し固すぎるのさ、それはそれで魅力だと僕は思うけど」
「ああ、そうかよ」
「そうだよ。トモは少し固すぎる時がある!」
「美智留!?お前、どっちの味方だよ」
「どっちの味方?って今、そういう話だった?別に相談されたから相談に乗っただけならいいんじゃないの?」
「ああ、そうかよ・・・お前がそれでいいなら、俺もそれでいいよ」
「はははっ」
だめだ、伊織は機転の利くいいやつだけど、こと女に対する考え方がぜんぜん違う。相手が傷ついたらどうするんだって考えていない。いつも周りにたくさんの女子がいて、モテるからそういうことはわからないのかもしれない。
・・・俺もよくわからねぇけど。ただのモテる男への嫉妬だったか。
「お兄ちゃん、話変わるけど、部屋に確かアニメポスターとか、美少女フィギュアとかあったよね?」
「あるよ」
「ほら、氷堂先輩、お兄ちゃんもあるって。お兄ちゃんもオタクなんじゃないかな」
「いったい、何の話だい?」
「氷堂先輩が倫也先輩をオタクだっていうから、だったらお兄ちゃんもオタクだって話」
「ふーん。それの何がいけないのかわからないけど、氷堂さんは気になるのかい?」
「うんうん。オタクがいけないというか、トモがオタク文化に入り込みすぎてて懸念しているんだけど」
「彼はまっすぐで隠さないからね。普通は確かに少し抵抗があるのかもしれない。よかったら部屋を見てみるかい?」
「いいの?」
そういうわけで、4人で伊織の部屋に移動した。部屋に入るときに出海ちゃんが「私もはいっていい?」と聞いたのが印象的だった。兄妹でもそんなものなのかもしれない。
部屋は物が多い割りにすっきりしていた。黒のパイプベットは高く、下に服がかけてあり、衣装ケースも収納されている。天井まである大きな本棚は様々な本がぎっしり入っていた。ラノベやマンガも厳選されたものだけが飾られていた。シェイクスピア、ヘミングウィイ、ゲーテなどの海外作家の本。漱石や三島などの文豪の本もあれば、SFの金字塔的作品や映画化された恋愛小説もある。広範囲のジャンルは流石だ。
ミニコンポがあり、CDも多数そろえてあった。こちらは美智留が興味深そうにしゃがんで見ている。クラシック、POP、洋楽、アニソンとこちらもジャンルが広い。
壁にはアニメポスターが確かに貼ってあったが、俺が貼っているような美少女がアップで描いてあるようなものでなく、絵画風のイラストで景色が多めのオシャレなものだ。ちゃんと額にはいっているし、大きさも手ごろ。
フィギュアはコンポの上に、有名なロボットが2体と、魔装少女が1体。ぜんぜん違和感がなく、部屋に調和している。
ゆるふわ系のぬいぐるみが部屋の隅に座っていて、机の上は参考書などの他に、オシャレな天秤や砂時計が飾ってあった。
ぽんっと美智留が俺の肩に手を置いた。
「ねっ、トモ。これが理想的な男子の部屋のあり方」
「それ、お前の理想なだけじゃね?」
「だからさー、トモの部屋みたいにオタク全開じゃダメなんだってばー。わからない?」
「わかんねぇな」
悔しいがわからんでもない。確かにオシャレでかっこいい。少し知的な感じもするし、オタク色も強くない。
「すまないが、部屋は狭いので4人は座れないな」
「ああ、俺は戻るよ」
「えっー」
「美智留は少しの残っていいぞ。俺は出海ちゃんと勉強してくる」
「すみません。倫也先輩お願いします」
俺と出海ちゃんは伊織の部屋から出て行った。美智留の目的が伊織である以上は2人でいるのがいいだろう。邪魔するのは野暮だ。
それから、休憩をいれつつ17時のチャイムが鳴るまで、勉強をみていた。
※ ※ ※
帰り道。美智留は浮かない顔をしていた。
「どうだった?」
「うん。楽しかったー」
「よかったな」
「ただ家の中だから・・・」
「せっかくコート買ったのにな」
「・・・うん」
女の子がオシャレをした時はやっぱり褒めてもらいたいものなのだろう。家の中ではコートは脱いでいたし、帰りも玄関まで見送りにきたのは出海ちゃんだけだった。
「美智留。今度会うのは初詣だよな?」
「たぶん」
「なら、外だからその時でいいだろ」
「別に焦ってないけどさー」
「ついでに言っておくが、そのPコートに合わせて下も選んだ方がいいぞ」
「やっぱりそう思う?トモでそう思うなら、買うかー」
「お年玉もはいるしな」
「エレキも欲しいんだけど」
「中古でいいんじゃねーか?」
「中古でも高いよ」
「ふむ・・・」
美智留が頭の後ろに手を組みながら、足をまっすぐ伸ばしながら歩いている。その歩き方はオシャレなコートを着てすることじゃないだろう。
「トモ、澤村ちゃんこと、口を滑らしてごめん。内緒だったっけ?」
「俺が頼んだのは、波島家のことを英梨々に内緒にしてくれってことだ」
「出海ちゃんのことでしょ?」
「まぁそうだな」
「あんまり浮気に協力したくないなー」
「別に浮気じゃないだろ・・・」
「じゃあ、何で隠すのさー」
「クリスマス会に参加できなかったからな・・・余計な理由は付け加えたくなかったんだよ」
「ふーん。でもさ、トモが伊織ちゃんに怒ったことって、むしろトモにあてはまるよね」
「何がだよ」
「気のない人と一緒にいるのは失礼だろって話」
「ん?」
「トモが出海ちゃんに勉強教えたり、クリスマスを一緒に過ごすのってさ・・・」
「ちょっとまて美智留。相手はまだ小学生だぞ?」
「でも、出海ちゃんもトモに懐いているじゃん。嫌いなら勉強なんて教えてもらわないでしょ」
「塾も通っているようだけど、大変なんだろ。かなり高度な勉強しているからな」
「ふーん。じゃ、せめて出海ちゃんに、トモには澤村ちゃんがいることをちゃんと伝えた方がいいんじゃないのー」
「英梨々は関係ないだろ・・・そもそも英梨々がいるってなんだよ・・・」
「それもずるい気がするけどー」
やれやれ、女の考えていることはやっぱり理解しがたいな。俺と英梨々の関係なんて、趣味が同じの幼馴染なだけだ。英梨々のことを秘密にしているのは、英梨々が昔、オタク疑惑で(疑惑じゃねーけど)いじめの対象になってしまったからだ。俺と交流しているとオタクと勘違いされる。だから、秘密なだけだ。
「あのな・・・出海ちゃんに話すということは、伊織にもわかるだろ?」
「それで?」
「伊織にわかったらクラス中にもわかってしまうかもしれないだろ?」
「それで?」
「英梨々がオタク趣味なのは秘密なんだよ。昔、いじめにあってしまったから」
「それはなんとなく知っているけどさー」
「それだけだよ」
「それって、澤村ちゃんがいじめられないように、トモがかばってるつもり?」
「かばってるつもりはねーよ。ただ、そうなんだからしょうがねーだろ」
「澤村ちゃんと秘密を共有して、2人でいたいだけなんじゃないの?」
「なんでそうなる!?」
「だって、トモがだんだんオタクになったのって、澤村ちゃんの影響でしょ」
英梨々の影響というか、澤村家の影響は大きいかもしれない。大量のマンガもあるし、アニメやラノベも豊富だ。もちろん、英梨々と共通の話題になることもあったが・・・別に英梨々と仲良くしたいから、オタクになったわけじゃない。
「俺がオタクなのは、俺がオタク趣味が好きなのと・・・」
「好きなのと?」
「・・・なんでもねぇよ。とにかく内緒にしておいてくれ。頼む」
「まっ、いいけど」
いじめから解放された英梨々が、オタク趣味が悪いとネガティブに思って欲しくなかったからだ。英梨々を守りたいわけじゃないけど、俺が正々堂々とオタク発言することで、自分たちが間違っていないことを証明したかった。
俺はさらにオタクとして小学生の時にいじめられた時期もあるけれど、そんなのは一時的でみんなだってアニメやマンガは大好きだった。
理解してくれる友達だってできた。
ただ、英梨々とは表立ってオタク趣味を共有することができなくなっただけだ。そうしたくてそうなったわけじゃない。
美智留は同じ学校にいなかったから、そういうことまではわからないだけだ。
家に着いた。玄関の扉を開けて中へと入る。美智留がぽつりと呟いた。
「恋なんて難しいね。苦手だな~」
「はっ?お前何言ってんの?」
「あたしの恋も、トモの恋も前途多難だなと思って」
靴もそろえずに脱ぎ捨てて、美智留が洗面所に向かっていった。恋ねぇ・・・。俺が英梨々に?実感わかないな。ましてや小学生の出海ちゃん相手に恋心などあろうはずもない。
その時に頭に浮かんだのは、クリスマス会の時に英梨々と一緒にいた金髪の男のことだった。名前はなんだっけ・・・ウィルって英梨々がいってたな。
どんな関係なんだろう?聞くチャンスを逃して、英梨々との関係はよくわからないままだ。
(続く)
原作ではあまり触れられていない、倫也がなぜオタクなのか?
ということに理由付けをしてみた。
オタクだけど陰キャじゃない倫也。バイト掛け持ちするし、ハイコミュニケーションできるし、人をまとめる力もある。
もちろんそれは、一つの理想なのだろうけど、根底には英梨々の好きなことを守りたい・・・みたいのがあったら、そりゃ惚れるよね。
本年もよろしくお願いします。