【全25話】出海ルートに気付かないポンコツ英梨々 前哨戦   作:きりぼー

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あけましておめでとうございます。
本年もよろしくです。



11 冬コミュケを楽しめない倫也

 明日の冬コミュケを前に、俺は英梨々と言い争いをしていた。一方的に俺が悪いし、苦しい言い訳みたいなものだった。

 

「あんたバカなの?並びたいって何よ」

「だからさ、コミュケに並ぶのって、それもイベントの一つだろ?整然と並ぶ様子がテレビに映るし、海外でも報道されたんだぞ?」

「で?」

「冬コミュケという年を締めくくる大イベントはさ、俺たち参加者が一丸となって盛り上げるからいいわけで・・・」

「別に出店者側だって、盛り上げるのに一役かっていると思うけど?」

「それはまぁそうなんだがな・・・」

 

 実は前日になって、伊織にコミュケに行くことを誘われてしまった。もちろん、俺は英梨々と行く約束・・・というか、行くことが当たり前になっていた。

 

 英梨々の両親は「エゴスティック・リリィ」の創設者であり、老舗同人サークルだ。そして今ではコミュケの運営にも携わっている。

 そういうわけで、俺も英梨々も「出品者パス」によって、来客よりも先に会場入りすることができていた。

 

「でもさ、伊織が行ってみたいっていうしさ、断り切れなかったんだよ」

「いよいよ、BLルートまっしぐらね」

「そうじゃねーよ。確かにあいつは大切なオタク友達かもしれないけどさ、俺だって一度は断ろうと思ったんだよ。『先約があって、一緒には行けない』ってさ」

「それで?」

「そこで『誰と行くのか?』を聞かれても困るだろ」

「そんなの適当なこと言っておけばいいじゃない」

「俺、嘘が下手なんだよ。それに1人で行くっていうのも、変な断り方だろ?」

「まぁ、そうかもしれないわね」

「なっ、だからあいつを連れていくのはやむなしなんだ」

「わかったわよ。別に好きにすればいいじゃない。じゃあ、パスは渡さないからね」

「ああ、しょうがねぇな・・・」

「で、何時に行くのかしら?始発にでも乗って並ばないと一番乗りなんてできないわよ」

「今調べているんだけどな・・・12時回れば空きはじめるみたいなんだよな。10時すぎからのんびりいこうかと」

「あんた、さっき並ぶのが醍醐味みたいなこと偉そうに語ってたわよね?」

「伊織となんか並びたくねーよ」

「だったら、断ればいいじゃない」

「ああ、もう。OKしちゃったんだからしょうがないよねぇ!?」

「何、開きなおってるのよ。バカ」

 

 伊織は来るらしいが、出海ちゃんが来るかどうかはわからない。出海ちゃんは別にオタク文化を美智留みたいに敬遠しているわけではないが、率先してコミュケに参加するほど熱量があるわけでもない。

 誘えば来るかもしれないが、飛び級のための試験も近く勉強は忙しいようだ。俺から「出海ちゃんは来るのか?」などと尋ねたら、まるで来てほしいみたいになってしまうし、もちろんそんなことは聞けない。

 

 だいたい、出海ちゃんが参加したら参加したで、英梨々とバッティングしてしまわないか気をつかいそうだ・・・

 

 俺としては楽しみにしていた冬コミュケだったが、波島家のからみもあって気が少し重かった。

 

※ ※ ※

 

 当日。駅で伊織と待ち合わせをした。さすがに伊織がいるとはいえ美智留は来なかった。もはやコミュケなどはオタクの巣窟で、美智留からすると犯罪者が集まっているように思えるらしい。俺もあえて誤解を解く気もしない。趣味はひとそれぞれだし、万人に認められる必要もないだろう。

 

「出海ちゃんは?」

「呼んだ方が良かったかい?勉強をしているよ」

「いや、いい。がんばってるなぁ」

 

 電車に乗りながら、今日の予定を確認する。時刻は9時で、現地に着く頃には10時を回っていて開場されている。おそらく入場するのに1時間以上は列に並ぶことになる。俺は伊織を連れていくといったものの、並ぶのは実は初めてで、よくわかっていない。

 

 伊織は準備万端で、開場へのルートやコツなどのをプリントアウトしてきていた。こういうマメさは見習うべきところだと思う。

 

 会場の最寄り駅からもう混んでいた。コスプレをしている人もちらほらといる。カラフルなかつらをしているので一般人と違うことはすぐにわかった。

 伊織はキョロキョロとして興味深そうに見ていた。俺としては会場の限定品や人気の物販が売り切れてしまわないか気になっていて、それどころではない。

 

 会場に着いて列に並びはじめた。とりあえずほっとする。俺たちの前に並んでいるのが女子の4人グループのようで、高校生ぐらいだろうか。同じ服のコスプレをしていた。人気アニメの制服で、コスプレデビューしやすい服装だ。さっきから、周りを気にせず高い声で話をして盛り上がっていた。

 

 並んでいる間、スマホをいじって時間をつぶす。しばらくネトゲのデイリーミッションをクリアしたり、コミュケの状況を検索したりしていたが、ふと気が付くと伊織が前の4人と仲良く話をしている。

 

 コスプレを褒める事からはじまり、そのアニメから話題を広げていったようだ。なんという軽やかな話術。同世代からはイケメンの伊織も、高校生ぐらいから「カワイイ」らしい。伊織の対応もそつがない。

 

 時々、笑い声が聞こえてくる。俺はそれを無視ししていた。伊織が話に夢中のようなので、その間に英梨々のLINEに着いたことを連絡しておくが、既読はつかなかった。英梨々はもう会場内にいて見て回っているだろう。

 

 英梨々1人なのは心配だが子供の頃から来ているし、迷子の心配はさすがにない。効率良くブースを回って商品を購入できているか気になるところだが、今さらどうこうできない。

 

 俺たちが会場内に入ったのは、11時半を過ぎた頃だ。ここからが本番だ。

 

「じゃ、またね~」

「あとでね~」

 

 伊織がニコニコと愛想をふりまいて、女子4人組と手をふって別れた。

 

「伊織、別に仲良くなったなら、あいつらと一緒に回ってもいいんだぞ?俺は1人でも気楽だし」

「つれないね。別に特別仲良くなったわけじゃないさ。で、倫也君はどこから回るんだい?」

「そうだな・・・まずはロボットコーナーからだな」

「了解。じゃあ、こっちだね」

「えっと・・・ああ、そうだな」

 

 すでに会場内のMAPが頭に入っているらしい。本当はギャルーゲーや人気美少女アニメの同人コーナーに行きたいが、まだまだ混んでいるだろう。ここはまず、ロボットコーナーでアイテムを集めておきたい。

 

 2人でブース内を歩いているが、すでに完売の札が出ているところもあった。やはり人気商品は開場と同時でないとゲットしにくく、時間との勝負だ。

 英梨々と来ていた時は、開場よりも前に回れたので、事前予約がこっそりできたり、先に販売してくれたりしたものだ。その特権はやはり大きい。

 

 伊織は男女問わず、出店者に話かけている。笑顔を絶やさずに情報を聞き出すのは上手で、まるで諜報員みたいだった。もっとも本物のスパイなんて知らないが。

 

 ロボットコーナーのはずれに、女性が出品しているコーナーがあった。何も男の向けのかっこいい商品だけがならんでいるわけでない。ディフォルメされた絵や、アクセサリーなどもある。登場するヒロインキャラはいるわけで、それらの同人誌まであった。

 伊織はそのサークルとの話が盛り上がっているので、俺は1人でブースを後にした。めぼしい商品がなかったのか、俺のテンションが低いせいかわからないが、何も買わなかった。

 

 スマホを確認すると、英梨々の既読はついていたが返信はなかった。俺は上のフロアにあがって開場を見下ろす、が広いし人も多すぎてとてもじゃないが英梨々を探すことなんてできなかった。

 

 普通のショッピングセンター程度なら、英梨々の金髪ツインテールは目立つが、今日はコスプレしている人も多く、金髪は特別なものでない。それに英梨々は目だたないように深めの帽子をかぶっているはずだ。

 

 再度、今どこにいるかを問い合わせたが既読はすぐにはつかない。

 

 トイレに行って、ベンチに座ってジュースを飲む。伊織から連絡があったが、「どうやらはぐれたようだし、しばらく別々に行動しよう」と提案しておいた。俺がいる必要性をまったく感じなかった。

 

 伊織はオタク趣味も好きそうだが、どうもそれを出汁に女の子と仲良くするようなところがある。俺はそれが気に入らなかった。

 

<「倫也、どこ?」

>「上のフロアで休憩してる 英梨々は?」

<「あたしは、第二会場のフロア1 企業ブースの隣当たり」

>「んじゃ、少し顔出す」

<「いいわよ来なくて。伊織も一緒でしょ」

>「いや、あいつはそこら中でナンパしているよ」

<「伊織らしいわね」

 

 メッセージをうちつつ俺は移動する。英梨々の返信はいつもより遅い。企業ブースの隣のコーナーでは、大手のメジャーアニメ関係の出品者が集まっている。一般人向けで申請し販売許可が降りた商品だけが扱われている。暗黙のグレーなところとは違っていた。もちろんR18もない。

 

 会場に着いたが、英梨々は小さいのでさっぱり見つからない。なんとなく金髪を目で追ってしまう・・・

 

「あっ、あいつだ・・・」

 

 クリスマス会で英梨々と一緒にいた男だ。身長もあるし、綺麗な金髪はカツラとはまったく違って輝いている。

 

 まさかと思って近くを探したら、英梨々がいた。茶色い地味な帽子を深くかぶって、ご丁寧にマスクまでしているが、あれは英梨々だ。

 

 声をかけようと思ったが、どうやらあの男と一緒のようだ。時々会話をしている。なるほどそういうことか、「来なくていいわよ」ってそういうことか。

 

 それならしょうがない。声をかける気もおきない。しょうがないから、そろそろ空きはじめている人気のブースに移動した。

 

 会場はまだまだ混んでいる。人、人、人。いつもここで英梨々と人の間を縫うように移動して、商品をGETしたものだ。

 でも今はなんだか見る気もしない。あんなに魅力的だった同人誌やポスターに興味がわかなかった。

 

 疲れているのかもしれない。

 

 俺は溜息をついてブースを後にした。大きく貼られた全体MAPを眺めるが、他に興味のわくものがなかった。そのまま流れにのって会場の外に出た。

 冬の空気が冷たいが、少し熱い中よりは気持ちがよかった。

 

 駅に着いたところで、伊織に体調が悪いから先に帰る事を伝えた。伊織は心配しているが、気にしなくていいから好きなだけゆっくりと過ごせと返信しておく。

 

<「あんたどこにいるのよ?」

>「電車」

<「はい?なんで?」

>「悪りぃ、調子悪いから先帰る」

<「大丈夫なの?」

>「ああ問題ない」

<「波島伊織は一緒かしら」

>「いや、あいつは置いてきた。とにかく気にしなくていいから、じゃあな」

<「何かあったらいいなさいよ」

 

 英梨々からさらに連絡がきたが、別に何もないから返信はしなかった。

 

 家に着いたが時刻は14時にもなっていない。昼食をとってないので、何か食べようかと思ったが腹も空いてなかった。リビングのソファーにコートを置いて、どかりと座った。何か考えなければいけないことがある気がするが、何もする気が起きなった。

 

 ぼんやりとすごす。

 

 しばらくすると、ピンポーンとインターホンが鳴った。配達かな?と思ったがインターホンには出海ちゃんが映っていた。何事だろう?玄関の扉を開ける。

 

「倫也先輩」

「どうしたの?出海ちゃん」

「お兄ちゃんから連絡があって、倫也先輩の具合が悪いって」

 

 出海ちゃんは、外は寒いのに青色のフリースだけでコートを着ていなかった。息が少し弾んでいる。

 

「よくここがわかったね」

「住所も送られてきましたから。えっと、これ・・・」

 

 コンビニの袋を手渡された。中にはパンと栄養ドリンクが入っている。

 

「大丈夫なのに」

「お大事になさってください!では、失礼します」

 

 出海ちゃんが大きく頭をぺこりと下げた。えっと、こういう時はどうすればいいんだ?家に上げてお茶でも飲んでもらった方がいいのか?いやいや小学生だし。

 

「出海ちゃんは・・・今日のコミュケとか興味なかった?」

「いえ・・・ただ、兄と一緒だと疲れそうなので遠慮しておきました」

「ああ・・・すごくわかる・・・」

 

 目を合わせて、はははっと2人で笑ってしまった。

 

「倫也先輩に来年連れて行ってもらっていいですか?」と出海ちゃんが聞いてきたので、俺は話の流れから断ることもできずに、「うん」とだけ返事をした。

 

 出海ちゃんが手を振りながら走り去っていくのを見送り、俺は家の中へと戻った。

 

 二階の部屋に上がり、出海ちゃんからもらったメロンパンをかじり、栄養ドリンクを飲んだ。

 本当は楽しい一日になるはずだった。なんだかとても疲れているのは、夜遅くまでアニメを見て過ごしてしまったからかもしれない。

 

 ベッドに突っ伏して、俺は毛布を頭からかぶった。目を閉じると睡魔はすぐ傍まで来ていたようだ。

 

※ ※ ※

 

 つんつん・・・

 

 つんつん・・・

 

 何かが俺の頬を優しくつついている・・・

 

「英梨々か・・・」

 

 目を開けると、ベッドに腰をかけている英梨々がいた。右手で俺をいじって遊んでいる。左手には菓子パンをもって食べている。

 

「パンもらったわよ」

「今、何時だ・・・?」

「3時」

「まだ、そんな時間か・・・」

 

 俺は微睡から目を覚まして、体を起こした。英梨々がチョコデニッシュにかじりついている。出海ちゃんが買ってきた菓子パンだった。

 

「どう、体調は?」

「別に悪くねぇって。ちょっと寝不足だったかもしれないけど」

「そう、なら良かったわね」

「あれ、コミュケはどうした?」

「切り上げて戻ってきたのよ。べ・・・別にあんたが心配だったわけじゃないんだからねっ!」

「ツンデレ乙」

「・・・まったく」

 

 どうやら英梨々も戻ってきてしまったようだ。コミュケは16時まで開催している。いつも時間が足らないぐらいなのに・・・

 俺は大きなあくびを一つして、トイレに起き上がった。ついでに紅茶をマグカップに用意した。

 

 部屋に戻ると、英梨々がテーブルの上に買ってきたものを並べていた。

 

「ほれ、紅茶」

「ありがと」

「・・・あれ?これ、お前の?」

「違うわよ。倫也が遅れてくるってわかっているから、良さげなものを抑えておいたの。いらなかったら、あとでメリュカリで売るから」

「ああ、そういうことか・・・」

「いいでしょ。じゃーん」

 

 英梨々がプラモデルを一つを手に持った。ロボットアニメとして不動の人気を誇るガンダミュシリーズ。その初期の敵のザッグだった。

 

「その塗装!アニメに見えるやつか」

「そそ、上手よね」

 

 俺も作るのが大好きだが、コミュケに出店する人にはセミプロみたいな人も多く、完成した作品を販売している人もいる。

 この塗装は、アニメのように見えるという変わった塗装で、注目を浴びているものだ。英梨々も不思議に思っていたし制作動画なども一緒に見ていた。

 

「いいなっ!」

「12800円」

「高いなっ!」

「だって、限定品だし、この出品者は〇〇の作品なのよ?」

「まじかっ」

 

 有名な制作者だった。12800円なら転売して十分な利益が出るだろう。

 

「抽選の景品だったみたいだけど、開場前にお願いしたら譲ってくれたわ」

「英梨々パワー使ったのか」

「ふふふっ、美少女特権よね」

「世の中の敵だな」

「いらないなら、いいわよ」

「いります。でもな」

「お金ないんでしょ」

「うん」

「お年玉までは待つわよ」

「ああ、そうしてくれるとありがたい」

「そして、次がこれ!じゃーん」

 

 英梨々がまたプラモを一つもった。なんだこれ・・・?空間に穴が開いたかのように持っているものが真っ暗だった。

 

「あっ・・・これが噂の黒色無双のやつか?」

「そうみたい。本物初めて見たけど、すごいわよね。映像のトリックかと思ったけど」

 

 英梨々が立ち上がって、テレビの上にプラモを置いた。そこだけ空間が塗りつぶされたように真っ黒になって、立体にはみえない。輪郭からしておそらくはZガンダミュに違いない。かっこいいフォルムで人気の機体だ。

 

「すごいな・・・ほんとにこんなに真っ黒なんだな」

「ふふん。お値段なんと・・・5000円!」

「安いな。原価割れしてね?」

「ほぼ趣味なんでしょうけどね、塗装は単色だから楽みたいよ」

「ああ、そうか」

「けっこうな数が販売されていたけど、売れていたわよ」

「ああ、俺が着いた時にはみかけなかったな」

「欲しい?」

「欲しいけど、もう予算がなっ」

「じゃ、メリュカリ行きね」

「まっ・・・待ってくれ・・・」

「少しの間、うちに置いておくわよ。他も選びなさいよ」

「ああ、うん・・・」

 

 机の上には、クリアファイルやキーフォルダーなどの小物が多かった。どれもオリジナルで作りが細かくて出来がいいものばかりだ。

 

「マンガは明日、配送で届くわ。あたしが持って帰ってきたのはこれだけね」

「ありがと。英梨々」

「別にお土産じゃないわよ。だいたい一つ500円でいいわ」

「金とるのかよ」

「メリュカリでもいいわよ」

「ああ、ちょっと待ってくれ・・・」

「けっこう、いいところ買ってきたでしょ?」

「そうだな!諦めていただけに困るぐらいだ」

「せいぜい悩みなさい」

 

 英梨々が嬉しそうに笑って、紅茶の入ったマグカップを持ってベッドに座った。俺は商品をチェックしていく。手作りのアクリル板キーホルダーは出来栄えの良し悪しがある。これはどれも上手にできていた。英梨々が一つずつ選んだのかもしれない。

 

「英梨々は何か買わなかったのか?」

「あたしも買ったわよ。ぜんぶ配送にしちゃったけど」

「ちゃんと買えたか?」

「ええ。なんで?」

「いや買えたならいいんだ。俺なんかいなくても平気なんだな」

「何回あの開場に行っていると思っているのよ。コツもわかってるし・・・」

「なら、心配することもなかったな」

「心配してたの?」

「一応な」

 

 英梨々がずずずっと紅茶をすすった。

 

 英梨々は金髪ツインテールに黄色いリボンをしている。ベージュのタートルネックのセーターに、下は白いフレアスカートに白いタイツだった。

 ふと、俺は英梨々をまじまじと見てしまった。ずっとお互いに子供だと思っていたにもう中学生だ。

 

 英梨々は小柄で、まだまだ胸はつるぺたで(ずっとかもしれないが)、小学生でも通じるだろう。何しろ早生まれなのだから。あと少し遅く生まれていたらまだ小学6年生だ。

 

「だったら倫也」

「うん?」

「来年はうまく断りなさいよ」

「ああ、言われなくても伊織とは・・・」

「何よ?言葉につまって」

「いや、もう伊織とはいかねぇーよ。あいつも俺を誘わないと思うぞ」

「あんたたち喧嘩でもしたの?」

「いや。ただ合わないだけだ」

「そう。敵は作らない方がいいわよ」

「わかってる」

 

 英梨々がマグカップをテーブルに置いて、リモコンを操作し始めた。録画されているアニメはたくさんある。

 そのうちの一つを英梨々は選んで再生を押した。別に見たいわけじゃないと思う。

 

「俺、ちょっと棚を整理しながらみるから」

「たまには掃除もしなさいよ」

「ついでに拭き掃除ぐらいするよ」

 

 デスクの後ろがフィギュアを飾ってある棚だ。ケースになっていないのでけっこう埃が溜まってしまう。俺はザッグを飾るためのスペースを作り、そこをアルコールティッシュで拭いた。

 

 TVからは陽気なアニソンが流れている。英梨々はそれを眺めながら、両手をベッドに置き、行儀悪く足を組んだ。白いタイツのつま先をゆらゆらと揺らしている。

 

 英梨々はまだまだ子供に見える。俺だって小さいからそうなのかもしれない。

 

 今日は特別な日で、大事な冬コミュケだ。本来ならまだ会場内を忙しく歩き回っているはずだった。なのに俺のせいで台無しにしてしまい、こうしていつものように退屈そうに過ごしている。

 

 俺は英梨々の座った。ベッドが少し沈む。

 

英梨々がこちらを見て眉をひそめ、「もう少し丁寧に掃除しなさいよ」と言った。

 

 

「今は、お前の隣に座っていたい気分なんだよ」

 

 

 なんてセリフはもちろん言えない。お礼も、謝罪もできない。だいたい一番肝心な英梨々に聞きたいことは、何一つ聞けないままだった。

 

(続く)




この倫也は重症ですね・・・
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