【全25話】出海ルートに気付かないポンコツ英梨々 前哨戦 作:きりぼー
うぐっ・・・何か重苦しさを感じで目が覚めると、英梨々が俺の腹の当たりを枕にして寝ていた。天窓からは外が明るくなっているのが見える。空は薄い水色に澄んでいた。
寝返りをうって、英梨々をできるだけ起こさないように外し、それから寝袋のチャックを開けて起きた上がった。家の中だけど寒い。最弱で床暖房をつけているとは思えないぐらいの冷え込みだった。雪の中に閉ざされた別荘なので当然といえば当然だけど、水道まで凍てつく寒さは東京とは別物だ。
梯子を降りて、床暖房の温度をもう少しあげておく。時刻は7時を回ったところだ。もう少しゆっくり寝ていたかった。トイレを済ませ、顔と手を洗う。水が冷たい、痛いぐらいに冷たい。
正月早々、俺と英梨々には仕事がある。仕事といっても無償だけど・・・それはおせち料理を仕上げることだ。個別に包装されたものを取説にしたがって盛り付けるだけなのだが、湯煎するものもある。
キッチンでお湯を沸かしつつ、音を立てないように1人で黙々と作業を進めていた。
「ガタガタとうるさいと思ったら、倫也じゃないの。何よこんなに朝早くに」
「おはよ」
「おふぁよ・・・」
英梨々がアクビしながら返事をした。長い髪が寝ぐせでくねっていた。そのまま洗面所に行ったので、俺はコーヒーマシーンに粉をセットしてスイッチをいれた。お節の方はだいたい完成した。後は英梨々が飾りつけや盛り付けを直すだろう。
「だいたい、うちの親なんて起きてくるの10時過ぎでしょ、今、何時よ」
「8時過ぎたあたりだな」
「焦らなくても、これすぐ終わるでしょ」
「でも一時間ぐらいかかったぞ」
「2人でやるから楽しいのに」
「ふむ・・・まだ完成してないから」
英梨々が黒豆やかまぼこなどの余ったものをつまんで食べている。
「味はまぁまぁね」
「お節なんてそんなに変わらねぇだろ?」
「あんたも食べればわかるでしょ。今年はデパートのだから」
英梨々が盛り付けを直し、飾りつけをしているので、俺も余った料理をいくつか口にした。
「・・・旨いけどな・・・」
「なんか不服そうね」
「いや、去年の味なんて覚えてないな」
「そんなもんよね。去年は老舗日本料理屋の特注だったのに、味はたいしたことなかったわよね」
「そうだったけなぁ・・・」
飾りつけを終えた英梨々は、お重に蓋をしてテーブルの上に置いた。それから切り餅を袋から取り出して、適当な数をオーブントースターに並べた。
粉末タイプのお吸い物をお椀にいれて湯を注いでいる。
コーヒーが沸いたので俺はマグカップに半分ほどいれ、ミルクと砂糖もたっぷりいれた。
「あんた、何作ってんのよ」
「ミルクコーヒー」
「はぁ?バカなの?お正月になんでコーヒー淹れるのよ。まずはお雑煮でしょ」
「それは料理だろ?飲み物は別だろ」
「だったらせめて、日本茶にしなさいよ」
「じゃあ、俺が二杯飲むから、英梨々は好きなの飲めよ」
「別に飲まないなんて言ってないわよ」
「あのなぁ・・・」
英梨々がカップを両手でもって、ミルクコーヒーを立ちながら飲んでいる。ミルクが冷たかったので温度がぬるくてちょうどいい。
そのうち、モーニングコーヒーでブラックを飲むようになるのかもしれないが、今は2人とも甘くした方が美味しく飲める。
トースターの餅が膨らみ始めると、英梨々がスイッチをオフにして、余熱で熱が通るのを待つ。それから、こたつとテレビのスイッチを入れて、つまらなそうにチャンネルを回して正月特番を確認してから、初詣の中継にして音を消した。
俺はテーブルに座ってコーヒーを飲みながら英梨々がお雑煮を作るのを待っていたが、英梨々は焼きあがった餅をさっき作ったお吸い物に入れると、割り箸を添えて俺の前に置いた。
「だよなぁ・・・」
「何がよ?」
「普通、小松菜ぐらい入れるよな」
「いれたきゃいれなさいよ。冷蔵庫に入ってるでしょ」
そういいながら割り箸でお餅を刺して焼け具合を確認している。少し笑っているところみるに、上手くできたようだ。さてはお餅の焼き方の動画を見たな。
「小松菜切ってくるけど、英梨々はいるか?」
「いる」
「いるなら、最初から・・・いや、いいや」
「何よ、言いたいことあるなら言いなさいよ」
「うーん」
別に口論する気はない。俺は小松菜を冷蔵庫から出して、冷たい水で洗い、ラップをして電子レンジでチンをした。それを一束ずつ、俺と英梨々のお椀に移した。
「普通、包丁で切るわよね?」
「普通はお雑煮に最初から入っているんだよ」
「倫也って封建的よね。女子が台所にたってお雑煮を作るものだと思っているんだわ」
「話のすり替えも甚だしいが、女子よりも先に起きて台所に立ってたよね」
「それ、お雑煮関係ないじゃない」
「ああ、ああ言えばこう言う!」
「ふん」
文句言いながら、英梨々が丸ごと小松菜をかじっている。こういうことにはこだわりがないんだな。
なんだか熟年の夫婦みたいなくだらない口喧嘩を正月早々してしまったので、ここは関係を修復しておこう。
「英梨々」
「何よ」
「そのパジャマ。とても似合ってるぞ」
「それって、あたしが子供っぽいってことかしら?」
「うーん。概ねあっているな」
「バカにしてるでしょ?あたしだって小学生の時のままのパジャマなんて着たくないわよ。でも、ここでしか着ないから生地が傷んでないし、まだまだ着れそうなのよね」
「一生着れるんじゃね?」
「・・・倫也?」
「いやごめん。英梨々がぜんぜん成長してないっていいたいわけじゃないんだ」
「あんた、人のこと洗濯板とか言って、正月早々喧嘩売ってんのかしら?」
「そんなこと一言も言ってないよねぇ!?」
「言わんとすることは一緒でしょ」
「ソンナコトナイヨ」
おかしい。ぜんぜん仲良くできない。なんでだろう。
「ああ、もしかしてお節を俺が作ったこと、ちょっと怒ってる?」
「それ、あたしが最初に言ったわよね?」
「ごめん」
「わかればいいのよ。それにしても倫也」
英梨々が俺をじっと見ている。
「松茸吸いのお雑煮とミルクコーヒー、合わないわよ」
「だな・・・」
「もう少し考えなさいよ」
「けど、英梨々。松茸吸いで作るのもどうかと思うぞ・・・」
「ほんとよね」
餅を噛んで伸ばしている。英梨々は、料理はしないが味覚音痴ではない。いろいろと味にはうるさいし、いいものを食っているので食には詳しい方だと思う。しかし、それを作る時のセンスは欠けているようだ。
「アニメだと激マズ料理作るのも定番ネタだよな」
「これにチョコシロップでもいれてみようかしら?」
「方向性はそんな感じなんだろうけど、あの紫色の煙がでる料理にはならんだろ」
「そりゃそうよね」
英梨々が立ち上がってキッチンに向かった。まさか本当にチョコシロップを持ってくるのかと思ったら、余ったお節を皿に並べてもってきた。
それを2人で箸でつつきながら食べる。味は悪くないが、別に美味くて感動するようなものでもない。
「そういえば倫也。話し戻すけど、さっきあたしの機嫌をとろうとしたわよね?」
「ああ、失敗したけどな」
「ほら、もう一回チャンスあげるわよ」
「いや、もう諦めたから・・・」
「根性ないわね」
「正月早々にそんなにツンツンしなくていいだろ」
「こういう性格なだけなんですけどー」
「ごめんなさい」
とりあえずテーブルにおでこをつけて謝っておこう。
「もういいわよ」
英梨々が食べ終えて、食器をキッチンに運んだ。俺も適当に食べ終える。英梨々が洗面所に行き身支度を始めたので、俺が洗い物を軽くすませた。
今日の予定は・・・特にない。そういうわけで例年、庭で雪を使って一日中遊ぶことになる。体も大きくなり、年々やれることが多くなっている。スコップを使ってまずは雪集めからだ。
英梨々が洗面所から出てきた時には着替えも終わっていた。上下黄色のスキーウェアだ。髪もそれに合わせて黄色いリボンをしている。厚めの手袋を手にもって準備万端といった感じだ。俺も慌てて着替える。
「倫也。今回は雪像に挑戦するわよ」
「せつぞー?」
「ほら、札幌雪祭りで報道されているじゃない。雪で作った彫刻よ」
「ああ、あれって・・・できるのか?」
英梨々が鞄から紙を一枚取り出して俺に渡した。そこにはイメージ図が描いてあるが・・・
「なんだこれ、顔か?」
「そう、カマクラを顔にして、口を入口にして」
「なんかキモいな・・・」
「それがいいのよ」
「でも、こんなにリアルな顔よりも、もうちょい・・・猫の顔みたいなコミカルな方がカワイイと思うけど」
「バカね。このリアリティーのある顔がいいのよ」
「まぁいいや・・・でも、高さがけっこう必要だよな」
「1メートル半もあればいいと思うけど」
「ふぅ・・・わかった」
2人で足音に気を付けて階段を降りていく、英梨々の両親はまだ寝ているからだ。玄関で長靴を履いて外へと出る。
外は寒いが天気は穏やかで、風がそんなに吹いていない。雪も降らず、空には薄い雲がなびいている。
裏手に周り、物置小屋から大きなスコップを二つ取り出す。一つは雪かき用の平べったいもので、もう一つは園芸用の土を掘るものだ。園芸用は金属でやや重たい。
土が出ない程度に雪を周りから庭の中央へと集めていく。英梨々がそれをさらに積み上げていった。
夢中になって雪を集めていると、家の窓が開き、小百合さんが顔を出し英梨々を呼んだ。俺も駆け寄って新年の挨拶を述べる。食事についての相談だったが、英梨々はすでに食べたことを伝え、お昼は適当でいいとだけ答えた。
「英梨々、雪は足りそう?もう少しよそから集めてこようか?」
「いいわよあるだけで。ちょっと中が狭くなりそうだけど」
「じゃあ、休憩」
長靴を脱いで家に上がる。中は床暖房が付いているので暖かい。俺と英梨々は運動しているようなものなので熱いぐらいだった。玄関先で上着を脱いで2階へと上がる。
スペンサーのおじさんも小百合さんもワインを飲んでいた。ボトルの形からして高いワインだと思うが、一年に一回の贅沢なのだろう。
「あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとう。今年もよろしくな」
「こちらこそ、いつもお世話になってます」
「そうだ小百合。忘れないうちに渡しちゃいなさい」
「忘れるわけないじゃない・・・」
小百合さんがバックから、お年玉袋を取り出した。
「いつも英梨々と遊んでくれてありがとうね」
「はい!ありがとうございます!」
深く頭を下げて受け取る。そして自分の鞄のところまで戻り、お年玉をしまった。次に親から預かった英梨々の分のお年玉を取り出した。
「こちらは母から預かった英梨々の分です」
「あら、ありがとう」
「倫也、あたしに渡しなさいよ」
「俺は、英梨々の親に渡すように言われたからな」
「はい、英梨々」
「ありがと」
英梨々が受け取って、鞄にしまった。
英梨々が鞄にしまっている間、スペンサーのおじさんから手招きをされ、俺が近づくと、さっと手を出して俺の手の中にお札を一枚握らせる。これもまぁ毎年のことだ。
「男は好きな女の前では見栄を張らないとダメだ」
「はい」
何を言っているのか、意味はよくわからないがありがたく受け取らせてもらっている。こちらも鞄にしまった。お年玉袋に入っていないのが面白い。
小百合さんがホットはちみつレモンを作ってくれたので、俺と英梨々はそれをもって下へと降りた。飲みながら庭を眺めて、英梨々がイメージを口にする。俺は雪を集めるがかりだ。
集めた雪の山を固めてみたが、人が入れるぐらいの顔の大きさにはならなかった。高さが足らない。鎌倉みいたいに雪山ならできるけれど、縦に高く雪を積むのはむずかしかった。小さなシャベルを使って英梨々が雪の彫像を掘り始めたので、俺は敷地の外からはさらに雪を集めて、適当な大きさの雪だるまを作り始める。
しばらくすると、英梨々が、「なんかイメージとぜんぜん違うわね・・・」といって、巨大な顔を腕組みしながら眺めている。
「あー。そうだな・・・」
「難しいわね」
「氷ならまた別だろうけどな」
「なんか、のっぺりしているのよね」
「雪だるまをいくつか作ったから、こいつらに顔を彫ってやれば?」
「そうね」
英梨々は不服のようだ。そもそも美術が得意といっても、絵画の方であって立体制作は別なのだろう。これも例年のことだ。
雪だるまに個性的な顔を彫刻して、1人でケラケラと笑っている英梨々は楽しそうに見える。一つ一つは大した作品ではないが、巨大な顔の彫像と、それを取り囲んだ怪しい雪だるま群をみると、何かの儀式をしているようにも見え、なかなか壮観だった。
気が付くと、空は曇っていて雪がちらちらと振り始めてきた。俺も雪だるま制作をやめて英梨々を見ていたせいか、だんだんと寒くなってきた。時間もけっこう立っていたので腹も減ってくる。
英梨々が写真を撮り終え、2人で部屋に戻っていった。すっかり体が冷えていた。
※ ※ ※
「倫也君。・・・ボクはね、1人の父親としてこれでも悩んでいるのさ。わかるかい?」
俺は返事をせずにスペンサーおじさんの話に耳を傾ける。
「そろそろ年頃の娘になってきた。果たして同世代の男の子といつまでも一緒に寝かせていいのだろうか?とね」
でもって、今は2人でサウナに入っている。ここは別荘の近くのホテルで日帰り温泉が楽しめる。男同士の裸の付き合いってことになるのだろうか。
「ぜんぜん心配はしていないんだけどね。ただまったくの放置も親としてどうかとおもっていて」
「えっと、俺のことを心配されてます?」
「心配はしていないさ。ただそろそろ引き離す時期かもしれないなと・・・。わかるだろ?」」
「はぁ・・・まぁ。そうかもしれませんね」
俺に直接言われても困る。というか夜に俺のところに英梨々が泊りにきていることを言っているのだろうか。サウナには他の人はいない。声がじんわりと響く。
「けど、そんなものを一時的に切り離したところで、無駄だとボクは思うのさ。そんなことしようと思ったらいくらでもできるだろうし、いちいち親が介入してもしょうがないだろ?」
「そんなことってなんですか?」
「そりゃ、男女の営みのことさ。君も・・・もう13だろ。英梨々だってもうすぐ13歳だ。そろそろそういうことを意識し始める年ごろなんじゃないかと思ってね」
「はぁ・・・まぁ、そうですけど、せんぜん心配はいらないですよ」
スペンサーのおっさんからは酒の匂いがする。短い距離とはいえ飲酒運転をしてホテルまできている。もっとも別荘地は私有地であり問題はないが、最後に少しだけ公道にでている。
でもって、俺はいったいなんの話をされているんだろう。サウナが熱い・・・
「ボクがフランソワちゃんと出会ったのは・・・14の時だった」
うおっ!?なんか始まった。ぶっちゃけスペンサーのおじさんは酔うと勝手にしゃべる人で相槌もいらないぐらいだ。
「フランソワちゃんは巻き毛のカワイイ子でね。ボクの一つ年上で・・・」
フランソワの話はなんどか聞いた気がするが、すぐに忘れてしまう。スペンサーのおじさんの初恋の相手らしい。
俺はそろそろ出たいな・・・と思いつつもタイミングがつかめない。スペンサーのおじさんはぜんぜん大丈夫なようで、サウナが良く似合っている。話はまどろんでいて俺の耳には届かない。
「初めての時は風車小屋の中でね」
「フランソワちゃんとヤったんですか!?」
思わず突っ込んでしまった。もっと淡い初恋の話だと思っていた。旅行先で出会っただけの関係だと思っていたのに・・・
「はしたない表現だね。誓った愛を確かめあったといってもらいたいね」
「はあ・・・そうですか」
「だから、ボクも父親としてね・・・」
その後もスペンサーのおじさんは何かを話していたが・・・俺はツッコミをいれたあたりでのぼせてしまったようだ。
※ ※ ※
「倫也~」
涼しい風が顔に当たる。パタパタと団扇を仰ぐ音がしていた。目を開けると紺色の浴衣を来た英梨々が隣にいる。
「あっ、英梨々・・・」
「大丈夫?はい、お水」
「ども・・・」
俺は寝ころんだまま体を横にして、ペットボトルの水を飲んだ。
「あんたのぼせてしまって大変だったのよ。救急車いらないかしら?」
「ああ、平気だと思う・・・ここ、ホテルか?」
「そうよ。ちょっとまってなさいね」
英梨々が立ち上がってどこかへ行ってしまった。俺は赤いソファーに横になっていた。まだ頭がぼんやりとしている。
英梨々が戻ってきて、開いているスペースに座った。髪は風呂上りなのでストレートだ。蛍光灯のあかりでキラキラと光っている。和装はあまり似合わないかもしれない。胸はペタンコで、何か人形みたいに見える。
「救急車は断ってきたわよ。まったくなんで無理したのよ」
「ああ、スペンサーのおじさんとサウナで話し込んでしまって・・・」
「パパは酔うと話が長いのよ。ほんと迷惑な話よね」
少し気持ちが落ち着いてきた。俺は起き上がって英梨々の隣に腰をかけた。
「で、パパはどんな話をしていたのよ?」
「えっと・・・なんだっけな。英梨々が年頃だから、なんだとか・・・一緒に寝ちゃダメだみたいな話」
「なによそれ。バカみたい」
「いや、怒ってなかったぞ、フランソワの話をまたしててな・・・」
「ふーん」
英梨々が怪訝そうな顔で俺を見ている。別に俺が言ったわけじゃない。そもそも、スペンサーのおじさんが俺に注意を与えたわけでもなかった気がする。
※ ※ ※
夕食はホテルで豪華な中華料理を食べ、また別荘へ戻ってきた。スペンサーのおじさんと小百合さんは下のフロアにいる。俺と英梨々はアニメ映画を見ながら、のんびりと過ごしていた。
「ふぁあ・・・あ」と英梨々が大きなあくびをした。早起きしすぎたのかもしれないが、雪遊びでけっこう体力をつかったし、長風呂にはいって、沢山食べたので眠くなるのも仕方なかった。
「あたしは何も言われてないけど」
「何が?」
「寝る場所よ。あたしが倫也のいる上にいったことを言われたのよね?」
「いや・・・そんな感じじゃなかったと思うけど・・・」
「はっきりしなさいよ」
「いや、俺にいわれても!?父親として年頃の娘を・・・みたいな感じだったけど、本人にきいてきたら?」
「それだと、あたしが倫也に言われたみたいになっちゃうでしょ」
「うーん・・・ただの酔っ払いの話じゃないか・・・」
「気になるから、ママに確認してくるわ」
英梨々が下へと降りて行った。俺はその間に歯を磨いて寝る準備をはじめた。そろそろ眠い。
しばらくして、英梨々が戻ってくると、顔をひきつらせている。
「どうした?」
「うちの親、頭おかしいわ」
ふむ。まぁエロ同人作家だしな。まともでないだろう。うすうすは知っていた。
「で、なんだって?」
「『したければすればいいし、子供ができたら産めばいいのよ』ですって、それが12歳の親のセリフかしらね!?」
「さすがだなぁ・・・」
「感心している場合じゃないでしょ。で、どうするのよ」
「何が」
「寝る場所」
「どうするも何も、俺はいつものロフトで寝るよ」
「はぁ?あんたずるいわね。そうやって責任をすべてあたしに押し付けるのね」
「なんでだよ・・・」
英梨々がぷりぷりと怒って、洗面所に行ってしまった。歯磨きしている音が聞こえる。だいたい、俺にどうしろというのだ。
その後、英梨々はなにもしゃべらずに持ってきたアニメのDVDを見ていた。眠そうにあくびをして、ときどきうつらうつらしている。それなら、もう寝てしまえばいいのに。
「英梨々、無理して起きててもしょうがないだろ。そろそろ寝ろよ」
「・・・寝る場所ないもん」
「なんで!?」
「・・・いいわよ。バカ倫也。ちょっとあんたついてきなさいよ」
英梨々がTVを消しスマホをもって立ち上がった。部屋の電気を消すと真っ暗になる。スマホを電灯代わりにして、下へと降りていく。
「俺も?」
「もう静かにしなさいよ・・・両親寝ているんだから」
「・・・」
英梨々は下に降りて寝室の扉を開けて灯りを付けた。大きなダブルベットがおいてある。ふかふかの羽毛布団が暖かそうで豪華だ。ここが英梨々の寝室で、間の仕切りの向こうには両親が寝ている。
英梨々がベッドサイドランプをつけ、部屋の灯りを消した。俺は入口でぼんやりと立ったままだ。英梨々が入口のドアを閉める。
「なんだよ・・・」
「しぃ・・・・」と口元に指を当てている、意味がわからん。
英梨々が布団をめくって、ベッドの上にあがった。それから手招きをしている。ベッドは十分に広いので、小柄な俺たちなら十分に眠るスペースはある。でも、それはまずかろう・・・何がまずいって・・・何がまずいのだ!?
英梨々がニヤニヤしながら手招きしている。俺は立ち尽くしたままだ。眉間に皺を寄せて睨んできたので、俺はそばまで行った。
「ほら、早くベッドにはいりなさいよ」
「あのなぁ・・・」
「あんたやましいことでもあるのかしら?」
「ねぇよ」
「倫也、声でかい。もう少し静かにしゃべりなさいよ」
英梨々は上手に耳元でささやいた。
俺はベッドにあがって布団にはいる。柔らかいベッドで俺には少し寝にくいかもしれない。
「おやすみ倫也」
「ああ・・・うん・・・」
英梨々がサイドランプの光を弱にした。ほとんどが暗闇になる。それからベッドに横になって目をつむった。
俺はそれを見下ろすように座ったまま見ていた。とても可愛い顔立ちをしている。ケロッピさえかぶってなければ、童話の眠り姫みたいにみえたと思う。
しょうがないので、俺はベッドで横になった。英梨々とは十分に距離が離れている。大丈夫、何も問題はない。
しばらく目を閉じたが俺は眠れなかった。いや、ここで眠れるわけがない。
英梨々の方を見ると微かな灯りの中に横たわったままだ。英梨々もまだ起きているに違いない。なぜなら英梨々は寝相が悪いからだ。
俺はこっそりと布団から抜け出し、扉を静かに開けた。振り返っても英梨々はベッドの上に寝たままだ。本当に寝ているのかもしれない・・・
2階に戻ってロフトにあがり寝袋の中に体を入れた。ここの方が寝心地は良くないがそれでもほっとする。俺と英梨々が同じベッドで寝るのは無理だ。
ぎゅっと目をつむって、何も考えないようにした。やがて考え事がとりとめもなくなって、夢のようになる。そろそろ眠りに落ちる頃だ・・・
少し興奮していた自分を知っている。バカげた話だ。昔はこんなことなかったのに。
(続く)
出海ルートだから・・・