【全25話】出海ルートに気付かないポンコツ英梨々 前哨戦 作:きりぼー
恵は始めてお節作りに挑戦した。母親が姉の嫁入り修行の名目でいろいろ買ってきたのだが、宏美は「えっ~めんどくさい。デパートのでいいじゃん」と見向きもしない。
そこで恵が「教えて欲しい」と言ったので、母の隣でお節料理を習っている。元々料理をすることは好きだったし、それに年末には特にやることもなかったのだ。
母の曖昧なレシピは、スマホで料理サイトを調べて補完する。ずいぶんと張り切っていろいろな種類を作ったので、父が物置にしまってあった総漆のお重を探し出してきた。
その三段重に恵が盛り付けていく。途中で飾り細工やら、バランやら、ミニカップなどが欲しくなって、100均までなんどか足を運んだ。
「あら、恵上手ね・・・」
「そうかなぁ」
「十分よ。ねっ、あなた?」
父も興味があるようで隣で立って見ていた。恵としてはスマホの写真に近くなるように盛り付けていっただけだが・・・母にはこだわりにみえたようだ。
余ったお節料理を適当に皿に盛り付ける母のセンスは少し疑問に思うレベルだった。
※ ※ ※
年が明けてのお正月。宏美には初詣に行かないかと誘われたけど断った。どうせ彼氏も一緒で肩身が狭いのだ。家でのんびりしている方がいい。
恵は晴れ着を着るか聞かれたが断っている。着物を着てみたい気持ちと、めんどくさい気持ちがある。それにせっかくがんばって着付けても父が一生懸命写真を取るだけだし、草履をはいて初詣にいくのもしんどそうだった。
だから、起きてからは普段着を着ているだけだ。
パジャマのまま正月番組をぼんやり眺めている父が立ち上がって、冷蔵庫から瓶ビールを一本持ってきた。
「あなた、飲みすぎよ」
「いいじゃないか、正月ぐらい」
という、何かのテンプレのような会話を両親がしていた。父はさっきから皿に盛り付けてあるお節はつつくが、恵のつくったお重には手を付けなかった。
しょうがないので、恵は皿の方をいったん引き下げてラップして冷蔵庫にしまった。
「なんだか、もったいなくってな・・・」
という父の目には涙がうっすらと浮かんでいる。「大袈裟だなぁ」と呟きながら恵はビール瓶の栓を抜いて、父のグラスに注いだ。
綺麗に盛り付けられたお節料理を小皿に取り分けて父の前に置いた。父はグラスのビールをグイッと一口飲む。
テレビからは笑い声が聴こえてきていたが、父はクスリとも笑わずに割り箸でかまぼこをつまんで口に運んだ。
姉に彼氏が出来た頃から家族旅行はしなくなってしまった。姉が自由に遊びまわっているからといって、両親は恵だけ連れて旅行する気もないようだ。それは恵にもなんとなくわかる。
なんでもない忘れてしまうような平和なお正月を恵は過ごした。それは何か物足りなかったけれど、今はそれでいいのかもしれない。
(続く)
※出海ルートの物語のはず。