【全25話】出海ルートに気付かないポンコツ英梨々 前哨戦 作:きりぼー
「頼む英梨々。この通りだ」
「あんたねぇ・・・」
「バイト代が入らないと、予約したゲームの支払いに支障が出るんだよ」
「そんなの知らないわよ」
「そういわずに」
伝家の宝刀。土下座。無理難題が重なった時はこれに限る。まずは機嫌を損ねている英梨々に許してもらうのが先決だ。
24日のクリスマス会の準備には参加できる。バイト代5千円もでかい。ここはしっかりと抑えておきたい。
「それに25日なんだけどさ、遅くなるけどちゃんと参加するから」
「はぁ?別に参加してほしくなんてないんですけど?あたしは招待しているだけでしょ」
「いや、まぁそうだけどさ。でもさ、クリスマス会って18時からだろ?イベントが終わるのが20時で、だいたいいつも21時頃までダラダラ飲んでいるよな?」
「そうね」
「19時には間に合わすからさ・・・」
「またずいぶんと半端な時間ね」
「ほら、伊織のところのクリスマス会も夜だけどさ、少し早めに切り上げれば・・・」
「だから、別に無理しなくていいわよ?どうぞ、伊織とBLに目覚めればいいじゃない」
「そういうなよ・・・頼む」
ちなみに今は昼休み。場所は美術準備室で誰もいない。緊急時に英梨々と学校内で合う時に利用している。呼び出しはスマホだ。既読がつかなかったらどうしようかと思ったが、英梨々も気になっていたのだろう。
「ねぇ、倫也」
「はい」
「なんか隠し事してない?」
「シテナイヨ」
英梨々が蔑んだ目で俺を見下ろしている。
「なんでカタコトなのよ。怪しいわね。いいわよ。伊織に確認するから」
「いや、ちょっとまて英梨々。お前は少しポンコツなところがいいところだろ?」
「もう一度言ってみなさいよ」
「英梨々は寛容なところがいいところだろ?あんまり詮索なんてつまらないことするなよ」
「ますます怪しいわね」
「だいたい、お前と伊織が会っているところなんて目撃されたら、学校中に噂が広がるぞ」
「まぁそうね」
「なっ?必ず行くから」
「わかったよもう。それでいいわよ」
「さすが英梨々。男前」
「バカ」
ふぅ、これで一つ解決した。次は伊織になんとか早めてもらおう。
※ ※ ※
「それはできない相談だね。倫也君」
「やっぱり難しいか?」
「開始時刻の18時を終了時刻になるように前倒しだろ?いくらなんでも無理だろう」
「だよな」
「ダブルブッキングでもしたのかい?」
「いや・・・そうじゃないんだが・・・」
そうなるのか・・・
英梨々のクリスマス会に行くといってしまったからな。
「無理ならうちはキャンセルでもいいけど」
「いやいや、いっそ昼間にクリスマス会というわけにはいかないか?」
「うーん。出海がケーキを焼くからね、段取りからしてバタバタしているみたいだし」
「出海ちゃんケーキ焼くのかよ」
「うん。練習しているよ。スポンジが膨らまなにらしくて」
「そっか・・・イベント部分を前倒してにして、食事を18時から~みたいにできないか?」
「ちょっと考えてみるよ」
「頼む」
「それと、女子は誘えたかい?」
「はははっ、冗談だろ」
「うん。冗談さ」
伊織。基本的に頭の回転もいいし、気も回る。でも、人を食ったようなところがある。だいたい女子なんで自分で誘えばいくらでも集まるだろうに。
「でも、もしかしたら1人連れ行くかもしれない」
「ほう?」
「あまり期待しないでくれ、気まぐれなやつだからな」
「楽しみにしておくよ」
クリスマスみたいなイベントがあると、男子も女子もそわそわする。クルシミマスというぐらいだ。1人だとクリボッチなんていいかたも今じゃ普通だ。
従姉妹の美智留から、この間連絡があった。俺のクリスマスの予定を聞かれたのだ。どうやら中のいい友達に彼氏ができそうで浮ついているらしい。さすがに1人で過ごしたくない美智留が俺の予定を聞いてきた。
俺は友人のクリスマス会に参加すると伝え、なんなら美智留も参加していいぞと言っておいたのだ。英梨々の方へ参加するのはトラブルしか想像できないのが、伊織のところなら俺の顔も立っていい。
だいたい美智留はバカだが、容姿は美人といっていいだろう。若干ボーイッシュなところもあるが、最近では胸もでてきて女っぽくなってきている。社交性もあるし、音楽も得意だ。紹介して恥ずかしい女子ではない。・・・と思う。
そんな美智留は参加を即答せずに保留するあたりが、薄いプライドを感じる。そのあたりが俺からみるとまだまだ可愛いところなのが、もしかしたら美智留に彼氏が直前でできるかもしれないから、伊織には確定では約束はしなかった。
ダブルブッキングは・・・なんとかなるだろう。俺はあきらめた。19時に遅刻しても、英梨々だって1人ぼっちで過ごしているわけではない。にぎやかなホームパーティーにいるのだ。時間が経つは早いし謝れば許してもらえるはずだ。
※ ※ ※
学校から一度家に戻り着替えてから池袋まで出た。出海ちゃんへのクリスマスプレゼントを何か用意しないといけない。駅ビルのLoftやソニプラを見て回る。予算は1000円以下がいいだろう。無難に文房具あたりがいいだろうか。
一般向けの人気キャラの文房具セットの前で立ち止まって考える。これなら学校でも使うことができるだろう。さすがに深夜アニメ放送のキャラは自重したい。
いっそのことおすすめラノベでも贈りたいが、なにが無難なラインがわからない・・・
考えてみれば女子になんてプレゼントを買ったことがない。いやいや、英梨々は別だ。あれは女子であっても、腐女子でこっち側の人間だし。
英梨々へのプレゼントはもうずっと前に買ってある。英梨々は物に溢れているので、何を贈っても喜ばないだろう。あのプレゼントの山にチープな品が一つ混ざるだけだ。
だから俺は昔から英梨々には、小さなガラス細工を贈っている。今年はレッサーパンダを見つけた時に買っておいた。それが英梨々のお気に入りになるかどうかはわからない。俺の贈ったガラス細工は英梨々の部屋の小さなショーケースに並べてあって、毎年少しずつ増えている。
英梨々のことはいい。今は出海ちゃんだ。無地の文房具は実用的だけどさすがにクリスマスプレゼントにはできないだろう。俺はいろいろ回って、結局は最初に見つけた人気キャラの文房具セットを手にとった。
「ああ、これカワイイ~」
「ええ、そう?」
「これなんかもよくない?」
「それ男性向けじゃね?」
「まじ?」
店内はそこそこ混んでいるが、女子3人組がさっきからにぎやかだ。俺が見ていた文房具のところで会話をしているので、少し離れてみていた。何か参考になるかもしれない。
「こういうのもカワイイけどね」
「キャラものは低学年まででしょ」
「だよね」
「それに趣味に合わないものももらってもキツイし」
「捨てることもできず、使っちゃえばいいけど保存したままとか」
「あるある。もらいものとかだよね」
3人組だけど、しゃべっているのは主に2人で1人はついて回るだけの子のようだ。
でもって、俺の選んだものは低学年向けらしい。立ち聞きして良かった。あとで戻しておこう。
彼女たちもクリスマスプレゼントを選んでいるのだろうか。女子の会話のテンポがけっこう早いので聞き取れない。最後に一番しゃべれなかった子が、
「まぁ、好きな子にもらえるなら、なんでも嬉しいんだろうけど」
と呟いて会話が止まり、場所を移動していた。空気読まない毒舌の自覚があるのかないのか、ちょっと笑える。
どうやら、こういうオシャレな店で俺が出海ちゃんへのプレゼントを選ぶことに無理があったようだ。身の丈にあったものを選ぼうと思い、俺はアニメイトへ移動した。
オタクご用達アニメショップ。今年もクリスマス終了のお知らせしつつ、クリスマス商戦に参加している。店の中はアニメ作品のDVDやラノベ、マンガはもちろんのこと、グッズ化されたものも多数扱っている。
最初に目に留まったのがアニメキャラのピック。値段が微妙に高いが1000円はしない。こんな小さな三角形のプラスチックみたいのがなんでこの値段なのかわからないが、美智留にはこれにしておこう。あいつは起用でなんでもこなす。家にギターがあったし、ピックを渡しておけば弾き始めるかもしれない。
それに使わないなら使わないで別にいい。
英梨々の好きな『リトルラブ・ラプソディ2』のクリスマス限定グッズが置いてあった。その人気キャラのセルビスの新作ポスターも在庫がある。さらに限定版DVDも予約受付をしていた。
しょうがないので英梨々に電話をしてやる。
「もう買った」「持ってる」「予約した」
・・・俺の情報は古かったらしい。英梨々にあっさり言われてしまった。こんなやつに喜びそうなオタクグッズを用意するのは無理だろう。
「倫也、今どこにいるのよ?」
「池袋のアニメイト」
「そう、ちょっと待ってなさいよ」
「ん?」
「あたしも行くから。近くにマックで甘ったるい新作シェイクでも飲んでて」
「待っててやるから、注文ぐらい好きにさせろ」
英梨々が来るらしい。あいつ暇人だな。年末のコミュケに両親が出店するが、その手伝いも一段落したのかな。今の英梨々は小百合さんのアシスタンみたいな形でマンガを描いている。あっ、小百合さんというのは英梨々のママね。
店内を見て回ったが、出海ちゃん向けにしっくりくるものが見つからなかった。だいたい一般人にオタクグッズも難しい。いよいよ何買っていいかわからなくなってきた。
とりあえず英梨々も来るみたいだし、マックに移動してハンバーガーと新作シェイクを頼んで2階で待つ。その間、小5女子の喜びそうなもので検索したが、アパレル関係は理解できなし、クリスマス商戦の品がピックアップされていて、どれが本当に人気なのかわからなかった。
「待ったぁ?」
「いや、だいたい予想通りの時間だったよ」
「そう、で、そのシェイクどうだった?」
「甘ったるい」
「でしょ」
英梨々が来た。真っ白なダッフルコートに真っ白なマフラー。金髪ツインテールには深紅のリボンが結ってあって、そこだけ目立つ。英梨々らしい冬の装いだ。
俺の前に座った。英梨々が飲んでいるのはホットの紅茶だ。
「で、あんたなんでアニメイトに来ているのよ」
「ちょっとクリスマスプレゼントを探しにな」
「あたしの?」
「いや、英梨々のじゃないよ」
「だって、さっき確認してきたじゃない」
「あれはついでだ。いつもしてやってるだろ」
「ふーん。で、誰に・・・はっ!まさか・・・」
「なんだよ・・・?」
気づかれたか。
「あんた、波島に贈るんじゃないでしょうね!?」
「・・・ちげぇよ!」
「って、じゃあ、誰よ」
「いや、違わなくはないな・・・」
「いよいよBLルートに進むのね」
嘘はいっていない。波島に贈る。ただし、波島出海にだ。
「なぁ英梨々。一般人にお勧めのオタクグッズってある?」
「リトラブ2」
「迷いがねぇな!」
俺は英梨々の追及を話題を変えてかわした。
「だって、リトラブ2はゲームも秀逸だけど、マンガ化、アニメ化も成功しているし、一般人にも受け入れやすいわよね?コンビニクジもやったし」
「まぁそうだよな」
「とりあえず、マンガ一巻とか、ラノベ一巻とかならお試しでいいと思うけど」
「なるほど!参考になるな」
「で、倫也」
「どうした?」
英梨々がテーブルに両肘をついて手を組み、顎をのせて俺をじぃーと見ている。
「誰に贈るの?」
なんかするどいな。
「だから、波島にだな・・・」
「でも、波島ってオタクなんでしょ?リトラブぐらい知っているんじゃないの?」
「いや、波島の家にリトラブはなかったよ。だいたいリトラブって女子向けのコンテンツだろ」
「じゃあ、なんで波島に贈るのよ」
「いや、あの・・・そうだな」
やれやれ、ポンコツのくせに追及がするどいな。
「波島ってオタクだけど、男性向けのばかりなんだよ。ほら、俺は英梨々に教えてもらっているからジャンルが広いけどさ」
「ふーん」
「だから、せっかくだからリトラブ2にしてみるよ」
「まっ、いいけど」
ふぅ。英梨々が紅茶を口にした。対して美味くもない紅茶をストレートで飲んでいる。
「英梨々のそのリボンってさ、どこかに売ってるんだよな」
「リボンなんてそこら中で売ってるわよ」
「そうか?」
「そりゃ倫也じゃ、そういう店なんて知らないでしょうけど・・・300円均一の店なんかでも扱っているし、一流のブランドショップでも扱っているわよ」
「へぇ・・・」
「あんた、波島伊織にリボン贈るの?」
「贈らんわ!」
英梨々が笑っている。英梨々は自分のプレゼントでも探しにきたと勘違いしているのだろうか。
「案内してあげるわよ」
「えっ?ああ、うん」
マックを出て、駅ビルに2人で向かった。さっき廻った同じ駅ビルなのに、英梨々が入った店はぜんぜん違っていた。女子用グッズの集まった店があり、お手頃価格でアクセサリーを扱っている。英梨々はそれを手に取ってみている。
「英梨々のって全部高級品ってわけじゃないんだな」
「そりゃそうよ。友達と交換したり、あげたりするには低コストの方が都合がいいのよ」
「なんか理由が不純だな」
「女子間ではいろいろあるのよ・・・」
「そりゃ、大変だな」
俺も一緒にグッズを見て回るが、多種多様な商品の多さに圧倒され、まったくどれがいいのかわからない。ましてや出海ちゃんに贈るのに最適なものなど選べるはずもない。
英梨々にいえば適当なものを選んでくれるかもしれないが、まさかそんな藪蛇をつつくわけにもいかない。
フロアを変えて、ミドルクラスのブランドやハイクラスのブランドも見て回る。確かにリボンなども扱っていた。値段は数千円ものもあれば、万を越すものもあった。なかなか奥が深い。
俺たちはまだまだ子供なのに、客が多いのにショップ店員は英梨々にしっかりと接客をしている。俺は不思議に思ったが、どうやら相手は英梨々の顔を覚えているらしい。
買わずに店を出ていっても、頭を下げて見送っている。
「ねぇ、参考になった?」
「ああ、参考にならないことがわかったよ」
「なによそれ」
「だって、ぜんぜんわかんねぇもん。良し悪しが」
「そう?」
「でも、おかげで決まったよ」
「何が?」
「リトラブ2にする」
「あっそ」
英梨々があきれた顔で俺をみて溜息をついた。
アニメイトに移動して、廉価版のリトラブ2のゲームを買って、プレゼント包装してもらった。クリスマスカードはさすがにつけない。伊織にも何か買うかと思ったが予算オーバーをすでにしている。兄妹でプレイしてもらえばいいだろう。
「ありがとな」
「別にいいわよ」
「よし、お礼にガチャを一回おごってやろう」
「そうね」
「どれがいい?」
「それぐらい倫也が選びなさいよ」
「そうだな・・・」
俺はネコのキーホルダーのガチャを回した。開けずに英梨々にポンッとほって渡す。
「・・・ありがと」
「あたりだといいがな」
「あたりもはずれもないでしょ」
英梨々がカプセルをひねって開ける。カプセルを開けるときに力をいれているので八重歯がちらりと見えてかわいい。こんなことでちょっとだけテンションあがる英梨々はまだまだガキだな。
「結局ね、プレゼントなんでなんでもいいと思うわよ」
「高い出費だったんだが!?」
「あれは布教用としてあきらめなさいよ」
「まぁそうだな」
もしかして俺は英梨々の好きなリトラブの売上貢献に利用されたのだろうか。
「どう?」
「いいんじゃね?」
英梨々が三毛猫のキーホルダーを指でぶら下げて眺めている。300円の安物だ。それなりのものでしかない。
「プレゼントをもらうことが大事だし、それにね」
「それに?」
英梨々が淡いピンクのポシェットにキーボルダーを取り付けている。
「誰にもらったかの方が大事だと思うわよ」
英梨々はそういったけれど、それは英梨々が物に溢れているからじゃないかと俺は思ったが言わなかった。
「今日はありがとな。そろそろ帰るか」
「うん」
英梨々が嬉しそうにポシェットのネコを揺らして、笑顔でうなずいた。
(続く)