【全25話】出海ルートに気付かないポンコツ英梨々 前哨戦 作:きりぼー
入学式の日ha桜がだいぶ散っていたが良い天気だった。
英梨々は窓から帰っていく新入生を見下ろしている。学年の上がった新学期、俺と英梨々は同じクラスになった。ついでに伊織も一緒だ。
席決めが行われ、英梨々が一番後ろの窓側の大当たりを引いた。俺はその隣でまずまずといったところ。近いせいで英梨々とはなんども目が合うが、英梨々はすぐにそっぽを向く。学校ではこんな感じで会話も挨拶もしない。必要以上に他人行儀な感じを装っている。
隠し事をしているわけではない。ただ俺は自他ともに認めるオタクだし、英梨々が過去にいじめられた経緯からも、オタク仲間と疑われることを恐れている。
伊織は明るく、オタクの俺とも仲がいいし、運動部の陽キャ集団とも仲がいいし、女子グループとも親しい。伊織がいる限りはクラスにいじめは起きないだろうし、孤立する陰キャな生徒はいなくなる。一年の時はそうだった。
でも、英梨々はオタクであることを隠している。それでいいと思う。
女子の目線は前の方に座っている伊織に注がれ、男子は後ろを振り向いては英梨々を見ている。
ひさびさに英梨々と同じクラスになったが、英梨々がモテているという事実をみんなの目線から感じる。俺は知らん顔をしてラノベを読むだけだ。
席決めが終り、ざわついた状況が収まってきた。先生が順番に自己紹介をするように言った。
廊下側の前から挨拶をしていく。伊織は「楽しいクラスにしたい」という、当たり障りのないことを言っただけなのに、女子がざわついてる。
俺としてはせっかくの中二だし、何か面白いことでもしようと思ったけれど、おすすめラノベの紹介にとどめて無難に切り上げた。「キモッ」という女子の声がどこかで聴こえたが気にしない。いいたいやつには言わせておけばいい。
窓側の列になり前から順番に挨拶をしていくと、最後は英梨々になる。
英梨々が立ち上がるだけで、どこからともなく溜息が聞こえた。英梨々はツインテールを手で後ろに回し、口元に優し気な微笑みをいったんは浮かべてから。「澤村英梨々です。美術部に所属しています。よろしくお願いします」と言って座った。なんのひねりもない。
それから、先生の挨拶でしめくくり、解散になった。
何人かの生徒はすぐに教室を出て行ったが、まだ教室内に残って挨拶がてら雑談してるグループがみられた。伊織も俺の方へきて、「さっきのラノベの紹介は良かったよ」と言った。別に伊織に褒められたくて紹介したわけじゃない。俺はただ・・・オタク文化は隠すようなことじゃないと思っているだけだ。
伊織は帰り支度をしている英梨々をみて、「よろしくね、澤村さん」と声をかけた。
英梨々は手を止めて伊織を見上げている。少し驚いたようだ。「そう、よろしく」と答えている。あまり男子は英梨々に声をかけられない。何しろツンとしたまま声をかけずらくしているのが英梨々だ。神聖不可侵と言うべきかもしれない。
「澤村さ~ん。かえろ~」
振り返ると竹下がいた。小学生の同級で英梨々と仲がいい。「うん」と英梨々はうなずいて、俺の後ろを通りすぎていった。
「じゃあね」と伊織が声をかけたが、今度は無視をして女子と合流していた。そこで少し立ち話をしている。俺もそろそろ帰ろうと鞄をもって立ち上がったら・・・
「倫也せんぱ~い!」
と声がかかった。明るい元気な声だ。
声のする方を見ると、教室の後ろの扉から出海ちゃんが顔をのぞかして手を振っていた。
それからキョロキョロと周りをみてから、中にはいってきた。
「なんだか上級生の教室にはいるのって緊張しますね!」
「やぁ出海。待ってたのかい?」
「うん。お兄ちゃんと倫也先輩を確認しておきたくて」
「こんにちは、いずみちゃ・・・ん」
英梨々が刺すような瞳でこちらを睨んでいる。顔がこわばっているがたぶん本人は自覚していない。
「どうしたんです?」
「いや、なんでない。入学おめでとう。」
「倫也先輩のおかげです」
大袈裟にペコリと頭を下げた姿がカワイイ。本来なら小学6年生だ。身長もあるし、英梨々よりも胸も確認できる程度にはある分、女の子っぽいかもしれない。
「いやいや、出海ちゃんが勉強をがんばったからだ。な?伊織」
「さぁ?」
「どう?出海ちゃん。友達いないだろうから大変でしょ?」
「そうですね~。でも、倫也先輩いますから。わからないことあったら聞きに来ていいですか?」
「それはもちろん・・・」
英梨々がつかつかとこちらに歩いてきた。そして俺の机に右手をバンと強く置いて、
「ちょっと失礼するわ。誰なのかしら?この子は」と言った。口調が強い。
思いっきり出海ちゃんにガンを飛ばしている。
「始めまして。このたび入学しました。1年2組の波島出海です。えっと、波島伊織の妹になります。よろしくお願いします。えっと・・・お名前伺っていいですか」
出海ちゃんは礼儀正しかったが、英梨々はそれに返事もせずに、俺をにらんだ。
「どういうこと?」
そう問いかける声が冷たい。
何事か理解のできないクラスメートが遠巻きに見ている。伊織も驚いて声がでない。
「いや・・・だから、伊織の妹・・・」
英梨々が出海ちゃんを睨みつけている。出海ちゃんからすればわけがわかるまい。俺の後ろに隠れて、腕をギュッとつかんできた。
「倫也から離れなさいよ!この泥棒猫!」
およそ英梨々らしくないセリフが大きな声で教室に響き渡った。
そのサファイヤーブルーの瞳は涙でうるんでいる。だから、この物語はここで打ち切り。
(完)
お疲れさまでした。
というわけで、『前哨戦』はこれでおしまい。
出海ルートの後半戦?知りませんよ?
本当は中2で、ことごとくイベントを奪っていく出海ちゃんでも書こうと思ったけど、無理でしょ。
中2クリスマス。出海ちゃんと過ごす倫也。自分の家のクリスマスパーティーを投げ出して、英梨々の家の前で寒い雪の中で玄関の前にうずくまって待っている英梨々・・・
みたいな情景がですね・・・マッチ売りの少女並みに辛い話になるので、タイトルに前哨戦つけておきました。
次は春休み頃にお会いしましょう。
中二だし、『中二病に感染することを楽しむ倫也と英梨々』みたいな話を考えております。
楽しい話がいいですねー。
ではでは。