【全25話】出海ルートに気付かないポンコツ英梨々 前哨戦 作:きりぼー
あのあざとさ全開のフェミニンな加藤になるまでの歩み。
最初は姉のお古を着るサバサバした感じの女の子からスタートしたいと思います。
加藤恵はうんざりしていた。
「マジあの先輩むかつくんですけどー」
「わかるぅ」
「下手くそなくせに」
「いうことだけ一人前だよねー」
相変わらずつまらないことでいつも愚痴っている2人の友人とつるんでいた。同じバスケ部の仲間だ。
小学生の時のクラブでは楽しかった。地区大会も真面目に取り組んだし、負けて少し涙も出た。
上手い子はバスケの強い中学に進学し、恵は地元の公立中学に何も考えずに進学した。所属したバスケ部は弱小で、各学年だけで大会にでれるような人数すらいない。恵の学年は4人。1人はほぼ幽霊部員で秋の大会には家族旅行で欠席していた。
それでも恵は真面目には取り組んでいるつもりだ。練習もさぼらないし、家で柔軟体操だってやっている、バスケが好きかと言われたらそうでもない。惰性で続けているつもりはないが、案外そうなのかもしれない。
秋大会は初戦敗退。相手が強いからしょうがないよねって感じで、時計の時間がすぎるのを待つようなチームだった。スコアなんて見る気もしない。
3年生が受験で引退し、2年生は3人。全部の7人しかいない部活なのに、2年と1年で仲が悪い。
正直、恵はどうでもよかった。いつも無表情でどこか他人事のように部活に参加している。
※ ※ ※
加藤恵はうんざりしていた。
今日は図書委員会の会議。3年生が引退し、2年生の委員長が妙に熱い女子生徒だった。
本が大好きで年間100冊以上を読むのが自慢で、本LOVEを前面に出すタイプ。
本当に本を読むのが好きなの?恵はそう問いかけたくなるのを我慢している。本をたくさん読んでいる自分すごいでしょアピールに正直辟易していた。
でもまぁ関係ない。曜日別に割り振りられた役割を責任をもって果たすだけだ。委員会活動に別になんの期待もしていなかった。
会議は毎月開かれて、この委員長のつまらない読書感想を聞き流した後、図書館の利用者が年々減っていることが議題にあがった。
しょうがないんじゃない?と恵は思う。
だって、本を読むよりもスマホを眺めている方が楽しい。それに調べものだってネットで調べた方が早いし、迅速だし、次々に関係資料だって集められる。画像だって豊富だ。
わざわざ本を読む人は本を読むのが好きな人で、それは別に否定はしないけれど、読まない自由があってもいいと思う。
本屋を経営しているわけでないし、図書室の利用者が減っても何も困らない
当番の時は誰もいない図書室であいる時間に宿題を片付け、あとは好きな本を読みながら過ごす。
図書委員なのに本を読まずにスマホを眺めて時間をつぶす子の方が多いぐらいだ。
「ずっと黙っているけど、加藤さんも何か意見有りますか?」
「えっと、ポップアップをもう少しでかくしてみたらいいんじゃないかな」
「図書室に生徒が来ないのが問題なのに?」
恵は沈黙で答える。意見は言った。その後のことは知らない。だいたい自分の考えるアイデアなんて、みんながすでに出している。カードサイズのポップアップをハガキサイズまで大きくしたところで、焼石に水なことぐらいわかる。プロの経営する本屋が閉店するご時世だ。素人の自分でなんとかできるわけがない。
チャイムが鳴って、会議はいつものように何の結論もでないまま解散になった。なぜか委員長ににらまれた気がするが、恵は気にしない。
※ ※ ※
加藤恵はうんざりしていた。
「恵はカワイイんだからもっとおしゃれしないと」
そういいながら姉の宏美が恵の髪を櫛でとかしている。恵よりも6つ上の姉は、現在は大学1年生。バイトも初めて、ますます遊び回っている。
恵は返事もしないまま、姉にされるがままになっている。無駄な抵抗はしない。
「あっ、そうだ。この服もあげる」
姉が買ってきた服のお古を恵が着る。趣味は違うが別にこだわりはない。6年分流行から遅れている気がするがあまり気にしなかった。
姉と一緒の部屋には、圧倒的に姉の荷物が多い。旅行やファッション雑誌などもちらほらと床に広がっているし、脱ぎっぱなしの服などもある。
「ねぇねぇ、恵って好きな子できた?」
「いない」
質問には余計なことを加えずに、端的に結論だけ言って会話を広げない。それが姉への有効な対処法だ。だいたい姉が1人で口数多くしゃべり続ける。
姉には彼氏がいるので、早く同棲でもして出ていけばいいのにと思っているが、もちろん口には出さない。
ただ、週末にはお泊りも多くなって家にいない時間も多い。だから、恵が少しのびのびと部屋で1人で過ごす時間も増えてきてはいる。
「あっ、ニキビ」
「ほんと?」
「女の子なんだからちゃんとケアしないと」
姉は過干渉な部分もあるが、妹思いなのは間違いない。ニキビケアも調べてくれて、バイト代で薬も買ってきてれる。
自分の経験を活かし、恵へのケアも万全で、どこか姉のお気に入りの人形のような気分になる時もある。
「そろそろ恵も化粧ぐらい覚えないとね」
「しない」
「そのうちしたくなるよ」
恵は姉みたいにチャラチャラとはしたくない。いっつも彼氏がいて、親に嘘をついて高校の時から外泊している。親も放任主義だけど、もう少し厳しくてもいいんじゃない?と思わなくもない。
恵は姉みたいにはなりたくないなと思いつつ、彼氏がいていつも楽しそうな姉がうらやましかった。
でも、気になる男子もいないし、慌てたってしょうがない。
※ ※ ※
中学1年生の冬。加藤恵はそんな生徒だった。真面目だけど一生懸命ではない。どんなことも無難にこなして、先生ともクラスメイトとも上手くやっていた。
影が薄いと仲の良い友人に言わることもあるが、自分ではわからない。
そんな恵には、気になる事が一つできた。
それは二学期に入ってから、男子生徒の間で広まった噂だ。
『隣町にアイドルが住んでいるらしい』
アイドル?あまり詳しくないけれど、なんとか48の人かな?と恵は思った。男子から広がった噂は女子の間でも広がって、真実はわからない。
はっきりしているのは隣町にはすごくカワイイ女の子が住んでいるということだ。でも、内容は都市伝説的だ。
なんでも男子は会うと一目惚れしてしまうらしい。
なんでもすごく大金持ちらしい。
なんでも丘の上の大きな洋館に住んでいるらしい。
なんでも金髪ツインテールらしい。
バカらしいと思いながらも、恵もその噂が好きだった。なんでも亡国のお姫様らしいという話には笑ってしまう。告白された人数は100人を越えているとか、実はオタクだとか、どれも信憑性がない。
そんなにカワイイなら人生もぜんぜん違ったものになるのかな?何もかも思い通りになって、毎日が楽しくって、こんな風にうんざりした気分にならないのかな?
恵は鏡に映る自分を見つめながら、その噂のアイドルに想いをはせる。自分は悲観するような容姿ではないけれど、そんな風に人を魅了するほど優れているとも思えない。
恋をすれば女の子は変わるなんていうけど、それだって眉唾だ。
恵は鏡を見ながら、長く伸びてきた前髪を触る。そろそろ切った方がいいのかな?自分で切り方はわからないし、以前には姉に切られてパッツンにされた。
美容室には前髪だけ切るサービスもあるらしいけど、姉に聞けばわかるかな?
でも、そんな相談したらいらぬ詮索をされそうだ。
どうしたもんかと前髪を触っていた。なんとなく笑顔を作ってみる。唇が乾燥しているのに気が付いて、メンソレータムを鞄から取り出して塗った。
※ ※ ※
「メグミ。噂の真相聞いた?」
「噂?」
「ほら、隣街の」
「ううん」
いつものようにフラットにして、表情には興味があることを出さない。バスケ部じゃないけれど、小学生の時から一緒の女子生徒。長女なせいか面倒見がいいタイプで恵と仲がいい。
「なんか、私たちと同級生らしいわよ」
「中1?」
「そう。従姉妹があっちの方に住んでいるんだけど、たぶんその子じゃないかって」
「従姉妹とクラスメイトなの?」
「ううん。従姉妹は2つ上の中学3年。学校にひとりそんな感じの子がいるんだって」
「2つ下の学年なのに知っているんだね」
「そうなのよ」
「なんて中学校?」
「あっ、メグミ。この噂好きでしょ?」
「別に・・・」
恵はちょっと照れた。確かに食いつきすぎたかもしれない。フラットフラット。
「桜坂上第二中学」
「聞いたことある」
「隣町だからね。ちなみに最寄り駅はね」
「うん」
「ねぇメグミ。どうして、この噂が好きなの?」
「別に、好きじゃないって。ただ・・・」
「ただ?」
「そんなお姫様みたいな人が実在するんだなぁって」
「ふーん。けっこうメルヘンなところがあるんだね」
「メルヘン?」
「夢見がちな少女」
「そんなんじゃないってば」
そうかな。普通だと思うけど。みんなだってこの噂が好きだし、それはやっぱりみんながそういう非日常的なアイドルの存在が好きってことじゃないかな。
遠い噂だった子が、だんだん身近になってきた。自分には縁がなさそうだけど、教えてもらった駅は自分の最寄り駅よりも3つほど隣だ。そんなに遠くない。
どんな子かな?っと考えながら、恵はまた前髪を少し触った。
(つづく)
姫=英梨々
庶民=恵
二人の距離が徐々に近づいていく・・・
そんな感じの伏線になればなぁと思っています。