【全25話】出海ルートに気付かないポンコツ英梨々 前哨戦   作:きりぼー

4 / 25
投稿が二日遅れてしまった・・・

25日のクリスマスが本番と思っている倫也と、
24日のクリスマス・イブこそが恋人たちのクリスマスと知っている英梨々。
そんな目線で書いたものです。


04 クリスマス・イブの夜に

 12月24日のクリスマスイブに、俺は午前中から英梨々の家に手伝いに来ている。

 

 英梨々の屋敷はプロによって電飾が施され、庭には大きなクリスマスツリーが立っている。駅から降りて商店街を抜ければ丘の上の屋敷を見上げることができる。ちょっとした街のシンボルだ。

 

 クリスマス会場の屋敷内は、英梨々のイメージ図を元に、立食パーティーができるようにテーブルが動かし、イスは壁際に集めて座れるようにしておく。

 

 生演奏スペースや給仕たちの動線も確保したら、倉庫からテーブルクロスや装飾品をもってきて、飾りつけをする。部屋の隅の丸テーブルは、英梨々に贈られるプレゼント飾る場所になる。

 

 もう中学生の英梨々には、ぬいぐるみや玩具はなくなり、衣類を中心に装飾品が増えると予想されている。小さなプレゼントボックスでは華はないので、英梨々はあらかじめ大きなぬいぐるみの熊と、何もはいっていない大きな赤いプレゼントボックスとそれよりも小さなプレゼントボックスを用意して置いてある。

 この辺のイメージは駅ビルのやデパートの装飾を参考にしているのだろう。

 

 会場を俯瞰してみるとなかなかいい感じだ。キッチンからグラスを運びテーブルに並べ、料理用の什器もセットする。詳細は執事長の細川さんが直してくれる。英梨々が産まれる前からスペンサー家にお仕えする方で、立ち振る舞いも紳士で英梨々にいつも優しい。英梨々からしてみればおじいちゃんみたいな人だ。

 

 セッティングが終わったので俺は英梨々の部屋に行き、マカロンと紅茶をごちそうになる。時刻は午後3時を回ったところだ。

 

「倫也、はいこれ」

「英梨々からかよ」

「いらないならいいわよ」

「いるよ!腑に落ちないな・・・」

「ありがとうは?」

「それ、そっちが言うんじゃねーの?」

「ありがと。倫也」

「ああ、うん・・・ありがとう。英梨々」

 

 というわけで、待望の5千円の入った封筒をゲットする。年末年始の入用な時にこれはでかい。クリスマス商戦のゲームが一本買えるし、フィギュアやプラモも捨てがたい。

 

「倫也はこの後の予定は?」

「特にないけど、せっかくだから池袋のアニメイト行ってこようかな」

「こないだ行ったばかりじゃないの」

「だよな」

「どうせなら、アキバまで行ってみたら?」

「そうだなぁ」

 

 ここから池袋まではローカル線ですぐだが、秋葉原までだとローカル線を乗り継ぐか、JRも利用するかで、ちょっと悩む距離だ。遠くはないけど近くもない。

 

「アキバだったら、一緒に行ってあげてもいいけど」

 

 英梨々がそっぽ向きながら言った。顔が少し赤い。

 

 そりゃ、女子でアキバ行きたいなんて恥ずかしいだろうな!

 

「ふむ、ならしょうがないから、アキバいくか」

「しょうがないってどういう意味よ」

「深い意味はねぇーよ」

 

 英梨々が支度をしている間、俺はおやつのトレイをもって一階のキッチンまで下げにいく。途中でメイドさんに合ったので渡しておいた。今日はバタバタと忙しそうだ。

 

 英梨々は黄色いワンピースを着ていた、そこに真っ白なダッフルコートを羽織っている。今年のお気に入りだ。赤いマフラーを首に巻いて完成。ちなみにリボンの色はグリーンでクリスマスカラーを意識していた。

 

 駅に向かう途中、英梨々は後ろ手に組んで足取りは軽い。軽くクリスマスソングを鼻歌で歌っているあたり、だいぶご機嫌のようだ。

 

 そんなにアキバに行くのが嬉しいのか・・・

 

※ ※ ※

 

 流石にアキバの街は賑わっていた。クリスマス衣装の女性が店頭でチラシを配っているのを見かける。

 

 まずは大手アニメショップから物色する。エレベーターで最上階まで上がり、1フロアづつ降りる。俺と英梨々で趣味が若干違うので、まずは別々にフロア内をうろうろして、それから合流して、お互いの情報を交換する。

 

 俺は虎の子の貴重な5千円で、何を買うかは最後に決める予定だ。英梨々なら欲しいものをいくらでも買えるだろうが、一応自重しているようで手にとっては棚に戻している。

 

 マンガは読んでないものも多く、その都度でネットで検索して評価などを調べるが、いまいち信用できるサイトが見つからない。大手レビューサイトなどだと、アンチもいて評価がバラバラだったり、組織票がはいっていたりする。

 

 ラノベの新作もそうだ。ラノベ全盛期と言っていいぐらい発行数が多い。すべてを目にするのは困難で、結局はタイトルと表紙で選びがちだ。もしかしたら名作が眠っているかもしれないと思うと、もったいない気がする。

 

 そんな感想というか愚痴を英梨々に言ったら、

 

「だったら、自分でサイトでも運営すればいいじゃない?」

 

 ずいぶん簡単に行ってくれるもんだ。オタク系のサイトは多く、その中で勝ち上がっていくのは至難だろう。でも・・・と思う。自分用にサイトにまとめてみるのもいいかもしれない。

 新作ラノベを読み、率直な感想を書いてくれるサイトがあれば、俺だって活用したい。そんな需要がありそうだ。

 

「そうだな・・・自分用のサイトでも作ってみるかな」

「なら、少し協力するわよ」

「何を?」

「すみませーん」と、英梨々が店員をよんだ。「この辺のラノベでこの冬出たものをピックアップしてもらえますか?」と頼んでいる。

 

 店員は検索機で調べてからプリントアウトし、それを片手にラノベを次々と籠にいれている。20冊はあった。

 

「けっこうあるわね」

「人気どころだと、これぐらいですね」

「人気のないのも入れてもらっていいかしら?」

「はい」

 

 さらに10冊ほど籠に入った。なるほど、確かに表紙の絵がむごい。買わずに棚に戻してしまうのだろう。

 

「じゃあ、それの会計と配送手続きお願いします」

「かしこまりました」と女性の店員が答えた。

「買い方が豪快だな!」

 

 重そうなのでレジまでは俺が運んだ。英梨々がカードで決済している。中1でカードもっているってすげぇな・・・

 しかもサインは横文字かよ・・・

 

「これで、この冬は倫也は退屈しないで済むわね」

「お前もな」

「あたしは全部は読まないわよ」

「買ったのに読まないのかよ!?」

「倫也って、ほんとバカよね」

「なんで!?」

 

 まったく英梨々の考えていることがわからん。

 

「サイトのデザインとトップページの画像ぐらいは描いてあげるわよ」

「ああ、頼む」

 

 中1とはいえ、英梨々の絵はすでにネットの絵師たちと比べても遜色ないぐらいには上手い。まだまだ有名な絵師には届かないものの、日進月歩で上手くなっているのを感じる。

 

 某有名イラストタブレットの最上級のものを導入しようか検討していて、その金額はうん十万円で、ハイスペックPCに匹敵する。検討している以上は買うのだろうけど、今のタブレットも使い慣れているので躊躇しているらしい。

 

 俺としては英梨々の絵が上手くなるのは大歓迎だ。

 

 俺がゲーム会社の社長で、英梨々がそこに所属するイラストレーターになるのが子供のころの約束で、英梨々がそれを覚えているかわからないけど、絵は着実に上手くなっている。

 

 俺はというと、PCでコツコツとプログラミングを独学しているに過ぎず、ゲーム一本完成したことがない・・・

 

「ほら、倫也。次いくわよ」

「あいよ」

 

 アニメショップの次は中古アニメショップをいくつか回る。掘り出し物を探すのが醍醐味だ。それから、個人のレンタルボックスの店を見る。

 

「あたしもやろうかしら」

「英梨々はものも多いし、ちょうどいいかもな」

「でも、管理とか運営も大変そうでしょ?」

「調べてないからわからないけど、コツはありそうだよな」

「非売品並べている人もいるし、半分ぐらい趣味なのかしら」

「だろうな。でも、レンタル代もそんなに高いわけでもないし、やってみたらいいだろ」

「そうよね。手伝ってくれる?」

「いや、俺はサイト作りに忙しくなる予定だから・・・」

「はぁ?あんたバカなの?普通そこで断らないでしょ」

「冗談だよ・・・まっ、よく調べてからな」

「そうね」

 

 そういった英梨々の目線が、レジ前の一番華やかなショーケースだった。そこはレンタル代高いし、ほぼプロ仕様だからな・・・と余計なことを言わずに、店を出た。

 

 せっかくアキバまできたので、ついでにPCショップも見て回る。英梨々も女子にしてはそこそこ詳しいが俺ほどではない。わかっているのか、ゲーミングPCのレーシングゲームのデモ機に座って、店員を呼んで試しはじめた。男性店員だけあって懇切丁寧に教えていた。

 

 俺は英梨々をおいて上のフロアのPCパーツなども見て回る。そろそろ自作PCを作りたいが、まだ敷居が高く躊躇してしまう。

 自分の壊れた旧式のPCを分解、再組立てなどをしてみるものの、何万もするパーツを集めて試す度胸はない。そのうちに英梨々をそそのかして、自作PCを作らせよう・・・

 

 さらに上のフロアの中古ノートPCの新古品を見つける。これは価格的には掘り出し物だが・・・今のところ需要がない。スペック的には非力で、英梨々の新イラストタブレットの親機にするにも不安が残る。

 もう少しライト層向けで、初めてノートPCをつかってネットで遊んだり、簡単なプログラムをするには十分だけど・・・

 もったいないが、スルーする。PC初心にはお勧めなのだけど。

 

 一通り見て回ったので一階に降りると、英梨々のデモ機の周りに人だかりができていた。何事かと思ったら、英梨々がブツブツと言いながらレーシングゲームに熱中している。黙っていればカワイイだけなのだが、口が悪くせっかくの美人も台無しだ。それでもキャーキャー言っているのは周りには楽しく見えるらしい。

 

 レースが終わると、英梨々がキョロキョロと周りを見ている。俺を見つけたら、はにかんだ笑顔をしている。俺はそばによって手を差し伸べて、英梨々がレーシング用のイスから降りるのを手伝ってやった。

 

 周りから若干刺すような視線を感じたが無視をする。こいつは別に彼女じゃないし、ただのオタク友達の幼馴染だと心の中で弁解をしておく。

 

 英梨々が店員に挨拶をして店を出た。

 

 外はもうすっかり暗くなっていて、アキバの街の電飾が綺麗に灯っている。

 

「ねぇ倫也、そろそろ帰る?」

「そうだな。何も買ってないな」

「別に無理に買うこともないでしょ」

「そうなんだけどな」

 

 お金は何を買おうかと迷っている時が案外楽しい時なのかもしれない。

 

「あのね・・・」

「ん、どうした?」

 

 駅に向かいながら、英梨々がモジモジしている。

 

「晩御飯なんだけど、外で食べてくるって言ってきたの」

「そうなの?」

「うん」

 

 晩飯か、もう18時を回っている。今日もうちの両親は遅く、俺は1000円でクリスマスとは無縁の食事をする予定だった。いやいや、クリスマスだし唐揚げ弁当か・・・

 

「そっか、何か食べてく?でも、俺マックくらいしか店わかねぇーぞ?」

「なんでもいいわよ。でも、せめてモズバーガーか、フレッシュデスネバーガーぐらいにグレード上げてくれるかしら」

「そうだな・・・あっ、バーガークイーンあるな」

「あるわね」

 

 セットで食べると1000円を越えてくる。俺からするとちょっと贅沢なチェーン店だ。ドリンクをケチって、バーガーとポテトだけ食うかな。

 

 店の前でメニューを眺める。英梨々は野菜多めのバーガーセットを選んだ。俺はさらに悩む、ダブルバーガーにしたいが、ポテトもLにしたい・・・

 

「倫也、さっさと選びなさいよ」

「ああ、ここはやっぱりダブルバーガーで・・・」

「ドリンクはあきらめるのね」

「それは元々選択の余地にないな。ポテトのサイズだ。LにするかSにするか」

「Mでいいじゃない」

「いやぁ・・・ケチるか、ケチらないかの二択なんだよ」

「ちなみにドリンク飲むなら何にする?」

「それって、コーラ以外に何かあるのか?」

「まぁそうよね」

 

 英梨々がレジにいって、野菜バーガーMセットと、ダブルバーガーLポテトセットを注文した。ドリンクはどちらもコーラだ。

 英梨々がカードで清算している。こいつ・・・カード使いたいだけなんじゃ・・・

 

「ほら、よこしなさいよ」

 

 英梨々が俺に手を出した。俺は財布から1000円札を一枚出して、英梨々に渡した。

 

「これが俺の晩御飯の予算だから」

「知ってるわよ。倫也がケチって小銭でマンガ買っていることぐらい」

「そういうわけですまん」

「別にいいわよ。ちゃんとレンタルボックス手伝いなさいよ」

「はい」

 

 こうして、俺は金の力で英梨々の下僕になっていくんだな・・・

 

 店内は簡潔な作りでそれが逆に俺には落ち着いた。俺も英梨々も「いただきます」をして食べ始める。

 俺がガツガツ食べているのに、英梨々はのんびりと食べながらスマホで調べものをしている。

 

「何調べているんだ?」

「予定」

「予定?」

「倫也、まだ時間あるわよね?」

「あるぞ」

「録画しているアニメ見るみたいなくだらないこと以外に予定ないわよね?」

「・・・ありません」

「じゃあ、この後、東京駅行っていいかしら?」

「別にいいけど。何があるんだ?」

「電飾されているらしいのよね」

「ああ、えっと・・・ルミナリエだっけか」

「それ、神戸のだから。東京のはミレナリオだったかしら」

「いいぞ。英梨々も年頃だなっ」

「ただの背景の資料用なんだからねっ、勘違いしないでよね。ふん」

「はいはい」

 

 テンプレ的ツンデレ用語を使ってくるあたり、いかにもオタクでカワイイ。調べものが終わったらしく、英梨々も両手にバーガーをもってガツガツ食べ始めた。そうそう、何もこんなものを上品に食べてもしょうがない。さらに高級店だとバーガーなのに皿にのっていて、ナイフとフォークまである店になる。意味がわからん。

 

「そふぉそふぉ、ともょや」

「飲み込んでからしゃべれ」

「んぐっ。明日なんだけど」

「うん」

「倫也がうちにくるのって、19時よね?」

「その予定だが」

「19時からビンゴ大会だから、遅刻しないでよ」

「わかった。で、今年の景品は?」

「1位が恒例のネズミーランドペアチケットね」

「ああ、もらっても困るやつな」

「別に困らないでしょ」

「困るだろ。ペアっていわれても」

「だから、倫也は倫也なのよ」

「なんか今、悪口いわれた!?」

「で、2位がね、カニね。タラバ」

「正月だしちょうどいいよな。俺、カニがいいな」

「3位がフランス菓子セット。直送品で日本では販売してないわ」

「うわ、悩むな」

「ビンゴの景品だから悩んでもしょうがないでしょ」

「まっ、そうなんだけどな。残念賞は?」

「秘密」

「へぇ・・・」

 

 ポテトをモシャモシャと口にほおばりながら、コーラで流し込んだ。これで腹が落ち着いた。

 

 バーガーショップを出てJRで東京駅まで移動する。普段は来ることがないので、でかい駅に迷ってしまう。ミレナリオの看板を頼りに改札をでると、けっこう混んでいた。

 

 人の流れにそって歩いていくと電飾のアーチが並んでいる。思っているのとなんか違ったが、まぁ綺麗ではある。英梨々はなんの感想も言わずにスマホで写真を取り始めた。

 

 俺はすることがないので、英梨々が写真をとっている間、人にぶつからないように気を付けてスペースを少し確保する。

 通りはいくつものしゃれた露店がでていた。縁日にある屋台なんかとはぜんぜん違って、少し高級感がある。

 各国のビールやドイツのソーセージなど舶来品が多い。

 

「なんか、うまそうなもんが出てるな」

「そうね。食べる?」

「いや、流石に無理。けっこうガッツリ食ったからな」

「こっちにすればよかったかしらね」

「うーん。でもバーガークイーンでフルに食うのも憧れてたので、俺は満足だったぞ?」

「憧れって、志低いわね」

「いや、そうはいってもセットで1000円超えてくるのはプレッシャーかかるぞ。500円以内で腹なんて膨れるし、そしたらマンガ本が一冊買えるしな」

「はやく、好きなだけバーガークイーンで食べて、マンガ買えるようになるといいわね」

「そうなんだよ。バイトできるのが高校生からだからなぁ・・・」

「発想が貧相なのよ」

「なんで?」

「サイト運営で儲けてやろうとか思わないわけ?アフェリエイト?で稼げるでしょ」

「あのなぁ・・・メジャーな話題の大手ならともかく、オタクのラノベ専門みたいなニッチなのは、そこまで稼げないだろ」

「そういうのを変革したくないわけ?」

「言うは易しってやつだな。俺は現実主義なんだよ」

「ふーん」

 

 英梨々はそれ以上は何も言わなかった。英梨々はけっこうルーズなところがあるし、甘えん坊で泣き虫だったけれど、努力はコツコツするタイプだ。絵は飛び切り上手いが、だからといって勉強をはさぼらない。成績も優秀な方だ。

 せめて勉強ぐらいは負けたくいないので、おかげで英梨々より成績はよく、中学でも上位に位置している。

 

 英梨々の絵に匹敵する何かを自分でも手に入れたいと思うが、なかなか難しい。確かにサイト運営ぐらい・・・小さなジャンルなのだし覇権を取りたいものだ。

 

 さて、だいぶ進むと人混みもだいぶ緩和された。英梨々も写真を撮るのに飽きてきたようだ。

 そろそろ電飾がなくなり、会場の終点のようだ。

 

「ここどこだ?これから東京駅まで戻るのか?」

「このまま隣の有楽町まで歩く方がいいみたいよ。どっちかわからないけど」

「んじゃ、地図で調べるか」

 

 ちょうど開いているベンチがあったので、並んで座った。スマホを検索して地図をみる。だいたいの位置がわかった。有楽町まで歩いて、JRで池袋に戻るのがわかりやすそうだ。

 

「倫也、まだ何か食べられる?」

「食べられなくはないぞ、少し歩いたからな」

「あれ」

 

 英梨々が指を指した先に屋台が出ている。

 

「あの屋台なんだけど」

「何の店だ」

「ガレットよ」

「ガレット?」

「クレープみたいなもんね」

「ほう」

「どうかしら?」

「そうだな・・・ちょっと待ってろ」

 

 俺はベンチから立ち上がった。英梨々も立ち上がる。

 

「いや、英梨々はちょっとここで座ってベンチ確保しとけ」

「なによ」

 

 俺は屋台に並んだ。並ぶといってもそろそろ店しまいの頃のようで人は3人しかいない。並んでいる間にメニューを見るが種類はそんなに多くない。定番のチョコバナナみたいなチープなものはなく、イチゴベースが多い。値段が800円からと少し高価だ・・・場所柄だろうか。

 

 迷ったがイチゴチョコを無難に選ぶ。トッピングもつけず一つだけ買った。出てきた商品はクレープと大差なく、生地の色が茶色い。盛り付けにでかいイチゴが飾られていて、プラスチックのスプーンが刺してある。なるほど、確かに少し高級に見える。

 

「ほらよ。イチゴチョコだけど」

「いくらだった?」

「いいよ」

「何がいいのよ」

「おごってやろう」

「倫也が?」

「ああ、何しろ今夜の俺はリッチだからな」

「さっき、ポテトのサイズでさんざん悩んでなかった?」

「まぁ・・・とにかく受け取れよ」

「・・・ありがと」

 

 英梨々にガレットなるものを渡した。

 

 英梨々が生地を少しかじる。

 

「倫也も食べなさいよ」

「そうだな」

 

 付属のスプーンで生クリームをすくう、中にはアイスも入っているようだ。ちょっとしたパフェみたいなものだな。カットイチゴもちゃんと入っている。

 

 電飾は綺麗で、人混みの雑踏の音にオルゴールのクリスマスソングが静かに響いている。

 

「生地食べないと、ガレットがわからないでしょ」

「そうだな・・・」

 

 英梨々が俺にガレットを差し出した。左半分は英梨々がかじったあとがある。右側はまだかじっていない。俺はそこを少しだけかじった。

 

 英梨々が時々俺にガレットを差し出す。だから時々俺はかじる。

 

 食べ終わるまで2人は無口だった。

 

 ましてや、関節キスなどという言葉は冗談でも口にできなかった。

 

(続く)




※ 出海ルートらしいです
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。