【全25話】出海ルートに気付かないポンコツ英梨々 前哨戦 作:きりぼー
美智留と駅前のケーキ屋で、クリスマス用のクッキー盛り合わせを折半して買った。トナカイのぬいぐるみが引くソリの中にクッキーがはいっている。
美智留は黒いタートルネックのセーターにデニムのジャンパーを着ていた。下もジーンズを履いているので、パッと見た感じは男の子に見える。髪もショートカットだし背丈も俺と同じ・・・いや、俺より少し大きかった。
胸の膨らみがなければ、勘違いする人も多いと思う。
伊織の家のチャイムを押すと、中から足音が聞こえてくる。玄関を開けたのは嬉しそうな笑顔の出海ちゃんだった。クリスマス用のサンタ衣装を着ている。赤いミニスカートのワンピースだ。白いもふもふがついている。これが実に良く似合っていた。
「倫也先輩!いらっしゃ・・・いませ?」
「こんにちは。メリークリスマス」
「こんにちはー。お邪魔します」
「えっと・・・」
出海ちゃんが戸惑っている。美智留のことを上から下まで、じーと見ていた。
「倫也先輩の・・・彼女さんですか?」
「あっ、こいつのこと女に見える?」
「あれ、男・・・でしたか、すみません」
「トモー。彼女だって!あははははっ」
美智留が笑っている。のんきなもんだ。
「伊織には連絡いれておいたのだけど」
「あっ、そうなんですか。どうぞ」
「おじゃまします」
出海ちゃんの案内で家の中に入った。中は暖房がきいていて暖かい。玄関先でコートを脱いだ。出海ちゃんがハンガーでかけてくれる。気のきいた子だ。
美智留もジャンパーを脱ぐと、女の子らしい体のラインがきっちりと出る。顔をもう少し女性っぽく、うーん、化粧?するとかすればいいのにとは思う。スポーツ少年っぽい爽やかさが抜けない。
「お兄ちゃん。倫也先輩きたよ」
階段で二階に向かって出海ちゃんが呼んだ。仮住まいらしく一軒家だけど大きくはない。築年数も立っているようで昭和のようなノスタルジーな木造作り。
「お二人とも、とりあえず座ってください」
「これ、お土産です。どうぞー」
「ありがとうございます!」
美智留が渡したクッキーセットを出海ちゃんが受け取った。
「カワイイですね。飾っていいですか?」
出海ちゃんはそういうと、小さなクリスマスツリーの飾ってある窓際の棚の上に置いた。
部屋はクリスマスらしい飾りがされているが、和風の家の雰囲気は隠しきれていない。それでも、温かみのある会場になっていた。
少し大きめの4人掛けのテーブルが中央にあり、緑のテーブルクロスがひいてある。真ん中には小さなサンタやトナカイのオブジェが飾ってあった。
「暖かい飲み物がいいですかね?」
「うん」
「紅茶でいいですか?」
「お願いします」
「あたしも紅茶で」
「はい」
出海ちゃんはキビキビとしている。少し経つとキッチンからトレイをもってでてきた。マグカップにはティパックが入っている。気取りはないようだ。
「ありがとう。ずいぶんとしっかりしているね!」
「いえいえ」
「で、この子がトモの目当てなの?」
「おまえなぁ・・・」
来た早々、美智留は何を言ってるんだ。とりあえず聞かなかったことにしてスルーする。出海ちゃんも気が付いているのか、いないのか話題は広げない。
「やぁようこそ。倫也君。それに・・・」
「よっ、伊織。お邪魔してます」
「あっ・・・」
「どうした、美智留?」
美智留が口を開けたまま固まった。伊織をじっと見ている。
「トモ」
「どした?」
「なに、このイケメン」
「こいつが俺の友人の波島伊織だ。確かに顔はいいよな、顔は」
「いやだな、倫也君に褒められるなんて照れるじゃないか」
こういう、ちょっと人をからかう感じが俺は少し苦手だ。「誰も褒めてねぇよ」とつっこみたいのを我慢する。
「で、こいつが氷堂美智留。同い年の従姉妹だ」
「はじめまして氷堂さん。今日はようこそ」
「トモ・・・なんかえらい紳士な人がいる・・・」
「作ったキャラだから、適当に合わせておけ」
「いやだなぁ倫也君。まっ、適当にくつろいでよ」
「あの、えっと伊織ちゃん?記念に握手してもらっていい?」
「記念・・・?」
美智留が両手を前に出している。
「あっ、こいつ人懐っこいのは生まれつきだから」
「はははっ、改めまして、よろしく」
伊織は伊織で断りもせずに握手に応じている。でも、手をつないだ瞬間はさすがに照れているらしく、珍しく耳まで赤くなっていた。
「わたしもいいですか?」
「よろしく、出海ちゃん」
今度は美智留と出海ちゃんが握手をしている。美智留は顔が赤くなっていなかったことから、やっぱり天然に人懐っこいのだろう。
俺は和やかなに3人の様子を見ていた。
「あの・・・倫也先輩もいいですか?」
「ん?」
出海ちゃんが右手を差し出してきた。
「・・・握手」
「ああ、うん・・・」
俺も出海ちゃんと握手をした。出海ちゃんの手は華奢で細い。でもペンダコができているあたりは、ずいぶんと勉強をしているようだ。
「トモ、顔真っ赤だぞ」
「・・・ああ。慣れてないからな」
「ついでに、あたしとも握手しとこ」
「しないから!」
「ケチ」
なんで美智留とまで握手しなきゃならないんだ。
伊織はいつのまにかキッチンに移動していたようで、マグカップにコーヒーを入れて戻ってきた。
「挨拶はこれくらいで、始めようか、クリスマス会」
いつものクールな声だ。冷静さを取り戻したらしい。焦る伊織は面白かったので、このまま美智留を放っておこう。なにしろ伊織のことを気に入ったらしく、すでに隣の席に座っている。
「で、何するんだ?」
「えっとですね。とりあえずクリスマスプレゼントにもらったゲームがあるので、一緒にやってもらおうかと」と出海ちゃんが答えた。
「ゲーム?」
・・・ということで、俺の隣には出海ちゃんが座っている。出海ちゃんがテーブルの上に置いたのは、ブロックスという4人用のボードゲームだった。テトリスみたいな形のブロックで陣取り合戦を行う、頭脳100%といった感じのゲームだった。
※ ※ ※
これがなかなか熱い。最初はルールブックを読みながら進めたが、ルールはシンプルなので、あとはセオリーを発見した方が勝つだろう。
まずは伊織が一位、俺が二位、そして出海ちゃんという順番だった。この手のゲームで美智留が勝てないのはまぁ当然だろう。運の要素が強くなると強くなるが、このゲームに運はない。いわゆる完全情報ゲームというやつだ。
「うん。コツはだいたいわかったね」
「これ、先手が有利だろ」
「そうだね」
「そうなの?」
「やっぱり、先手が有利なんですね」
「じゃあ、負けた順でもう一度だな」
ブロックを置いて、できるだけ自分のブロックをたくさん置いた人が勝ちだ。先に置く方が有利なのは当然だろう。美智留はあまり気にしなかったが、試行回数が増えれば先手の有利は拡大するはずだ。
美智留はお気楽に何も考えずに置いていく、出海ちゃんはでかいブロックから置いていくのはセオリー通りだろう。
伊織は口数が少なくって、盤面を真剣に見つめている。けっこうな負けず嫌いだ。たぶん俺と伊織だけが全体の構想を練っている。
勝負は僅差で終わり、また伊織が一位になった。伊織よりも俺が一手先手だけに悔しい負けだ。3位に出海ちゃん、そして美智留が大敗している。
「あははっ、また負けた。伊織ちゃん強いねー」
「いやいや、たまたまさ」
「出海ちゃんも惜しかった」
「倫也先輩もお兄ちゃんも真剣すぎます!」
「ほら、こういうのは手を抜いても面白くないから」
美智留のいいところはゲームに負けても、イライラしないし、暗くもならないところだろう。場が熱くなりすぎないのはいいことだ。一方、出海ちゃんは流石に伊織の妹だけあって負けず嫌いのようだ。ブロックを回収し、次に備えている。
「さて、ルールがわかってきたところで倫也君。そろそろ何か賭けないか?」
「あのなぁ・・・」
「僕が負けたら、倫也君は好きなラノベを全巻セットでもっていっていいよ」
「ほう・・・大した自信だな」
「そのかわり、僕が勝ったら、質問に一つ正直に答えてもらおう」
「質問?」
「いやかい?」
「それはどんな質問だよ」
「ふふふっ、どうする?」
「ああ、いいよそれで」
「トモー、あたしも賭けるー」
「美智留。無謀すぎるだろ」
「でも、だいたいわかってきたしー」
「で、お前は勝ったら何が欲しいんだよ」
「決めてないけど、何か願い事一つかなえてよ」
「負けたら?」
「脱ごうかな」
「お前、バカだろ。いいよ美智留が勝つことないだろうし、負けペナルティーなしで」
「やったー」
「倫也先輩、わたしも同じルールで賭けていいですか?」
「勝ちに願い事、負けペナルティーなし?」
「はい」
「俺はいいけど」
「もちろん、僕はかまわないさ」
「じゃあ、もう1ゲーム」
3度目の陣取りゲーム。反時計周りで美智留がスタート。俺の向かいが美智留の陣地、左が出海ちゃん、右が伊織だ。
だいたいのコツはわかった。今度は先手の理を生かして、伊織を完封してやる。
いざ、ゲームが始まった。序盤のセオリーはいかに枝を伸ばして可能性を広げるかどうかだろう。次に周りがどうでるかで、陣地を伸ばす方向を決める。
・・・しかし、序盤早々にプランが崩れる。伊織がセオリーを無視して、俺の陣地にまっさきに侵入してきた。俺はそれを迎撃しつつ、伊織の陣地に侵入を試みる。あまり使いたくない小さなブロックを投入せざる追えなくなってきた。序盤から中盤まで伊織との攻防が熱い。
その間、美智留はのびのびと陣地を伸ばし、出海ちゃんはセオリー通りに着実に広げている。ぐっちゃりしているのは俺と伊織のところだけだ。
俺の手はもう伊織の陣地に入ることができなくなるどころか、ほぼ封鎖されて美智留のところへも伸ばせない。あとは出海ちゃんの陣地の隙間に埋めていくだけだ。
伊織はまだ手が広く、俺の陣地を通り抜け、出海ちゃんの陣地を占領しはじめていた。
マイペースにのびのびとブロックを置いているのは美智留だけで、出海ちゃんも俺と伊織の侵入を防ぐの精一杯だが、序盤にのびのびと拡大していた分だけ手が広い。
気が付けば俺は手詰まりになっていた。伊織も苦しい状況だ。これじゃ共倒れだろう。
「・・・まさか」
「ようやく気が付いたかい?」
「おまえ、一位になる気がなかったのか」
「僕は倫也君に勝ちさえすればいいからね」
「くそっ」
俺は置けないブロックが多数あって、ビリになった。3位が伊織だ。
「ねぇねぇ、トモ。あとはどこに置ける?」
「ここと、ここだな。でも、もう置かなくても美智留の勝ちだよ」
「ほんと、やった!」
「わたしは二位ですね・・・」
「大健闘じゃん!」美智留が喜んでいる。
勝っても嫌味がないのが美智留のいいところだろう。出海ちゃんは2位で不満そうだったが、とりあえず満足らしい。
「ちょっとまって出海ちゃん」
「はい?」
「盤面。残しておいて、少し見てたい」
「はい・・・」
「はははっ、感想戦はいいことだからね」と伊織の笑いにイラッときたが、案外、それも戦略のうちなのかもしれない。
盤面を見るに、序盤から伊織とやりあっているのが敗因なのは間違いない。無駄な戦力を投入しすぎている。一方で伊織は人を食ったように俺をかわして、出海ちゃんの陣地にのばしているあたりが柔軟だ。
俺としては伊織を無視しつつ、出海ちゃんの方へもっと早々に陣地を伸ばしていくべきだったか。しかしこれも心理的には難しい。あまり出海ちゃんの方へ攻めるのは気が引けるのだ。その辺も伊織の作戦の内だろう。それどころか第二ゲームの勝敗とこの席の並びがすでに仕組まれてそうだ。
本人は気が付いてないが、漁夫の利を得ているのは美智留で勝って当然といえば当然だろう。美智留は伊織の陣地に攻め放題の終盤が残っていたのだから。
なんにせよ、俺は伊織には完敗したのだ。俺は3ゲームだけだったけれど、伊織はこのゲームを知っていたわけだし、事前に研究していたのかもしれない。
「さて、優勝した氷堂さんの願い事は?」
「何も考えてなかった。えっとね。そうだ、伊織ちゃんのLINE交換しよー」
「僕でよければ。それでいいのかい?」
「うん」
「じゃ、次は僕の質問だね」
「お兄ちゃん、ちょっと待って。わたしの願い事は?」
「出海は勝ってないだろ?ねっ倫也君」
「まぁ、聞くだけきいてみたら?」
「だってさ」
「倫也先輩」
「はい」
「初詣」
「初詣?」
「一緒にいってください」
「ひゅー」と美智留が言った。「トモ、もてるー」
「・・・・・・」
俺が一瞬頭によぎったのは英梨々のことだ。あの金髪ツインテールが睨んでいる気がした。とはいえ、お正月に英梨々は東京にいない。
年末のコミケが終わると、英梨々の一家は那須の別荘にスキーをしに行くのが恒例だ。まぁ、俺も例年誘っていただいて、ご一緒させていただいてたわけだが・・・
今年はまだ誘われていない。そろそろ中学生だし、英梨々と外泊は許されないかもしれない。だいたいクリスマス後に両親の間で調整がはいるが、まぁうちの親は放任主義なので澤村家に任せきりだ。
「ダメですね。ごめんなさい」
「いや、そんなことないよ」
「何か予定ありました?」
「予定はないな」
「トモ、あたしも一緒にいくー、ねっ伊織ちゃん?」
「はははっ」
伊織が笑ってごまかしている。
出海ちゃんの瞳が少しうるんでいる気がした。断ったら泣きそうだ。
「大丈夫。初詣、一緒にいくよ。伊織も一緒なんだろ?」
「僕はかまわないよ」
「良かったぁ~」
出海ちゃんがほっと胸をなでおろしている。
時刻は18時を回っていた。ちょうど伊織の母親が帰ってきて、挨拶も早々にキッチンで準備をし始めた。出雲ちゃんも手伝うようでキッチンに向かった。
・・・これから支度?と俺は時間が気になった。18時50分にはここを出ないと走っても英梨々の家に19時には間に合わない。
ゲームを片づけてグラスと食器を並べる。次にサラダやオードブルなどが運ばれてきた。キッチンからは唐揚げの香りがする。
「ねぇ伊織ちゃん。あの電子ピアノだけど、出海ちゃんが習っているの?」
「昔ね。才能がまったくなくてすぐ辞めてしまったけど」
「伊織ちゃんは?」
「僕もない」
「そう、少し弾いていい?」
「どうぞ」
伊織が立ちあがって、電子ピアノのコンセントをいれた。使い方はわかるらしく美智留に軽く説明している。
美智留はクリスマスソングを弾き始めた。これがなかなか上手だ。楽譜もなしによく弾けるものだと思うが、有名どころはなんでも弾けるらしい。
食卓に料理が並ぶ間ずっと美智留が弾いていた。生演奏の音楽がなると、クリスマス会らしくなってくる。
「さて、倫也君。さきほどの約束だけど」
「覚えていたか」
「何、つまらない質問さ」
「で、なんだよ?」
「うん。この後、誰のクリスマス会に行くんだい?」
「・・・ああ、そういうことか。うちの近所にな、例年クリスマス会を開催している人がいてな・・・子供頃から参加していたんだ。手伝いも兼ねているからさ」
「なるほどね。で、誰のクリスマス会なんだい?」
「強いていうなら、スペンサー家のクリスマス会ってことになるのかな」
「ふーん。スペンサーねぇ・・・」
「これで約束は果たしたからな」
「まぁいいさ」
スペンサー家。まぁ嘘はついていない。英梨々がミドルネームで時々使うが、学校での名前はあくまでも澤村英梨々だ。伊織がスペンサーのことを知っているとは思えない。伊織は口元に手を当てて、何やら考え込んでいるが心当たりでもあるのだろうか。
「倫也先輩、準備整いましたよ。スパークリングジュース開けてもらえますか?」
「まかせて」
シャンパンタイプのジュースだ。キャップを外し、コルクを少しずつ緩める。
ポーン!と心地いい音とともに、泡が少しあふれ出す。「メリークリスマス!」と声を出し、グラスに注いでいった。時計をちらりと見る。時刻は18時半を過ぎていた。
急いで食べればいいというものではないだろう。19時までと伊織には伝えてある。場の空気をみださないように、談笑しながら食事をした。
「氷堂先輩って、キーボードが弾けるんですね」
「基本レベルでね。あまり得意じゃないけど」
「出海ちゃん、こいつは楽器はなんでも弾きこなすぞ。ハーモニカとか、木琴とか」
「へぇ・・・トランペットとか?」
「美智留、トランペットは?」
「チャルメラレベルなら音は出せるけど、演奏できるってほどじゃないなー」
「できるのかよっ」
冗談で聞いたつもりが、楽器はなんでもいけるらしい。
「歌は?」伊織が聞いた。
「歌詞がわかれば歌うよー」
「楽譜は覚えていても、歌詞は別なんだな」
「そりゃそうだよ。正確には楽譜じゃなくて耳で覚えているだけだから」
「なんか天才肌だな」
「そんな子いっぱいいるよー」
「じゃあ、歌詞を出すから歌ってみたら?出海ちゃん何かリクエストある?」
「きよしこの夜とかですかね?」
「だって、美智留」
「あいよー」
スマホで歌詞を出してやる。楽譜がいらないのは便利だ。もうこうなるとちょっとしたかくし芸みたいなものだろうか。
再び電子ピアノの前に座った。伊織が照明のあかりを少し暗くした。
美智留がゆっくりと歌いはじめた。美声である。何を歌っても上手いが、この手の曲だと聖歌隊みたいだ。
パチパチパチとみんなが拍手する。伊織のお母さんも少し離れた場所の丸イスに座っていたが、拍手している。
「いやぁ、照れる~」と美智留が頭をかきながら戻ってきた。
「氷堂先輩すごいです!」と出海ちゃんは素直に褒める。このあたりが可愛い。
「氷堂さんは他にどんな曲を歌うんだい?」
「なんでも歌うけど、昭和歌謡から現代のポップミュージックまで」
「アニソンは?」
「サザエさんとか、ドラえもんレベルなら」
「深夜アニメはぜんぜん?」
伊織の質問がオタクなんだが、本人に自覚があるのだろう。会話の運びには違和感がないが流石だ。
「ああ、そういうオタク向けはみないからわからないなぁ。トモが詳しいだろうけど」
「伊織、残念だけどこいつはパンピーだからな、アニソンは歌わないぞ」
「もったいないね」と、伊織が肩をすくめた。
「はははっ、トモをオタクから元の道に戻すのがあたしの使命だからさー」
「余計なお世話だろ」
みんなが笑っている。確かにこれだけ歌えればアニソンも上手に歌うだろう。こんどカラオケでも連れて行ってみるか。
時刻は50分。そろそろ出ないとまずいが、やっと食事が一段落してきたところだ。
「そうだ、クリスマスプレゼント持ってきたんだ」
俺は話題を変えて、バックから出したプレゼントを出海ちゃんに渡した。
「なんか、タイミングわからなくてごめん」
「すみません。ありがとうございます。ちょっと待っててください」
「倫也君。僕には?」
「ねぁな・・・でも、中身ゲームだから一緒にやってみてくれ」
「おすすめの?」
「まぁそうだな。女の子向けだけど人気のやつだ」
二階に上がった出海ちゃんが戻ってきた。手には小さなプレゼントボックスをもっている。
「これはわたしからです。つまらないものですが」
「ありがと。開けていい?」
「いえ、恥ずかしいので家に帰ってからにしてください・・・」
「わかった」
受け取ったものを鞄にしまった。
「そろそろ時間だし、出海。ケーキ出さないと倫也君が帰ってしまうよ」
「はい。えっと、ちょっと待っててくださいね。お兄ちゃんはテーブルの上を少し片づけて」
「はいはいっと」
伊織がテーブルの上を片づける。美智留はその辺の気配りはしないタイプで、からあげをまだもぐもぐと食べている。ここで片付けを手伝った方が女の子アピールできてポイント稼げそうだが、そういうことをしないのがいかにも美智留らしい。
出海ちゃんが持ってきたのは、クリスマスノエルのケーキだ、チョコレートクリームのロールケーキに、サンタの飾りがしてある。砂糖菓子かな。
見た目は可愛くできていた。
「手作りなんで、お口に合うかわかりませんが」
「手作りなの?上手ぅ~」美智留のテンションがあがる。
「うん。手作りにみえない」ここはヨイショしておこう。
「これで、3台目だからね」
「お兄ちゃん!」
「いいじゃないか、練習したかいがあって」
「練習したんだ?」
「おかげで毎日ケーキが食べれたさ」
出海ちゃんが包丁をもってきて、カットしていく。
「なんだかもったい感じがするな」
「そういってもらえたら嬉しいです」
ちらりと時計を見る。19時だ。遅刻が確定した。こうなったら慌てても仕方がない。
「はい、氷堂先輩。こちらは倫也先輩」
「ありがとー」
「ありがとう」
「お兄ちゃんと、ママの分」
皿に取り分けてラップしたのは父親の分だろう。みんなにケーキがいきわたったところで、改めていただきますをして食べた。
うん。手作りケーキの味がする。店のとは何かが違う。
「おいしいー」素直にはしゃぐのは美智留の良さだろう。
「うん、おいしい」
「トモ、ボキャブラリー少ないなぁ。もうちょい食レポしてみて」
「うーん。そういわれてもな、でも、ほんと手作りとは思えないほど、ちゃんとケーキだ」
「トモ、それはなんか失礼だぞ」
「えっ、そう?」
「いえいえ、褒めてもらえて嬉しいです」
「ほんとよね、練習してよかったわ」と、出海ちゃんのママも手伝ったのだろう、嬉しそうに笑っていた。
ケーキを食べつつ談笑をする。なんとなく帰りますと言いにくい。10分を過ぎている。時間がたつのが早かった。
「倫也君。時間大丈夫かい?」
「いや、ごめん。俺はそろそろ失礼させてもらうよ」
「あっ、はい。引き留めてしまってすみませんでした」
「出海ちゃんが謝ることじゃないよ、ご馳走様!美智留はこのまま貸し出しておくので、好きなだけ演奏してもらって!」
「あー。うん?あたしは残ってていいの?」
「どうぞ、氷堂先輩ゆっくりしてください」
「あら、ならもう少し歌っていただこうかしら?」とママも乗り気だった。
まぁ美智留なら心配ないだろう。波島家にも気に入られたようだし、俺はこっそりリビングを抜けだした。玄関まで見送られるとまた時間がかかる。
玄関で靴を履いていると、後ろから「倫也先輩」と声がかかった。
出海ちゃんが立っている。クリスマス衣装がとても似合っていてカワイイ。これは将来は美人になるだろうな・・・
「倫也先輩、今日はありがとうございました」
「こちらこそ、ご馳走様」
「次は・・・初詣で」
「・・・うん。勉強もがんばって。息抜きにでもゲームして」
「はい」
名残惜しいが、ここで玄関を出る。
外は冷たかった。吐く息が白い。美智留が一緒だったので自転車ではこなかった。スマホで時刻を確認する気もしない。半を過ぎるのは確実だ。
俺は大きく息を吸って、家に向かって走り出した。
(続く)
おっ、出海ルートっぽく・・・