─The Secret Nein─   作:石野 タイト

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2.Masqueraded Night act 1,

思わぬ来客に手に持っていたビニル袋が滑り落ちる。

部屋に飛び込んだ宗治郎は事態が飲み込めず、呆気に取られその場に固まっていた。

 

「あ! なになにお土産! 店長気が利くぅ!」

 

声を弾ませて落ちたビニル袋をルリが拾い部屋の奥に持って行くが、視線は眼前の平子から離れない。

 

「な……なんで、隊長が……」

 

「ええから、まずは座りや。積もる話もあるやろ? 」

 

宗治郎の反応を見て、平子は悪戯の成功した子供のような笑みを浮かべて促した。

宗治郎は羽織ったスカジャンも脱がずに向かい側のソファへ座る。

 

「久しぶりやなぁ宗治郎。元気しとったか? 」

 

「え、えぇまぁ、お陰様で」

 

「そうかそうか、んじゃ……」

 

宗治郎の返答に平子は満面の笑みを浮かべたまま言葉を切るとゆっくり立ち上がり、宗治郎の頭にゲンコツを一発。

部屋中に鈍い音が響いた。

 

「ってぇ!! なにすんすか! 」

 

「じゃかぁしボケが! こっち来とんなら連絡のひとつも寄越さんかい! ったく」

 

涙目になりながら頭を摩る宗治郎をジロっと細めで睨みながら、平子は腕を組み、フンッ、と鼻息と共にソファへ勢いよく座り直す。

 

「いやだって、隊長どこにいんのか分かんなかったし……」

 

「ハハッ! 店長子供みたーい」

 

「……ちょっとルリちゃん黙ってて」

 

いつの間にか奥から戻り隣に座っていたルリに気付き、宗治郎はバツが悪そうに言った。

 

「どうせ喜助んとこで世話になっとったんやろ? 喜助も喜助で言えっちゅうねん……はぁ、まぁええわ。んであの死神、なんて言うとった?」

 

そう切り出した平子の表情に、先程までの薄ら笑いは消えていた。

その平子の言葉に宗治郎は驚いた様に目を丸めた。

 

「あの死神って……あぁ、一冴にあの変なリップケース渡したの隊長ですね? 」

 

「変なのちゃうで、“みえーるみえーる君”や。リサがハッチに作らせてんけど、なんや肝心のもんが透けへん言うてほっぽといてん」

 

「ハッチってまさか、有昭田鉢玄さんですか! 矢動丸副隊長なんてものを……」

 

「んな事どうでもええから、あの死神から聞いた事はよ(はなし)や」

 

「……愛染が動きました」

 

宗治郎は表情を引締め、先程一冴から聞いた尸魂界での事態の概要を平子に話す。

概ね話終えると平子は、ふぅん、と小さくソファに放っていたハンチング帽を被り直す。

 

「そうか……ま、暫くは様子見やな。尸魂界のゴタゴタに首突っ込むんも嫌やし……お前も、下手に動くんやないで? 」

 

「……分かってますよ」

 

平子が釘を刺す様にそう言うと、宗治郎はヘラりと笑って答える。

その後訪れた一瞬の静寂。平子の鋭い眼光が宗治郎の貼り付けた笑みの奥を見据えている。

 

重たい空気の流れる中、何も気にしない風に宗治郎の買ってきたかき揚げを食べながらルリが声を上げた。

 

「ねぇねぇ、その愛染って店長やシンジさんと知り合いなの?てか、店長とシンジさんてどういう関係? 」

 

「まぁ、元上司と部下やな。俺は元 五番隊隊長、愛染は副隊長。宗次郎は五番隊の五席やってん……って、んな事も話してないんかいな。ホンマにお前は……」

 

「いや、元死神だってことはルリちゃんも知ってますよ。そんなに詳しく話してないだけで」

 

呆れ顔の平子に宗次郎は苦笑いで返す。

二人のやり取りを他所に、ルリは人差し指を顎に当てて考えている様子だった。

だが、

 

「ふぅん。店長は分かんないけど、シンジさんは凄かったんだ 」

 

ルリは満面の笑みで考えるのをやめた。

 

「分からんかぁ……ま、隊長言うてもそないにええもんでもないで。堅苦しいわ、面倒な仕事は多いわで」

 

そう答える平子を宗治郎は白い目で見る。

 

「隊長、面倒な仕事俺やら他の隊士やらに振ってたじゃないですか」

 

「アホ、お前らに振れへん面倒なんもあんねん。つかその“隊長”ってのもやめろ、もう隊長やないねんから。これからはルリちゃんみたく“シンジさん”って呼べ。ほれ言うてみ、シンジさん、や」

 

「じゃぁ……平子さんで」

 

「かぁッ!かったいのぉ! 」

 

言いながら、平子は皿に盛られたかき揚げを摘み上げて口に放った。

 

「あ! てか二人とも、それ俺の晩飯! 」

 

「ええやんけ別に、ケチケチすなや」

 

「そーだそーだ!」

 

宗治郎の訴えをルリと平子が暴論で打返しながら更に食べ始めた。

 

「あ、せや宗治郎」

 

「なんです?」

 

負けじとかき揚げを頬張り始めた宗治郎が食べながら答える。

 

「お前、ウチ来んか?」

 

「うち?」

 

「そや。俺ら、仮面の軍勢(ヴァイザード)や。愛染も動き始めたんなら、大勢で迎えたらんとな」

 

悪戯な笑みを浮かべて平子がそう言うと、宗治郎は少し考えてから、

 

「……折角なんですが、俺この町結構気に入ってるんで」

 

と、少し困った様に眉を下げ小さく笑って返した。

 

「……そうか。んならまた何かあったら連絡するわ。お前もなんかあったら顔出しや、俺らは空座町におるさかい。ほな、ご馳走さん」

 

宗治郎の答えに肩を竦めながら平子は立ち上がり、後ろ手に手を振って玄関を出た。

 

「よかったの? 折角誘ってくれたのに」

 

「……いいんだよ」

 

不思議そうに訊ねるルリに、宗治郎は短く返事をするとかき揚げを頬張った。

 

 

******

 

翌日。

相も変わらず鳴らぬ電話番で一日を潰し、空は瞬く間に帳を下らす。

宗治郎は夕飯の惣菜を買いにシャッターの目立つアーケード街へと足を運んでいた。

いつもの利用している天ぷら屋で、穏やかな表情の老婆から品を受け取ると、お釣りの小銭を手の平に並べて見つめる。

 

「はぁ、今日も暇だったなぁ。マジでそろそろ仕事入らねぇとヤバいぞこりゃ」

天ぷらの入ったビニル袋をぶら下げスカジャンのポケットに手を突っ込みながら、古ぼけたアーケードを見上げる。

 

その時だった。

全身が総毛立つ感覚と共に重くのしかかる霊圧。

振り返った方角は空座町のある方角。

川を挟んだ隣町から伝わる霊圧の揺れが宗治郎にまで届いていた。

感じた霊圧は二つ。

 

「おいおい、平子隊長なにやってんだ? にしてももう一つは……」

 

平子の霊圧と、もう一つの大きな霊圧。

ザラついたような、混じりあったようなその霊圧が酷く不安定に感じられた。

 

─……マズイな……

 

眉をひそめ宗治郎は心の中で独り言ちると、路地裏に入ると周囲に人がいないのを確認し瞬歩を使ってアーケードの上まで昇る。

 

「やっぱりか」

 

宗治郎は苦虫を噛み潰したよう表情で辺りを見回す。

周囲から感じる虚の霊圧。

それはまるで撒き餌でも使ったかのように夥しい数だった。

 

「マジでなにやってんだよ隊長」

 

忌々しげに呟くと、宗治郎は振り向きざまに左腕を掲げる。

 

「破動の三十三 蒼火墜」

 

言葉と共に宗治郎の掌から蒼炎が放たれる。

それはアーケードを登ってきた芋虫のような体躯の虚の面に直撃。

虚は金切り声を上げながら霊子となって霧散する。

 

「ここより安くて上手い天ぷら屋知らんのよ俺。しゃあない、ひと仕事しますか」

 

宗治郎は誰にともなく呟くと、アーケードから飛び降りた。

 

******

 

「うわッ! びっくりしたぁ」

 

ルリはバイト先である宗治郎の事務所からの帰路の途中だった。

ルリもまた、隣町からでも伝わる霊圧を感じ空座町のある方角を見つめる。

 

「これはぁ……あぁ! シンジさんの霊圧か! 凄っ、ホントに隊長? っていうのだったんだ。もう一つは、うーんなんかシンジさんや店長の霊圧に似てる気が……」

 

頬に手を当て考え込んでいるルリの背後に、突如現れる大きな影。

巨大な(かいな)がルリへと振り下ろされ、轟音とケムリが立ち込めた。

 

振り下ろしたのは周囲にある二階建ての戸建てより大きな牛を思わせる仮面を着けた虚。

 

「ケホッケホッ。けむーい! なんかめっちゃ虚いるー」

 

振り下ろされ抉れたアスファルトより向こうに、煙を払う仕草で迷惑そうな表情を浮かべたルリの姿があった。

 

「ホントは時間外なんだけどしょうがない。働いてあげましょう! 」

 

言いながらルリは頭に乗せた白い狐の面を顔に着けた。

瞬間、膨れ上がる霊圧と共に濃紺のサラサラとしたロングヘアが浮き立つ。

腰に巻いた茶色のカーディガンとグレーのスカートがはためき、腰の辺りから九つの赤黒い尾のような物が伸びる。

 

「いっくぞー! 」

 

掛け声と共にルリが両手を虚にかざす。

それと同時に、尾の外側二本が勢いよく伸びていき虚の両肩に突き刺さり切断する。

 

『Meeeee!! 』

 

「えっ! 牛さんじゃなくて羊さんなの!? 」

 

妙な鳴き声にルリが困惑していると、虚は牛のような角を前に突き出し突進。

 

ルリは二本の尾をアスファルトに突き刺した。

そして尾は屈曲の後、跳躍。

道沿いの屋根の上に降り立ち突進を回避する。

 

「やっぱ牛さんじゃん」

 

そう言って左手をかざし、振り返った虚の面に尾を突き立てた。

 

消滅する虚を見届けると、ルリは再び尾は使い跳躍。

それと同時に、周囲を囲むように無数の虚達がルリへ飛びかかる。

 

「てりゃぁ!! 」

 

声と共に両手を左右に広げ、九つ全ての尾がそれに追従するように四方八方へと伸びていく。

伸びたその尾達は虚を二体、三体と串刺しにしていき、断末魔と共に消滅させる。

 

周囲の虚が消え去り、着地するその瞬間だった。

 

大きな霊圧に気付き、咄嗟に全ての尾で自身の体を包み込む。

球体上になったルリに強い衝撃が伝わる。

 

「痛ってて……なんなのよもぉ」

 

尾を解きながら右腕を摩り前を見ると、そこには先程の虚達よりも更に二回りほど大きいな虚の姿。

 

全身を紫の鱗の様なもので覆い、両肘から魚の骨のような突起。背には背ビレのような物が伺える。

その顔には魚を思わせる仮面が着いていた。

 

『人間にしてはまずまずの霊圧だ。我が糧としてやろう』

 

「ほ、虚が喋った! ……て、たまにいるか」

 

虚の体躯など何処吹く風。

ルリはマイペースにそう言いながら虚と対峙する。

 

「とぉ!」

 

両手を虚にかざし、虚目掛けて二本の尾が鋭く伸びる。

だが、虚の両肩に当たった尾は貫くことなく、甲高い金属音とともに静止する。

 

『我が鱗はこの程度の刺突など通さぬわ! 』

 

虚はそう言って肩にあたる尾を振り払うと、巨大な両腕を交差させ力を込める。

すると、両肘から伸びる魚の骨のような突起が反り返るように伸びた。

 

『死ねぃ!』

 

虚は右肘を曲げながら右腕を振り上げる。

伸びた骨のような突起はアスファルトを削りながらルリへと迫った。

 

巨大な骨の斬撃。それをルリはすんでのところで左に飛ぶことで避ける。

斬撃はカーディガンと僅か濃紺の髪を捕え引き裂き、ボロきれになったカーディガンが舞った。

 

「あっ!」

 

夜空の彼方へ舞い上がる切り裂かれたカーディガンを見上げ小さい声を上げると、俯き立ち尽くすルリ。

 

「……さない……」

 

『ん? なんだ? 恐怖のあまり声も出んか? 』

 

「お気に入りのカーディガンだったのに……絶対許さないんだから! 」

 

叫ぶ様にそう言って、ルリは尾を使って跳躍する。

 

「おりゃおりゃおりゃおりゃおりゃおりゃおりゃおりゃおりゃおりゃおりゃおりゃおりゃおりゃおりゃおりゃおりゃおりゃおりゃ……」

 

声と共に両腕を虚に向かって交互に出し続ける。

それに連動して九つの尾は交互に虚を殴り続けた。

 

虚は両腕を前に出し、仮面を守るようにしながら攻撃を防ぐ。

 

『ハッハッハ!! 貴様が何をしようと我が鱗を抜くことは……』

 

言いかけて痛みを感じ、虚は気付く。

自身の鱗が引き裂かれて、両腕が切り裂かれている事に。

 

─馬鹿な! なぜ……

 

虚が思案している間にも、鱗は剥げ、その身が削られていく。

そして、遂にその両腕はミンチになり赤黒い血液を辺りへぶち撒けた。

 

『Guaaab!!』

 

「……おりゃァッ!!」

 

激痛に叫ぶ虚の声を掻き消すように、ルリの雄叫びと共に九つ全ての尾がその面を突き刺し、引き裂いた。

 

頭部を無くしたその巨体は仰向けに倒れながら霊子となって霧散していく。

 

地に降り立ち身体に着いた埃を払うと、ルリは仮面を頭にズラす。

 

「あのカーディガン高かったんだからね! 弁償出来ないなら出てこないでよ! 」

 

ルリはそう憤慨した様子で腕を組み、フンッ、と鼻を鳴らした。

 

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