プロローグ
『次元間転移に成功しました。お疲れさまでした』
無機質なAIが淡々と事実を読み上げる。
何度経験しても、この感覚は慣れなかった。
「よし、野郎ども!! 仕事の時間だ!!」
艦長のジョン爺さんは気にせずブリッジの面々に怒声を浴びせる。
この人は俺の叔父で、俺の雇い主だ。
「ドラコ、てめぇもさっさと位置につけ!!」
「アイサー!! 艦長!!」
内心くそったれ、と吐き捨てながら、俺は通路に出た。
そして小型の作業船に乗って、宇宙に飛び出した。
仲間たちも次々と作業船に乗って追従する。
俺たちの目の前には、巨大な瓦礫が無数に散らばっていた。
これらの中から資源になる物質を回収するのが俺たちのサルベージャーの仕事だ。
『また派手にぶっ壊されてるな』
『おかげでこっちの作業は楽だけどな』
『ちげぇねえ』
同僚たちがオープンチャンネルで雑談をしているのが聞こえた。
「これも、魔王様方の仕業なんだろ?」
『当たり前だろ。俺たちの仕事は魔王様一族のおこぼれなんだから。それがどうした?』
「いや、こんな容赦なく木っ端みじんにするこたないと思ってな」
『仕方ないだろ。我らが造物主、女神メアリース様のご意思なんだから』
女神メアリース様。
我ら全ての人類の創造主。その住む場所からあの世まで、全てかの御方が創造したものだ。
俺たち人類はあの御方にひれ伏して生きている。
あの御方が滅ぼせと言ったら、魔王が派遣され滅ぼされる。今、こうして残骸を回収しているこの場所のように。
「初めて会った時は、そんなことをするようには思えなかったんだがな」
『諦めろ、そう言うもんだ』
『お前は転生は1度目だったか? そのうち慣れるさ』
そう、俺には前世の記憶がある。
死後に女神メアリースに面会する機会があった。
そこで来世の特典などを説明された。
記憶の持越しを望んだ俺は、こうして転生者が産まれる世界へと生を受けた。
周囲は、全てが前世の記憶を持つ転生者たちばかり。
俺ツエーなんて夢のまた夢。
転生して分かったことは、死後には夢も希望も無いということだけだった。
こうして、前世のように下っ端として扱き使われる毎日である。
宇宙の藻屑と化した残骸を作業アームでかき分けながら、使えそうな鉱石や残骸を作業船に格納していく。
「うッ」
そして、見てしまった。
恐らく防護シェルターらしい残骸の中身から、腐敗することなくそのままの姿を保った少女の死体が浮いて出てくるのを。
『あー、楽に死ねなかったのか。魔王様も雑な仕事をなさる』
隣で作業をしていた同僚が、溶断用のレーザーで死体を焼却した。
『まあ、来世はもっとマシな人生が送れるだろ!!
無残な死に方だと、次の生まれに考慮されるからな』
「ああ、そうだと良いな」
俺は心にも無いことを口にした。
結局、凡人には凡人の生き方しかできないのだ。
そう、どれだけお膳立てされたって。
『お前ら、いつまでくっちゃべってるんだぁ!!
さっさと戻ってこんかぁ!!』
ジョン爺さんの声に、同僚たちがいい加減な返事を通信で返した。
こうして、俺たちは母艦に帰還した。
「おーし、俺たちの母港へ戻るぞ!!」
艦長の号令で、この滅びた世界にやってきた時と同じように次元を転移して俺たちの船は去って行った。
ここは転生者のみが産まれる世界。そこに俺たちの母港はあった。
前世譲りの高度な技術を持った転生者たちが築き上げた文明は、俺がかつていた日本とは比べ物にならないほど発展していた。
宇宙旅行なんて夢物語だったのに、今の俺は別の世界まで行って残骸漁りをしている。
前世で大した技術や知識を持たずに転生した俺は、この程度の人生しか送ることはできないわけだ。
富める者は富み、貧しい者はより下に落ちる。社会の縮図だ。
「……今日は帝国籍の船が多いな」
母港に格納されるまでの間、高層ビルと空飛ぶ車が行き交う地上を見下ろし、ジョン爺さんが呟いた。
「大規模な船団の護衛があるとは聞いていませんが……」
「帝国の動向など気にするだけ無駄だ」
副艦長とジョン爺さんの会話を聞き流しながら、俺は入港のオペレートをしていた。
その甲斐あってか、船は無事に入港できた。
今日の仕事を終え、同僚たちが船から降りていく。
俺も彼らのように街に繰り出そうと、そう思っていると。
「おいドラコ、今日は一緒に呑もうぜ」
「……はい、艦長」
かつて日本人だった俺は、叔父とは言え上司からの誘いに断れなかった。
俺たちは日本人街の飲み屋にやってきていた。
古き良き昭和の日本を再現した、ガワは古い見た目だが中身はハイテクというチグハグな場所だ。
「おめぇは相変わらず、つまらなさそうな顔してんなぁ!!」
「人生なんて楽しいもんじゃないでしょう」
「バーカ、だからおめぇはダメなんだよ!!」
この爺さんは前世は魔物が蔓延るファンタジー世界で海賊をしてたとか言う人物で、まあ豪快過ぎる男だった。
「オレぁ前世じゃ奴隷貿易に嚙んでてよ。
お前の顔はそこの商品どもと同じ顔だよ。
人生なんてつまんねーって、分かりきった顔だよ!!」
実はこの話はもう十回以上聞いた。
酔っぱらった時のジョン爺さんの武勇伝は決まり切っている。
「奴隷商人だったくせに、よくリェーサセッタ様に地獄に叩き落されなかったですね」
「そりゃあ、相手は女神よ。オレ様の色香でイチコロよ!!」
豪快に笑うジョン爺さん。
俺は酒を注ぎながら愛想笑いをするほかできなかった。
「まあ、真面目な話をするとだな。
そのうち、お前に俺の船を譲ろうと思ってんだわ」
「え?」
それは、初耳だった。
そんな話は初めて聞いた。
「そうなったらよ、お前は好きに生きろや」
「好きに……?」
「ああ、お前は自由に生きろや」
俺は思った。
自由とは何だ?
§§§
今日も今日とて、滅んだ世界のサルベージ。
俺たちのルーチンワーク。
俺は昨日の出来事を思い出して、残骸の奥まで先行していた。
『おい、ドラコ。そろそろ戻るぞ』
「悪い、先に戻っててくれ。もうちょっと作業する」
『相変わらずクソ真面目だな。
エネルギーが尽きる前に戻れよ』
ハッキリ言って、死体が残ってることなんて極稀だ。
でも、もしそこに居るなら見つけてやらねば、と俺は思ってしまったんだ。
だから、そんな感傷が俺の命運を分けたのは皮肉としか言いようが無かった。
『おいドラコ、戻れ!! なにか、様子がおかしい!!』
ジョン爺さんの通信が俺の作業船のコクピットに響き渡る。
「様子がおかしい? 一体何が──」
直後、俺の乗っている作業船が衝撃で上下がひっくり返った。
慌てて作業船を安定させると、モニターには巨大な宇宙戦艦が映っていた。
その側面には、太陽のエンブレム。
「あれは、帝国の戦艦!? あんなのがなぜ!?」
先ほどの衝撃はあれが転移してきたからだと俺は悟った。
だが、問題はそんなことではなかった。
その戦艦の砲身が、母艦に向いていたことだった。
「爺さん!! 逃げろ!!」
超高熱の熱線砲が発射され、俺たちの船は跡形も無く消え去った。
俺はその砲撃の衝撃で瓦礫と一緒に吹き飛ばされた。
『致命的な損傷発生、即時脱出を推奨』
「言われなくても分かってる!!」
がんがん、と作業船が周囲の瓦礫にぶつかる音と衝撃に振り回されるも、俺は脱出装置を起動するが、動かない。
「ちくしょう!! そんな気はしてたよ!!」
このままではこの作業船を棺桶になって永眠するほかない。
俺は、決して取りたくなかった最終手段を取るほかなかった。
「スキル、“アイテムボックス”!!」
俺は転生の際に神から授けられた
「来い、次元航行船“ガランチョウ”ッ!!」
「■■■ ■■さん、残念ですが貴方は死んでしまいました」
冗談みたいな、そんなテンプレ台詞と共に俺は目を覚ました。
これは、俺が転生した時の記憶だった。
俺の目の前には、整いすぎた美貌を持つ女神が座していた。
「我が名はメアリース。ああ、貴方は地球系列世界の出身ね。
なら、メアリー・スーと名乗った方が分かりやすいかしら。
私は人類文明を司る者。そして、あなたの死後の案内人」
「……すみません、どこからツッコめばいいか分からないです」
「難しいことを考える必要は無いわ。
あなたには、生前の私への貢献度やその他諸々を考慮したポイントで来世の特典を選んでもらうわ」
彼女が、女神メアリース。
俺が死後に出会った、本物の神様。
その神様は俺にゲームのステータス画面の割り振りみたいなモニターを提示してみせた。
その項目は境遇や才能といった項目があり、そして特殊なスキルの習得の項目もあった。
勿論、前世の記憶の引継ぎもポイントの消費で可能だった。
俺は質問をしてみた。
「あの、可能なことはここにあるだけですか?」
「大抵の事は網羅されているはずだけど、何か個別の要望があれば対応するわ」
女神は事務的だった。
俺なんて無数にいる取るに足らない人間の一人に過ぎない。そう言われているようで嫌だった。
だから俺は、無理難題を口にしてみた。
「例えば、ですね、宇宙船で旅行してみたいです」
「そんな程度で良いの?」
女神は小首を傾げて、俺を見やった。
彼女は文明の最果てを見通す、人類の概念そのもの。
人間が想像しうるほぼ全てを可能とする、全能の女神。
俺は己の浅はかさを知るだけだった。
「じゃあ、可能な限り最高のスペックの宇宙船が欲しいです」
「なるほど。じゃあ丁度私が設計した宇宙船のプロトタイプで良かったら貸し与えても良いわ。
丁度運用データが欲しいと思ってたところなのよね。
旅行目的なら武装は要らないわよね。それらをオミットするなら……これで提供できるわ」
そう言って、彼女は俺に与えられたポイントで手に入る価格を示した。
「じゃあ、それで」
俺は無理を言ったつもりだったのだが、今更引っ込みがつかなくなって頷いてしまった。
宇宙船を貰ったら、あとは少ししかポイントが残らなかった。
だから残りのポイントを使って宇宙船を収納できるアイテムボックスのスキルと、前世の記憶が無くなるのは怖かったから記憶の持越しを選んだ。
そうして、俺は“神の船”を手に入れ転生を果たした。
その船が、とんだ欠陥品だと知らぬまま。
『お帰りなさい、艦長』
俺が目を開けると、艦内の照明が一斉に点いた。
俺はブリッジの艦長席に座っていて、状況を確認する為に肘掛けのリモコンに触れた。
「モニター点灯」
俺がそう言うと、ブリッジの正面と天井のモニターが点灯した。
これで周囲の状況が目の前に居るかのように把握できる。
と言っても、宇宙の暗闇と星の光、瓦礫だけしか見当たらないが。
「……エネルギー残量を教えてくれ」
『残り9%です』
前回、以前乗り回した時からほとんど減っていない。
スリープモードのままアイテムボックスに収納したからだろう。
「最低限の生活環境を保ったままで、どれだけ持つ?」
『生命維持に最低限必要な施設の稼働のみならば、999年999日以上維持可能』
機械音声の返答に、俺は安堵した。
欠陥品でも神の船というわけだ。
『提案:エネルギー残量が10%を切りました。至急エネルギー補給を推奨』
「うるさいッ!!」
俺は警告音声に怒鳴り散らした。
情けない。AIに当たっても仕方ないというのに。
「生命維持以外の全ての機能をOFFにしろ!!
音声案内も全てOFFだ!!」
俺はそう言い捨てて、ブリッジを後にした。
艦内は自在に拡張でき、俺一人ではその許容量の1%も使い切ることは出来なかった。
ただ雰囲気づくりの無人の船室が並ぶだけ。その一室が俺の部屋だった。
「結局、棺桶があの狭い作業船からこっちに変わっただけか」
俺は自室のベッドにもぐりこみ、赤子のように膝を抱いて孤独に涙した。
俺はこの船を二度と動かすこと無く死ぬだろ。
それでいい。
……そのはず、だった。
とりま、プロローグです。
本作はソシャゲ風の、同シリーズの登場キャラが全て登場し仲間になりうるお祭り作品となっています!!
テイルズの某作みたいな!! 一度やってみたかったんですよね!!
そんな感じなんで、メインストーリーの進みは遅いかもしれません。
キャラゲーみたいなものですからね!!
仲間になるキャラも、ガチャみたいにアンケートで決めます。
レア度高いと一定数以上の票が無いと当選しないみたいな感じで。
というわけで、ぼちぼちよろしくお願いします!!