次元海賊船ガランチョウ   作:やーなん

10 / 11
1-8 ガランチョウ

 

 

 

「待たせた」

 

 シュー、と自動ドアが開いてメリスが一人の少女を伴ってブリッジに戻って来た。

 

「どうも、レイアと言います」

 

 ちょっと陰気な十代半ばくらいのブラウンのボブカットの少女はぺこりと頭を下げた。

 使い古された古着からして、身なりは良くない。

 そして小柄な彼女に不釣り合いな、長い節くれだった木製の杖を手にしていた。

 典型的な魔法使いっぽい印象だった。

 

「話はリェーサセッタ様から伺いました。

 私の力が必要だと」

「なあ、失礼かもしれないがこんな若い子がタイムリロードの対抗策になるのか?」

 

 正直争いごとも出来なさそうなひ弱そうな見た目だった。

 

「三代目は唯一無二の存在だ。

 この場の誰とも代えが効かない」

「いや三代目て、ヤクザの総長かよ」

「あながち間違いではないな」

 

 リネンは大真面目に俺にそう返した。

 

「よもや、また相まみえるとはな。お嬢さん」

「あ、あなた達はあの時の……」

 

 リーパー隊の隊長がなぜか彼女相手に冷や汗を掻いていた。

 他の隊員たちも彼女を目にしてなぜかビビっていた。

 

「まさかこうして直接会えるなんて……」

 

 そしてウインター博士も目を見開いて驚いていた。

 

「なあ、ホントにヤクザの跡取りとかじゃないよな」

「あなたも会ったでしょ。私の師匠に。

 その流派の家元の三代目継承者みたいなものよ」

「メリスは継承者にならなかったのか?」

 

 ぞわり、と俺の何気ない言葉に対してメリスは俺に殺気を向けた。

 見た目は整ってるから恐怖を覚える睨まれ方をされて、俺は委縮した。

 

「なんだよ、そんな顔するなよ」

「艦長。太古の昔、魔導の伝承は一子相伝。

 弟子が師匠を殺すことで、己の腕を超えたと証明させたのです」

 

 俺の耳元で、メリスの自伝を携帯してる技術者が囁いた。

 

「あ、あー……」

 

 俺たちは彼女の師匠に今しがた会ったばかりである。

 つまりは、そう言うことだった。

 

「まあ、なんだ、そんな野蛮な文化があったんだな!!」

 

 フォロー下手か、俺。

 

「ふん、私の人間だった時代にはとっくに形骸化していたわよ。

 事実、レイアは己の師を殺さずに三代目に内定している。忌々しい限りね」

 

 メリスの不機嫌メーターがまた上昇している……。

 

「あの、その具体的に何をすればいいんですか?」

 

 当の三代目ことレイアはおずおずと俺たちに問うてきた。

 俺は“門”の奥で知りえた情報を伝えた。

 

「うーん、そう言われても……」

 

 何やらレイアは挙動不審だった。

 あっちこっちに視線を向けて、なんだか不安になる仕草だった。

 

「多分、できます」

 

 色々考えて思考がまとまったのか、彼女は結論を出した。

 これに技術者陣はざわついた。

 タイムリロード……時間移動の後だしジャンケンの対応は彼らにもそれだけ難題だった。

 

「具体的にはどうするのですか?」

 

 代表してウインター博士がレイアに問う。

 

「後出しじゃんけんは、幼稚な子供のズルです。

 だったら、大人を呼んでズルを出来ないようにすればいいんです」

「というと?」

「我が姉弟子の恩寵を用い、主観を固定するのです」

 

 彼女が何を言っているのか、俺には分からなかった。

 

「この地の“門番”たる我が姉弟子は、観測を司る女神。

 その権能を借り受け、行使すれば人間レベルの時間干渉を跳ね除けることなど容易でしょう」

 

 あのヒト、そんなスゴイ女神だったんかい。

 いや、まあ生きてる人間だとは思ってなかったけどよ。

 

「それで、主観の固定とは?」

「我々人間には、目で見えることだけが全てでしょう? 

 例えば小説の主人公の視点から物語が進む場合、その世界観において別の人間は描写されずとも行動を行っていますよね? 

 仮に読者が先のページの内容を知って、それ以前のページを勝手に文章を書き換えできなくする感じでしょうか」

「原作者が二次創作を認めない、と言うようなモノでしょうか?」

「まあ、ニュアンスが伝われば……」

 

 理屈は、まあ分かった。

 

「ただし、これにはデメリットもあります」

「なんだ?」

「原作者が世間に公表した小説の文章は、後から変更できない。

 つまり、あなた達が戦って敗北した場合、それがピリオドになるのです」

 

 つまり、俺たちが戦って敗北した場合、帝国のようにタイムリロードをして都合の良いようにやり直しは出来ない、と。

 

「それが姉弟子の、観測の女神の権能。

 この世に数少ない、“絶対”のひとつです」

 

 デメリットと聞いて俺は内心身構えたが、肺から息を吐き出した。

 

「そんなものはデメリットにならない。

 俺たちはいつだって今を生きている」

「分かりました。それと、メアリース様。大師匠……この杖に宿る“初代”からのお言葉です」

 

 ああ、何だか挙動不審だったのは、その杖の意思みたいなのと意思疎通してたからか。

 

「『お前、こんな効率の悪いエンジン作るとか馬鹿じゃないの? 

 人間を薪代わりとか化石燃料で火力発電じゃあるまいし。遠回りでロスが多いんだよ。いい加減多機能性やカタログスペックだけを求めるのは止めたら? 進歩が無いんだよお前は』……だそうで」

 

 彼女がそんな暴言を言い切る直前には、メリスはリボルバー銃を彼女に向けていた。

 

「野郎ぶっ殺してやらぁあああ!!」

「やめろ、やめろって!! 自分のキャラを大事にしろって!!」

 

 俺は咄嗟に彼女を羽交い絞めにして叫んだ。

 初代様とやらの物言いは頷けるが、流石に暴言が過ぎる。

 それにしても、この刺々しい口調。どこかで聞き覚えが……。

 

「すみません、すみません!! 

 私は言いたくなかったんですけど、大師匠が言えって……」

「とにかく、これで解決策は用意できたな」

「自分だって師匠じゃなくてわざわざレイアを寄越して迂遠に協力させてるくせに!! 

 何が遠回りでロスが多いよ、いつもいつも私の事バカにして!!」

 

 謝るレイア。我関せずと話を進めるリネン。暴れまわろうとして叫ぶメリス。

 カオスな状況だった。

 

 

 

 §§§

 

 

 さて、レイアが唯一無二と言うのは本当だった。

 

「このエネルギーシステムなら、特に改修せずにエネルギー供給が出来ると思います」

「本当か!?」

 

 本当に彼女は有能だった。

 なろう系主人公並みの大活躍だ。

 

「と言うより、私しかできないと思います。

 このエネルギーユニットは、魂の位相差を利用したエネルギーを収集するシステムなんですが」

 

 レイアが俯瞰図等を表示できるテーブル一体型の多目的モニターに電子ペンで魔法の術式を書き込んでいく。

 彼女の周囲は技術者たちで埋め尽くされていて、俺のいる艦長席からでは声しか聞こえない。

 

「別世界間に存在する魂同士の繋がりを利用し、同一存在の共鳴現象を引き起こせば、指数関数的に比較的緩やかに魔力の増幅を図れるはずです」

「しかし、これは理論上で──」

「まさか個人でこれを制御するつもりか?」

「常設型世界間ポータルが幾つ必要になるか……」

「いや、そもそもこれは禁術だ!!」

 

 技術者たちの話し合いは俺はついていけない。

 だから欠伸をしながら結論を待つことにした。

 

「メアリース様は、これはいくら何でも現実的ではありません!!」

「そうです、原液のニトログリセリンの容器を両手に持って全力疾走するようなものです!!」

「これを個人で運用するなんて馬鹿げています!!」

「最低でも次元工廠のメインユニット並みの演算能力はないと……」

 

 まだ終わんないのかな。

 出来るって言うんだからやらせりゃ良いじゃないか。

 

「物理的にも魔法的にも机上の空論……これを可能とするなら、まさに神の御業……」

「ウインター博士、レイアはそんなに難しいことしてるのか?」

「艦長はウラン鉱石を手にもって生身で核融合できる?」

「……もう科学とか魔法とかってレベルじゃないな」

 

 近くで右往左往していたウインター博士に聞いてみたら、予想以上に突拍子も無い答えが返って来た。

 もはや学術じゃなくてただの奇行である。

 

「それは飽くまで例えだけど、彼女のやろうとしていることはそれだけ危険なの」

「この船が吹っ飛ぶくらいか?」

 

 ウインター博士は首を横に振った。

 

「この座標の周辺世界も丸ごと消えるわ」

「……まあ、そうだよな」

 

 それくらいじゃないと、この船の動力は供給できない。

 

「失礼、私はこの船の部品設計に関わった者だが!! 

 仮にこの術式を実行可能だとして、エネルギータンクが供給に耐えられないだろう。

 計算したところ、0.02秒で満タンになる。あまりにも過剰だ」

「そうだ。みんな冷静になろう。

 技術とは神の御業をヒトの領域に落とし込むこと。

 もっと現実的な数値になるように術式を練り直そう」

「だとしたらもっとスローペースになるように──」

「それでしたら、方式を変えて──」

 

 レイアと技術者たちは意見をぶつけ合い始めた。

 もう好きなだけやってくれ。

 

「まったく、魂がどうとか言ってるが。

 なんで魂ってのがそんなエネルギーになるんだよ」

 

 この船のエネルギー源が魂なのは知っている。

 それが大量に必要なのも。

 だからこそ、有り触れているモノがそこまで重要なのがよく分からない俺だった。

 

「そもそも、魂ってのが抽象的でわからんのよな」

「錬金術に於いて、人間とは魂、精神、肉体の三つによって構成されるとされているわ」

 

 しまった。解説好きのメリスの奴がドヤ顔で話し始めた。

 

「人間の肉体には、あらかじめどれだけ身長が伸びるかとか、遺伝によって病気になりやすいとか決まっているでしょう? 

 魂も同じ。人間の才能的、霊的な部分を司っているのよ」

「あー、人間の才能は魂に依存しているってやつか」

 

 女神メアリースの加護を受けた俺たちは、それらをステータス画面で把握できる。

 まったく便利で残酷なシステムだ。

 同じ努力の量でも、才能の有る奴に才能の無い奴は勝てないんだから。

 

「なんでこんな風に才能の有り無しで分けるようにしたんだよ」

「生憎、魂の生成は私の管轄外よ」

「は? だってあんた、転生の際に才能を弄れるじゃんか」

「それはスキルやレベルという加護として、数値を増減させているだけよ」

「私は人間になる予定の肉体を用意するのが仕事で、魂は勝手に入ってくるの。それを人間として扱っているだけなの」

 

 俺は。

 

 もしかして。

 

 とんでもない。

 

 恐ろしいことを聞いたのでは? 

 

 神様(工場長)は言う。

 

「だって、個々の性能差が有るなんて非合理的じゃない。

 品質が安定しない上に、振れ幅で良品を期待するなんて馬鹿げてるわ」

 

 俺はようやく、さっき自傷を始めた連中の思考を理解した。

 死すら既知となった俺に訪れたのは、──新鮮な得体の知れない“恐怖”だった。

 

「どうせなら人間じゃなくて虫の神様になりたかったわ……。

 昆虫は良いわよね。機能的で忠実で、人間よりよっぽど優れてるし……」

 

 思いのほかメリスも精神にダメージを受けていた。

 いつになく弱っている彼女に声を掛けることも出来ず、俺はただただ溜息を吐いた。

 

 技術者たちの喧騒を聞き流しながら、俺は眠気に負け始めた。

 

「これが恐らく最適解かと」

「だが、これは余りにも非人道的すぎる──」

「しかし今ある設備でこれ以上は──」

 

 

 

「艦長、決断をお願いします」

 

 俺が眠りの船の船長になっていると、レイアを含めた技術者たちが俺を見ていた。

 

「あ、ああ!! お前たちが最適と判断したのならそれが最善だろう」

 

 声を掛けられた俺はハッとなって反射的に頷いた。

 すると、彼らはいたく感じ入ったような表情になった。

 

「……メアリース様、貴女様はこれを予期してこの船をガランチョウと名付けたのですか?」

 

 技術者たちの、おそらくリーダー格の男が畏怖するようにメリスにそう言った。

 

「偶然よ。だけど、これで本当の意味でこの船は完成するのね」

 

 忌々しいわ、と吐き捨てるようにメリスは応じた。

 

「では、艦長。こちらへどうぞ」

「うん? ああ」

 

 そして俺は。

 

 

 

 がしゃん、と俺は眩いライトに照らされ、瞼を下ろした。

 

「は、放してくれ!!」

 

 俺は拘束されていた。

 まるで手術台のような装置に大の字で。

 

「何を今更。さっき了承したじゃない」

 

 手術衣とマスクをしたメリスが、薄いビニール手袋を装着しながらそう言った。

 そして、口に詰め物をねじ込まれた。

 俺は体を動かして抵抗の意思を示すほかなかった。

 

「それでは、艦長の霊的改造手術を行います」

「麻酔用魔法の詠唱を」

「大丈夫。痛くないですし、施術後には世界が変わります」

 

 魔法を唱えるレイア。

 手術を手伝うウインター博士がマスクごしに俺に微笑んだ。

 

 聞いてない。

 こんなの聞いてないぞ、俺は!! 

 

 

 

 

 §§§

 

 

「施術は100%成功しました」

「当然よ、執刀したのは私なのよ」

「流石はメアリース様です。完璧な手術でした」

 

 意識が浮上する。

 俺が目を開けると、マスクを外すメリスと彼女を称えるレイアが居た。

 そして技術者たちが感動した様子で拍手をしていた。

 いつからここは医療ドラマの現場になったんだ。

 

「……俺は一体なにをされたんだ?」

「向こうに戻ればわかりますよ」

 

 手術衣を脱いだウインター博士がそう言った。

 くそ、このマッドどもめ。

 

「メアリース様、こちらの改造も終わっています!!」

「ご苦労ね」

 

 どうやら艦長席も、メリスの指示でなにやら改造されていた。

 

「座って見て」

 

 俺は彼女らに促されるまま、艦長席に着いた。

 

 次の瞬間、俺の脳に凄まじい情報が押し寄せた。

 視界が増えて艦内の各所を映し、あらゆる計器が自分の体調のように手に取るようにわかる。

 

 外に目を向ければ、この“聖地”の詳細な景色を把握できた。

 

 これは、この船の視界や感覚なのか!? 

 

「成功のようね」

 

 俺の反応を見て、ブリッジのカメラ越しにまたもやみんなが拍手しているのが見えた。

 

「いったいこれがどういうことか説明してくれ」

 

 俺の声は艦内放送となって駆け巡った。

 

「あなたをこの船の生態ユニットとして改造したわ。

 あなたとこの船のエネルギーユニットを霊的に接続し、相互に疑似的な魂のやりとりを可能としたの」

「これにより安全かつ継続的にエネルギーの生成を可能にしました」

 

 メリスの言葉を引き継いでレイアが言った。台詞を奪われてメリスは若干嫌そうだった。

 

「ガランチョウとは、ペリカンのことです。

 ペリカンは自分の血を子に与えると伝えられ、宗教的に自己犠牲を象徴していました。

 ……艦長、あなたこそこの船の主にふさわしい」

 

 技術者たちがのリーダーがハンカチで目元を拭いながら感涙の言葉を漏らしていた。

 

「ふざけんな!! 俺は人間を辞めたいなんて言ってないぞ!!」

「じゃあどうするつもりだったの? 

 あれも嫌だ、これも嫌だ、でも代案は出さない。

 だけどこれでよかったじゃない。これで名実ともに、貴方は艦長として置物じゃなくなったわ」

「……くそッ」

 

 メリスの正論に、俺は何も言い返せなかった。

 戦いに赴くのに、殺したくない、死ぬ覚悟も無い、そんなの馬鹿げている。

 俺は責任者としてただ座っているだけでしかないと言うのに、そんな腑抜けたままで居たんだ。

 

「……元々この船と共に死ぬつもりだった。もう、うだうだ言うのはヤメだ」

「最初からそれで良いのよ。小市民ね」

 

 うるせぇ腐れ元貴族。

 

「エネルギー回復効率、24時間毎に約1.03%との計算結果が!! 

 皆さん、成功です!!」

 

 技術者たちから歓声が上がった。

 一日で大体1%チャージできるのか。何もない世界一つを四日で、と考えればどれほどのエネルギーを生成しているのか分かるというものだ。

 

 これで事実上、時間が有ればエネルギー問題を解決できることとなった。

 帝国と戦うのに、ようやく長い前振りが終わった気分だった。

 

「これより、時空防衛隊の本部へと向かう。

 各員、配置に着け!!」

 

 俺の号令に、浮かれていた連中がハッとなって各々の位置に着いた。

 ……これで少しは、艦長らしくなっただろうか。

 

 タイムマシンが起動し、ワームホールに引き寄せられる。

 

 こうして俺たちは、“聖地”を後にした。

 

 

 ──そして、俺は知ることとなる。自分が戦う相手が、いったいどのようなモノなのか、と。

 

 

 

 

 





ソシャゲあるある:行動の回数制限が時間回復。

本編でも書きましたが、戦いまでの前振りが長いのは悪しからず。
私は細かく設定を描写しないと気が済まない人間なんです。神は細部に宿ると言いますし。

でもこれでようやくストーリーが進みますよ!!
それでは、また次回!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。