次元海賊船ガランチョウ   作:やーなん

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1-9 交戦

 

 

 

 ──時空防衛隊 本部

 

 

「ここももう終わりだね」

 

 彼女はこの時空防衛隊の中心人物の一人、周囲からは“博士”とだけ呼ばれている人物だった。

 

 この本部はとある無人世界の宇宙空間に存在するドーム状の建造物だった。

 それも最早、無数の砲撃によって無残にもボロボロに成り果てている。

 

「バリアのエネルギーも底を付きそうだ。

 協力者たちの退避は終わったかな?」

 

 ああ、とこの場に残ったもう一人の男が頷いた。

 彼はこの時空防衛隊の隊長だった。どこにでも居そうな特徴の無い男だった。

 

「君もこの場所から逃げた方が良い。

 この建物ももう長くはもたないからね」

 

 そう言うわけにはいかない、と隊長は頑固とした態度でそう答えた。

 

「君と始めたこの組織も、存外に楽しかった。

 私は最期の使命を果たさなければならない」

 

 帝国の目的は明確だった。

 時空防衛隊にあるタイムマシンはあらゆる時空・並行世界を見渡しても最高峰の代物だ。

 自由自在にあらゆる世界、あらゆる時間軸にアクセス可能な、人類の夢の最果てに到達した究極のマシンなのだ。

 

 それを敵に渡す訳にはいかない。

 

「私はもう死んでいる人間だ。

 君も逃げたまえ」

 

 博士の言葉を、隊長は最後まで受け入れなかった。

 

「そうか……では、私の昔話を聞いてくれ」

 

 ドゴン、と砲撃が命中した音と振動が響いた。

 

「私はかつて、文明レベル95と判定された世界に居た。

 時間の秘密を解き明かしたと称される大いなるイース文明。

 ある御方の元で繫栄し、巣立ちの時を迎える時だった。

 私が所用で別世界に出張している時だった。かの文明はメアリース様の怒りに触れて、跡形も無く消し去られた」

 

 博士は自分の事を語ることなど、長い付き合いの隊長も初めてだった。

 彼女は淡々と己の過去を振り返った。

 

「私は神々を憎み、恨んだよ。

 ……私は己の復讐のために、君のような子供を何人も育てて、その先兵にしたものさ」

 

 隊長は信じられなかった。

 博士は揺るぎない正義と信念を持って、この組織を運用していたようのだから。

 

「ある時、私は神々を超える叡智の眠る“聖地”に赴いた。

 だが、その先の真実を知った時、私は打ちのめされた。

 己のしてきたこと、その人生の全てを否定されたんだ。

 そして、──“あの御方”に罰を与えられた」

 

 その罰とは、と隊長は尋ねた。

 

()()()()()()()ことだった。

 私は気づけば、子供の時分に戻っていた。

 あらゆる手を尽くして、イース文明の存続のために動いた。

 だけど、ダメだった。人間と言う生き物は好奇心を抑えられない。

 なにより、イース文明が滅びることは決まっていたんだ。かの文明はまた別の形で滅んだよ。

 だけど、だけどね、そんなことはどうでも良かったんだ……」

 

 博士は遠い昔を思い返すように、虚空を見上げた。

 

「敬愛するあの人に……我が君主たる魔王様にもう一度会えたのだから。

 時空防衛隊は復讐に囚われた愚かな女の、せめてもの罪滅ぼしだったのさ」

 

 隊長は言う。それでも助けられた人間は大勢いる、と。

 

「……過去を改変し、本来あるべき歴史を捻じ曲げる存在を正すのが時空防衛隊の正義だ。

 さあ、隊長。目の前の歪みを正したまえ」

 

 博士は隊長にレーザー銃を渡した。

 彼は、少しだけ逡巡すると、その銃口を彼女に向けた。

 緊迫した状況に、硬直した空気が淀み始めた。

 

 しかし、隊長は銃口を下ろした。

 

「……なぜ?」

 

「────時空防衛隊の信念は専守防衛。戦って人を殺すことではない」

 

「そうか、そうだったね……」

 

 

「────なるほど、お前はあの子の四天王だった者か」

 

 

「あなたはッ!!」

 

 二人は、その場に現れた新たな登場人物に目を見開いた。

 

 

 

 §§§

 

 

時空の抜け穴(タイムホール)、抜けます!!」

 

 遂に、この時が来た。

 

 俺たちの船がそこにたどり着くと、知っていた通り既に修羅場だった。

 ドーム状の建造物を包囲するように無数の次元航行艦が陣形を汲んでいた。

 連中はまるで弄ぶように、低威力の砲撃で時空防衛隊の本部を攻撃していた。

 時空防衛隊の本部はバリアで守られているが、同時にバリアのエネルギーの消耗を強いられている。

 

「そんな、なぜ帝国の連中が来る前に時間移動しなかった!?」

「まったく同じ人間が同一空間に存在すると、そこに矛盾が生じて消滅するわ。あなたはそうなりたかったの?」

 

 フランツ伯爵にメリスが言葉をかぶせる。

 彼の勢いが沈んだところで、全員の視線がモニターに向いた。

 

 俺の脳内にひっきりなしに各種センサーに情報が送られ、それらがモニターに表示されていく。

 

「帝国籍の駆逐艦およそ800。巡宙艦五隻、うち一隻が旗艦と思われます」

「思ったより少ないな」

 

 次元工廠よりはここの危険度は一枚下がると言うわけか。

 それでもとんでもない数だ。

 

 直後、センサーが何かを感知し、アラート警報を鳴らした。

 

「敵砲塔からロックオンされました!!」

「警告も無しか」

 

 オペレーターの報告に、俺はぼやいた。

 

「機動兵器の準備を」

「了解。射出カタパルト、スタンバイ!!」

「全機体、セットアップ完了!!」

「いつでも行けます!!」

「よし、行け!!」

 

 ガランチョウ号の両側面の開口部が開き、無数の人型兵器が射出された。

 

 蝶のように軽やかに、鳥のように素早く、鋼鉄のスラスターを背負った機動兵器ガラテアが宇宙空間を駆ける。

 

「データリンク、オールグリーン。

 艦長、そちらでガラテアを自由に運用できます!!」

 

 彼女らを設計した技術者らの言葉に、俺は言われるまでも無く感覚的にそれを自覚していた。

 

 無数の砲撃が、本船に向かって殺到する。

 

「ガラテア001から010、起動防御陣形」

 

 俺の思考は彼女たちに即座に伝わった。

 十機の機動兵器たちは、俺たちの周囲に展開し強固なバリアフィールドを形成。

 砲撃を完全に防ぎ切った。

 

「ガラテア021から100は武装展開。

 レールキャノン射撃用意」

「エネルギー充填済み、いつでも打てます」

「よし、撃て!!」

 

 魔法による圧縮格納していた大型のレールキャノンを取り出し、お返しと言わんばかりにガラテア達が砲撃を開始した。

 

 砲撃を撃ったガラテアの数だけ、敵の駆逐艦が爆散した。

 ヒトは乗っていない、あれは無人機だったのはセンサーが察知していた。

 

「敵艦隊、戦闘用ドローンを展開!!」

「鴨打ちの時間は終わりだな」

 

 敵勢はこちらのようにドローンを展開。

 ガラテアたちと交戦を開始した。

 鋼鉄の翼を持つ天使と、武骨な戦闘ドローンたちと乱戦になった。

 

 お互いに光学兵器を打ち合い、宇宙空間で花火のように星々に負けない輝きを発し始めた、

 

「艦長、あれを見てください!!」

 

 技術者のひとりに促され、一部分を拡大してみた。

 片目が破損したガラテアがドローンを次々と撃ち落としている光景だった。

 

「これがどうした?」

「戦って体の一部が破損し、メカな部分がチラッと露出するのって萌えませんか!?」

「知るかバカ戦闘中だ弁えろボケ」

 

 俺の罵倒を気にせず、付いて来てよかった、メカチラはロマンだよな、と喜び合ってる馬鹿ども。

 しかし、こいつらに構っている時間はすぐに消え失せた。

 

「そんなッ!?」

 

 音は無い。だが振動と映像が残酷な事実を伝えていた。

 時空防衛隊の本部が、真っ二つに破壊されたのだ。

 

「バカな……」

 

 フランツ伯爵が、がっくりと膝から崩れ落ちる。

 あれはどう見ても、中に居る人間が助かるとは思えない。

 そして直後、艦内に異常を察知し、アラート音と共にモニターが真っ赤に染まる。

 

「こ、これは、艦内に侵入者!? 

 空間転移によるテレポートアタックです!!」

「バカな、この船は完全に空間的に隔絶した独立空間だぞ!?」

「こんなことを出来るのは──!!」

 

 そして、どこからともなく、美しい旋律が鳴り響いた。

 歌声が聞こえる。

 

 

 ────“Siehst, Vater, du den Erlkönig nicht?”

 

 歌声が、旋律が、近づいてくる。

 

 ────“Mein Vater, mein Vater, und hörst du nicht,

 Was Erlenkönig mir leise verspricht”────

 

 何かが、何かが来る!! 

 

 ──お父さん、お父さん、あれが見えないの? (Mein Vater, mein Vater, und siehst du nicht dort)──

 

 

「この曲は、シューベルトの!!」

 

 それは、音楽に詳しくない俺でも知っているタイトルだった。

 

 ブリッジの自動ドアが開く。

 

 俺でも知っている、その曲名は──。

 

『魔王』(Erlenkönig)

 

 

「ああ、誰かと思ったら、あなただったのね」

 

 メリスのいつも通りの声音が場違いに聞こえる。

 

 “それ”は、歌詞にあるように王冠と尻尾があった。

 全長3メートルある竜頭を持った巨躯の人型は、気だるげに周囲を見渡した。

 

 演奏が終わる。彼の引き連れた従者の手が止まったからだ。

 

「伝言を伝えに来た」

 

 熱気のような声音で、威圧そのものの言葉を紡ぐ。

 

「自分たちの仇を取ろうとする者が居るのならば、その必要は無い、とな。

 今しがた始末した者達の、最期の言葉だ」

 

 それは義理堅さなのだろうか。

 しかし、その言葉を吐く当人はどこまでも他人事でどうでも良さそうだった。

 

 無気力。

 それが服を着て歩いているような、そんな印象を受ける。

 

「お……」

「?」

「お前が、殺したのか。我が友たちを!!」

 

 その言葉を口にしたのは、フランツ伯爵だった。

 彼は震えていた。当然だ。目の前に居るのは、──“魔王”。

 

 邪悪の女神リェーサセッタが化身にして、神の代行者。

 半神半龍の、絶対的強者だ。

 

「控えよ、この御方をどなたと心得る」

 

 演奏をしていた魔王の従者が、前に出てそんな時代劇みたいなことを言い放った。

 

「魔王一族が序列八位、ヴァーニアス様の御前である!!」

 

 

────“虚無王”

序列八位、魔王ヴァーニアス

dioV thginK ────

 

 

「────よせ」

 

 仰々しい従者と裏腹に、魔王ヴァーニアスは溜息でも出そうな物言いで従者を諫めた。

 

「お前にはそこが見えないのか」

「あ、あれは、あの御二方は、メアリース様に、リェーサセッタ様!?」

 

 魔王と言えど、リェーサセッタ様ことリネンは彼の母神である。

 メリスも性格を除けば偉大な女神だ。

 魔王の従者が恭しく頭を下げても仕方のないことである。

 

「ヴァーニアス、あなた今回の事は聞き及んでいたはずでしょう? 

 なぜ帝国の手先として働いているの?」

 

 そのように糾弾したのは、メリスだった。

 そう、メリスこと女神メアリースの管轄は、魔王を統べるリェーサセッタ様とは異なっている。

 

 つまり、メリスはあくまでリネンに依頼する形で魔王を動かしているわけだ。

 中枢ユニットは飽くまで女神メアリースの管理システム。

 魔王たち一族は、帝国の指示で動く理由など皆無なのだ。

 

 

「──別に何も。他にやることが無かったから」

 

 その魔王の言葉は、そこに居た誰もの意表を突いた。

 彼の従者も、思わず顔を上げるほどに。

 

「ほかに、やることがなかったからだと!? 

 そんな理由で我が友たちを殺したのか!!」

「そうだとも。そんな理由でお前たちに遺言を伝えにきてやったのだ」

 

 フランツ伯爵の激昂も当然と言えた。

 この魔王には、自分の意思と言うモノが感じられなかった。

 まるで人形。操り人形。絡繰り人形。

 

「ふざけるな!!」

 

 あっ、と誰かが言った。

 サーベルを抜いたフランツ伯爵が、魔王に斬りかかったのだ。

 

 即座に身を挺して庇おうとする従者を、魔王は片手で押し退けた。

 

 無音。そう、無音だった。

 脳天からサーベルの一撃を受けて、何の音もしなかった。

 

「て、手ごたえが……無い」

 

 斬りかかったフランツ伯爵が最もその異常性に後退った。

 

「我が母より与えられた固有スキル、“虚無の衣”は私に対するあらゆる干渉を無にする。

 私が何かを感じない限り、私は無敵なのだ」

 

 魔王は心底どうでも良さそうに、手品のタネを明かした。

 外的干渉を無力化するのに、それを破るのに干渉が必要だとか、前提条件が崩壊してる。

 壊れスキル、まさにチートスキルだった。

 

「報復はこれで諦めただろう。

 さて、次はどうするか……」

「なら、私達の元で帝国と戦いなさい」

「……母上、私はどうすれば良いでしょうか」

 

 メリスは露骨に無視されてイラっとした感情を顔に出した。

 

「母上。あなたは言った。

 いつか私の心を揺さぶる存在が現れると。

 何も感じない。他者と喜怒哀楽を共有できない私に、魔王の席を与えると共にそう言った」

 

 虚空にも思える魔王の両目が、奈落の両目に向けられる。

 

「あれから二十四時間換算で800年近くになる。

 言われるがまま滅ぼしてきた。何十億、何百億と命を滅ぼしてきた。だが、やはり何も感じない……。

 どれだけ怨嗟と呪詛を向けられても、あなたが与えた衣は私を害さない」

 

 俺は先日の採掘作業を思い返した。

 何も感じない。あんな無残な殺し方をしておいて、何も感じないだと!! 

 

「我ら魔王一族は、人間を見極めるために存在するとあなたは言った。

 それはいつまでですか。いつになったら終わるのですか? 

 それを苦痛に思う心さえ、私には無いのです」

 

 だが、淡々とその言葉を吐く彼は、母親に懇願する子供のようだった。

 そしてリネンは、──。

 

「────」

 

 ただ。

 

 ゆっくりと。

 

 半月のような笑みを浮かべた。

 

 邪悪そのもの、そう表現するほかない笑みだった。

 

「母上……?」

「なにやら騒がしいが、音楽隊でも来ていたのか?」

 

 その時であった。

 魔王たちの真後ろ、即ちブリッジの入り口のドアが開いた。

 

 そこから現れたのは、たしか今食堂に居るはずのキャスリーン卿だった。

 十分に横幅の有る通路を一人で占拠しながら闊歩する彼女は、ドーナツを片手にむしゃむしゃと食べ歩きながらこっちに歩いて来た。

 

「ふむ? 新しい仲間か?」

 

 すげーよ、この人。魔王の存在感を前にしてこの態度。

 

「お近づきのしるしにドーナツでも食べるか?」

 

 彼女はにっこりと笑ってドーナツを差し出した。

 大物だよ、この人。いや大きいけど。

 

「必要ない。食事に意義を感じないのだ。

 私には味がわからないからな」

「んな!? そんな馬鹿なことが有るのか!?」

 

 キャスリーン卿、今シリアスなシーンだからちょっと黙っててくれないかな!? 

 

「我が子よ、随分と待たせたな」

「母上?」

「連れて来たぞ。お前に並びうる勇者たちを。

 このガランチョウ号の艦長及び船員たちだ」

 

 おい、その紹介だと筆頭は俺になるんじゃないかな!! 

 

「…………今一瞬、笑いが何たるか理解できそうになったが、そんなことはなかったようだ」

 

 魔王の声には落胆にも似ていた。

 

「……旗艦にて待つ。

 お前たちが帝国を誅しうる真の勇者たると言うならば、この私に挑んでくると良い」

「しかし魔王様は、それは」

「アリア。お前も芸人なら、我が母上を愉しませよ」

 

 従者は呆気にとられた表情になったが、出過ぎた真似をしました、と頭を下げた。

 

「我が姉ローティも言っていた。

 母上を愉しませることより優先すべきことは無い、と。

 それを思い出した。次はそれをしようか──」

 

 魔王が指を鳴らす。

 常人では不可能な出力の空間転移を以って、魔王とその従者は掻き消えた。

 

「扱いずらい……役に立たない道具ね!!」

 

 メリスが忌々しそうに吐き捨てた。

 あの魔王を道具扱いかよ。

 

「いきなり魔王一族が相手かよ、序盤の敵じゃないぞ。難易度どうなってるんだ」

 

 俺は思わず愚痴った。

 魔王はそれだけ強大な相手なのだ。

 

「リェーサセッタ様、魔王の固有(チート)スキルを切ったりできないのですか?」

 

 ウインター博士がリネンにそう尋ねた。

 ああ、そうか。加護を与えたのが彼女なら、それを取り払うのも思うがままの筈だ。

 だが。

 

「ん? なぜそんなことをしなければならない」

「いや、そんなことって」

「我が子たちには、好きにして良いと伝えてある」

 

 ……俺にとって、女神リェーサセッタ様とは厳格で真面目な女神という印象だった。

 悪人の死後に罪を償わさせ、悪人の被害者を慰撫し慰めてくれる、邪悪の女神という呼称と裏腹に絶大な人気を誇る女神であると。

 

 だから、失念していた。

 

「お前たちには悪いが、私の娯楽に付き合ってくれ」

 

 女神とは、人々に試練を与えずにはいられないのだ、と。

 仕事に対する真面目さと裏腹に、この御方の性格の悪さはメリスと似たり寄ったりだという事実を。

 

 俺はこんな土壇場で楽しそうに笑ってる女神に、絶句するほかなかった。

 

「……ふむ、あれが魔王か。

 これは僥倖。思いのほか早かったな」

 

 俺の艦内全体に拡張された音感センサーは、キャスリーン卿のそんな呟きを漏らしたのが聞こえた。

 

 

 

 




ついに第一章のボスの登場です。
基本ラスボスな魔王一族が、章ボスという豪華さです。

テンポよく、次回には魔王戦にまで行きたいですね。
それでは、また次回!!
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