「まず、貴方を試したことを謝罪しましょう」
女神リェーサセッタ様は微笑みながら俺に言った。
「だが、尊厳とは与えられる物ではなく勝ち取るモノ。
お前はこの船を手にしている以上、帝国と戦う以外の選択肢は無かった」
「連中、次元航行能力を持つ船を次々と攻撃しているわ。
まあ分かりやすい独占への動きよね」
女神メアリースは肩を竦めてそう言った。
「だから、爺さんの船が襲われたんだな」
「我々は船員としてお前に協力する立場となる。
基本的にお前の決定に従う。最終的な結果は変わらないからな。
だが、神としての助力はあまり期待するな」
「うん? それは、どういうことです?」
「こうして生身である以上、個人規模以上の力は使用できないというわけだ」
「は!?」
正直なところ、この二柱の力を期待して戦いを決意したところがあった。
それがほぼ無しと言われたら、困惑もする。
「じゃあ、さっきの人類のリセット云々はハッタリだったってことですか!?」
「嘘ではない。中枢ユニットが有れば、即座に実行できる」
要するに今すぐは出来ないってことじゃねぇか!!
……すっかり乗せられてしまった。
「そう悲観する必要は無いわ。
これでも私たちは生前、組んでからできないことは無かったんだから」
「世界中を滅茶苦茶にしてやりましたものね」
「(酷過ぎる……)」
──―システム:『SSR“最凶タッグ”メリス&リネン』 を入手しました。
「いちいち敬うのも疲れるでしょう?
私の事は親しみを込めてメリスと呼んで良いわ」
「リェーサセッタも本名なのだが、訛った言い方が広がり過ぎてな。
より正確な発音はリネン・サンセットだ。よろしく頼む」
こうして、俺は初めての船員を迎え入れることになった。
§§§
「当面の目標は、この船のエネルギーの確保になりそうね」
副艦長に指名されたメアリース様もといメリスは、備え付けのタブレット端末で艦内状況をブリッジのモニターに次々と表示した。
「エネルギーが確保されれば、最低限戦うための施設を生成できるわね」
「ああ、だけど、その為には……」
「ええ、適当な世界をまるまるひとつエネルギーに変換すればいいわね」
「…………」
俺がこの船に閉じこもった理由がそれだった。
この船の動力源は、ひとつの世界を滅ぼした際に精製できる超エネルギー。
要するに、宇宙を丸ごとひとつエネルギーとして燃焼するということだ。
それはつまり、人が住む世界でエネルギー切れで立ち往生したなら、その世界を滅ぼさねば脱出できないということになる。
余りにも大きすぎる代償を背負った、欠陥品がこの船だった。
尤も、この船の正体を知ったのなら納得の動力源だ。
そしてなにより最悪なのは。
「とりあえず、これから滅ぼす予定だった世界をピックアップしておいたわ。
まあどれも滅ぼしたところで惜しくないから、適当に滅ぼしちゃいましょう」
この設計者当人はこの欠点をまるで欠点とは思っていないというところだった。
「それって、人は住んでますよね」
「当然でしょ、人類の造物主が人を住んでない場所を作るわけないじゃない」
「それはつまり、彼らを皆殺しにしろってことですか?」
「それ以外の何かに聞こえたかしら?」
「ッ!!」
女性相手に殺意を覚えたのは初めてだった。
「この船の艦長は俺で、それはつまり実行するのは俺ってことだ。
あんたは俺に虐殺をしろって言うのか!!」
「帝国相手に戦うというのに、何を馬鹿なことを。
帝国艦隊を相手にしたら、一度に何十億人という命が消費されるのよ。
生産性も将来性も無い、文化的発展の見込みのない不良債権を燃料として処分しながら有効利用できるなら有意義じゃない」
これが、神の視点。
俺たち人間とはまるで価値観が違う。
「まあメリス、彼の葛藤も理解できます。
とりあえず、無人のこの世界を燃料にしましょう。
残骸とはいえ、多少は足しになるでしょう」
「まあ、リネンの言うとおりね」
それでいいですね、とリネンさんが視線で確認を取るので、俺は艦長席に座ったまま頷いた。
「量子分解装置起動、出力最大」
『量子分解装置起動。出力最大。宇宙空間の収縮、開始』
メリスがブリッジのコンピューターを操作すると、目に見える現象はすぐに確認できた。
周囲にあるデブリが、星々が、目に見えて小さくなっていく。
この船の機能によって空間ごと分解され、加工されてエネルギーに変えられて行っている。
この船に武装は無いが、この機能だけで破壊力は余りある。
ブラックホールなどと比べ物にならない恐ろしいことがこの船の周囲で巻き起こっているのだ。
「やっぱり生命体を巻きこめない以上、全然効率が悪いわね」
そんな人でなしみたいなことをいうメリスは、モニターに表示したエネルギー残量を睨みつけていた。
船内の残存エネルギーは13%。
この世界を完全に消去して得たエネルギーがたった4%だった。
「あの、この世界にも、恒星とかあったんですよね?
それに比べて生命体の保有するエネルギーなんてそれに比べて微々たるものなんじゃ」
「素人考えね」
人間として自伝に記された通りなら稀代の錬金術師だったらしいメリスは、俺の問いを鼻で笑った。
「この船の動力には位相間を利用した画期的な機能が搭載されているわ。科学的に石ころを黄金にする為のエネルギーがどれだけ知っているかしら? エントロピーの法則を例に出すまでも無くその労力は全く以って釣り合わないのよ。逆説的に言えば黄金を石ころにする場合、釣り合わないはずのエネルギーを取り出せることになる。あなたも聞いたことはあるでしょう? 錬金術の極意は魂の昇華にあると。魂をより上位の存在に昇華する際に生じる情報量は相転移を始めとした物質界の常識とは比べ物にならないエネルギーを──」
「ああ、もう良いです、わかりました」
「要するに、この船は生物の魂の燃焼によって動いているのよ」
俺が全く分かっていないのを当然のようにメリスは要約してそう説明した。
「それより、リネン。丁度いいモノが加工できたわ」
メリスは見知らぬ排出口から球状の物体が排出されると、それを手に取った。
それはまるで、爬虫類の瞳のような未知の水晶体だった。
「龍魂石ですね、素晴らしい」
リネンがそれを手に取り唇を釣り上げる。
二人にとっては何らかの価値がある代物のようだった。
「なんですか、これは」
「世界一つを圧縮して、分解したエネルギーを純化させて安定させた物質よ。
これを触媒にすれば高度な召喚魔法を行えるわ」
「召喚魔法、ですか」
あれだろうか、召喚獣でも呼び出すのだろうか。
「私はこれでも最高位階の召喚術の使い手だった。
これを使用すれば我々に協力的な仲間を呼び出すことが可能となるでしょう」
「おお、それはスゴイ!!」
今は何はともあれ、人員不足だった。
人手が増えることは純粋に喜ばしい。
「だけど、その為には儀式室を生成しないとならないわね。
安定した儀式場が必要不可欠でしょう」
「この船の武装化に大量のエネルギーが必要だわ。
偵察用ドローンに機動兵器、砲台は最低限欲しい所わね。
すべて賄うには残量のエネルギーでは到底足りない」
無い無い無い。無い尽くしだった。
「……よし、プランを変更しましょう。
この船はあくまで
こっちの艦長は居住世界の接収はお気に召さないようだし。
戦力の代替は既存の人類から徴収すればいいわ」
「確かに、それが一番健全か」
艦長の俺はそっちのけで二人の話が進んでいく。
察するに、俺が大量虐殺の汚名を着ずに済むっぽいようで安堵した。
「では、帝国に抗する勢力を見出し、協力関係を築き戦力となってもらう方向でことを進めよう」
「人類の問題は人類で解決させる、か」
どうやら、二人の会話からこの船を強化して無双プレイする方向からより現実的なプランへと変更が成されたようだった。
「あなたはそれでいいだろうか、艦長」
「私の立てた計画よ、文句は無いわよね」
俺は二人に頷いた。
世界ごと帝国を滅ぼしていくよりよほどスマートだった。
「とりあえず、次元の狭間から脱出しましょう。
次元移動だけなら大してエネルギーを消費しないし」
「帝国の反抗勢力はこちらで検索しておくわ」
一先ず、当面は余裕が出来たわけだ。
「艦長、提案がある。
この龍魂石を使用し、我らの味方となる人間を召喚するのだ。
我が力量ならば、条件をある程度絞り込める」
「その為に、さっき言っていた儀式用の区画が必要だと」
「うむ」
まあ兵器の工廠を作るよりはずっとエネルギーは使わない。
俺は頷いた。
「メリスとエネルギー配分を相談して、大丈夫そうなら良いと思います」
「ではそれで行こう」
二人は相談の結果、艦内に儀式室の生成は決定したようだ。
曲がりなりにもこの二人は俺を艦長として顔を立ててくれているのも分かって、一安心。
そう思っている時だった。
ぴぴぴ、とモニターに反応があった。
すぐにメリスが観測装置の前に取り付いた。
「これは、救難信号?」
「こんな次元の狭間に?」
俺と二人は困惑して顔を見合わせた。
女神メアリースが創造する世界は、箱庭に例えられる。
これは次元の座標によって位置が決まっており、他人と遭遇することは物理的にあり得ない。
地球上の海で救難信号を発して、宇宙船が駆け付けたりはしないのと同じことだ。
偶然宇宙人がその信号をキャッチしない限りは。
「どんな天文学的確率よ……」
この救難信号はたまたま俺たちが居合わせなければまず誰にも届かなかったのだから、メリスの呟きも尤もだった。
「人道的配慮を優先して、救難船を回収するわ。良いわね、艦長?」
俺は正直、意外だった。
あのメリスが普通に救助を行おうとしていることに。
俺はただただ無言で頷いた。
作業用アームが、脱出艇らしい小型の宇宙船を船内に格納した。
見た限り、自力で次元航行も出来ないだろう本当に脱出目的だけの最低限の機械だった。
通信機能ぐらいはあるだろうが、応答はなかった。恐らく故障しているとこちらの観測機が分析していた。
搭乗員は熱源からして二名。本当に運が良い。
無人島に漂着して近くに船が通りかかるなんてレベルの幸運ではないのだから。
俺は二人を伴って脱出艇を格納した船内ドックへと赴いた。
次元の狭間は宇宙空間のようなものだ。
すぐに無酸素状態だった船内ドックに酸素が満たされ、ドックに入室可能となった。
「いやぁ、助かった!! まさか助けがくるとは思わなんだ!!」
ほぼ半壊した脱出艇の内部から、男の声が聞こえた。
どうやら脱出艇のドアの開閉が上手くいかず、ドンドンと中を叩く音が聞こえてきた。
「構造トレース、……完了。
術式デモリッション・アルケミーを起動」
メリスが虚空に手のひらサイズの魔法陣を指先で描き、スッと魔法を発動させた。
瞬間、脱出艇を構築するあらゆる部品がバラバラに崩れた。
「ぎゃー!!」
小型の脱出艇とは言え、大きさは大型重機くらいはある。
当然、天板が落ちてきて中の人間がどうなったかお察しである。
「大丈夫ですか!?」
俺は牽引ビームのクレーンを操作し、天板を退けて上げた。
「ふう、ふう、助かったぞ、改めて例を言う……」
中に居たのは、四十代くらいのコーカソイドの男だった。
彫りの深い顔立ちで、色素の濃い金髪をオールバックにしている。
そしてその格好が、なんというか、昔の貴族みたいな派手な格好だった。
「我が名はアルブレヒト・フランツ伯爵である!!
こちらは妻のドロテア。此度の礼は領地に帰った折にさせてもらうとしよう」
「どうも」
折り重なっていたので、気づくのに遅れた。
フランツ伯爵と名乗った男の下には、全身黒ずくめの喪服のような格好の黒髪の淑女が居たのだ。
思わず息を呑むような美人だった。
「俺はこの船の艦長、ドラコ・フランシスカです。よくぞご無事で」
「副艦長のメリスよ」
「術師のリネンです」
あくまで俺を立てる二人を横で見やり、俺は握手を求めてくるフランツ伯爵に応じた。
「ところで、これは民間船かね?」
「ええ、まあ」
「ふむ。そうか」
フランツ伯爵は顎髭を撫でた。
そして目を閉じると、ゆっくり頷いてこう言った。
「では緊急事態だ。この船はこの私が接収させてもらうぞ!!」
……え? なんなのこの人。
今回の入手カード
『SSR“最凶タッグ”メリス&リネン』
レアリティ:SSR 種別:サポーター
固有能力:万全マジック支援!!
錬金術と召喚術による臨機応変なサポートを行います。
白兵戦、艦隊戦でのアタックと命中に+10%。
「私達にできないことは無いのよ、ねえリネン」
「ええ、メリス。私達は最高のパートナーですから」
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メリス、ソシャゲだとショップ画面に居るタイプのキャラ。
リネン、ソシャゲだとガチャ画面に居るタイプのキャラ。邪悪の女神だけにまさに邪神。
フランツ伯爵&ドロテア夫人、拙作「転生魔女さんの日常」にてたった一話だけ登場した劇中劇ゲームのキャラ。事前アンケートで選ばれてたら主人公はこの二人に先に出会っていた。